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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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神の信奉者


 アスラント同盟国の根拠地、首都の地下基地が襲撃され、議長であり聖人のダニアスが殺された。

 それを実行し帰還した『黄』の七大聖人(セブンスワン)ミネルヴァと遭遇し発見されてしまったケイルは、否応無く対峙してしまう。


 魔法で作り出した五体の分身体(シャドウ)に混じるミネルヴァが旗槍を振りながら前後左右から襲い掛かり、ケイルは対応すべく両腰の大小の剣を引き抜き、刃に気力(オーラ)を纏わせた技を放った。


「裏の型、『桜花(おうか)』ッ!!」


 両手に持つ大小の剣を前後左右に振ると同時に、その刀身から大量の花弁(はなびら)を模った気力(オーラ)の斬撃が飛散する。

 それが弾丸のようにミネルヴァに目掛けて放たれ、分身体の幾つかを斬り裂こうとした。


「――……その程度か!」


「!?」


 しかしミネルヴァ本体と分身体を含め、前方に物理障壁(シールド)魔力障壁(バリア)を伴った結界が一瞬の内に形成され、花弁の気力(オーラ)が突き刺さり停止する。

 そして嘲笑するような声と共に五体のミネルヴァが同時に旗槍を振り翳し、前後左右と上下からケイルに旗槍の柄と矛が迫った。


 回避が不可能と判断したケイルは、技を放った直後にも関わらず奥義を放つ。

 両腕に持つ剣に巨大な気力(オーラ)を纏わせ、更に全身にも気力(オーラ)を滾らせ両手の剣を再び振った。


「月の型、『満月(みちげつ)』ッ!!」


「!」


 月の奥義を放った瞬間、ケイルの半径三メートル以内が密度の高い白い気力(オーラ)の球体が形成される。

 その範囲に居た分身体と本体のミネルヴァは吹き飛ばされながらも、身を翻しながら四方に散り散りになって着地した。


 予想外の防御にミネルヴァは目を見開いたが、その驚きもすぐに無くなる。

 形成された白い球体はすぐに喪失し、夥しい量の気力(オーラ)を放出し球体に留めるという奥義を使ったケイルは、息を荒げながら汗を掻く姿を見せた。


「――……ハァ……ッ。……ハァ……」


「その程度で、その疲労か。……(みじ)めだな」


「……ッ」


「あの男と一緒だ。聖人にあるまじき弱さ、それも罪に数えられる」


 周囲に居るミネルヴァの一人がそう呟き、その傍にもう一人の分身体が赴く。

 その分身体は初めに目撃したモノであり、その右手にはダニアスの首が提げられていた。


 それを見たケイルは表情を強張らせ、歯を食い縛る。

 その様子に気付き、ミネルヴァはダニアスの最後をケイルに聞かせた。


「この男か? 同じ聖人だと言うだけで私と相対し、時間稼ぎなどをするなどと(のたま)った。相当な実力者かと思えば、この有様だ」


「……同盟国の、基地に居た奴等はどうした?」


「聞かねば分からぬか?」


「……ッ」


「我が『神』は、地上に残る悪しき者共が滅せられる事を望んでいる。……一つ残さず、『神』の鉄槌を下した」


 そう言いながら分身体がダニアスの首を投げ、ケイルの足元に転がす。

 ダニアスの死に顔を見て歯軋りを大きくしたケイルは、ミネルヴァに明確な敵意を向けた。


「……この畜生(チクショウ)が……! テメェ、それでも七大聖人(セブンスワン)かよッ!?」


(とが)(まみ)れた罪人風情が、吠える声だけは大きい」


「その罪人ってのはなんだ!?」


「自分の罪も自覚していないとは……。……おぉ、神よ。この無知になる者に、死の裁きを下す許可を……」


「祈ってんじゃねぇよッ!!」


 分身体を含めて唐突に膝を着いて祈り始めるミネルヴァに、ケイルは憤怒と苛立ちを向けながら両手の剣に気力(オーラ)を纏わせる。

 そんなケイルを冷たい視線で見つめ直したミネルヴァは、立ち上がりながら告げた。


「――……貴様達が、我が『神』を堕落させた」


「なに……?」


「『神』は私に仰った。過去の自分(かみ)を唆し、そして堕落させた者達がいると。……それがケイル、貴様と他に従えていた二名の罪人達だ」


「……唆しただと?」


「貴様達が『神』を堕落させ、神へ至る事を妨げていた。……『神』は生まれながらにして『神』となられるはずであったのに……」


「何を言ってるんだ、コイツ……?」


「もし『神』が初めから『神』である事を示してくれたのなら、私はあの時に『神』を異端者や愚弄者などと、絶対に(のたま)わなかった……!」


「……お前とアリアが、前に戦った時のことか?」


「そうだ! 私は異端者達によって欺かれ、あまつさえ『神』に矛を向けてしまった! あぁ、なんと私も罪深い罪人のだ……!」


「……」


「あの後、私は『神』に捕縛されながら、あまつさえ愚弄者と蔑み、誤解したまま『神』を探し回った。しかし赴いたという砂漠には居らず、何処にもいない。私は内に籠る苛立ちを晴らせぬまま、何年も『神』を探し回った……!」


 その話を聞き、ケイルはミネルヴァが陥った状況を察する。


 三十年前、恐らくミネルヴァは自分達を追って砂漠の大陸まで足を運んだ。

 しかし『螺旋の迷宮(スパイラルラビリンス)』に巻き込まれていたアリアを含んだ自分達をミネルヴァは発見できず、そのまま各地を探し回っていたらしい。


 そして一ヶ月後、アリアだけが『螺旋の迷宮(スパイラルラビリンス)』から記憶を失い重傷ながらも脱出し、ルクソード皇国で保護されその事実を伏せられた。

 その間にもミネルヴァは、何処にも居ないアリアや自分達をひたすら探し続けたらしい。


 そして記憶を失ったアリアと再会した時、ミネルヴァは何等かを理由に『(アリア)』を崇めるようになった。


「――……そして二十五年前。私は『神』と再会した」


「!」


「私は愚かにも、『神』を愚弄者と罵り襲った。……しかし『神』は偉大な御業で私を静め、自身が『神』である事を語ってくれた。そして、その理想も……」


「理想……?」


「『神』は言った。この地から穢れた者達を一掃し、新たな世界を作り出すと。……そこには争いも無く、心優しき者達が幸福に暮らせる世界を作り出すのだと……」


「……」


「『神』の理想と計画を聞き、私は感涙した。そして『神』に仕える事を認めて頂いた。……あぁ、罪深い私を使徒として仕えさせて頂けるとは、なんと慈悲深い御方……。私はそんな方に仕えさせて頂き、なんと幸福なのか……」


「……ッ」


「――……その時に、神はこうも語ってくれた。お前達が『神』を堕落させていたと」


「!」


「『神』の同行者であるにも関わらず、その英知と恩恵ばかりを利用し、あまつさえ『神』を見捨て行方を眩ませる。……なんと罪深い咎人なのだろうか」


「……それで、罪人ってか?」


「そうだ。――……貴様達は、『神』が直々に鉄槌を下す。その為に、生かして捕らえる。……五体満足である必要は無いがな」


 ミネルヴァは『神』に対する恍惚とした表情を即座に切り替え、使徒としての鋭い顔を見せる。

 そして旗槍を構え、分身体の全てがそれぞれに違う構えを取った。


 そんなミネルヴァの言葉と様子を聞き続けたケイルは、大きな溜息を吐き出す。

 そして剣を握る両手に力を込めながら、ケイルは呟き聞かせた。


「――……何が理想だよ。茶地(ちゃち)な絵空事じゃねぇか」


「……なんだと?」


「争いが無い世界? そんな世界、作れるワケがねぇのによ」


「……新たな罪を重ねるか。『神』の理想を理解できぬ罪人が……」


「大勢の人間を殺して平和な世界を築こうだとか、随分とふざけた理想もあるもんだな?」


「穢れた者共を人間などと、考えるのもおぞましい思考だ」


「ああ、そうかよ。……例えアタシ等を殺せても、そんな甘ったるい理想なんて現実にならねぇ。それは保証してやるよ」


「……どうやら、懺悔すら要らないようだな。罪人」


 『神』の理想を否定したケイルの言葉に、ミネルヴァの眉間に青白い血管が浮かぶ。

 そして敵意ではなく殺意を込めた鋭い視線を向け、ケイルと相対するように旗槍を振り翳した。


 それに合わせるようにケイルは両手の剣を鞘に戻し、そして身構える。

 抜刀の姿勢を整え、即座に襲い掛かっても対処できる態勢をケイルは維持した。


「――……ッォオオオオッ!!」


「ッ!!」


 先に痺れを切らしたミネルヴァは、分身体を含めて六体でケイルに襲い掛かる。

 相対するケイルは腰を低くし身構え、左腰の魔剣を素早く右手で引き抜いた。


 こうしてケイルは、ミネルヴァと『(アリア)』の馴れ初めを聞く。

 そして更に敵対関係を深め、互いに引けぬ思いで槍と剣を交えた。


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