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審査の合否


 南の国マシラに向かう商船に乗る為に、アリアとエリクは傭兵ギルドへ登録し加入する審査試験を行うことになる。

 そして準備を整えて昼頃に訪れた二人は、傭兵ギルドの建物内に再び足を踏み入れた。


 すると自分達と同じように武具を身に付けた傭兵らしき人物達が十数人、とある一画に集まっている。

 その近くに『審査試験会場前』と書かれた立て看板を見つけると、二人もその近くに集まった。


 それから昼の時間になると、壁奥の扉から一人の男が現れる。

 その人物が声を張り上げながら、待機している試験参加者達に呼び掛けた。


「――……それでは、今日の審査試験を開始する! 名前を呼ばれた者は、私に付いて来い!」


 試験管と思しき男の言葉を聞き、周囲に集まっていた受験者達は意気込みを強め始める。

 しかしアリアは神妙な表情を深めながら、ある不安を口から漏らした。


「――……まずいわね」


「ん?」


「多分、一人ずつが呼ばれる審査方式よ。傭兵としては、自分の手の内を公衆の面前で見せるような審査方式を行うわけが無いとは思ってたけど……」


「それの、何がまずいんだ?」


「私とエリクも別れて審査を受ける事になるの。その最中にお互いに離れちゃうから、何か起きた時に助け合えないってこと」


「……傭兵ギルドが俺達を捕えるつもりなら、別々に拘束されるということか」


「そういうこと。だからマズいわね……」


 審査の方式から個別に捕まる可能性を考えたアリアは、僅かに危惧を抱く。

 その危機感を共有したエリクに対して、アリアは改めて問い掛けた。


「そのまま試験を受けるか、それとも中止にして逃げるか。……どうした方がいいと思う?」


「……ここで受けなければ、怪しまれないか?」


「そうなのよね。受けなきゃ怪しまれるし、受けたら捕まるかもしれない。どちらにしても危険は生まれてしまう」


「なら、受けるべきだろう」


「そうね。……エリク、拘束されそうになったら大人しく捕まって。私も大人しく捕まるから、最悪の状況(パターン)は避けましょう。捕まっても私が意地でも、貴方を助けるから」


「分かった」


 そうした会話を端で話す二人を他所に、審査試験が始まる。

 試験管の男は一人の名前が呼ぶと、扉の奥に連れて入っていった。


 一人の試験時間は、(およ)そ十分から三十分前後。

 試験を合格した者は受付に行き、合格しなかった者は傷付いた姿を見せながら、そのまま傭兵ギルドから出て行った。


 それを数人ほど観察できたアリアは、エリクにある話をする。


「……三十分くらい経っても出てこない場合は、そういう事だと思ってね」


「分かった」


 互いに試験時間を把握した上で、起こり得る事態に覚悟して見せる。

 すると前の試験が終わり、試験管の男が次の名前を呼ばれた。


「――……ガルミッシュ帝国出身、アリア!」


「……じゃあ、行って来るわ」


「ああ」


 自身の名前が呼ばれたアリアを、短い受け応えでエリクは見送る。

 すると応じて出て来たアリアが現れると、周囲の他受験者達から冷やかしの声が聞こえて来た。


「――……おい、今度はあんなお嬢ちゃんだぜ」


「可愛いね、お嬢ちゃん。今晩どうだい!」


「痛い思いしない内に、帰った方がいいぜぇ」


「痛い思いより、今夜は俺のベットにでも来れば、気持ちいい目に遭えるぜぇ!」


「バーカ、お前のじゃ気持ちよくなんねぇだろ。小さすぎてなぁ」


「何だとぉ?」


 そんな冷やかしの声を浴びながらも表情を緩めず怪訝そうな顔すら見せないアリアは、そうした連中を無視して試験官の男の前に辿り着く。

 すると試験管の男は、手元にある用紙を確認しながら改めて問い掛けた。


「帝国出身のアリアで、間違いは無いな?」


「はい」


「まだ十代か、若いな。……用紙には、魔法師と書いてあるようだが。本当か?」


「はい。魔法を幾らか使えます」


「なら、それ相応の試験を受けてもらおう。付いて来い」


 軽い問答の後、試験官の男にアリアは付いて行く。

 そして奥に続く扉が閉まるまで、エリクは彼女の背中を見送った。


 それから彼はアリアの試験が終わるのを待つが、予定していた約三十分が過ぎながらも出て来ない。

 この状況にエリクは捕まった可能性を考えたながら覚悟を強めると、奥の扉が再び開かれた。


 すると試験管の男と共にアリアが戻り、賞賛の声を周囲に聞かせる。


「――……素晴らしい魔法の腕前だった。この札を持って、あちらの受付で合格手続きをするといい」


「はい、ありがとうございます」


 アリアに対する態度を改めている試験管の男は、木札を渡す。

 それを受け取ったアリアは微笑みを浮かべ、その場から離れた。


 しかし彼女を冷やかしていた周囲の受験者は、その合格を聞いて驚愕を浮かべる。


 ここまで十人近くが試験を受けた中で、合格しているのはアリアを含めて二名のみ。

 二人目の合格者が若い女の魔法師であることに驚くと同時に、興味を示したのだ。


 しかしそんな周囲を気にする様子すらないアリアは、エリクの元まで戻り合格を伝える。


「お待たせ、大丈夫だったわ」


「そうか」


「試験方法は、試験官と一対一で戦ったり、魔物みたいなのと戦わせて対処方法を見たりだったわ。魔法が使えると、どの程度の威力がある魔法を使えるかも見せられたわね」


「他より時間が掛かったのは、魔法の試験もあったからか」


「うん。まぁ、私の手に掛かればこんな試験なんて楽勝よ」


「そうか。なら、俺も合格しないとな」


「貴方なら楽勝よ、頑張ってね。じゃ、先に合格の手続きして来るから」


「分かった」


 試験の内容を伝えたアリアは、合格の手続きをする為に受付へ向かう。

 するとその短い道すがらに、傭兵ギルドに加入している傭兵の何人かが合格したアリアに話し掛けた。


「――……お嬢ちゃん、合格したのかい? なら、俺達の団に入らないか?」


「俺と組めば、楽させてやるぜ」


「丁度ウチのパーティに空きがあるんだ。どうだい?」


 様々な思惑を感じさせる誘いを受けながら、アリアは受け流すように笑顔だけを向ける。

 そして勧誘を無言で断りながら、そのままエリクが居る場所に戻ってきた。


 しかし勧誘を諦めていない傭兵達もそこに来ると、アリアは隣に立つエリクを見せながら改めて断りの言葉を向ける。


「私、彼と組んでいますので」


「ああ? そんな奴より、俺等と……」


「彼、帝国で騎士隊長を務めてたんですよ。非常に優秀な戦士なの」


「て、帝国の元騎士……!?」


「お、おい……」


 エリクの偽りの肩書きを聞かされた傭兵達は、驚きを浮かべて後退りする。

 そして当のエリクも傭兵達に睨みを向けると、相手を萎縮させてアリアから引き離した。


 その後、二人はこうした会話を交える。


「――……帝国って、基本的に貴族も平民も実力さえあれば上へ行ける実力主義の社会だから。家柄や血筋だけで重要な役職になんてなれないの。そんな実力主義の厳しい帝国で騎士隊長を務めてたなんて聞いたら、実力は証明されたようなモノなのよ」


「そうなのか、帝国は凄いな」


「王国って、そういうの無かったの?」


「無かったと思う。戦場は基本的に、貴族が指揮していた。俺達のような傭兵は、それに従って戦っただけだ」


「へぇ。貴族自らが前線に立つの?」


「いや。貴族は大体は後方で、危ないとすぐに逃げる。俺達のような平民と傭兵が前に立って戦う」


「やっぱり最悪ね、王国の貴族って」


「だが、すぐに逃げてくれるのは助かる。俺達もすぐに逃げられるからな。貴族の逃げ足は、速い方がいい」


「そっか。逃げ足が速いのも考え物だけど、そういう面では助かるのかしらね」


 そんな話をしていると、前の試験が終わり扉が開かれる。

 すると、次はエリクの名前が呼ばれた。


「――……ガルミッシュ帝国出身、エリク!」


「……行ってくる」


「いってらっしゃい」


 名前を呼ばれたエリクが前に歩み出ると、アリアはそれを見送る。

 こうして王国の傭兵だったエリクが、新たな傭兵となるべく傭兵ギルドの試験に挑むことになった。


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