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傭兵ギルド


 傭兵に依頼を仲介する『傭兵ギルド』の存在を知ったアリアとエリクは、南の国マシラに向かう護衛の依頼を受ける為に足を運ぶ。

 そこは東港町の中央に位置する場所に在り、大通りを遮る道の向こう側に(そび)え立つ建物に傭兵ギルドと書かれた巨大な看板が掲げられていた。


 その建物には様々な人々が出入りする光景が見え、二人は建物に入りながら中の景色を見て話す。


「――……ここが、傭兵ギルドね」


「人が多いな」


「傭兵だけじゃないわね、商人や役人っぽいのもいる。傭兵を必要とする依頼人とかも来てるんでしょうね」


「それで、どうするんだ?」


「とりあえず、傭兵ギルドで傭兵登録というものをしましょう。自称の傭兵よりも、多国籍所属の傭兵ギルドに所属してる方が肩書きとしては都合が良いわ」


「そうか、受付は何処だろうな」


「アレじゃない? ほら、商人っぽい人達が並んでる場所とは別に、傭兵っぽい姿の人達が並んでる場所があるでしょ」


「確かに、あるな」


「今回は偽名じゃなくて、登録する時は愛称と本名で行きましょう。登録した後に、依頼者や状況次第で偽名と本名を使い分ける感じで」


「分かった」


 二人は傭兵ギルドに所属する傭兵として登録することを決めると、傭兵と思しき者達が並ぶ受付前の列に加わる。

 二つの列の一つに並び徐々に消化されていく前列を待つと、十数分後に二人の順番が訪れた。


 そして受付に座るギルド職員らしき眼鏡の男性が、二人を見ながら尋ねる。


「次の方、どうぞ。――……本日はどのようなご用件ですか?」


「私達は、傭兵ギルドへ登録する為に来ました」


「登録ですか。それでは登録参加料に御一人様、銀貨十枚を頂きます」


「分かりました。――……はい、二人で二十枚です」


「確かに受け取りさせて頂きました。ではこちらの用紙に御名前と出身国、年齢とその他アピールしたい事を書いて下さい」


「アピールしたい事、ですか?」


「傭兵として売り込む為の自己紹介ですね。例えばどんな武器が得意とか、魔法が使えるとか。そういう簡単なアピールでも構いません」


「なるほど、分かりました」


「用紙を書き込み終えたら、隣の受付に用紙を渡してください。ギルド加入の審査と試験の手続きを行いますので」


「試験ですか?」


「傭兵とは危険な仕事です。魔物や魔獣と戦う事も、人と戦う事もあります。実力が無い方が加入し依頼を失敗した場合、ギルドの信頼に関わりますので」


「要は、(ふる)い落としということですね」


「そうですね」


「分かりました、ありがとうございます」


 受付の職員から用紙を受け取った二人は、中央の机に備わっている筆記道具を使って立ったまま書き込んでいく。

 樹海である程度の文字の勉強が進んでいたエリクは書き慣れない様子ながらも、自分の事を書き込めるくらいに成長していた。


 そうした様子を横目で確認したアリアは、口元を微笑ませながら自分の用紙に書き込みを進める。

 そして二人は用紙の内容を書き終えると、先程の隣にある受付に赴き別の男性職員に渡した。


「――……コレ、お願いします」


「はい。……アリアさんと、エリクさんで宜しいですね。御二人とも、傭兵ギルドへ御加入希望で間違いはありませんか?」


「はい」


「承りました。今日の審査試験は既に終了しておりますので、明日の昼前に当ギルドに御越しください。審査試験を行います」


「明日ですか? 今日はもうやってないんですね」


「はい。加入審査はいつも昼から夕方頃まで行います。今日は試験は終了して、合格者に説明を行っている最中です」


「そうですか、分かりました。それでは明日の昼頃に、お伺いします」


「はい、またのお越しをお待ちしております」


 そうして審査試験の申し込みを済ませた二人は、傭兵ギルドから出て行く。

 すると中央通りを歩く最中、アリアはエリクに問い掛けた。


「――……傭兵ギルドを出てから、誰かが追って来てる様子は?」


「……今のところは、無いな」


「そう、良かった。……でも明日は、あのギルドに入る時に注意しないとね」


「追っ手の話か」


「ええ。……もし傭兵ギルドにも帝国の手が回ってるなら、私達を捕まえて帝国に引き渡そうとするかもしれない、だから油断は禁物ね」


「そうなったら、どうする?」


「逃げるしかない、でも逃げ切れる保証も無い。……捕まるにしても、最悪の事態を避ける為に人死は避けましょう。大人しく捕まる覚悟はしてね。そうすれば情状的にエリクがすぐに処断するような事は無いだろうし、私が証言して意地でも私のお抱え騎士にしてあげるから」


「そういえば、そういう話だったな」


「そういう話よ。もし出来ないなんてお父様やお兄様が言うようなら、私もそれ相応の事をしてやるんだから」


「……ははっ」


 怒った表情で話すアリアを見ながら、珍しくエリクが声を出して笑う様子を見せた。


「珍しい、エリクが声を出して笑った」


「ん、そうか?」


「だって貴方、声を出して笑うなんてほとんど無いじゃない」


「そうか。そういえば、そうかもな」


「エリクってさ、大笑いしたりするの? なんか想像できないけど」


「……昔は、よくしていたかもしれない」


「へぇ、どんな時?」


「魔物や魔獣を仕留めた後に、その肉で焼肉を作って仲間達と食べた。仲間と飲み食いしている時は、楽しかったと思う」


「仲間って言うと、王国の傭兵だった時の?」


「そうだ」


「処刑されそうになった時、一緒に逃げたんだっけ。その後にどうなったか、知ってるの?」


「……分からない。途中で追っ手を撒く為に別れて、バラバラになった。今はどうしているのか、俺にも分からない」


「そっか。王国に捕まってないと良いわね」


「……ああ」


 傭兵団の仲間達について話すエリクは、不安な雰囲気を声色で浮かべる。

 それを察したアリアは話題を切り替え、今やるべき事を話した。


「今は私達の事を考えましょう。最優先は南の国マシラに行く商船に護衛として雇われる為に、試験に合格しないとね」


「……そうだな」


「今日は宿に戻って休みましょ。審査があるらしいから、二人で武器と防具のチェックをして万全の準備を整えなきゃね」


「ああ」


 二人は明日の試験に備える為に、宿に戻り食事を済ませて部屋に戻る。

 そして自分達の武具を手入れし、そのまま就寝した。


 次の日、二人は体調を万全にし朝食も軽く終える。

 それから武具を身に付け、傭兵ギルドに向かった。


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