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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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楽園の住民


 浮遊都市の地下に侵入したシルエスカとそれを率いる部隊は、その内部で目を疑う光景を目にする。

 そこには【天界(エデン)】と呼ばれていた頃の箱庭が存在し、様々な動植物が生息する中に人が住む遺跡の町が存在した。


 シルエスカと率いる部隊の兵士達は目を見開き、信じられない光景に瞠目する。

 しかしその動揺も十数秒後に治め、シルエスカが緩やかに進み、隊長の手信号(サイン)で兵士達は木陰に隠れながら麓の町を目指した。


 そして町に近付く度に、兵士達の目にも人の姿が視認できる。

 そこには確かに、人の文明と呼ぶべき営みがあった。


「……集落? 村とかその程度の規模だが……」


「確かに、人がいる……」


「でもあれ、随分と古めかしいというか……」


「……原始的、だな」


 身を屈め木陰に隠れながら進む兵士達は、町の光景を見てそう呟く。


 麓の町は範囲こそ広いが、塀や壁も無く自然の木々を挟みながら立つ建物の数は、それほど多くない。

 少なくとも兵士達よりもやや多い村単位の人間が住み、営みを行っている光景は見えた。


 しかし反面、文明レベルは同盟国や他国に比べると明らかに低い。

 人が身に着けている服は様々な色合いながらも布一枚を羽織った程度のモノで、外の機械技術に対して非常に原始的な生活を送っていた。


 町の光景を見下ろしながら、兵士達は隠れながら村の付近まで移動する。

 その反面、シルエスカは隠れる様子も無いまま堂々と進み、十数分後に一行は町の手前まで辿り着いた。


 周囲の森から町の様子を観察する隊長や兵士は、傍に立つシルエスカに目を向けて指示を仰ぐ。


「――……元帥。どうしますか?」


「接触してみよう」


「本気ですか?」


「仮に攻撃して来たとしても、お前達の武器と我で対抗できる」


「得体が知れません。ここは迂回し、別の道を探すべきかと……」

 

「この大自然の中で、我々が通ったような通路を見つけるのは至難だろう。……向こうが答えてくれれば、楽な話だがな」


「元帥……」


「答えを貰えなければ、尋問してでも聞き出せばいい」


 そう答えるシルエスカに、兵士達が緊張感を高めて口を(つぐ)む、


 シルエスカが述べる通り、相手の文明レベルを見れば兵士達の武装だけでも瞬く間に制圧できそうではある。

 しかしここは兵士達の常軌を逸した世界であり、そうした常識が通用しない可能性もあった。


「……我が先に行く。お前達はここで待機していろ」


「元帥……!」


 兵士達の不安を自らの行動で拭うように、シルエスカは両手に持つ槍を腰に収めながら木陰から出て、町の方へ向かう。

 シルエスカの行動に不安がありながらも、兵士達は指示通りに村の周囲で待機した。


 日の光に照らされた赤い髪を靡かせたシルエスカは、悠然とした姿で町に近付く。

 その姿を住民の一人が気付き、そこから広がるように住民達がシルエスカの存在に気付いた。


「……敵意は無いか。……しかし、全員が若者しかいない……」


 自分を見つめる住民達の表情は、怯えや不安などを含んだモノではなく、首を傾げるような純粋な疑問を含んでいる。

 逃げる様子も無く、ただ見つめて不思議そうな表情を浮かべる住民達の様子に、シルエスカは敵意は無いと判断した。


 しかし住民のほとんどは若く、年長の者でも十代後半ほど。

 それを不思議に思いながらも、シルエスカは町の中央で立ち止まる。

 そして堂々と姿を晒したまま、住民達に呼び掛けた。


「――……失礼する。私はアスラント同盟国の、シルエスカだ」


「!」


「突然ですまないが、君達の事を教えて欲しい。ここはどういった場所で、君達はどうしてここに暮らしている?」


 シルエスカはまず礼節を弁えながら丁寧に話し、住民達に呼び掛けて尋ねる。

 しかし住民達はシルエスカの声を聞いても、不思議そうな表情を浮かべるばかりで返事をしなかった。


 そうした態度でシルエスカは、住民に自分達が放つ言葉が伝わっていない事を理解する。


「言語が違うのか……。……誰か、私の言葉が分かる者はいるか?」


「……」


「……いないか」


 住民達は聴きなれない言葉を放つシルエスカを不思議そうに見つめ、奇異な視線も含み始める。

 言葉が通じる者がいない事を知ったシルエスカは、どうするかを思案した。


 そうして困り果てている中で、一人の若い男がシルエスカに近付く。

 それに気付いたシルエスカは視線を向け、少し離れた位置で立ち止まった青年の姿を見た。


 住民のほとんどは普通の人間と変わらぬ姿だったが、その青年だけは手足と右頬に黒模様の刺青を刻まれている。

 明らかに他の住民達と出で立ちが違う姿を見ていると、青年の右頬に刻まれた刺青が白く光り始めると同時に口を開いた。


「――……尋ねる。お前は何者か?」


「!」


「そちらの音調と合わせた。こちらの言葉が分かるはずだ」


「音調……?」


「神が我等に授けし御業の一つ。言葉が違えし者と話す時に使う」


「……相手に自分が放つ言葉を理解させる、ということか」


「その通りだ」


「それは魔法なのか? そんな魔法、聞いた事も無い」


「神の御業だと言っている。……それで、お前は何者だ?」


 青年はそう述べ、シルエスカの素性を聞く。

 見知らぬ言葉を相手に伝えるという魔法を聞いた事が無いシルエスカは、それを疑問に思いながらも青年の問いに答えた。


「我はシルエスカ。アスラント同盟国から来た」


「アスラント? 聞いた事が無い」


「他にも、君達のような者がこの場所にいるのか?」


「いない。この森には、我々だけが暮らしている」


「そうか……」


「シルエスカ。お前は何をしにここへ来た?」


 そう尋ねる青年に対して、シルエスカは僅かに口を止める。


 この地下空間で彼等が暮らしているという話が本当であれば、こちらの目的を伝えると一気に敵対関係になる可能性が高い。

 それを察し、敢えてシルエスカは話題を濁しながら情報を聞き出す事にした。


「我は迷い、ここに辿り着いた。お前達は、どうやってここに来た?」


「神が我々を導いてくれた」


「神というのは、誰の事だ?」


「神は神だ。それ以外にない」


「そうか」


「……その身形。外から来た者か?」


 若者の目が訝し気なモノになりながら尋ねられた言葉に、シルエスカは僅かに考える。

 しかしここで誤魔化せる状況ではなく、シルエスカは素直に話した。


「そうだ。……君達は、ここが地下(なか)だと理解しているのか?」


「神が我等を守るために、この地を用意してくれた」


「君達は、その神という者にここへ連れて来られたのか?」


「連れて来られた? 導かれたと言ったはずだ」


「……外がどうなっているか、その神から聞いた事はあるか?」


「神に話し掛けられない。神は常に、天上で我々を見守っている」


「天上?」


「この上だ」


 青年はシルエスカと交互に質疑を交え、そして太陽が昇る青い空を仰ぐように手を伸ばす。

 それを見て顎と視線を上げたシルエスカは、視線を戻して青年に質問を続けた。


「……なら君達は、外の状況を知らないのか?」


「知っている。神官様が、我々に伝えてくれた」


「神官?」


「ミネルヴァ様だ」


「!?」


「ミネルヴァ様は、我々に神の言葉を伝えてくれる。外は醜悪な世界であり、我々は神の意思によってここに導かれ、守られている」


 その話を聞いたシルエスカは、青年の口から出た名前に目を見開く。


 『閃光(せんこう)』の異名を持った『黄』の七大聖人(セブンスワン)ミネルヴァ。

 かつてはフラムブルグ宗教国家に所属し、狂信者ながらも人間大陸で屈指の強者。


 しかし十五年前から魔導国に与し、更にアリアを神と称え、他の国々を滅ぼしながらシルエスカとも対峙していた人物。

 アリアと同等かそれ以上の危険人物だと認識していたミネルヴァの名が青年の口から出た時、シルエスカは今までの話が全て繋がった気がした。


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