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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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楽園の道


 魔導人形(ゴーレム)の襲撃を受けながらも、シルエスカに率いられる五十名の兵士達は傭兵ギルド跡地にある大金庫から地下へ侵入する。

 明かりの無い階段を下りながら兵士達が胸元や銃に備え付けた明かりを頼りに注意深く進む中で、槍を握ったまま先頭を歩くシルエスカは淡々と降りていた。


 次第に上で起こっている戦闘や地響きの音が薄くなり、地下へ降りた全員の耳に届かなくなる。

 それを十数人以上の兵士達が気にしている事を察するように、シルエスカは前を歩きながら声を発した。


「――……彼等(うえ)の事を気にするな、とは言わない」


「!」


「だが我々には、我々の役目がある。今は集中し、目的を果たす為に自分がどう動くべきかを考えろ。……でなければ、我々が地下(ここ)にいる意味が無い」


「……ハッ」


 シルエスカが静かに告げるその言葉に、上を心配していた兵士達が苦々しい表情を浮かべながらも頷く。

 そして暗闇に慣れ降りる足を速めながら、一行は長い地下の階段を降り続けた。


 それから十分ほど経ち、一行は段差が無い地面へと辿り着く。

 そして先頭の兵士達は周囲を照らしながら、シルエスカと共に地下の状況を確認した。


「これは……」


「元帥、この施設は……」


「……我々の地下基地と似た構造をしている。これは元々あった施設ではなく、新たに増築されたモノだな」


 兵士達が驚きながら周囲を見渡す中で、シルエスカが自身の考えた事を述べる。


 傭兵ギルド跡地の地下に備わっていた空間と施設は、明らかに過去の魔導国の技術が使われていない。

 魔導人形(ゴーレム)の製造技術を元にした設計思想を感じられる施設の状態と状況を見て、ここが浮上してから増築された地下空間だと全員が悟った。


 そしてシルエスカが足を進め、通路となっている道を歩く。

 それに続くように銃を構えた兵士達が四方を固めて注意深く進み、地下施設内の状況を更に確認した。


 地下は空洞音が響きながらも、明かりが無く風の流れも無い。

 強いて言えばシルエスカ達が入った地下施設の方へ淀んだ風が流れ始め、それをシルエスカは奇妙に思いながら呟いた。


「おかしい……。人の出入りがあった割に、この地下施設に人が住み着いているような痕跡も気配も無い……」


「……罠でしょうか?」


(それ)を言うなら、既に上で魔導人形(ゴーレム)共の襲撃を受けた。あの襲撃は、金庫破りを行った為に発動した罠かもしれん」


「!」


「あるいは、別の要因もあるだろう。グラド達が発見し破壊しようとしている製造施設で、何かあったのかもしれない。……こんな事を考えれば、キリは無いな」


「はい……」


「だが、幾重にも罠を掛ける事も考慮すべきだろう。……全員、警戒を緩めるな」


「ハッ」


 シルエスカの注意に全員が応えるように頷き、生唾を飲みながら通路を左折する。


 地下施設は通路を含めて思った以上に広いが、やはり人の気配や施設が稼働している音がしない。

 それどころか地上の都市内で溢れ返っている魔導人形(ゴーレム)すら一体も居らず、あまりにも不自然な静けさは全員の不安と恐怖を掻き立てる。


 それを払拭するように赤く明るい綺麗な髪を靡かせたシルエスカは、躊躇せず前を歩き兵士達を導いた。

 その背中を頼もしく感じながら、兵士達も強い意志を宿して進み続ける。


 それから更に十数分以上を歩き続け、地下通路を全員が渡り歩いた。

 基本的に分かれ道があった場合、シルエスカは都市内の作りを把握して北へ向かい、中心部を目指している。

 時には北へ続く別れた道もあり、部隊を分けて別々に施設捜索を行うべきか兵士に提案された場合もあった。


「――……元帥。ここは、二手に別れるべきでは?」


「いや。戦力を分担すれば、それだけ各個撃破される確率が高まる。先程の襲撃も、実際にそうなった。非効率だが、ここは全員で移動し対処した方が最善だろう」


「しかし、時間が……」


「グラド将軍達が魔導人形(ゴーレム)製造施設と自律行動させている施設を破壊すれば、各大陸の侵攻は止まる。だが我々は、確実にこの都市を地上に叩き落さなければならない」


「……」


「我々に失敗は許されない。あらゆる状況に対応する為にも、これ以上は人員を別けない」


「了解です」


 シルエスカがそう述べ、部隊を分けた捜索は行わない。

 その可能性について兵士達も考え至り、それ以降は分散捜索の案を出さずに、道なりに一行は進み続けた。


 それから更に十数分後、暗い通路を歩き続けた兵士達に疲労が見え始めた時。

 シルエスカは何かに気付くと同時に眉を顰め、後ろから続く部隊の進行を一声で止めた。


「――……待て」


「!」


「……何か聞こえる」


「!!」


 シルエスカは短く状況を伝え、兵士達はその言葉を受けて更に警戒度を跳ね上げる。

 そして足音を極力殺しながら全員が緩やかに歩き、シルエスカは声が聞こえた方へ意識を集中させながら進んだ。


 それから数分した通路の先で、シルエスカ達は初めて明かりを目撃する。

 そして兵士達にも人の声が聞こえ始め、また流れる風が更に強まる事を全員が感じた。


「……この先だ」


 そうした中でシルエスカは冷静に兵士達を率い、光が差し込む通路の手前で身を屈める。

 兵士達もそれに合わせて身を屈め、通路の壁に張り付きながら光が差し込む空間を覗き見た。


「――……!?」


「……な、なんだ……?」


「こ、ここって……」


「外……?」


「……なんで地下に、森があるんだ……?」


 光が差し込む空間を見た兵士達は、そうした声を漏らして呆然としながらも驚く。

 シルエスカもまたその光景を見て、自分が見ているモノが現実なのかを疑った。


 そこには、巨大な自然が広がっている。

 まるで地上の動植物がそのまま運ばれてきたような広大な大地があり、良く聞けば小川のせせらぎや鳥の鳴き声も聞こえた。


 シルエスカは思わず立ち上がり、通路から出て外の光景をしっかりと目にする。

 そこは間違いなく、楽園と称しても違和感が無い自然空間が存在していた。


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