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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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演じた理由


 シルエスカが居る地上都市とマギルスやケイル達が居る地下で、状況の変化が大きくなり始めている頃。

 白い金属で出来た円形状の塔内部に分断されていたエリクは、何処までも続く螺旋の階段を登り続けていた。


 始めこそ歩いて登るエリクだったが、果てしなく続くとさえ錯覚しそうな距離感覚の螺旋階段を見上げ、途中から走りながら登っている。

 数段を飛び越えながら速度を落とさず走り続けるエリクは、疲弊した様子は見せていない。


 むしろ脚力に生命力(オーラ)を滾らせながら慣れると、徐々に速度を速めて跳び越す段数も増え続けるエリクの口元は自然と僅かな笑みを浮かべていた。


『――……エリク、調子に乗ったらダメよ! 貴方の生命力(オーラ)は無限じゃ無いんだから!』


「ああ、分かっている」


 そうした中で、エリクの耳にアリアの声を響く。

 それに当然のように返答するエリクは、何の疑問も抱いていない。


 何故アリアの声が、エリクに聞こえるのか。

 それは魂の戦いを経て、魂が進化し生命力(オーラ)の使い方を学んだエリクが、自分の魂の中にいる存在と会話できるようになった影響だった。


「……それより、アリア」


『なに?』


「あの二人や他の者達に、君の事を言わなくて本当に良かったのか?」


『言わなくていいわ。だって貴方の(なか)に居る私は、あくまで本体(アリア)が貴方に課した制約(コピー)でしかないもの』


「……」


『仮に私が貴方を通じて言葉を介したところで、今の私がやっている事は変わらないし、それに関して言い訳したり謝罪もする気は無いわ』


「……そうか」


『それに、(なか)にいる私が貴方にちょくちょく接触してると分かったら、嫉妬しそうな人もいるものね』


「……ケイルも流石に、分かってくれると思うが……」


『エリクは女ってモノが分かってないわね。女はね、好きな相手には自分しか見てほしくなかったりするのよ。ケイルはその典型的なタイプね』


「そうなのか?」


『そうなの』


「そうか」


 二人は(なか)を通じて、そう話し合う。

 (なか)に居る制約(コピー)のアリアは、自分がエリクを介して今も意思疎通が出来る事を黙っているよう頼んだ。


 そうする事でエリクは時折、分身であるアリアの助言を(なか)で聞き、行動に反映させている。

 侵攻作戦が開始される会議でも、クロエの意図を汲んだアリアの分身がエリクに呼び掛け、砂漠の大陸から敵に見つけられていた事を証言するよう伝えられていた。


 何故そうした状況をアリアが黙っているよう頼んだかは、二人が会話で述べているような理由も含み、また別の要因も存在している。

 それこそが二人が目的としている、今現在のアリアだった。


『――……話を戻すけど、多分この空間はあの黒い金属、魔鋼(マナメタル)で出来た塔内部よ』


「そのマナメタルというのは、俺達を飲み込むような事も出来るのか?」


『ええ。魔鋼(マナメタル)は変幻自在の金属で、何者にも割れ砕けない硬度になったり、水のように柔らかく流動したりする。そして集めて形状を変化させれば、さっきみたいな塔にもなったりするわ』


「……それを全て、今のアリアがやっていると思うか?」


『多分ね。誰かに教えてやらせているという線も考えられるけど、今の私ならそんな面倒な事はさせないはずよ』


「君には、今の(アリア)の事が分かるのか?」


『分かるというより、やるだろうなって事はね』


「……記憶を失った君は、何を考えて行動している?」


 エリクは再び跳躍を強め、一気に十段以上の段差を跳び越えながら階段を登る。

 そしてそう呟き聞いた後、(なか)にいるアリアは数秒だけ黙った後に返答した。


『――……子供の頃の私の話は、前にしたわよね?』


「……君が、化物(バケモノ)だと家族や周りに言われていたという話か?」


『そうよ。……私はある事件があって、化物(バケモノ)と呼ばれていた私自身を抑え込んで、ローゼン公爵家の令嬢として振る舞う事を決意した。だからガンダルフに現代魔法を習って自分自身の力を誓約で抑え込み、お父様に従い帝国貴族としての英才教育を受けて、非の打ち所の無い貴族令嬢を演じていた』


「ある事件……?」


『私と友達になってくれた子を、傷付けてしまったの』


「!」


『その子は、私より少し年上でね。私が二歳になってから少しして、帝都の皇城内で催されたパーティーで出会ったの』


「……」


『私、それが初めて経験したパーティーだった。凄く堅苦しくて、色んな人がローゼン公爵の子供である私に纏わり付いてきて、嫌になってね。冷めて美味しくない料理ばかりだったし、何の楽しみも無かったから、パーティーを無断で抜け出しちゃったのよね』


「……君らしいな」


『でもお父様に抜け出したのがバレて、騎士とか執事とか侍女とか、色んな人に追われたわ。……そこである部屋に隠れてやり過ごそうとしたら、その子はベッドで横になってた』


「ベッドに?」


『気分を悪くして休んでたみたい。突然部屋に入って来た私を見て、その子は驚いてたわ』


「……」


『でもその子、私を庇ってくれたの。私を探す為に部屋の扉を叩いた侍女達の声を聞いて、私に手招きして扉から死角になるベットの脇に隠して誤魔化してくれたわ』


「……それで、友達になったのか?」


『ええ。……その子、編み物が上手でね。ベットに座りながら、毛糸とか棒糸、それに裁縫道具と布地を使って、色んな物を作ってた』


「……君が裁縫をしていたのは、その友達の影響なのか?」


『ええ。私、魔法の才能や知識はズバ抜けてたけど、そうした一般的な知識や技術は知らなかったから。だからかな、あの頃の私はそういう普通の事に、興味を持ち易かったのね』


 (なか)にいるアリアは微笑みながらそう述べ、友達だったその子の事を話す。

 そうした中でも跳び進むエリクは、果ての見えない上を見上げながら口を開いて聞いた。


「何故、君はその友達を傷付けてしまったんだ?」


『……基本的に、パーティーは三日連続であるの。一日目は挨拶、二日目は交流、三日目は披露。私は一日目に抜け出したから、次にも強制参加させられてね。二日目の交流パーティーにも出席させられた』


「……」


『でも、やっぱり嫌になってね。その時に、昨日会った子も来てないかなって、お父様の傍から離れて会場の中を探したの。……そしてあの子を見つけた。いいえ、見つけてしまったと言うべきかしら』


「……?」


『あの子はパーティー会場の隅、外の庭園に繋がるベランダに居た。……でもその周りに、あの子を虐めてる連中がいたのよ』


「!」


『そいつ等は、その子より年上の貴族の子弟だった。そいつ等がその子が着ているドレスを掴んで似合ってないと罵ったり、あの子の綺麗な黒髪を引っ張ったり、挙句にあの子が刺繍した手製のハンカチを破いて踏み付けた』


「……」


『私はそれを見て、キレたわ。問答無用で魔法をぶっ放して、その子に周りに居た連中を吹っ飛ばして壁や周囲の物に叩き付けてやった』


「……そうか」


『そうしたら、警備をしていた騎士とか兵士、オマケに吹っ飛ばした子供の親が来てね。そいつ等が何か怒鳴りながら私を抑え込もうとしたから、そいつ等も叩き飛ばした』


「……」


『パーティー会場は、私のせいで騒然。周りは私を見て怯えた目をして、騎士連中も化物染みた私に怯えながら剣を抜いて、それに気付いた私は思わず手を翳してその騎士を魔法で攻撃しようとした。……でも、私の後ろに居たあの子が、私を止めようと手を掴んで、魔法がその子に当たってしまった』


「……」


『私はすぐに、その子を治したわ。……それから色々あって、私は魔力封じの拘束具を手足に付けられて、地下牢獄で過ごした』


「!」


『当り前よ。制御できない化物(バケモノ)なら、殺すか拘束するしかない。例えそれが、皇帝の弟であるローゼン公爵の娘でもね』


「……それが、君が化物(バケモノ)から変わったきっかけなのか?」


『ええ。……あの子を傷付けてしまったこと、そして暴れる私を見て怯える周囲の人間達の目を見て、拘束されながら思ったわ。……自分は、あの子やあの人達と同じ、人間ではないんだってね』


「……」


『だから私は、取引を持ち掛けたガンダルフの提案を受け入れた。現代魔法を学び、自分の力に制約を課して、私という化物(バケモノ)が人間に、そして公爵令嬢に見られるように十年以上も演じ続けた。……それが、私が私という人格を形成したきっかけよ』


 (なか)に居るアリアはそう話し、自分自身の過去を語る。


 『化物(バケモノ)』と呼ばれた少女が、『人間』として見られる為に公爵令嬢を演じ続けた理由。

 それが虚しさと悲しさを宿す理由だと知ったエリクは、表情に影を落としながら唇を噛み絞める。


 アリアの過去は、過去の自分と重なる事が多いようにエリクは感じていた。


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