這い出る鉄巨人
工場地帯の地上側では、グラドが率いていた第二部隊と戻った第四部隊の半数が待機している。
緊急事態に備えて工場内で複数の兵士が待機しながら状況を観察し、その周囲を十台の戦車部隊と二百名近い兵士達を控えさせながら、全員が変化を待っていた。
「――……将軍達が降下して、伝達が戻ってから一時間が経過しますね」
「ああ。……通信は?」
「……地下には、まだ繋がりません。箱舟には繋がるので、状況は伝わっていますが……」
「やはり地下施設の影響で、通信が繋がらないか」
「隊長。そろそろ我々も、突入した方が……」
「……」
第二部隊の隊長は、副官の意見を聞いて思考する。
グラド達が地下へ赴いてから一時間が経ち、地上に居る部隊も周囲の索敵を終えていた。
その結果、やはり地上の工業地帯にはそれらしい施設は無く、また地下に通じる床扉なども発見できない。
地上部隊もここに集結して待つしかない状況であり、グラド達と連絡が取れないこの状況に全員が不安を抱いてもおかしな事で無かった。
そうして思い悩む第二部隊の隊長が口を開きかけた時、近くにいる戦車の上部ハッチから兵士が出て告げる。
「――……隊長!」
「!」
「地下の戦車と、通信が繋がりました!」
「本当か!?」
「はい! それと、グラド将軍から命令が!」
「!」
「『地下施設の付近に集結している部隊は、急ぎ離れろ』とのことです!」
「!!」
「……全部隊! この周囲から離れろ!!」
第二部隊の隊長は左耳に取り付けた通信機で全部隊にグラドの命令を伝え、それが地上部隊の全てに伝達される。
戦車を始めとした兵士達が地下施設の入り口から急いで後退し、数百メートル以上の距離を取った。
その最中、走る兵士達がコンクリートの地面から僅かな振動を感じる。
それと同時に地下施設の入り口がある建物から、地下に降りていた戦車二台と五十名の兵士達が飛び出すように現れた。
その中にグラドやケイルも含まれており、それに気付いた各兵士達と第二部隊の隊長が大声で呼ぶ。
「グラド将軍!」
「――……お前等、早く離れろッ!!」
「いったい、何が……!?」
「巨大魔導人形が来るぞ!」
「デカブツ……!?」
グラドがそう言いながら走る背後を、第二部隊の隊長と兵士達が見る。
足元から感じる振動は更に強くなると、目に見える形で振動の正体がグラド達の背後に現れた。
「――……!!」
「アレは……!」
「巨大な魔導人形……!?」
地下施設に繋がる建物が下から盛り上がる何かに押し上げられ、建物全体が崩壊していく。
そして崩壊した建物の瓦礫から、銀色の装甲を纏った巨大な魔導人形が姿を晒した事で、それを見た兵士達が否応無く状況を把握した。
そして走りながらグラドは左耳の通信機を使い、全部隊に情報を伝える。
『――……よし、繋がるな! 全部隊に伝える!』
「!」
『あの巨大魔導人形は装甲も硬いが、分厚い結界を張ってるせいで更に硬い! 戦車の砲撃でも、ビクともせん!』
「!!」
「そ、そんな……」
『箱舟に応援を要請しろ! 箱舟の主砲なら、奴を倒せるはずだ!!』
「りょ、了解!」
「――……こちら、第二部隊! 箱舟、聞こえますか!? 我々は現在、敵の巨大魔導人形と交戦中! 至急、箱舟の掩護を――……」
『箱舟が来るまで、時間を稼ぐ! 戦車部隊は後退しながら、建築物を主砲で破壊! 敵の進路を塞げ!』
「ハッ!」
『他の魔導人形共も出て来るかもしれん! 歩兵部隊は、迎撃に備えろ!』
「了解!」
グラドは這い出て来る巨大魔導人形に対して、工場地帯にいる兵士達にそう命じる。
そして一時停止した戦車に乗り込んだグラドは、操縦席に付いている副官に声を向けた。
「――……俺達で、あの巨大魔導人形を一体、引き付けるぞ!」
「無茶を言う……!」
「俺の無茶なんざ、とっくに慣れたろうがよ!」
「そうですね!」
グラドは表情を強張らせながらも笑みを浮かべて命じ、それに副官も応える。
戦車はその場で旋回し、這い出て来る一体の巨大魔導人形に狙いを定め、主砲を撃ち放った。
放たれた徹甲弾は巨大魔導人形の右腕部に直撃したが、やはり結界と分厚い装甲に阻まれ破損できない。
それでも組み込まれた自律行動で、巨大魔導人形はグラド達が乗る戦車に赤い単眼を向けて目標に定めた。
「やっぱ、攻撃した相手を優先して狙うみたいだな!」
「このまま後退します!」
「おう! 上手く逃げろよ!」
「でも、もう一体は!?」
「頼もしい助っ人に、任せるさ!」
グラドは上部ハッチから身を乗り出し、上半身を出しながら正面を見る。
戦車の砲撃を受けた巨大魔導人形は、地下から這い出た後に足を進めて戦車を追っていた。
そしてもう一体、新たに這い出て来た巨大魔導人形が、グラドと同じ場所に視線を向ける。
そこは建物の屋根上であり、肩まで伸びた赤い髪を靡かせたケイルが這い出て来る巨大魔導人形を静かに見据えていた。
『――……』
「……コレがお前の玩具だってんなら、すぐにぶっ壊してやるよ。……アリア!」
ケイルは巨大魔導人形を睨みながら、静かに呟く。
地上へ完全に出て来た二体目の巨大魔導人形は、兵士達に目もくれずにケイルへ歩み寄る。
それに対して腰を少し落とし構えたケイルは全身から白い生命力を強め、屋根伝いに飛び駆けながら巨大魔導人形と対峙した。




