見慣れた光景
樹海の部族等と交流し別れたエリクは、パールの教えてくれた鍾乳洞を進む。
そして待っていたアリアと合流し、鍾乳洞の先へ向かった。
その先には朝日が見える空と巨大な湖が存在し、アリアは氷属性の魔法を駆使して湖の表面に氷を張り巡らせる。
更に氷の上に土属性の魔法で地面を作り出すと、二人はそれを道にしながら湖を通り抜けた。
すると対岸に辿り着いた二人は、森の中に身を潜めながら地図と方位磁石を出して自分達の位置を確認し始める。
「――……今は朝だから、太陽の位置と樹海の位置関係を照らし合わせながら鍾乳洞の移動向きを計算して地図と照らし合わせると……私達はこの辺にいることになるわね」
「……東港町まで、何日か歩く必要があるな」
「でも、ここからなら大きな検問所も街も無い。大きく迂回しつつ行けば、気付かれずに東港町に行けるかも。……鍾乳洞から抜け出したのがバレなければの話だけど」
「そうだな」
自分達の位置を把握しながら、二人は次の目的地となる東港町に向かう話をする。
しかしその途中、アリアが表情を曇らせながら乾いた笑みを浮かべた。
それに気付いたエリクは、彼女に問い掛ける。
「どうしたんだ?」
「……樹海の皆にも迷惑を掛けちゃったからね。私が北港町で上手く立ち回っていれば、パール達を巻き込まずに済んだんじゃないかって思ってたの」
パールを始めとした樹海の部族を巻き込んでしまった事について、アリアは後悔した様子を見せる。
するとエリクは少し考えた後、別れ際に交わしたパールの言葉を思い出して伝えた。
「……パールからの伝言だ」
「え?」
「俺達への恩は忘れない。何かあれば助けになる、だそうだ」
「……」
「樹海の部族はきっと、自分の意思で俺達を助けた。君と同じように。……だから、気にしなくていいと思う」
「……そっか。……そうね。今更気にしても、仕方ないことだもんね」
励ましの言葉を述べるエリクを見ながら、アリアは気落ちした表情を僅かに微笑ませる。
そして地図などを鞄に収納し直すと、二人は東港町へ移動を開始した。
その道中、アリアはこんな話をエリクと交わす。
「――……そういえば」
「ん?」
「なんかエリクって、口が上手くなった?」
「口が上手く?」
「さっきもそうだけど、言い回しというか。森に入る前は微妙な言葉遣いが、少し上手くなってるのよ」
「……俺もパール達と一緒に、言葉を習っていたからだろうか」
「そっか、一緒に授業受けてたもんね。言葉がどういうモノか、大体は分かってきた?」
「……た、多分」
「まぁ、分かったって言える程に理解が出来てるワケじゃないわよね。言葉はどんどん、理解しながら覚えて行きましょう」
「ああ」
「そうだ、言葉を覚えると言えばね」
「?」
「あの遺跡に、魔法文字で幾つか言葉が綴られてたの。多分、帝国の中では未発見の新種の魔法よ」
「新種の魔法?」
「私が魔法を使う時に呟いてる呪文。あれはね、遺跡とかにある魔法文字で残された文献を解読して、私達の言葉に直したことで使える魔法言語なの。それを正しく意味を理解して詠唱する事で、魔力を根源とした魔法を扱えるようになるのよ」
「……そ、そうか。凄いな」
「あっ、分かってないわね。つまり私は、大昔の人達が使ってる技術を利用して魔法を使えるようになってるわけ」
「そうなのか」
「ふふっ、やっぱりエリクはそういう感じの方が良いわ」
「そうか?」
「そうなの」
「……そうか」
そんな他愛も無い会話をしながら湖を囲む森を抜け出た二人は、黒い外套を羽織って道中を移動する。
樹海の生活で精神力と持久力が身に付いたアリアは野宿を行っても特に小言も言わなくなり、硬い干し肉をガジガジと齧る逞しい姿を見せていた。
半年前とは違うアリアの様子を見ながら、エリクは僅かに口元を微笑ませる。
そしていつものように大剣を腕に抱えて、座りながら眠った。
それから五日後、二人は海沿いに進みながら人目を潜り抜けて東港町まで辿り着く。
偽装魔法で髪色や顔立ちを変えていた二人は、無事に東港町に入り込めたのだった。