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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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住民の行方


 三方に別れた同盟国軍とエリク達は、魔導国の都市機能を破壊する為に移動を始める。


 先に出発したのは、グラド将軍が率いるアスラント同盟国軍の第一から第五部隊。

 都市東部に着陸した箱舟(ノア)から北部にある魔導人形(ゴーレム)製造施設と思しき場所へ、合計で十二台の戦車と二百名の兵士達が警戒を高めながら縦列を敷いて進んでいた。


 グラドは先頭から二つ目の戦車に乗車し、上部ハッチを開けた所に腰掛けている。

 兵士達に合わせた速度を保つ戦車から周囲を見ながら、内部に搭乗している副官に声を掛けた。


「――……索敵機(レーダー)に反応は?」


「今のところ、周囲には何も……」


魔導人形(ゴーレム)の一体も、俺達の方へ来てってないってのか?」


「魔力の周波数帯は変えながら索敵していますが、やはり感知する機体は周辺には一つもありません」


「……あり得るか? 国の都市(ほんまる)に攻め込まれたってのに、魔導人形(ゴーレム)どころか、人間一人すら姿を見せんとは……」


 グラドと副官は怪訝な表情を深め、周囲を見る。

 都市部には様々な種類の建築物があり、古い物から武骨な鉄の建物まで不揃いに建てられていた。


 しかし人が住んでいるような気配は無く、各部隊の兵士達が確認の為に周囲の建築物へ押し入ると、荒れ果てて埃が舞う室内の状態を確認する。

 人がいる気配どころか住んでいる形跡もない無人の都市に、行進する兵士達は不安と不気味さを同居させながら歩み進んでいた。


 その中に行軍に随伴しているケイルは、グラドの居る戦車の傍で歩行速度を合わせながら周囲を確認する。

 それを見下ろす形で見たグラドは、少し考えてからケイルに声を掛けた。


「――……おい、ケイルさんよ!」


「何だ?」


「アンタ、どうしてこっちに来たんだ?」


「?」


「ほら。アンタ、いっつもエリクの傍に居たろ? どうしたのかと思ってな」


「……作戦だっての。シルエスカから説明されてないのか?」


「いや、されてるな」


「なら……」


「エリクエリクって、ここしばらくあの局長に食い下がってたろ? 離れて行動して良いのかと思ってな」


「……」


「なんだ、喧嘩でもしたのか?」


「うるせぇ。仮にも一軍を率いてる指揮官なら、喋らずに作戦に集中しろよ」


「それもそうなんだが、この静けさだとな。……アンタはこの状況、どう思う?」


「どうって?」


「魔導国の首都には、少なくとも三十万人の国民がいたはずなんだ。……それが一人も見当たらないのは、どうしてだと思う?」


「……皆殺しにでも、されたのかもな」


「皆殺しって……。首都の全員を殺したってのか? 自分の(ところ)の国民を全部殺しちまうなんて、何の益があるってんだ?」


「逆に聞くが、生きさせて何か得があるのか?」


「……!」


魔導国(ここ)の戦力は魔導人形(ゴーレム)主体(メイン)だ。魔導人形(ゴーレム)に作業も何もかもやらせるなら、人間も必要ないだろ」


「……そりゃ、確かに」


「それに、こんな空に上がっちまったんだ。浮遊都市(ここ)と地上に有様を見ても、ここに生きてた人間は碌な食料の確保も出来ないはず。だろ?」


「……」


「だとしたら、全員が死んでると考えるのが妥当だ。死体が転がって無いのも、魔道人形(ゴーレム)を使って棄てちまったのかもな。……仮に魔導国ここで生きてられる人間が居たとしたら、マトモな人間(やつ)じゃねぇよ」


「……そうだな」


 ケイルが話す言葉に、グラドは同意しながら周囲を見る。

 古い家屋や商店の跡地も点々と見えたが、窓や扉を始めとした部分が人為的に破壊され、壁などにも黒く変色した古い血痕跡があった。


 それを見て、同盟国軍の兵士達はある光景を脳裏に浮かべる。

 恐らくこの都市が浮遊した出来事の後、生きていた都市の住民同士で殺し合いがあった事が予測できた。


 都市が丸ごと空に浮かび上がり、大地から切り離される。

 それほど時間が経たない中でも、住民達の混乱が暴動を引き起こし、逃げ場の無い空の上に高まる感情とは裏腹に食料は枯渇し、物資の奪い合いに発展したのだ。


 各所で見られる建物の破損具合や荒れ具合から、同盟国軍の兵士達はそれを予想する。

 それは同時に、全員にある推測へ結び付かせた。


「――……つまり、この都市に住んでた住民は、都市が浮かぶのに巻き込まれたってことか?」


「多分な」


 その結論に辿り着いたグラドは、ケイルの同意を得る。

 二人は荒れた都市を見渡しながら、ケイルから推測の続きを述べた。


「大半の住民は、この騒動に巻き込まれた側なんだろ。都市を丸ごと空に浮かべるなんて馬鹿げた計画を、知れる立場じゃなかったんだ」


「……魔導国の上層部が、勝手にやったってことか?」


「さぁな。けど、こんな状況になるのが分からない馬鹿が、国の上に立てるか疑問だぜ」


「上の計画じゃないのなら、なんだってんだ?」


「例えば、新たな『青』の七大聖人(セブンスワン)になったとかいう野郎の独断。……それと、もう一人」


「……アリア嬢か」


「あるいは、その二人が結託してこの都市を浮かせた。……色々と推測はできるが、今すぐ真実が分かるワケじゃない」


「……だな」


「アタシはあくまで、同盟国軍(あんたたち)の作戦を成功させる為の助っ人だ。目標を破壊出来たら、アタシはすぐに中央に向かうぜ」


「そして、愛しのエリクと合流か?」


「ああ。――……って、オイッ!?」


「ハハッ!! 良いじゃねぇか。ここにいるほとんどが、アンタがエリクを好きなのは知ってるぜ?」


「な……!?」


「ほら、アンタの事が書かれた本だよ。その内容に、『赤き女剣士ケイルは黒き戦士を秘かに恋し、旅に同行する』ってのが、書いてあるんだ」


「――……ハァ!?」


「なんだ、読んでなかったのか? あの本が流行った時期には、それを読んだ若い連中が色々と論争してたんだぜ? 『赤い女剣士(ケイル)少女(アリア)黒き戦士(エリク)はどっちと結ばれるべきなのか』ってな」


「……ッ!!」


「意外と多かったぜ? 赤い女剣士(アンタ)を応援してる連中がよ」


「……あの糞女、よくも……!!」


 グラドは笑いながらそう話し、ケイルは心の底から憎しみを浮かべた表情で著者(アリア)を思い浮かべる。

 そして顔を背けて列の先頭を走る戦車に追い付くように走り出すケイルを見て、グラドは笑いを含んだ声で副官に告げた。


「――……俺達も魔導人形(ゴーレム)共をぶっ壊して、さっさと中央の援護へ向かうぞ。警戒度はそのまま、行軍速度を速めるよう伝えろ!」


「了解です」


 グラドはそう告げ、副官を通じて全部隊の行軍速度を速める。


 それから数十分後。

 グラド達は敵防衛戦力と交戦する事も無く、荒廃した都市東部の外周沿いを移動しながら魔導人形の製造施設と思しき北部へ辿り着いた。


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