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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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絶望の空


 アスラント同盟国から砂漠の大陸を目指し、三番艦の箱舟(ノア)は夕暮れの空を飛翔する。

 透明化し周囲の景色に溶け込む箱舟(ノア)に乗った五百名の兵士達とエリク達は、下に広がる大海原の遥か上空を通過していた。


 艦橋(デッキ)では、目視と各映像モニターでそれを確認している。

 クロエとマギルスは共に艦橋から離れて休んでいる最中だったが、シルエスカが艦橋員の一人に声を掛けた。


「――……海に出たか?」


「はい」


「という事は、あと四時間程で指定空域か。……敵飛空艇の魔力反応は?」


「まだ、確認できません!」


「……空が広いとは言え、敵機に見つかっていないのは僥倖と言うべきか。それとも、順調すぎる事を危惧すべきか……」


 シルエスカは口を手で覆いながら、現状を見て呟く。


 空を順調に進み、三分の一の道程を済ませた。

 敵飛空艇を発見せず、また発見されずに進めているこの状況は、まさに同盟国側としては順調に思える。


 しかし順調過ぎる事がシルエスカに一抹の不安を呼び込み、更なる確認を艦橋に座る通信士に声を掛けた。


「一号機と二号機への通信は、まだ出来ないか?」


「少しお待ちを。……どちらの通信にも、それらしい反応はありません」


「……」


「合流空域ではありませんから、通信範囲に入っていないだけかと思われますが?」


「そうか。……首都の地下基地に、まだ通信は届くか?」


「お待ちください。……通信、まだ可能です」


「念の為、基地に伝達しておけ。アズマ国に赴いた一号機はともかく、周辺国に向かった二号機との通信は基地から可能なはずだ。出来る限り、こちらの進路を教えて二号機との合流は指定空域前で果たしておきたい」


「ハッ」


 シルエスカは通信士にそう命じ、自分達の状況を基地に送り伝える。

 それから数十分後、地下基地から返信が届いた事をシルエスカは知らされた。


「――……元帥。基地からの返信、届きました」


「読んでみろ」


「はい。――……二号機は現在、最後に寄った国から出立しているとのこと。予定より二時間程、進行が遅れているそうです」


「やはり、どうしても遅れは出てしまうか……」


「航行速度を落としますか? それならば、二号機との合流は出来るかと」


「……いや。このまま我々は指定空域に向かい、浮遊している敵都市の発見を最優先にする。二号機も指定空域に急ぐよう、基地から伝えるよう送ってくれ」


「了解しました!」


「……このまま、何も無ければいいのだがな……」


 シルエスカはそう呟きながら、夕日が沈み夜が訪れる空を横目で眺める。


 それから四時間程が経過し、空は夜に覆われる。

 昼とは全く違う夜空という闇の中で月や星から届く光を僅かな明かりにしながら、艦橋員達は目視とモニター越しに前方にある砂漠の大陸を捉えた。


「――……見えました!」


「ここからは敵の制空権内と思われる。各員に全方向の監視を。索敵、魔導反応を見逃すなよ」


「ハッ!」


 シルエスカはそう指示を飛ばし、同時に艦内通信で各所にそれを知らせる。

 艦内の兵士達は緊張感を高め、箱舟の各所に設置された対空兵器に着く兵士達は目視ながらも周囲の警戒を高めた。


 そして一時間後、箱舟(ノア)が砂漠の大陸がある空域に入る。

 それと同時に、艦内に第二種臨戦態勢を発令された。


『――……総員、第二種臨戦態勢へ移行! 繰り返す! 総員、第二種臨戦態勢へ移行!』


「!」


『我が艦は現在、魔導国都市があると思われる指定空域に入った! ここからは、いつ敵に遭遇してもおかしくない。各隊は目視と機器を用いて、全方位に対して索敵と警戒を高めろ!』


「ハッ!!」


「敵飛空艇も、あるいは我が艦と同様に偽装を施している可能性がある。僅かな変化や違和感を見逃すな!」


 シルエスカの命令で各隊は動き、箱舟(ノア)内部に備わる各区画で警戒度を強める。

 左右前後は勿論、上下も確認しながら敵の発見に努めた。


 その命令を発した数分後、艦橋に居る通信士が動揺した様子で立ち上がる。


「――……ッ!?」


「どうした?」


「げ、元帥! 首都から、連絡が!」


「!」


「我が国の領土各所に、敵飛空艇が突如として出現したそうです!!」


「なんだと……!?」


 その報告を聞いたシルエスカは驚愕して指揮席から立ち上がり、他の艦橋員達も驚愕の目を向ける。

 注目を集める通信士は、続けて画面を見ながら通信内容を伝えた。


「敵飛空艇が出現した位置は、各避難民が集まる避難区域……全て!」


「全て……!?」


「また、首都の上空にも敵飛空艇が二隻以上、出現……! 旧型・新型の魔導人形(ゴーレム)が投下を開始したと……!」


「……!!」


「同盟を結んでいた各国にも、同様の敵戦力が投じられているという連絡が、ダニアス議長から届きました……!!」


「馬鹿な! このタイミングで――……ッ!!」


 シルエスカは自分でそう言いながら、同時に納得もしてしまう。


 侵攻作戦の為にただでさえ熟練兵(ベテラン)の少ない状況から主戦力を募兵して箱舟(ノア)に乗り込ませてしまった為に、各地の指揮系統と同盟国軍の動きは完全ではない。

 更に守りも薄くなったこの状況を攻め込まれれば、同盟国は間違いなく瓦解する。


 シルエスカは今が同盟国が攻められれば最も弱い時だと理解し、同時に今の状況に合わせて攻め込んだ魔導国のタイミングこそを疑った。


「……まさか、このタイミングを奴等は狙っていたと言うのか……!?」


「げ、元帥! どうすれば!?」


「元帥、戻りましょう! この船を全速で飛ばして、救援に行けば!」


「馬鹿を言うな! 作戦はどうなる!?」


「俺達の国が、故郷が亡くなったら、意味が無いだろ!!」


「……ッ」


 国が攻め込まれている事を知ってしまった艦橋(デッキ)の兵士達が、口々に意見を飛ばす。

 その大半が作戦を中断して国に戻り、救援すべきだという声が大きかった。


 彼等は生きている家族の為に、戦争を終わらせる為に今回の作戦に参加している。

 その希望の一つである家族が危機に晒されていると知らされれば、焦り戻る事を提案するのは当然にも思えた。


 しかし、それを阻む声の持ち主が訪れる。


「――……ダメだよ」


「!?」


「クロエ……!」


 艦橋(デッキ)の出入口がある扉が開けられ、クロエが姿を見せた。

 それと同時にシルエスカの隣まで歩み寄り、焦る艦橋員に向けて伝える。


「戻っても、もう間に合わない」


「なに……!?」


「例え戻れても、時間と戦力を失うだけさ」


「!!」


 クロエは少し冷やかな声で、艦橋の全員にそう伝える。

 戻るべきだと意見していた兵士達の幾人かが激昂した表情を浮かべかけたが、シルエスカがクロエを見ながら疑問を投げた。


「……クロエ、どうして敵は避難区域と基地を発見できた……!? どちらも、上空の監視を免れる為の偽装を施した結界が張られていたはず……!」


「『上』だけわね」


「!!」


「……まさか……!?」


「向こうは『下』にも、つまり地表にも偵察型の魔導人形(ゴーレム)を送り込んでたんだよ」


「!?」


「……それに、お前は気付いていたのか?」


「空から見張れるなら、地面からも見張れると思うのは当然じゃないかな? 私が向こうの立場なら、そうするよ」


「馬鹿な……!? 索敵の魔導反応を逃れて、監視していたなんて……!?」


「向こうは各国の状況を、上と下からしっかり見張ってたのさ。……そして箱舟(これ)が飛び立ち、各国の戦力を拾い上げて低下したタイミングを狙い、再び全面攻勢に出たんだろうね」


 クロエが状況を読み解きながら推察すると、シルエスカを含めた艦橋内にいる全員が苦々しい表情を浮かべる。


 敵はこちらの情報を読み取り、タイミングを見計らって各国に再び全面攻勢へ出た。

 それは言ってしまえば、こちらの侵攻作戦が利用されたという事に等しい。


 クロエがそれを察しながらも黙っていた事にシルエスカは憤りを覚えたが、それ以上に他の兵士達がシルエスカに再び意見を飛ばした。

 しかしそれに対して、再びクロエが口を挟む。

 

「元帥! とにかく、早く国に戻らなければ!!」


「だから、戻っても意味は無いよ」


「アンタは黙ってろ!!」


「敵が国だけを狙うと思うのかい?」


「なに……!?」


 兵士の言葉にクロエはそう返し、歩み寄りながら艦橋員の一人が座り操作する機器に近付く。

 そして右手を使いながら操作盤を使い、ある作業を行った。


「――……今回の奇襲で、分かった事があるよね」


「……?」


「魔導国の飛空艇も、そして魔導人形(ゴーレム)も、こちらの『魔力索敵機(レーダー)』を掻い潜り、魔導反応の感知を回避できる機能を持ってる、ということがさ」


「……!!」


「恐らく今まで感知できた魔導反応すら、偽装周波数だろうね。……まずは各周波数で、魔導反応を探知して……」


 クロエが操作盤を調整しながら、探知する周波数を変えていく。

 するとある周波数に合わせると同時に、航空索敵機(レーダー)のモニターに赤い斑点が映り始めた。


 それと同時に、赤い警告表示と警報音が箱舟(ノア)に鳴り響く。


「!!」


「周囲モニターに、符合した魔導周波数を同調させる。……これで皆にも、目の前にあるモノが見えるはずだよ」


「――……あ、あれは……!!」


 クロエが傾けていた上半身を戻して、モニターに目を向ける。


 それに合わせるように艦橋員達もモニターに目を向けると、驚きの目を向けてそれを見た。

 更に各区画にいる兵士達も、箱舟を覆う障壁を通して月夜が照らす外に現れた景色に絶句する。


 箱舟(ノア)の前方には、遠目からでも分かる程の巨大な都市が浮かんでいる。

 円形上の外壁に覆われた都市の周囲には、魔導国の飛空艇が数十機以上も飛行していた。

 そして箱舟(ノア)の周囲にも、敵の飛空艇が取り囲むように近付いている。


 希望を乗せた箱舟(ノア)は、今まさに絶望の波に飲まれようとしていた。


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