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覚悟の別れ (閑話その五)


 樹海に侵入したローゼン公爵が率いる精鋭部隊は、パールを含むセンチネル部族等の勇士達と一戦交える。

 その結果はローゼン公爵側の勝利となり、パールや族長ラカムなどの主だった勇士達は捕縛されて拘束されるに事態になった。


 拘束された勇士達は、凡そ三十名前後。

 そのほとんどが負傷しながらも死傷者は無く、また治癒魔法を使える領兵によってある程度まで傷を癒された。


 ローゼン公爵との一騎討ちで火傷を負ったパールの右腕も、僅かに火傷の痕を残しながら治癒が施される。

 そして治療されながらも手足を縄などで手厚く拘束された勇士達を目の前で見下ろしながら、ローゼン公爵は尋ねた。


「――……樹海の部族よ、私を見ろ」


「……」


 帝国にて共有されている言語(ことば)を聞くと、勇士達の幾人かが反応を示し視線を向けてくる。

 それを確認したローゼン公爵は、戦った女勇士(パール)以外にも言語を理解できる者達が居ることを理解しながら言葉を続けた。


「どうやら、私達の言葉を理解できる者は多いようだな。無知な未開人ばかりかと思っていたぞ」


「……当然だ、使徒様に言葉を習ったんだから――……」


「『オイッ』」


 煽るように話すローゼン公爵の言葉に、一人の若い勇士が反応して帝国語で言い返してしまう。

 それを別の勇士が慌てて止めると、ローゼン公爵はそれを聞き逃さずに問い掛けた。


「使徒、使徒とは何だ?」


「……」


「お前達、使徒とは何か分かるか?」


 沈黙した勇士達に聞く事を早々に諦めたローゼン公爵は、後ろに控える配下達に聞く。

 それに対して数名の魔法師達が反応し、進言するように述べた。


「使徒とは恐らく、各地の遺跡に残る文献で残された者達。太古に魔法を扱えた者達の事かと」


「魔法を扱える者達。つまり、この部族達に帝国語を教えたのは魔法師というわけだ。そうだな、諸君」


「……」


「ならばお前達に我々の言葉を教えたのは、私と同じ金髪で青い目をした魔法師の少女ではなかったか?」


「……」


 自分の娘(アルトリア)が彼等に帝国語を教えた魔法師だと察したローゼン公爵は、そうした問い掛けを向ける。

 しかし勇士達は口を噤み続け、それに答えようとはしなかった。


 そこでローゼン公爵は視線と身体を移動させ、自分と戦った女勇士(パール)を見下ろしながら声を向ける。


「……お前は先の戦いで、私達の狙いが二人の男女だと知っていたな」


「……」


「その二人組の片方は、私の娘。アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼンという名だ」


「!」


 ローゼン公爵はそう告げると、帝国語を理解できる勇士達の幾人かが驚きを隠しきれずに驚愕する。

 しかしパールは察していたのか、落ち着きながらも鋭い視線を向けながら口を開いた。


「……やはり、お前がアリスの父親か」


「そうだ。……あの子は何処に居る? お前達が隠しているのか。……それとも、殺したか?」


「お前も、嫌がるアリスに婚儀を強いたらしいな」


「!」


「私の婚儀(とき)は、アリスのおかげで無くなった。でもアリスは、それが嫌で逃げ続けている。戻れば掟に負けてしまうからと……」


「……アルトリアは何処だ?」


「私達がアリスを隠したんじゃない。お前達がアリスを隠している原因だ。お前達が追う限り、アリスは何処までも逃げ続ける」


「……この森には、もう居ないのか?」


「……」


 言い尽くしたパールはそのまま目を背け、それ以降は反応する様子を見せない。

 そんな彼女に対して問答を続けるのは無駄だと判断したローゼン公爵は、自分の娘(アルトリア)を庇い沈黙を守る各部族の勇士達を見渡した。


 すると一つの溜め息を吐き出した後、周囲の領兵達に指示を伝える。


「――……樹海(ここ)から撤退する、各部隊は撤退の準備を行え」


「ハッ。……しかし、この部族達(ものたち)はどのように?」


「五人ほど捕らえたまま、帝都へ搬送する」


「!」


「それを各地に知らせ、アルトリアを誘き寄せる。あのアルトリアの事だ、もしそれ知れば必ず救出する為に戻ってくるだろう。そこを(とら)える。……特に、この女戦士とは親しかったようだからな」


「……っ!!」


 パールを含む帝国語を理解できる五人の勇士を選んだローゼン公爵は、彼等を連行する事を決める。

 そして各部隊は指示に従いながら撤退の準備を行い、捕虜にしたパール達を中央集落から移動させた。


 その日の夜、樹海内でローゼン公爵達は夜営を行う。

 すると深夜となる暗闇の中で、捕虜にした五人を監視していた複数の領兵達が何者かに襲われ気絶させられているのが発見された。


 そして捕虜となっていたパールを含む五人の勇士達は、その襲撃犯によって救出される。

 後に襲われた領兵達は、その襲撃犯の姿が黒い服と外套を羽織る大男だったと告げた。


 そして闇に紛れながら移動する大男と共に先導される形で、パールは逃げながら声を掛ける。


「――……エリオ、なんでお前が……!!」


「話は後だ、今は逃げるぞ」


 パール達を救出したのは、既にアリアと共に樹海から脱出していると思われていたエリク。

 そして暗闇の樹海を慣れた様子で走り抜ける彼等は、あの鍾乳洞が在る滝まで辿り着いた。


 パールはそこで、改めてエリクに問い掛ける。


「――……エリオ、どうしてお前が……。……アリスは?」


「その彼女(アリア)に頼まれた」


「アリスに?」


帝国軍(やつら)樹海の部族(おまえたち)を捕えて、自分を誘き出す為の餌にする可能性があると言っていた。もしそういう事態(こと)になったら、救うように言われた」


「……アリスは、そこまで読んでいたのか……」


帝国軍(やつら)が戻って来ても、樹海の部族(おまえたち)は身を隠せ。どんな挑発をされても、決して挑むな。帝国軍(やつら)樹海の部族(おまえたち)より強い」


「……ッ」


 エリクに諭されるパールや勇士達は、悔しそうな表情で顔を歪める。

 それに反論できない他四名の勇士達はエリクに対して頭を下げて礼を述べると、その場から去り始めた。


 しかし顔を伏せながら留まるパールを見て、エリクは促すように話す。


「お前達も行け」


「……すまない。今度はお前達の助けになりたかったのに、また助けられた……」


「いや、十分に助けられた。……彼女(アリア)が待っている。俺も行く」


「……エリオ」


「ん?」


「私はもっと強くなる。今度はお前達の助けになれるくらい、強くなる」


「……そうか」


「センチネル部族は、お前達への恩を忘れない。何かあれば、必ずお前達の助けになる。アリスにも、そう伝えてくれ」


「……分かった」


 二人は短く言葉を交わした後、背中別れに立ち去る。

 そしてエリクは再び滝裏に戻り、パールは樹海の闇に紛れて姿を消した。


 こうしてアリアとエリクは、訪れ出会った樹海の部族達と別れる。

 同時に約半年近くの潜伏期間は終わり、二人は表舞台(そと)へ戻ったのだった。


『虐殺者の称号を持つ男が元公爵令嬢に雇われました』

ご覧下さりありがとうございます。


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n1724fh/1/

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