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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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折れた心の傍に


 暴走していたエリクに施された、アリアの制約(くさり)

 それによって今まで魔人の力を制御している真実を知ったエリクは、絶望が混じる驚愕を晒していた。


 エリクは今まで、アリアを守るという約定の下で同行している。

 しかし自分だけの力でアリアを守れていた事は一度も無く、あまつさえある程度は制御できていると思っていた魔人の力すらアリアの補助されていた。

 更に『制約』で繋がった回線(パス)は、エリクが受けた苦痛をアリアにも与え足を引っ張っていたという事実に、精神的に重大な打撃を与えたに等しい。


 そうして構えを解き大剣の刃先を地面へ落としてしまったエリクに、アリアの制約(くさり)で繋がれた鬼神フォウルが告げた。


『――……テメェは、自分の力に(おご)っていたな』


「……おごる……?」


『速く動けて、力が強くて、他の連中より自分は強い。そう考えてたろ? それが(おご)りだ』


「……」


『テメェは自分が強いという自信があったから、他人がどうだろうと気にする事なんぞ無かった。自分の強さがあれば、小難しい知識なんぞ要らんと考えていた』


「……俺は……」


『テメェは、自分(テメェ)の強さにしか興味が無かった。お前の強さを頼って周りにいる弱い連中に、一切の興味なんぞ持たなかった』


「違う! 俺は――……」


『何が違う? 何も違わないだろ』


「!!」


『俺はお前で、お前は俺だ。お前が意識してるにしろ無意識にしろ、そういう考え方をしてたのは俺が一番よく知ってる』


「……ッ」


『お前は俺の力を自分のモノだと思い込み、人よりちょいと強いからと(いき)がった。黒獣傭兵団(なかま)やあのお嬢ちゃん達にも、お前は自分の方が強いと心の底では見下していた』


「そんなこと――……」


『何度も言ったろうがよ。俺はお前だ、だから知ってる。テメェはずっと、自分以外の事をそう考えてたんだぜ』


「……!?」


『だが、お前は世界の広さを知った。自分には出来ないお嬢ちゃんの魔法を見て、そしてあの爺さんの強さを感じ取り、自分と同じような強さを持つ魔人に何度も負け、お前は自分の強さに対する自信が揺らいだ』


「……」


『そして自分とは違う力を持つ連中、自分より強い連中に憧れる以上に、自分より強い奴に対する嫉妬を抱き、憤怒を宿らせ、そして憎悪すら抱くようになった』


「……違う。俺は……」


『お前は自分の強さしか誇れない。強さという傲慢が無ければ、自分自身さえ保てない。自分の存在理由も見出(みいだ)せない。……それがテメェの本性だ。人間エリク』


「……」


 フォウルはエリクという人格を支える根幹を突き、そして事実を突く。

 エリクが自分自身を誇れる部分は、その強さしか無かったのだと。


 自己の誇れる部分(アイデンティティ)は世界にとって脆弱であり、それに直面したエリクは強くなろうと力を求めた。

 そして魔人の力を扱えるようになる事で、エリクは自己の存在意義を自分自身で保てるようになる。

 更に自分がもっと強くなれるという情報が、今までのエリクに向上心を与えて矜持を維持できるようにしていた。


 しかし、エリクの自信は全て仮初の(もの)だった。


 自分の中に宿る魔人の力はフォウルの物であり、その力の制御すらアリアが行わなければ扱えない。

 その真実はエリクにとって、自身の心を支えきれずに両膝を曲げて地に着かせるには十分な衝撃になった。


 大剣すら手放したエリクは、そのまま顔を伏せて両腕も地に着ける。

 そして自分の脆弱さを改めて思い知り、完全に心を折った。


「……」


『やっと分かったか。自分の弱さが』


「……」


『テメェは世界の誰かを救うどころか、恩人も、仲間も、守りたいと思った女すら守れん、ただの弱い人間だ』


「……」


『そんな弱いテメェが、俺の力を制御して、世界を守る為に戦って、オマケに助けられっぱなしのお嬢ちゃんも助けるだと? 自惚(うぬぼ)れるのも大概にしろ』


「……」


『今のテメェは、見たまんま情けないぜ。……さっさと帰れ。そして身の程を知って、滅びるこの世界で惨めに生き延びるこったな』


 フォウルはそう突き放した物言いで、心が折れたエリクに言葉を突き刺す。

 エリクはそれに反論できず、ただその場で跪くように身と心を伏せるしかなかった。


 それからフォウルは再び座り、背中を見せながら寝ようと身体を倒そうとする。

 しかし次の瞬間、フォウルに巻き付いた光の鎖が輝きを強めた。


『……んあ?』


『――……ちょっと! エリクに何を言ってるのよ、この馬鹿鬼!』


「!?」


 光の輝きを強めた鎖に気付き、フォウルが欠伸交じりの声を漏らす。

 そして光の鎖から女の声が響き出し、それを聞いたエリクが驚きを浮かべて顔を上げた。


「その声は……」


『……チッ』


『言いたい放題してくれて。勝手に自分の解釈で、私の行動をエリクにとやかく言うのは止めなさい!』


 光の鎖から怒鳴る声は、エリクの知る少女の声だった。

 その煩い声にフォウルは舌打ちを鳴らし、倒そうとした上半身を起こす。

 それと同時に鎖から放たれる光の粒子が、小さな塊となって集まり始めた。


「……!!」


『……また出やがったな』


 エリクは小さな光の塊を見ながら驚愕し、フォウルの方は煩わしい表情を浮かべる。

 そして集まった小さな光が輝きを強めた瞬間、その光が小さな人型の形を模り始めた。


 その形はエリクが見知った少女の姿に変わり、同時に背中には天使の翼に酷似したモノも生えている。

 それから数秒程で変化が終わったその光は、改めて模った姿で話し始めた。


『――……例えアンタでも、エリクを虐めたら許さないんだから!』


「……まさか、君は……?」


 小さな光が模ったのは、まるで小さな妖精のような姿。

 大きさは本人の十分の一にも満たない大きさながら、その姿や声と口調は間違いなくエリクが知る少女と類似していた。


 フォウルの耳元で怒鳴り現れた小さな妖精が、エリクの方にも身体の正面を向ける。

 そして微笑む様子を見せるその妖精は、見知った声と口調でエリクに話し掛けた。


『――……久し振りね、エリク!』


「アリア!!」


 折れていたエリクの心は、新たに現れた人物によって再び起こされる。

 それは妖精の姿を模った、あのアリアだった。


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