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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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アリアの制約


 フォウルの赤い魔力とアリアの白い生命力(オーラ)の迸りが、二人の間で(せめ)ぎ合う。

 エリクを救う為に鬼神と相対する決意を秘めたアリアの表情に、フォウルは鬼気とした笑みを浮かべながら拳を握った。


『――……いい顔だ、嬢ちゃん。……行くぜ』


『!』


「!!」


 そう告げたフォウルが、瞬く間にアリアの目の前に迫る 

 その素早さは尋常な速度ではなく、見ていたエリクや実際に目の前にしていたアリアに驚愕を生ませた。


『そぉらッ!!』


『ッ!!』


「アリア!!」


 フォウルは敢えて声を出し、右拳を振り上げながらアリアの顔面を狙い拳を放つ。

 それを見たエリクは思わず叫んだが、アリアの背中に展開された六枚の翼が自動的にその拳を防御するように翼で体を包み、同時に結界を生み出した。


 フォウルの拳とアリアの結界が接触し、凄まじい衝撃を生む。

 空間全てに振動が起きるような揺れが生まれ、二人が踏んでいた白い空間が割れ砕けた。


『ほぉ、よく防いだ!』


『くっ、ぁあッ!!』


 拳が直撃した結界に亀裂が生まれたのを見たアリアは、これ以上の攻撃を防げないと判断して二枚の翼を羽ばたかせて後方へ退避しようとする。

 しかしフォウルは逃げを許さず、鬼気とした笑みを絶やさずにアリアの眼前に迫りながら左拳を放ち、アリアを守っていた結界を完全に崩した。


 その衝撃は強く、結界を維持していた二枚の翼も粉砕される。

 アリアの身体は衝撃に耐え切れずに、吹き飛ばされながら跳ねるように転がった。


『キャアァアッ!!』 


「アリア……!!」


 転がるアリアは数十メートル以上を吹き飛ばされながらも、辛うじて勢いを弱めて停止する。

 しかし殴られた衝撃と砕かれた翼のダメージを受け、残った四枚の翼が抜け落ちるようにその場に散らばる。

 アリアはそれから十数秒しても起き上がる様子は見えず、乱れた金色の髪で顔を覆いながら倒れたままだった。


『……』


『チッ、もう(しま)いか。相棒共々、情けねぇな』


 フォウルは起き上がれないアリアを見ると、鬼気とした笑みを引かせて溜息を吐き出す。

 そして苛立ちにも似た落胆の表情を表し、倒れているアリアに歩み寄る。

 それを映像越しに見ていたエリクは、歯を食い縛りながら現在のフォウルに鋭い怒りを向けた。

 

「……お前は……ッ!!」 


『怒るのは構わんが、こうなったのはテメェが暴走したせいだってのを忘れるなよ』


「!」


『テメェが暴走なんぞしたせいで、この嬢ちゃんは俺と戦う羽目になってんだ。俺の力を指先も扱えない事を、テメェは反省しろ』


「……ッ」


『それより、続きを見ろ。こっからが面白いぜ』


「!」


 煽るように述べるフォウルが、映像の方へ顎を動かす。

 睨んでいたエリクは映像に視線を戻し、続きを見始めた。


 映像のフォウルは倒れたアリアの近くにまで辿り着き、溜息を吐き出しながら右腕を伸ばす。

 倒れているアリアの頭を掴もうとしていたフォウルだったが、次の瞬間に周囲の変化に気付いた。


『――……!!』


 周囲に散らばっていた六天使の翼から落ちた羽根が、凄まじい光を放ちながら宙を舞い上がる。

 それに気付き顔を上げたフォウルは一歩だけ下がり、周囲を舞う羽根を見て強張った表情を浮かべた。


『コイツは……』


『……舞い閉じる六天使の羽(アリスリデルト)


『!』


「!!」


 周囲の羽根に注目していたフォウルの下で、アリアが倒れたまま詠唱を呟く。

 同時に詠唱に反応した羽根が、一斉にフォウルに襲い掛かった。


『ハッ、この程度で――……!?』


 数百本以上の羽根が輝きながら迫る中で、それを迎撃しようとフォウルは両拳を握る。

 しかし襲って来ると思われた羽根はフォウルを包むように結界を生み出し、他の羽根も横たわるアリアを包み込みながら結界で覆った。


 それを見たフォウルは怪訝な視線を浮かべ、起き上がろうとするアリアを静かに怒鳴る。


『何のつもりだ? 今更この程度の結界で、俺の攻撃が防げるとでも?』


『……始めから、アンタみたいな化物(バケモノ)と戦うつもりは無いわ……。消滅させるつもりも、無い……』


『ほぉ。じゃあ、何をするってんだ?』


『……貴方達の制約(ルール)を、私の制約(ルール)で上書きする』


「!?」


 起き上がったアリアはそう述べ、金髪を掻き分けながら自身の額に浮かぶ白い紋様を見せる。

 額の紋様は白い輝きを放ち、映像(過去)のフォウルと現在のエリクは驚愕の目でそれを見た。


『……お前の制約(ルール)だと?』


『私が課している制約を、貴方達の魂に加える。それを起点にして、私の魂を貴方達の魂と強制的に回線(パス)を繋ぐ』


『!』


『エリクが貴方の力を制御できないなら、私の魂も経由して貴方の力を制御し、エリクに与えるのよ』


 アリアはそう話しながら魂で成している全身に白い輝きを放つ紋様を浮かび上がらせ、同時にフォウルを覆う羽根も白い輝きを強めた。


 その輝きをフォウルの魂に浴びせ、そこに鎖状の白い紋様が浮かび上がる。

 そしてフォウルの表面に紋様が立体的に浮かび上がると、光の鎖となって巻き付き始めた。

 

 しかし自身の身体に巻き付く鎖を見ながら、フォウルは真剣な表情を浮かべてアリアに目を向けて尋ねる。


『……お嬢ちゃんよ。自分が何をやってるか、ちゃんと分かってるのか?』


『ええ』


『俺とコイツならともかく、全く関係の無いお嬢ちゃんの魂が俺達と繋がれば、それだけでも肉体と魂に凄まじい負担を背負う事になる。具体的に言えば、馬鹿(エリク)が感じる苦痛をお嬢ちゃんも感じるようになるはずだ。……最悪の場合、コイツが死ねばお嬢ちゃんも死ぬぞ』


「なに……!?」


『構わないわ。エリクが死ぬくらいなら、私はその痛みと覚悟を、ずっと背負い続ける。一生でもね』


 覚悟の言葉と表情を見せるアリアは、額の紋様を右手の指で触れながら一筋の紋様をなぞる。

 その紋様が消えると同時にフォウルとエリクの魂に一筋の光が繋がり、三人の魂は白い光によって結ばれた。


 それを見たアリアは口元を微笑ませ、詠唱を呟く。


『――……我が魂に誓約す。()の者に我が身の制約を課し、()の魂に巣食う力を制する力を与えたまえ。そして巣食う力に身と魂が滅ぶ道を、途絶えさせたまえ――……』


「!」


 その詠唱が囁かれた後、映像の中にいる過去の三人が光り輝く。

 そして数十秒後にアリアの姿は縮むように小さな光となって魂の世界からいなくなり、眠っていたエリクの姿も消えた。


 残ったのは光の鎖で手足を封じられたフォウルだけであり、そこで映像が途切れる。

 そして現在のエリクは同じ鎖を繋がれたフォウルを見て、今までの事を思い出しながら察して呟いた。


「……その鎖は、アリアが俺を生かす為に……?」


『そうだ。テメェが俺の力を制御できずに暴走して死ぬ前に、止められるように課した制約(くさり)だ』


「……まさか、今までずっと……?」


『今更になって気付いても遅いがな。……テメェが制御できてる気になってた俺の力は、全部お嬢ちゃんの魂が回線(パス)を通じて補助してくれてたってワケだ』


「!!」


『分かったか? お前はあのお嬢ちゃんを、一度だって守ってねぇ。女に守られっぱなしの、情けない馬鹿野郎だってな』


「……だが。俺は自分で、確かに魔人の力を……」


『あの牛男と戦った後、お前は牢獄に捕まった時に自分の魂を感じたと思った事があったな?』


「……ああ」


『アレで感じたのは、お前の魂でも俺の魂でも無い。お嬢ちゃんの魂だ』


「!?」


『お嬢ちゃんはお前の魂と繋がり、それを利用してお前の状態を探ってた。まったく、あの歳で大したもんだと褒めちまいたい程だぜ』


「アリアが、ずっと……?」


『あの時から、ずっとだ。精神の共有でお前の思考や感情もある程度は読んでたかもな』


『俺の、思考も……』


『そして当然、お前が傷を負っている度に、あのお嬢ちゃんは自分にもその痛みを受けていた』


「……!?」


『お前、あの猫野郎と戦ってた時に負傷しまくった挙句に、死に掛けただろ? あの時もお嬢ちゃんは地下で神兵と戦ってたようだが、そのせいでまともに戦えなかったみたいだぜ』


「な……」


『お前はお嬢ちゃんを守るどころか、足手まといになってたんだよ』


 自身に課せられたアリアの制約と真実をフォウルから告げられた時、エリクは驚愕を含んだ呆然の表情で顔を伏せる。

 そして構えていた大剣を下げ、その刃先を白い床に付けて力無く腕を項垂れさせた。


 エリクが今まで、ある程度は使えていたと思っていた魔人の力。

 しかしそれは、アリアが命を賭して課した制約(くさり)によって成されたモノである事を知る。


 それはエリクの中にあったアリアを守るという意思を、挫けさせるに十分な真実だった。


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