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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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赤鬼の正体


 魂の中で相対した赤鬼の力を得る為に、エリクは大剣を握り凄まじい速度で駆け出す。

 黒い大剣の刃を横に薙ぎながら赤鬼の顔面を狙ったエリクだったが、それを鎖で繋がれた太く赤い左腕を無造作に翳して人差し指で止められた。


「!?」


『馬鹿がッ』


 大剣を止めた赤鬼は腕を動かすとと、その勢いでエリクの巨体が宙を舞う。

 指と腕で払われただけで投げ飛ばされたエリクは驚愕しながらも、何とか身を翻して膝を着きながらも着地した。


「……ッ」


『テメェの今までの力は、俺が貸してた力だって言ったろうがよ。……今のテメェなんぞ、この指一本で十分だ』


「クッ!!」


 左手の人差し指を動かしながら、赤鬼はエリクを見下す。

 その言葉を取り消させる為にエリクは再び駆け出し、赤鬼に対して攻撃を続ける。

 しかし大剣も攻撃も、格闘術で振るわれる腕と足も、全て赤鬼の人差し指で捌かれ、そして吹き飛ばされた。


「グァッ!?」


『テメェはそれしか出来ねぇのか? 俺が力を貸さねぇと、何にも出来ないってか?』


「……グ……ッ」


『そんな弱っちいくせに、あの嬢ちゃんや他人を助けたいだと? ――……自惚れんなよ。ガキが』


 冷ややかながらも怒声を含んだ赤鬼の声は、エリクに苦々しい表情を浮かび上がらせる。

 それでも立ち上がろうとするエリクに、赤鬼は呆れながら溜息を吐き出した。


『なんだ? まだ諦めないか』


「……俺は、アリアを守る……」


『まだ言ってんのか。……んじゃ、徹底的に潰すぜ』


「!」


 そう告げると同時に、赤鬼は歩み出そうと足を動かした。

 それを察して瞬時に起き上がったエリクは身構えたが、赤鬼が唐突に動きを止める。


 怪訝な表情を見せたエリクだったが、今度は赤鬼が苛立ちの表情を浮かべて呟いた。


『チッ。やっぱこの制約(くさり)があると、これ以上は動けねぇか』


「……アリアの、鎖……」


『そうだ。……あの時、暴走したテメェを抑える為に、あの嬢ちゃんは俺達の魂に入って来やがった』


「!?」


『その時に、俺が中にいるのが見つかっちまってな。現実(おもて)では一瞬だったが、この(なか)で少しだけ話したぜ』


「アリアと……?」


『ああ。中々に面白かったぜ、あの嬢ちゃんは』


 そう話す赤鬼は、左手の人差し指と親指を擦り合わせて音を鳴らす。

 その瞬間に白い空間に枠を模ったような空間が浮かび上がり、エリクは驚愕しながらそちらに視線を向けて離れながら身構えた。


『これはただの記憶だ、ビビんなよ』


「……記憶?」


『そう。あの時、テメェの暴走を止めようとした嬢ちゃんが、俺の前に現れた時の記憶だ』


「!」


 赤鬼はそう説明し、枠の空間へ人差し指を向ける。

 エリクは訝し気な視線を赤鬼に向けたが、赤い魔力と殺意を抑えた様子を見て窓枠に視線を移した。


 枠の中には、自分の目の前に居る赤鬼が立っていたが、今のような鎖を巻き付けられたような様子は無い。

 そしてその後ろには自分(エリク)が横たわり眠っている姿が見え、赤鬼がそれを見下ろしている様子が映し出されていた。


『この時、テメェは嬢ちゃんが死んだ姿を見て完全に理性を失い、俺の力に飲まれて暴走した』


「……」


『あんな牛に負けて、しかも俺の力を使いこなせないテメェが情けなくて、俺は暴走を止めずに放置してた。……そこで、あの嬢ちゃんがこの魂の中に侵入してきたんだ』


「……!!」


 枠の映像は変化し、映像の中にいる赤鬼の背後に歪みのような空間が浮かび上がる。

 そこから一つの光が侵入してくると同時に、人の姿を模りながら降り立つ。

 光が模られた姿を見たエリクは、その人物の名を呟いた。


「……アリア!」


『そう、あの嬢ちゃんがこの中にまで入って来た。流石に俺も、あの時は驚いたがな』


 映像を見ながら驚くエリクに対して、赤鬼は口元をニヤけさせる。

 そして枠内の映像は進み、アリアと赤鬼が対峙するように目を合わせて会話を行っていた。


『――……なんだ?』


『貴方、エリクの魂で何をやってるのよ』


『ここは俺の中だ。俺が何してようが、俺の勝手だろうが』


『アンタの中……? ……なるほど。アンタがエリクを暴走させてる原因ね』


『勘違いすんなよ。暴走してるのは、この馬鹿の自業自得だ。俺の力も満足に使えねぇくせに、また暴走しやがって』


『……アンタの力ですって?』


『そうだ。……そういえば確か、嬢ちゃんだったか。この馬鹿に、魔人だとか言ったのは』


『……ええ』


『違うな。コイツは元々、普通の人間だ』


『!?』


『コイツの力は全部、死にそうになった時に俺が力を貸してやってるだけだ。この馬鹿は、魔人でも何でもねぇよ』


『……貴方、何者?』


『あ?』


『なんでエリクの(なか)に、アンタみたいなのが……。……まさか……!?』


 赤鬼の外見を見ていたアリアは、次第に疑問の表情を驚愕に変える。

 そして赤鬼の正体を悟った瞬間、アリアは一歩だけ引いて身構えた。


『……アンタは、まさか到達者(エンドレス)?』


『ほぉ、察しの良い嬢ちゃんだ』


『……赤肌と、黒い角の大鬼(オーガ)。まさか、伝説の戦鬼(バトルオーガ)……!?』


『知ってるか。まぁ、正確にはその残りカスみてぇなもんだがな』


『……!?』


『俺の魂は一度、向こうの世界で浄化されていた。だが浄化し切れずに、俺という自我と力が残っちまったんだがな』


『まさか、そんなことがあり得るの……!?』


『だいたい五百年前、お前等が言ってる天変地異の前に俺は死んじまったからな。その時には輪廻転生(システム)は誤作動しちまってたし、そのせいだろうさ』


 そう話す赤鬼に、アリアは表情を強張らせて視線を向ける。

 それと同時に、エリクも目の前にいる赤鬼がアリアが以前に話していた知識と合致した。


「……お前は、まさか……」 


『ほぉ、覚えてたか』


 枠の映像から目を逸らしたエリクが、赤鬼に視線を向ける。

 そしてニヤけた表情の赤鬼の名を、エリクと同時に映し出されているアリアも呟いた。


「……フォウル国が崇めている、鬼の神」


『貴方が、鬼神フォウルね?』


『へっ、正解だ』


 エリクは改めて、目の前で対峙する赤鬼の名を知る。


 魔人が住む国の中で崇められた赤鬼の名は、今の人間大陸でも残り続けている。

 そしてその国を旅の目的地としていたエリクは、目の前に対峙する相手の正体に辿り着いた。


 『鬼神(きしん)』フォウル。


 かつて世界に名を馳せたという鬼王(オーガキング)であり、太古に『到達者(エンドレス)』と呼ばれていた者達の一人。

 自身の身体と魂に潜む赤鬼の正体を、エリクはようやく知る事が出来た。


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