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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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もう一つの突破口


 王都から脱出する為に地下通路を進んだ黒獣傭兵団は、南壁門の地下に通じていた水路に入り込む。

 頭上の石畳の上で多くの兵士達が(たむろ)し、脱出を図る黒獣傭兵団(じぶんたち)に対する為に防備を固めている様子が脳裏に浮かべた団員達が、溜息を吐き出しながら呟いた。


「――……やっぱ、強行突破かな?」


「それがダメだから、隠れてここまで来たんだろ」


「しかし、ここまで来たなら上を通るしかないぜ。それに今だったら、気付かれずに通れるかもしれないし。でしょ、副団長達?」


「うーむ……」


 団員が述べる提案を聞いているワーグナーやマチスは、今後の行動を悩む。


 このまま階段の先にある扉を開けて壁門内部に侵入し、上にいる兵士達を倒して正面から門を開けて脱出するか。

 それとも、別の手段を考えながら教会まで戻るか。


 その二択を考えた時、団員達は前者の強行突破が最も確実な手段だと考えていた。

 実際にそれだけの実力がある団員達が残り、更に団長エリクもいる。


 エリクと共に戦えば正面突破は確実に成功し、王都からの脱出も可能だろう。

 そう考える団員達は、ワーグナーやマチスに正面突破の提案をしていた。


 しかしある懸念を拭えないワーグナーは、提案する団員に呟き尋ねる。


「……正面突破は確かに成功するだろうがな、外に出た後はどうする?」


「外に出たら……」


「流石に連中も、突破されれば俺達を追跡する。向こうは追跡の数が多くなるだろう上に、馬でも使われば振り切るのは不可能になる」


「……」


「理想は、気付かれずに門を越えて外へ抜け出す事だがな」


 ワーグナーがそう話すと、団員達は頭上を見ながら眉間を寄せて悩む。


 このまま王都から脱出することは出来ても、追跡から逃れる事が出来なければ鍛えられた黒獣傭兵団でも疲弊したところを王国兵や騎士団に捉えられ、捕まるか殺される。

 それを懸念し強行突破を渋るワーグナーの意図を理解した団員達は、頭上から聞こえる鉄靴の踏み足音が止むのを待ちながら様子を窺うしかない。

 ワーグナーやマチス、そしてケイルも既にそれを窺う態勢となっており、どちらにしても脱出する手段はここしかない事を理解していた。


 そんな中、エリクは水路の道を見ながら徘徊している鼠を見る。

 鼠は小柄ながらも痩せ細った様子は無く、灰色の毛皮で影に入りながら何処かに移動している姿を眺めていた。


 呆然と鼠を見ているエリクにワーグナーは気付き、同じ鼠を見ながら話し掛ける。


「どうした、エリク?」


「……ワーグナー。貧民街にも、鼠はいたな」


「ん? まぁ、鼠なんてそこら辺に沢山いるだろ。それがどうした?」


「……ここの鼠は、貧民街の鼠より肥えている」


「?」


「この地下に、鼠が十分に食える物があるのか?」


「……!!」


 エリクが口にしながらも頭で思い浮かべている疑問に、ワーグナーも気付く。

 地上ならともかく閉鎖され食料の無い地下で鼠が暮らし、更に痩せ細らず十分に肥えている姿は明らかに不自然だった事に二人は気付いた。


 そう話している二人に気付いた周囲も、鼠を見て不自然さに気付く。

 ワーグナーは鼠を凝視しながら、移動している先を見て考えながら呟いた。


「……あの扉以外にも、どっかに鼠が出入りしてる場所がある」


「!」


「全員、ここの水路を調べろ。どっか他に、出入口があるかもしれない」


「了解」


 ワーグナーの命令に全員が応じ、それぞれが照明器具を持つ人間を中心とした班で動く。

 全員が鼠がいる付近を調べ、わざと鼠を追い掛けて逃げる先などを捜索しながら他の出入口を探し続けた。


 それから二十分程が経ち、それらしい出入口をそれぞれの班が見つけられずに戻る。

 戻った全員が溜息を吐き出す中で、一人だけ戻っていない事にワーグナーが気付いた。


「……エリクは?」


「あれ、確か向こうに行ってた気がするが……」


 エリクを最後に見た団員が、そう話しながらそちらの方向へ指を向ける。

 そしてワーグナーがそちらへ歩みエリクを呼ぼうとした瞬間、その方角からすさまじい衝撃音が鳴り響いて地下を揺らした。


「!?」


「な、なんだ!?」


 全員が音と振動に驚き、そちらの方へ走る。

 更に続く振動と轟音に全員が焦りながら、その場所へ辿り着いて照明器具(カンテラ)で照らしながら確認した。


 その場所には夥しい土埃が発生し、壁が崩されている様子が見える。

 その中心地には、大剣を抜き振ろうとしていたエリクを全員が確認した。


「エリク、おまっ……。いったい、何をやってんだ!?」


「言われた通り、穴を掘っている」


「……へ?」


「ここの上にあった穴から、鼠が入っていた」


「!?」


 エリクはそう言いながら再び大剣を振り、壁に打ち付け破壊していく。

 どうやらエリクが発見した場所に鼠が通り道としていた上部分に気付き難い穴があったらしい。

 そして少し前に話したワーグナーの冗談を真に受けていたエリクが、穴を広げる為に大剣で出入口を作ってしまっていた。


「ば、バカ! そんな馬鹿デカい音で――……!!」


「もうすぐ、終わる」


「お、おい!?」


 ワーグナーが注意しながらも、エリクは大剣を更に一振りする。

 力を込めたエリクの一撃は、予告通りに壁を完全に破壊した。


 破壊された壁の上部近辺が崩れ、エリクが飛び退いて離れる。

 そして土埃が舞う中で、光が差し込む光景を全員が見た。


「……!?」


「まさか……」


「マジで、穴を空けちまった……」


「これで、いいか? ワーグナー」


「……ああ、十分だぜ。エリク!」 


 全員がエリクが空けた穴を見て、苦笑いを浮かべながら穴の先を見る。

 穴の先には地肌が見えながら、更に夜空と共に見える月の光が差し込んでいた。


 鼠の通り道の先。

 そこは壁門を越えた、王都の外だった。


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