樹海の別れ
樹海の部族と共に過ごすようになったアリアとエリクの生活から、五ヶ月ほど経過した頃。
大族長の部族が暮らす中央集落にて、大族長本人を始めとした各部族の長達を集まる。
そこには族長ラカムやブルズの姿も見え、有力な勇士としてパールの姿も見えた。
その族長会が行われた次の日、パールはセンチネル部族の集落に戻る。
すると集落に居るアリアとエリクに会い、学んだ帝国語で唐突な話をし始めた。
「――……アリス、エリオ」
「あらパール、おかえり。急な族長会って、何かあったの?」
「ああ……二人とも、急いで荷物をまとめてくれ」
「えっ」
「二人には、樹海を出ていってもらうことになった」
「!?」
唐突な要求に驚いたアリアは、思わず身体を硬直させる。
すると思考を戻し、パールに歩み寄りながら問い掛けた。
「どういうことなの?」
「族長会で決まったことだ」
「だから、それがどういうことなの? 私達、何か変なことをした?」
「すまない。だが、これは各部族の族長と大族長も同意した。従ってくれ」
「でも――……」
その言葉を押し通そうとするパールに、アリアは困惑しながら更に理由を問い掛けようとする。
すると彼女の左肩に左手を置いたエリクが、それを止めた。
「……出て行けと言っているんだ、出て行く方がいい」
「で、でも……」
「そうしないと、パールが困るんだろう」
「……そうなの、パール?」
エリクの言葉を聞いたアリアが、パールにその言葉で問い掛けてみる。
するとパールは目を伏せながら頷き、改めて伝えた。
「準備が出来たら教えてくれ。樹海の外まで案内する」
「……分かったわ」
準備を促すパールの言葉に、アリアは不服ながらも出て行く準備を始める。
そして寂しげな二人の様子を見るエリクも、荷物を纏め始めた。
それから準備を整えた二人は、荷物を抱えてパールの後を付いて行く。
その間にアリアが何度も問いかけてもパールは謝るばかりで、微妙な雰囲気が三人の間に流れ続けた。
そうして歩くこと一時間前後、三人はある場所に辿り着く。
そこは以前にエリクが倒れたアリアを看病した、あの滝が在る場所だった。
「――……ここは……」
「こっちだ」
エリクが見覚えのある場所だと呟く前に、パールが声を掛けて歩いて進む。
そして岩場を登った滝の裏に辿り着いた二人が見たのは、思わぬ光景だった。
「……これって……鍾乳洞?」
「鍾乳洞から樹海の外に出られる」
「こんな場所があるなんて……」
「脇道に逸れなければ一本道だ、滑るから気を付けてな」
そう告げるパールの言葉に、自分達が彼女に毛嫌いされて追い出されるのではないと二人は感じ取る。
すると改めて、アリアはパールに向き合いながら問い掛けた。
「……ねぇ、パール。どうして私達は、出て行かなきゃいけないの?」
追い出される理由を改めて問うアリアに、パールは無言のまま首を横に振る。
それでもアリアは食い下がり、彼女の両腕に両手を添えながら尋ねた。
「パールお願い、教えてよ。……私達、友達でしょ……?」
「……友だから、言えない」
「なんで?」
「……言えば、お前達は残る事を選ぶ。それが、分かるからだ」
「私達が、残る……?」
そう教えるパールの言葉を聞き、アリアは不可解な思いを抱く。
するとエリクは樹海の雰囲気に意識を向け、何かを察しながら言葉を零した。
「……俺達の追っ手が、樹海まで来ているのか」
「!?」
「樹海の様子がおかしい。獣達がいつもより静かなのに、殺気が立っている」
エリクは樹海に起きている変化に気付き、その予測を伝える。
するとアリアは今までの状況が変化した事に気付き、パールに問い掛けた。
「まさか、帝国兵なの?」
「……樹海の外にいる者達が、武器を持って入り込んだ。全体の数は、部族の勇士達よりずっと多い」
「いつから?」
「三日前から。集団で移動していて移動は遅いが、樹海を囲みながら来ている。外に出るなら、滝の抜け道を使うしかない」
「帝国軍に包囲されて、この近くまで迫っているってこと……?」
「……ああ」
「っ!!」
苦々しい面持ちで認めるパールの話に、アリアはその場からセンチネル部族の村まで戻ろうと足を動かす。
するとパールが一早く気付き、アリアの腕を掴んで止めた。
「ダメだ、アリス」
「このままじゃ、貴方達の村に帝国兵が来ちゃうのよ! そんなの、放っておけるわけが……」
「大丈夫だ。村の皆も、他の部族と合流して見つからない場所まで避難する。隠れる場所なら樹海には多い」
「で、でも……」
「それに、奴等の狙いはお前達なのだろう。ならお前達が樹海に居る限り、奴等も出て行かない。違うか?」
「……」
「私達が時間は稼ぐ。そうしたら、奴等にお前達が森を抜けた事を教える。それでいいだろう?」
「……っ」
宥めるパールの言葉を聞くアリアは、不安の表情を浮かべながら握っていた腕を話す。
それを肯定と受け取ったパールは微笑むと、エリクに顔を向けて話した。
「エリオ、アリスを頼む」
「……ああ、分かった」
そう伝えたパールは、背を見せながらその場から去ろうとする。
すると伏せ気味だった顔を上げたアリアは、彼女の背中を追いかけて再び手を握った。
それに驚いたパールは振り向くと、ある提案が向けられる。
「パール、私達と一緒に来ない?」
「……アリス」
「樹海は、貴方にとって窮屈な世界だと思うわ。だから私達と一緒に来て、一緒に旅をして世界を見て回りましょう?」
「……」
「ねぇ、パール……」
旅に誘われたパールは最初こそ驚きを浮かべたが、次第に落ち着いた面持ちを見せる。
そして握られた手を優しく離すと、誘いに対する答えを返した。
「……すまない。私はやはり、樹海の勇士だ。勇士は樹海の中で生き、樹海の中で死ぬ。それが私の世界でいい」
「……そっか……」
自身の思いを告げて誘いを断ったパールに対して、アリアは寂し気な表情を浮かべて一歩だけ下がる。
そして表情を微笑みに変えながら、別れの挨拶を告げた。
「……さようなら、パール。元気でね」
「ああ。アリス、エリオ。お前達も元気で」
互いに別れの挨拶を告げた後、アリアはエリクを伴いながら鍾乳洞に入る。
それを見送ったパールは、滝の裏から出て自分の集落へ戻った。
そこで待っていたのは、センチネル部族の勇士達。
彼等の手には石槍が握られ、勇士ではない女子供は既に避難を終えていた。
そして残る勇士達の先頭に立つ族長ラカムに、パールは話し掛ける。
「『――……二人は去ったよ』」
「『そうか』」
「『他部族の勇士達は?』」
「『明日には合流する。我等もまた、森の守護者としての役目を果たそう。――……勇士達よ。森を犯す者共を、森の贄に!』」
「『森の贄にっ!!』」
族長ラカムの号令により、パールを含む勇士達が咆哮を上げる。
センチネル部族を始めとした樹海の部族は、『神の使徒』であり恩人でもあるアリアとエリクの為に、侵入した帝国兵との戦闘を開始した。
『虐殺者の称号を持つ男が元公爵令嬢に雇われました』
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ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
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