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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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パーティーの端で


 魔物の討伐依頼が届き、ワーグナーとエリクは黒獣傭兵団の主力を担う団員達と向かう。

 本来はマチスが率いる少数の班でも十分な討伐規模だったが、マチルダが暮らす農村から近いという事でワーグナーが二十名程の人員を選び、それに応じたエリクも同行する形で王都から出立する。


 マチルダが嫁いだ農村は王都から東南側に位置し、その辺りは緑も豊かで大きな湖や森林などもある恵まれた土地らしい。

 その土地には小規模の農村が幾つか散らばるように置かれ、それぞれが果物や穀物を始めとした農業を営んでいる。

 マチルダがいる農村も食用の農畜を行い、王都や各地の町にそれ等を卸す事で利益を得ていた。


 そこに向かう道中、見晴らしの良い道を歩きながら団員の一人がとある話題を口にした。


「――……そういえば。団長と副団長、少し前に王城のパーティーに行ったんっすよね?」


「ん? ああ、まぁな」


「どうだったんっすか? やっぱ豪勢なメシとか、綺麗な御貴族の御令嬢とか、いっぱい来てたんっすか?」


「さぁな。俺等、会場の隅っこで眺めてただけだしな」


「えぇ!? パーティーに呼ばれたんなら、なんか表彰とか勲章とかくれたりは?」


「しなかったぜ。まぁ、建前上で呼ばれただけだろうしな」


「へぇー。じゃあメシだけ食って帰っただけっすか?」


「いや、厄介なのに絡まれたな」


「厄介なの?」


「王国の騎士団連中さ」


「騎士団に!?」


 エリクとワーグナーが少し前に赴いた王城で催されたパーティーの目的は、正式に継承権を得て次期国王となる事になった第三王子の御披露目だった。


 そんなパーティーとは縁の無さそうな黒獣傭兵団を率いる二人がいる詰め所に、執事服を着た若い男性の使者が赴く。

 応対したワーグナーは使者からその招待状を渡されたが、始めは豪華なパーティーに行く為の礼服など無いと断った。

 ならば礼服を作りましょうと使者である執事は手配し、二人の体格を計測用の紐を用いて測り、僅か一ヵ月の期間で礼服を届けさせてしまう。


 それでもワーグナーは礼儀作法など知らないからと断ったが、使者から会場内の隅にいるだけでも構わないと言われ、不安があるのなら礼儀作法もパーティーが行われる前日まで指導すると提案されてしまい、根気強い使者の説得に仕方なく応じて会場の隅にいるだけという事で出席を了承した。


 そうして第三王子の披露パーティーに、ワーグナーはエリクを伴いながら赴く。

 珍しく髭を剃り髪を切り揃えた二人は使者の迎えである馬車に乗り、貴族街を初めて通りながら下町とは違う厳かで豪華な様相の街並みを見つつ、初めて王城に訪れた。


 下町からしか見た事の無い王城を目の前にし、流石のワーグナーも緊張で唾を飲みこむ。

 一方でエリクは緊張感は感じられず、使者の背を見ながら案内に応じてワーグナーと共に付いて行った。


 そして会場の前を守護する騎士風の鎧を纏った者達に招待状を渡し、使者と共に開かれた会場の扉を潜る。

 そこは贅を凝らした装飾品や展示物など飾られ、豪華な家具と共に豪勢な食事が並べられた巨大な会場だった。


 そこに招かれている者達も豪華な装いで、下町では決して見ないような金色が目立つ礼服やドレスを来た者達がいる。

 一目でそれが貴族なのだと分かると、ワーグナーは一瞬だけ眉を顰めた。


「――……それではエリク様、そしてワーグナー様。あちらの方で待機して頂けますと。それと、食事などは御自由にお食べ頂いて構いません。もし休息や会場の外へ出たい場合には、守衛の方にお聞き下されば対応を致します」


「あ、ああ」


「それでは、どうぞ御楽しみ下さい」


 執事服を着た使者は二人にそう伝え、微笑みながらその場から立ち去り、会場の奥へと消える。

 それを見送った二人は指定された場所に佇み、賑わいを見せる貴族達の様子を見ていた。


 そうした中で、皮肉の表情とニヤけた口でワーグナーが呟く。


「……なるほど。金がある貴族様らしい、御立派なパーティーだ」


「ああ」


「こっちには、今日も食うに困る連中がいるってのにな」


「そうだな」


 二人は目の前の光景を見ながら、今まで見て来た自分達の光景と見比べる。


 下町も一見すれば普通の装いで暮らす王都民はいるが、その裏側で貧困に悩み暮らす貧民達も多い。

 そうした者達は今日を暮らす金銭すら入手する事も困難であり、まともな食事を得られず栄養失調で死んでしまう場合もある。


 一方で貴族達は下町では見ないような豪勢な食事を手にし、それを貪り食う。

 貴族の中には腕が細く肉付きが良い女性や、肥え過ぎた老若男女の姿も見えた。


 下町の女性は痩せていても腕の太い者が多く、男女拘わりなく力仕事をしている。

 年老いた者は骨に皮膚が張り付いているだけのように見える者も多く、ワーグナーの目からは目の前の貴族達と下町の者達が同じ人間だとは思えなかった。


「……こんな連中の上に立つ王子様か。どうせ碌な奴じゃなさそうだな」

 

「……」


 ワーグナーはそう呟き、エリクも無言で視線を落として目を瞑る。

 招待されたパーティーに二人は楽しめる様子も無く厳かな表情を浮かべながら会場の隅で佇み、早くもこのパーティーから退場したいとすら思っていた。


 そうした表情を浮かべる二人に、歩み寄る者達が来る。

 先頭に立つのはエリクより小柄ながらも恵まれた体格をした礼服を着た男であり、その後ろに二人の男達を伴わせていた。


 その三人が腰に長剣を帯びているのを見て、ワーグナーとエリクは近付く三人に一瞬で警戒を抱く。

 その警戒に気付きもしないのか、先頭に立つ男はエリクの方を見ながら立ち止まり、伴う二人の男も立ち止まった。


「――……お前達、何処の所属だ?」


「所属?」


「貴様等も会場を護衛する騎士だろう。こんな隅で怠けるとは、何処の所属だと聞いている」


「……ああ、そういうことか」


「何がだ?」


「俺達は騎士じゃねぇよ。傭兵だ」


「……傭兵だと?」


 突如として声を掛けられた理由を察し、ワーグナーは鼻で軽く笑いながら自分達が傭兵だと伝える。

 それを聞いた騎士の男は鋭い視線と厳しい表情を更に強め、詰問するように声色を変えた。


「傭兵風情が、何故ここにいる?」


「招待されたのさ」


「招待されただと? 嘘を吐くな。どうやって紛れ込んだ?」


「嘘を吐くなら、素直に自分を傭兵なんて言うかよ」


「黙れ。貴様等を連行する」


 先頭の騎士はそう告げると、後ろに控えた二人の騎士が前に出てエリクとワーグナーを拘束しようと手を伸ばす。

 二人はそれを払うように手を振り当て、騎士達を退かせた。


「!」


「抵抗する気か?」


「あのな、こっちはこんなパーティーに嫌々で来てるだけだっての」


「……王城に侵入した上に、この祝いの場を侮辱する意図があるのであるなら。容赦せんぞ」


 ワーグナーの言葉に対して怒気を強めた騎士の男が、腰に携える長剣の柄に右手を伸ばす。

 それを見たワーグナーは鋭い視線を強めて壁を背に預けた状態を解き、静かに身構えた。


 しかしそのワーグナーを庇うように、エリクが二人の間に入り込む。

 そのエリクに怒気を向けた騎士の男が剣を抜こうとした瞬間、エリクがその右手を抑え込むように右腕を掴んだ。


「!!」


「……」


「貴様、はな……ぐ、ぁあッ!?」


 エリクは伸ばした右手の握力を強め、剣の柄を握る騎士の右手を痛みで離させた。

 そして騎士の腕を払い押し退けると、エリクはそのまま立ち塞がりながら口を開く。


「……武器を抜くなら、こっちも容赦はしない」


「くっ、貴様ッ!!」


 エリクの警告を挑発と受け取る騎士の男は、怒気を含んだ顔で長剣の柄に再び手を伸ばす。

 それに応じて控える二人の男達も長剣の柄に手を伸ばし、エリクとワーグナーを半包囲した。


 ワーグナーはそれに溜息を吐き出しながら身構え、エリクも容赦を無くした鋭い目を宿らせる。

 一触即発の空気に周囲の招待客達も気付き、全員がその場から離れるように動き始めた。


「――……皆様、静粛に」


「!」


「……!?」


 そうした中で、例の執事服を着た男が姿を見せて一言を発する。

 その背後には身儀礼な白い礼服を着た茶髪の青年と、黒い礼服を来た黒髪と青い瞳を持つ青年を伴い、その姿を現した。


「ウォーリス様……!!」


「ウォーリス……。まさか、第三王子……!?」


 先頭に立ちエリクと敵対しようとしていた騎士が青年達の方を見て呟く名前に、ワーグナーは驚きの目を青年達に向ける。

 目の前に現れた青年こそが、このパーティーの主催にして披露される第三王子ウォーリスだと、エリクとワーグナーは知った。


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