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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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慈善活動


 教会の御布施をしたその日に、エリクはワーグナーと話をする。


 ガルドが教会に通い寄付していた事と、その教会に自分の全財産を寄付しに行ったこと。

 それを聞いたワーグナーは大きな溜息を吐き出し、頭を横に振りながら話した。


「――……なるほどな。おやっさんのやってた事なら、確かに俺達でやらなきゃな」


「ああ」


「……でもよ。貯めてた金貨、全部やっちまったのかよ?」


「ああ」


「いや、借金とかはともかくとして、寄付くらいなら金貨一枚か二枚でも十分に生きていけるだろうよ」


「そうなのか?」


「お前、本当に金に関して勉強する気が無いな?」


「すまん」


「謝るくらいなら、金の計算くらい出来るようになってくれ……」


 ワーグナーは呆れた様子でそう呟き、また一つ大きな溜息を吐き出す。

 エリクが話を終えていつものように詰め所の広場に出ると、丸太を標的とした投げナイフの鍛錬を始めた。


 そしてワーグナーの傍にマチスが歩み寄り、小声で話を交える。


「――……ワーグナーの旦那。こっちの仕事は終わらせましたよ」


「マチスか。丁度いい、また頼みがある」


「なんっすか?」


「東地区の教会に、金を貸してたって連中の素性を調べてくれ。それと、すぐに教会に住んでる人等の監視と護衛に幾らか回してくれ」


「教会?」


「おやっさんが寄付して、色々と面倒も見てたらしい」


「そうなんっすか。でも、監視と護衛ってのは?」


「エリクの奴が何も考えずに、金貸しの前でデカい金を寄付をしたんだ。もしかしたら今日中にでも、そいつ等が教会を襲うかもしれん」


「なるほど。そういう事っすね」


 ワーグナーの意図を理解したマチスは、そのまま下がり命令に従う。

 そしてワーグナーの懸念通り、エリクが寄付した大量の金貨を狙い、夜に金貸しの用心棒達が教会に武器を持って押し入ろうとしている場面を、マチスが選別した団員が捕縛した。

 尋問と脅迫により用心棒達から自分達を雇った商人の名前とその背後で手を引く者が分かり、それをマチスから聞いたワーグナーは眉を顰めて表情を強張らせる。


「――……また貴族か」


「みたいっすね。金貸しの商人と手を組んで、あくどい事をやってるみたいっすよ」


「貴族の方を始末するのは?」


「今回は止めた方がいいっす。手を組んでるのは子爵家の次男坊で、用心棒共はその子爵領地から雇われて来てた連中でした。親と繋がってる可能性があるかもしれないっす」


「そうか。……なら、手足になってる奴を潰す」


「了解」


 金貸しの商人と繋がっていたのは子爵家の子弟であり、その人物は城に官職として勤めていた。

 しかし商人と共謀し暴利での金銭を貪り、自身の懐にその利益を収めているらしい。


 それを聞いたワーグナーは表情に怒りを宿らせながらも、捕らえた用心棒達を深夜に王都の外まで運び、暗い森の中で処理させて埋めさせる。

 ワーグナーは王国兵士の中で親しく、また貴族に対して反感を持つ者達に協力を頼み、貴族と繋がる金貸しの商売を徹底的に邪魔させた。


 金貸しの店に入る商品が輸送中や保管庫から紛失し、更に店に客が寄り付かなくなる。

 営業を妨害行為される金貸しの商人はゆっくり首を絞められるように追い詰められ、半年後には王都から姿を消していた。


 ワーグナーはマチスと共に、そうした工作を王都の中で秘密裏に行っている。

 それにエリクを関わらせようとはせず、傭兵団の闇に巻き込もうとはしなかった。


「――……エリクは、黒獣傭兵団(おれたち)の看板だ。俺等はあいつが思う存分に戦えるように、そしてやりたい事をやれるように、支えてやればいい」


「そうっすね」


 ワーグナーとマチスはそう話し、エリクにこの事は伝えない。

 代わりに例の教会へ赴くエリクと同行し、自身の金銭から幾らかの寄付をした。


 そして炊き出しに必要な人員や、孤児院も兼ねる教会を一人で支えていた初老のシスターに手伝えそうな人物を紹介する。

 それに再びシスターは感謝して涙を零し、子供達と一緒に御礼を述べた。


 エリクと黒獣傭兵団の慈善活動は、こうして貧民街の中で伝わり広まる。


 更にワーグナーの指示で王子達の不在による治安の悪化が目立ち始めた王都の下町で、黒獣傭兵団は治安の秩序を担うように各勢力を牽制し、仲裁などを行った。

 時には悪辣な者達を秘密裏に処理し、害となる厄介を闇の中に埋めていく。


 黒獣傭兵団は王都の下町と貧民街の人々に確かな信頼を得ながら、その後も何度か続くガルミッシュ帝国との小競り合いに参加した。

 その度にエリクは比類の無い強さを見せつけ、帝国兵の部隊を蹴散らし撤退させる。

 帝国側でも黒獣傭兵団の存在が認知され始め、王国と対峙する際の新たな脅威として認識され始めた。


 その反面、ベルグリンド王国の上層部、特に貴族達は黒獣傭兵団の活躍に興味が無い様子を見せる。

 しかしそれは虚栄であり、黒獣傭兵団の活躍と民衆からの絶大な支持は得ている事から、王国貴族達から秘かに危険視され始めていた。


 中では黒獣傭兵団が冗長する前に処断すべきという話も成されていたが、それを実行する危険性もまた訴えられる。


 第一王子と第二王子の派閥が兵力と権威を失墜させ、民衆は明らかに貴族やそれと関わる者達を隠さぬ不信の目で見るようになった。

 その反動として黒獣傭兵団の活躍が広まり、民衆が期待するモノとなり始めている。


 もしここで黒獣傭兵団を不穏分子として処断すれば、民衆はそれを貴族の私利私欲の圧政だと思うだろう。

 下手をすれば黒獣傭兵団と繋がる傭兵団や、それ等を慕う民衆全てを敵に回しかねない。


 最悪の場合、王国内で反乱が起こる。

 その規模は一領地の貴族が内乱するという規模ではなく、最悪の場合は全王国の民衆が貴族達に対して敵意と武器を向けるという事だった。


 それを懸念し危惧する王国貴族達は、黒獣傭兵団の活躍を放置しながら敢えて無視するしかない。

 更に帝国と対峙しまともに戦える戦力が黒獣傭兵団を主軸とした傭兵達しかいない以上、王国貴族達は彼等を頼る以外に帝国との戦いに勝利できる方法を知らなかった。


 こうして時が経ち続け、黒獣傭兵団はベルグリンド王国で確かな名声と民衆からの信頼と支持を得る。


 そして時は流れ、更に七年後。

 エリクが三十二歳に、ワーグナーが四十一歳となった黒獣傭兵団は、ベルグリンド王国で唯一無二の傭兵団となった。


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