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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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対峙する獣達


 侵攻した帝国軍は、王国の都市を一つ包囲し戦果と物資を獲るべく狙う。


 一日目の攻防は終わり、王国側の都市はどうにか持ち堪える事に成功した。

 しかし王国側の疲弊は帝国軍よりも遥かに大きく、更に都市を囲う防壁の一角を崩されてしまい、次の日には都市が陥落するものと両者が思う。


 その一角を突き崩した張本人である帝国騎士隊長の『鉄槌』ボルボロスは、自身の部隊を率いながら都市付近の森に陣を築き夜営をしていた。

 魔人の血を持ち常人に比べて身体能力が高いボルボロスは攻め足りぬ様子だったが、率いる部下には休息が必要だった為でもある。


「――……夜が明ける前に、都市を攻める。それまでは休息だ」


「ハッ」


 ボルボロスは率いる騎士団にそう命じ、都市方面へ警戒を向けながら夜営を進めさせる。

 他の帝国貴族達の布陣も別方向で夜営を始め、ボルボロスの意思と同調して早朝には都市を攻める事を決めた。


 帝国軍はこの時、明らかに勝利を確信し緩んだ空気を纏い油断している。

 逃げるように引き続ける王国側と、都市側の防衛力が自分達よりも少なく疲弊している事を察しているだけに、王国側から夜襲が行われる可能性を考えていなかった。 


 それは『鉄槌』のボルボロスも同じであり、自身の実力に自信を持っている事もあり、夜襲の警戒をしていない。

 それ以上に王国側の不甲斐無さが目に見え過ぎる為に、失望を抱いていた。


「……あまりにも王国側が不甲斐無い。俺一人がいれば、事足りるではないか」


 ボルボロスは愚痴にも似た言葉を漏らし、天幕の中へと入る。

 魔人として他者よりも優れた身体能力を持つ故に、ボルボロスは自身より劣る人間の強さに対する不満と、その人間が作る国の在り方に疑問を抱いていた。


「……ゴズヴァールの所に居た方が、まだ有意義だったかもな」


 ボルボロスは元々、マシラ共和国が王政だった頃に流れて来た傭兵である。

 元闘士であり序列七位のボルボロスは、マシラ王族に固執するゴズヴァールに呆れるように離れ、帝国の騎士団にスカウトされた。


 そして数十年間、ボルボロスは騎士団でそれなりに優遇されながら帝国に身を置く。

 しかし人間の闘争心はボルボロスを満たすソレではなく、政治的な権力や富という充足感の無いモノを求めるばかりで、やはりボルボロスは呆れ果てた様子を見せていた。


 ボルボロスを満たす唯一のモノは、圧倒的な勝利でも無ければ、圧倒的な敗北でも無い。

 自分と競い、互いの命を凌ぎ削るような熾烈な戦いが出来る相手だった。


 だからこそ、ボルボロスはこの戦いが酷くつまらなく思っている。

 それがボルボロスにこの戦いに対する警戒心や敵対心を薄くさせ、やる気を無くさせていた。


 警戒も見張りも部下に任せ、ボルボロスは冷める心を癒す為に寝てしまう。

 帝国軍も全体的に緩んだ雰囲気と空気を抱きながら、夜営を行っていた。


 その日の深夜、各帝国陣地で慌ただしい動きを見せる。

 そしてボルボロスが率いる騎士団の夜営でも、黒い獣が動き出していた。


「――……うっ、グッ!?」


「おやすみ。一生な」


 夜営の周囲を見張っていた騎士の一人が、突如として組み敷かれながら口を塞がれ、短剣で首を切り裂かれる。

 そして耳元で囁くその声を聞きながら、声を発する事も出来ずに息が絶えた。


 更に見張りをしていた騎士達が一人、また一人と静かに闇の中で消えていく。

 そして闇に紛れた黒獣達は、確実に消せる騎士や兵士を殺していった。


 騎士団と兵士達が異常に気付いた時には、夜営の周囲を完全に囲まれ、張られた天幕に火の矢が降り注ぐ結果となる。


「――……き、奇襲か!?」


「全員、起きろ!!」


 異常に気付いた騎士達は、慌てながら迎撃を行おうとする。

 休んでいた騎士達は火の点いた天幕から慌てて飛び出し、武具を身に着けていない騎士達に狙いを定めた矢が襲い掛かった。


「ウ、グァ……!?」


「今度は火が付いていない矢か……!?」


 闇に紛れた矢が襲い掛かり、騎士の数を更に減らす。

 夜営の場は完全に混乱と動揺に支配され、騎士達は統率できないままに闇に紛れた黒獣達に刈り取られていった。


 そうした中で、火が付いた天幕からボルボロスが姿を見せる。

 全身に甲冑を纏っているボルボロスは、巨大な鉄槌を振りながら怒声を上げた。


「――……この程度の事で醜態を見せるとは、愚か者共め!」


「!!」  


「ボ、ボルボロス殿!」


「無事な者で部隊を再編し、迎撃態勢を整えろ!! 迎撃できる者は、俺と共に敵を討つ!!」


「は、ハッ!!」


 ボルボロスに命令を受けると、混迷した騎士達が一時的に正気を取り戻す。

 不十分な状態で武器を持ち構える者達は、急ぎ燃える天幕を抑え込みながら取り払い、中にある物資と荷物を回収できるようにした。

 その中から自分の武具を取り出し、身に着けられる武具を最低限は取り付ける。


 そして命じるボルボロスを狙った鋭い矢が真横から襲うも、それは腕の装甲で防がれてしまった。


「……腕は良いが、随分とお粗末な矢だ。正規兵ではないな」


「チッ」

 

 落ちた矢を見たボルボロスは、相手が鉄の鏃を用いていない事を知って正体を察する。

 そしてボルボロスを討ち取れなかった人物が舌打ちを鳴らし、視線を向けたボルボロスに気付き素早く下がった。


「なるほど、王国の傭兵か。……逃がさん!!」


 ボルボロスは粗末な矢から敵が兵士ではなく傭兵だと考え至り、その数も予想より少ないと察する。

 重い鎧を纏っているにも拘わらず、ボルボロスは踏み込む足を強めながら速度を上げ、矢で狙った相手を追った。


 それに追従するように松明の明かりを掲げた騎士達も走り、ボルボロスと共に夜襲を行った相手に迎撃に入る。

 動揺から一転して立ち直った帝国騎士団に対して、矢を降り注がせていた周囲の傭兵達はすぐに身を引いて下がった。


 そうして帝国騎士団は森に散らばり、少数の傭兵達を追う。

 鎧を纏う騎士団の足は遅いが、それでも真正面から対峙しようとしない傭兵達が軽装であり、自分達に立ち向かえる程の装備を持っていない事は逃げる様子から察した。

 

 混迷した状況を生み出した襲撃者に殺意を覚えながら、騎士団は傭兵達を追う。

 それはボルボロスも同様で、徐々に距離を詰めながら邪魔な木々を大槌で払うように吹き飛ばし、矢を放ち奇襲して来た傭兵を殺すべく追い続けた。


 しかし追っていたボルボロスは、森の中で小さく拓けた場所へ導かれる。

 そして追った相手とすれ違うように佇む誰かが、待ち構えている様子を目にした。


「――……貴様は……?」


「……」


 暗闇の中で目を凝らすボルボロスは、大槌の腹を向けながら構える。

 そして対峙する相手に月の光が差し掛かり、その姿を晒した。


 黒髪と黒服、そして黒い軽装防具を身に纏い、黒い大剣を右手に握る肌の焼けた大男。

 『鉄槌』ボルボロスと対峙したのは、黒獣傭兵団の団長エリクだった。


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