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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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剣と爪


 他の団員達を逃がし、団長ガルドとエリクは山猫達を引き付ける。

 そして一時的に魔獣の鋭敏過ぎる嗅覚を利用し、刺激臭を嗅がせて別方向へ駆け下りていた。


 しかし上級魔獣(ハイレベル)の山虎と二匹の斑山猫がそれを追跡し、二人を仕留める為に凄まじい速度で山の中を駆け下りる。

 常人より勝る脚力を持つ二人だったが、巨体ながらも四足獣の速度には及ばず、瞬く間に三匹に背後と左右を挟まれた。


「チッ!!」


 ガルドは背後に見える山虎と、左右から聞こえる斑山猫の駆ける音と気配に気付く。

 そして胸元に残している刺激臭を詰めた小瓶を左手に握りながら取り出し、使う瞬間を見極めるように走り続けた。


 しかし山猫達は刺激臭を警戒し、離れた位置を保つように走りながら自分達の体内にある魔力を周囲に発現させる。

 それが複数の刃となり、見えない刃となって二人に襲い迫った。


「来る!」


「ッ!!」


 反応して気付いたのはエリクであり、周囲から迫る魔力の刃をガルドに教える。

 魔人であるエリクが魔獣の操る魔力を感知している事に気付いたガルドは一瞬の思考を行い、エリクの襟首を引いて立ち止まらせた。


「!?」


「取って置き、だったってのになぁ!!」


 逃げ場の無い状態で周囲から迫る見えない刃に対して、ガルドは悪態を吐きながら自身に備えている黒鉄製の右籠手を掲げる。

 そして手首部分に嵌め込まれた白い魔石を使い、同時に光る文字が籠手に浮かび上がった。


「『魔力障壁(バリア)』ッ!!」


「!!」


 ガルドが声を荒げて叫ぶと、自身とエリクを中心に魔力を帯びた円形状の障壁が生み出される。

 そして迫る魔力の刃を魔力障壁(バリア)で弾く事に成功したが、夥しい数で障壁が削られた。


 立ち止まったガルドが魔力障壁(バリア)を作り、魔力の刃を防いだ事に山猫達は僅かに驚く。

 そして放った刃が全て弾かれ、削られた障壁が消失する様子を静かに見ていた。


 対するガルドは、不機嫌そうな表情で掲げた右手を引き、同時に籠手に嵌められた白い魔石が砕け散る。

 何が起こったのか分からないエリクは、僅かに可視できた障壁と、それを出現させたであろうガルドを見た。


「――……今のは?」 


「今は、奴等を警戒しろ!」


「分かった」


 説明を行わないガルドは、囲むように動く山猫達への注意を告げる。

 それに従うエリクはすぐに周囲への警戒へ移り、刃が欠けた剣を構えた。


 ガルドが魔法を使い、魔力の刃を防ぐ。

 その事実を目の当たりにして最も警戒を抱いたのは、山猫達の方だっただろう。

 更に自分達の苦しめる程の刺激臭を放つ武器を持つ人間(ガルド)を、群れを率いる山虎は最も警戒していた。


 山虎はこの時、率いる二匹の斑山猫に対して視線を向ける。

 何かしらの意思疎通を行った斑山猫は、エリクに注目するように視線を向けた。 


 それを感じたエリクは、自然に警戒度を引き上げる。

 互いに背後を庇うように立つガルドも、自分に視線を集中させる山虎の方へ意識を向けていた。


「……エリク。お前は一人で、黒い斑点がある二匹の山猫を仕留めて見せろ」


「!」


「俺は、こっちのデカい方を()る」


「……分かった」


 ガルドが命じた事をエリクは頷き、手に持つ拳大の石を強く握りながら、自分に視線を向ける二匹の斑山猫に集中する。

 同時にガルドも左腕に備えた円盾と左手に持つ小瓶を見せるように持ち、右手に持つ小剣を改めて構え、山虎に目を向けた。

 

「――……行けッ!!」


 ガルドがそう叫ぶように命じると、一匹の斑山猫に対してエリクは石を投げ放つ。

 それと同時にガルドが飛び出し、エリクも石を投げていない斑山猫へ走り迫った。


 石を投げられた斑山猫はそれを避け、エリクが迫る斑山猫は真正面からエリクと対峙する。

 斑山猫は先程と同じように周囲に魔力の刃を生み出し、それを迫るエリクに放った。

 

 エリクは何か鋭利な物が迫る感覚に気付き、大きく横へ飛び避ける。

 避ける前にエリクが居た地面が抉れるように刃の(あと)を残すが、それを見ずにエリクは再び斑山猫に近付こうとした。

 しかし正面に居る斑山猫は交戦を避けるように飛び退き、エリクとの距離を開ける。

 それを追おうと走るエリクは、自身の背後から圧力(プレッシャー)を感じて再び真横へ大きく飛び避けた。


 その感覚は正しく、向かう斑山猫とエリクが居た位置に見えない刃が切り裂き、地面と周囲を削り取る。

 逆側に居た斑山猫が魔力の刃を放ち、その射線に入っていた斑山猫が飛び避けたのだった。


「……」


 エリクは左右の斑山猫に挟まれ、互いに距離を取られてしまう。


 一匹の斑山猫に迫ろうとすれば逃げられ、もう一匹の斑山猫に見えない刃で攻撃を受ける。

 かと言って追い過ぎれば、山虎の方へ向かったガルドに斑山猫が一匹でも向かってしまうかもしれない。 


 二匹の斑山猫を仕留めろと命じられたエリクは、必死に頭を回して知恵を働かせる。

 そして削られた地面や木々の破片と周囲の木々を見て、エリクはある事を思い付いた。


「……やるか」


 そう呟いた瞬間、二匹の斑山猫が同時に見えない刃を放つ。

 上級魔獣の山虎のように複数の刃は放てないようだったが、それでも強力で鋭利な二つの刃がエリクを挟む形で迫った。


 それを感じながら飛び避けたエリクは、木々や石の破片が落ちている場所に転がりながらも立ち上がる。

 そして近くに立つ木へ視線を向けると、一気に近付いて跳躍し、一本の丈夫そうな枝と幹を掴んだ。


「!」


 エリクが突如として木を登り始め、斑山猫はその奇怪な行動に驚きながらも魔力の刃を準備し、そして放つ。

 しかしエリクは、木々の葉に隠れるように更に上へ登った。


 魔力の刃はその木を抉るように砕き折り、その場へ傾き倒す。

 しかし登ったエリクは落ちる様子も無く、また落ちて来ない事に斑山猫達は不可解な様子で木の上を見た。


 その時、二匹が居る木々の周囲と茂みに夥しい音が鳴る。

 それに驚くように視線と聴力を傾けた斑山猫は、自分達の周囲に注目した。

 更に一匹の斑山猫の周囲の木々から、何かが落ちる。

 それは木々に生えている枝であり、更に周囲から大小の枝が降り注いだ。


 それはもう一匹も同様であり、斑山猫の二匹は自分達の周囲で何が起こっているのか分からない様子で視線と聴力を向ける。 

 そうした中で更に激しい音が鳴った時、一匹の斑山猫は音が鳴る方へ視線を向けた。


「……!!」


 斑山猫が見たのは、自分の方へ傾き倒れて来る一本の木。

 視界外で折られた気が自分達に倒れて来る様子に、思わず斑山猫はその場から飛び退いた。


 それに気付いたもう一匹の斑山猫は、そちらに視線を向ける。

 しかし次の瞬間、その斑山猫の上から一つの黒い人影が落下して来た。


「――……!!」


 落下して来たのは木の上へ消えたエリクであり、剣を構えながら斑山猫の身体の上へ落下する。

 斑山猫は倒れる木に意識と聴力を向けていた結果、自身の真上から迫るエリクに反応が遅れてしまった。


 十五歳ながらも巨漢のエリクが斑山猫を押し潰すように落下し、その背中に剣を突き立てる。

 重量のあるエリクと突き刺さる剣の痛みに、その斑山猫は絶叫にも似た鳴き声を上げた。


 そしてエリクは突き立てた剣を薙ぎ、斑山猫の身体を引き裂く。

 その傷から夥しい血液を流し始めた斑山猫は、押し潰された痛みと傷も含めて立ち上がれなくなった。


「……あと、一匹」


 そう呟くエリクは、倒れた木から避けた斑山猫に目を向ける。


 その視線を受けて仲間の血を浴びているエリクの様子を見た斑山猫は、僅かに身の毛を逆立たせながらも怒る様子で魔力の刃を放った。

 エリクはそれを感じながら走り、紙一重の距離で避けながら迫る。


「!?」


「それは、もう覚えた」


 エリクは斑山猫が放つ見えない刃の感じ方から習性を覚え、刃がどのような形状でどの程度の範囲を持つかを把握していた。

 戦闘経験による学習能力の高さは、今も昔もエリクは変わらない。

 更に左手に隠し持つ砂利のような石をエリクは投げ放ち、凄まじい速度の小石が斑山猫を襲った。


「ギ、ニャォオンッ!!」


「死ね」


 夥しい数の石礫を受けて怒る斑山猫は、怒りを見せながらエリクに迫る。

 そして牙と爪で飛び掛かる斑山猫に、エリクは冷静に身を捩りながら剣を薙いだ。


「――……ガ、ォァア……」


 爪と剣が交差するように互いに迫ると、爪はエリクの左頬を切り裂き、剣が斑山猫の横腹を刺し薙ぐ。

 エリクの剣はそれで折れてしまったが、斑山猫に致命傷を負わせる。


 深手を負った斑山猫は立ち上がれず、そのまま血を流して地面に顔を突っ伏す。

 左頬の深い切り傷から血を流すエリクだったが、すぐに山虎かいた方角へ振り向き、山虎と共に茂みの向こうへ消えたガルドを追い駆けた。


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