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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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若さの代償


 生き残りの山猫に仲間を殺され、黒獣傭兵団の若い団員達が独断で山猫を追う。

 それを止める為に茂みを越えて追い駆ける団長ガルドに続き、ワーグナーとエリク、そしてマチスが上がり気味の斜面を登っていた。


 そして三十秒後、ガルドを追い越したエリクが山猫を追う若い団員達に追い付く。

 更に前に回り込んで進路を塞いだエリクに、若い団員達は怒りが治まらぬ中で怒鳴った。


退()け、エリク!!」


「ダメだ」


「仲間を殺されたんだぞ!?」


「ダメだ」


「……お前、前からそうだな! いつも誰かが死んでも、平然とした(ツラ)して……。テメェ、人並の感情すら無いのかよ!!」


 立ち塞がるエリクに怒鳴る若い団員達は、日頃から思うエリクに対する思いすら怒鳴り散らす。

 それに対してもエリクは無表情と無感情の様子で、ガルドに止めるよう命じられた事を守った。


 そしてガルドが追い付き、ワーグナーやマチスも到着する。

 エリクにそうした怒声と暴言を向けている若い団員達の声を聞いたガルドは、それ以上の怒声で怒鳴り叫んだ。


「――……この、馬鹿野郎(バカヤロウ)共がッ!!」


「!?」


「油断して奇襲された間抜(まぬ)けが死んだ程度で、ピーピー(わめ)いてるんじゃねぇよ!!」


「だ、団長!?」


「そんな言い方……!!」


「事実だろうが!! それにテメェ等、エリクの忠告を聞かずにあの間抜(まぬ)けを止められなかった、阿保(あほ)だろうがよ!!」


「!!」


「俺は散々、テメェ等に言ったな? 集団で動く時に、個人の感情は必要ない。感情でしか行動できないような馬鹿(ばか)は、この団には要らねぇってな!」


「……ッ」


「テメェ等がなんで、ワーグナーやエリクよりずっと遅くこういう仕事をやらせてるか、分かるか? ……俺が言った(それ)を出来て無いから、雑用しかやらせなかったんだよ!!」


「!?」


 そう言いながら迫るガルドは、若い団員達に対して怒鳴り散らす。

 若い彼等の中には七年前から黒獣傭兵団でワーグナーと共に雑用していた者もおり、自分達よりも早く傭兵としての仕事と報酬を受け取っていたエリクやワーグナーに不満を持つ者もいた。

 例え団長であるガルドの判断だとしても、それは拭いようのない嫉妬となり、また理不尽な思考にさえ陥らせる。


 しかしガルドはガルドなりに、理由を持って彼等に傭兵の仕事はさせていない事が明かされる。

 精神的な未熟さを理由に感情で動き、集団としての傭兵行動を乱しかねない彼等のような若者に、ガルドは傭兵の仕事を絶対にさせなかった。


 今でこそ傭兵として働ける熟練(ベテラン)が少なくなり、仕方なく若い団員に傭兵仕事を任せる事になっていたが、それも他の熟練(ベテラン)団員やワーグナーの意見を取り入れただけ。

 ガルド自身の意見としては、そうした若さを拭えない団員に傭兵仕事を任せるのは本意としてはいなかった。


 その意思と言葉を目の前に突き付けられた若い団員達は、怒りの感情が残りながらも表情を歪めて顔を伏せる。

 それが自分の不甲斐なさではなく、自分達より優秀だと判断されているワーグナーやエリク、そしてマチスに対する嫉妬でもあった。


 その対象であるワーグナーが、敢えてそうした団員達に近づくように歩き、ガルドに進言をした。


「……おやっさん、早く戻りましょう。どうもあの山猫の動き、キナ臭いっす」


「その通りだ。……おい、テメェ等。これ以上、追うようだったら止めない。だが死んでも、俺等はお前等の仇なんぞ取らないぞ。お前等が死んだ分の報酬が、俺等に回るだけだ」


「……ッ」


 ワーグナーの進言を受け入れ、更に煽るような言い方で若い団員達に告げるガルドは、駆けながら元の道に戻る。

 それにワーグナーとエリクも付き従い、マチスもそれを追うように走り出した。

 駆け出す四名を見た若い団員達はしばらく立っているだけだったが、数十秒後にはガルドを追い駆ける。


 しかし、数十秒後。

 その団員達の悲鳴が森の中に響き、ガルド達と合流する事は無かった。


 ガルドを含めた四名は元の道に戻り、まだ残っていた黒獣傭兵団や現地(むこう)の傭兵団を見て表情を強張らせる。

 その思いを代表するように、ガルドは再び怒鳴った。


「――……おい! なんでまだ残ってる!?」


「だ、団長達を待ってようと……」


「さっさと山を下りろって言ったろうが!!」


「で、でも……」


 残っていた若い黒獣傭兵団の団員達は、指揮できるガルドやワーグナーが居なかった影響で判断できず、その場に留まっていた。

 それに付き合うように向こうの傭兵団も残り、結果としてこの場に全員が留まる状態となっている。


 エリクの忠告と山猫の奇妙な動きに悪寒を感じさせているガルドやワーグナーは、現在の状況が芳しくない事を即座に悟り、すぐに命じた。


「おやっさん」


「ああ。急いで山を下りるぞ!」


 そう命じるガルドに、他の団員達は驚きと困惑を含めた表情を浮かべる。

 まだ戻って来ていない団員達がいるにも拘わらず、山を下りようと動くガルドを若い団員が止めた。


「え? でも、まだ戻ってない連中は……? それに、仲間()の死体が……」


「戻りたきゃ勝手に戻るだろ。死体はそのまま放置していく。今は一刻も早く、山を下りる」


「で、でも……」


「自分のケツも拭けねぇような間抜け共なんざ、この傭兵団には要らないっつってんだよ」


「!」


「残って待ちたい奴は、勝手に残れ。俺は戻る。付いて来たいと思う奴だけ、付いて来い」


 突き放すような言い方をするガルドに、ワーグナーとエリク、そしてマチスは付き従って山を下りる道へ急ぎ歩く。

 そのガルドの言い方に困惑する若い団員達だったが、幾人かはガルドに付いて行った。

 そして現地(むこう)の傭兵団も、団長の命令に応じてガルドを追うように歩き始める。


 しかし仲間の死骸や追い駆けた仲間の事を気掛かりにしている若い団員達は、その場に残ってしまった。

 そして山猫を追い駆けた彼等と同様に、数十秒後に悲鳴を上げ、ガルド達と合流する事はなかった。


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