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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 四章:螺旋の邂逅

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無意識の忌避


 魔物化した山猫の群れを討伐し終えた一行は、山猫の毛皮を剥ぎ取り死骸を処理しながら、洞窟周辺で傷を負った者達の治療をある程度まで行っていた。

 そうした中で向こうの傭兵団を率いる団長がガルドの前に訪れ、笑みを浮かべながら話し掛ける。


「――……いやぁ、助かった。黒獣(ビスティア)傭兵団、噂通りの強さだな」


「まぁな。……それで?」


「山猫の討伐は、ほとんどアンタ達でやったようなモンだ。こっちはせいぜい、五匹も倒せたかどうかだな。……そこで、ちと相談がある」


「あ?」


「山猫の毛皮なんだが、こっちで剥ぎ取りは全部やらせてくれ。町までの運搬もする。その代わり、八匹分の毛皮をこっちに譲ってくれないか?」


「二十四匹、その三分の一か」


「厚かましい事は分かってるんだが、思った以上にこっちの連中が傷を負ってな。薬代と今回の費用を考えると、それくらいは欲しい」


 相手の団長がそう交渉し、ガルドは血の付いた小剣とナイフを拭きながら一考する。

 そして数秒程の思考で、その返事がガルドの口から述べられた。


「……別にいいぜ。討伐までの道案内の代金で、山猫の三匹分はくれてやる」


「助かるぜ。ただ死骸の処理や剥ぎ取り、そして治療や疲弊も考えると、麓に戻る頃には夜になりそうだ。今日はこの洞窟周辺で野営して、明日の朝に山を下りるのはどうだ?」


「まぁ、そうだな。ウチの連中も、予想より大分(だいぶ)ヘバってやがるし」


 ガルドはそう言いながら若い団員達の様子を見て、呆れたように溜息を吐き出す。


 エリクとワーグナー、そしてマチスなどはこうした戦いに慣れているのか、疲弊している様子は少ない。

 しかし他の若い団員達は戦いが終わった後は地面へ座り込み、二名程が怪我を負ってしまった。

 更に初めての魔物の討伐を経験し、精神的にも肉体的にも疲弊した表情と様子を見せている。

 

 そして向こうの傭兵団の団員は更に酷く、怪我をした者達は半数に及び、応急処置を施す手も覚束(おぼつ)ない。

 アルコール濃度の高い酒を使って傷を拭き、沁みる痛みで情けない声すら上げている者もいる。


 互いに満身創痍の状態では険しい山道での下山は難しく、下手をすれば更に怪我人が出るかもしれない。

 そうした事を考慮し、更に精神的にも肉体的にも一定の回復が必要だと判断した互いの団長は、今日は洞窟周辺で休むことを決めた。


 黒獣傭兵団の無事だった団員達は、向こうの傭兵団の治療を手伝う。

 更に穴を掘り、毛皮を剥ぎ取った山猫達の死骸を投げ込み、周辺の枯れた枝葉を集めてアルコール濃度の高い酒を浴びせ、火打石で起こした火で山猫の死骸を燃やした。


 そして子猫達の死骸も、その中に投げ込まれて処理される。

 それを見ていたエリクは、珍しく口元を噛み締め目を逸らす様子を見せていた。


 ワーグナーはその僅かな変化に気付き、エリクに声を掛ける。


「エリク、どうした?」


「……」


「……ああ、子猫アレか。……仕方ねぇよ、あんまり気にするな」


「……」


「お前ってさ、結構ナイーヴだよな?」


「……ないーぶ?」


「真っ直ぐっつぅか、素人臭いっつぅか。悪く言えば、(あま)ちゃんか」


「?」


「お前、おやっさんや俺が殺せって言った奴は、必ず()るだろ? でも、それ以外の奴はよっぽどの事がない限りは、殺そうとしない」


「……」


「前の戦争の時も、盗賊の討伐も。いつも相手の武器を破壊したり、殴って戦闘不能にしたり。それ自体は凄いんだが、武器で殺せる間合いにあるのに敢えて殴りに行ったり、変な行動をする時があるよな」


「……」


「俺から見ても、お前は強いよ。技量はおやっさんが上だけど、他は全部おやっさんよりも上だと思う。……でも、その甘さがいつか、お前自身や周りの奴等を殺すかもしれないと、そう思うぜ」


「……そうか」


「……お前、分かってないな?」


「すまん」


「……ったく。ほら、今日はここで野営だ。準備、手伝えよ」


「分かった」


 ワーグナーは愚痴にも似た事を話し、それをエリクは理解できないままに野営の準備を手伝う。


 この時のエリクは無意識ながらも、ワーグナーが言う通りの行動をしていた。

 指示された相手は殺し、そして自分に殺意を向けて接敵する相手には容赦はなかったが、それ以外に対しては自分の意思で殺そうとはしていない。

 余裕があれば殴打で叩きのめし、戦う意思が見えずに戦闘不能になった相手は殺そうとはしなかった。


 エリクは無意識に、生物を殺す事を忌避している。

 その理由自体をエリク自身も把握しておらず、また自覚もしていない。

 傭兵団の中でも、指示され命じられた相手は殺す事が出来るので、今まで問題には挙げられていなかった。


 しかしワーグナーが気付くという事は、ガルドもそれに気付いていたはず。

 そのエリクに傭兵以外の道もある事を話し伝えたのは、ガルドなりの優しさだったのかもしれないと、今のエリクは考えている。


 こうした事がある中で休息を兼ねた野営の準備が進められ、一行は洞窟周辺で休む事となった。 


「――………」


 そしてエリクでさえ気付かない事が、既に山の中で起きている。

 洞窟の先にある山頂近く、人や獣でさえ登るには険しすぎる崖上から、洞窟を見下ろすモノが複数いた。


 それは体長三メートルから四メートルはある獣達であり、山猫の姿に類似している。

 その中に更に大きな獣の影があり、五メートルを超える(それ)が瞳に宿る赤い魔力を滾らせていた。


 本来、猫に分類される動物は群れを成さない。

 仮に成す種類(もの)がいるとしても、一定の縄張りの中で絶対的な実力と意思を持つ統率者(リーダー)が必要となる。


 その山猫達が魔物化し、この山で群れを成した。

 それがどういう意味を持つ事か、この時のエリクやワーグナーには、そして傭兵達には誰にも分からなかった。


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