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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 三章:螺旋の未来

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守る理由


 食堂を出たグラドとエリクは、一緒にダニアスがいる司令室に再び向かう。

 その道中、グラドは後ろを歩くエリクを気にしながら声を掛けた。


「――……エリク、聞いていいか?」


「?」


「……いや、やっぱいいわ」


「なんだ?」


「なに。アリアお嬢さんの事、どうするんだって聞こうと思ったんだがな。野暮かとも思ってよ」


「……お前は、アリアが魔導国にいる事を?」


「まぁ、立場上は知ってたぜ」


「!」


「三十年前に、あんだけお偉いさん達の前に立って大立ち回りを演じた子だ。お前等が居なくなって、あのお嬢さんだけ戻ってきたら、そりゃ気にしない方がおかしいだろ?」


「……」


「それに、あの子がきっかけで皇国が同盟国に変わっちまった。良くも悪くも、当時の上層部連中からは注目の的だったぜ」


「変わった……?」


「ルクソード皇族の後継者がいなくなった皇国は、新たな指導者を選ぶ必要が出来たんだ。その政治体制を成り立たせる為に、まずは大陸各地の支配権を皇国から各権力者に分譲し、そこから代表者を選んで議会を中心として国の政策を取り決めた。その時に、貴族っていう肩書き自体は無くなったわけだがな」


「……そ、そうか。凄いな」


「それ、分かってねぇってことだな?」


「すまん」


「別にいいさ。……要は、アリアお嬢さんがあの場の全員に向けた言葉に感化されて、全員が国や血に縛られず、独立しようとしたってことさ」


「……それは、争いが起きなかったのか?」


「小規模な戦いは、何度かな。貴族制度を廃止する事に反発した連中や、他の領地同士が戦争になりそうになった時とか。そうなる度に、シルエスカ殿とダニアス議長が出向いて牽制して説得してたぜ。……まぁ、アレは説得というより『争ったらお前達を私達が討つ』って脅しだったがな」


「そうなのか」


「そうして国が変わり始めて、二十年前にルクソード皇国は解体。それぞれの独立した『市』を中心としたアスラント同盟国になった。ただ国の解体と同時に四大国家からも抜けて、シルエスカ殿も七大聖人(セブンスワン)を辞めて、同盟国の軍部を統括する立場になったわけだ」


 ルクソード皇国が解体され、新たなアスラント同盟国が成り立った話をグラドは伝える。

 自分の知らない時の流れを聞くエリクは、表情を硬くさせながら渋い表情を見せた。


 その様子に気付いたグラドは、再びエリクに声を掛ける。


「どうした?」


「……俺は、どれだけ時間が経っても、時代が過ぎても、世界は何も変わらないと思っていた」


「……」


「だが、たった三十年で新たな国が立ち、そして滅びる。……それが、俺にはまだ信じられない」


「……国も、人間と同じさ」


「!」


「人間も、何かであっさり死んじまう。病気だったり殺されたり、自分で死んだり。国もそれと同じで、いきなり死んじまう時だってある」


「……」


「そして人間と同じように、国も生まれる。そして成長して、色んな奴と関わりを持って、そして変わっていく。……国も人間も、同じような存在(もん)なのさ」


「……」


「エリク。そういうお前は、何も変わってねぇのか?」


「!」


「昔のお前と、今のお前。何も変わってねぇのか?」


「……俺は……」


「お前も生きていく中で、色んな奴と出会って、変わったはずだぜ」


「……」


「俺はな、カーラに出会って人生が変わった」


「!」


「魔物や魔獣、そして人間。そうした連中ばかり殺して生きる糧にしてた俺の人生を、カーラが変えてくれた。俺の嫁さんになってくれて、俺の子供を産んでくれて、あいつ等が立派に育つまで守ってくれた」


「……」


「俺はな、今も昔も戦う事でしか生きる術を知らん。……だがカーラのおかげで、こんな生き方も出来る事を知れた」


「……グラド」


「……俺は例え、お前の大事な奴が魔導国に居たとしても、戦うぜ」


「!」


「俺にはまだ、戦って守る存在(もん)が残ってる。そいつ等の為に、最後まで戦うつもりだ」


「……」


「エリク。お前はお前で、本当に守りたいモンが何なのか。それをよく考えて、ちゃんと決めろよ」


「……」


「ああ、いけねぇな。歳とると、どうも説教染みた事を言っちまう。すまんな」


「……いや。ありがとう、グラド」


「がっはっはっ! ほれ、もうすぐ司令室だぜ!」


 そう笑いながら話すグラドに、エリクはある一筋の光明を見る。


 今まで三十年後の世界に起こる出来事の悲惨さに注力し、精神と思考を削り続けたエリクは自身がやるべき事が定まっていなかった。

 そうした出来事が続く中で、その悲惨な世界が生み出される要因としてアリアが関わっているかもしれないという情報を聞き、心の平静は完全に崩れる。


 自分自身が何をしたいのか。

 それを見失ってしまったエリクに対して、グラドの言葉は透き通る程に自身の心の奥にある思いを浮かび上がらせた。


「……グラド」


「ん?」


「俺も戦う」


「!」

 

「俺はアリアを守る為に、ここまで旅をして来た。そしていつも通り、またアリアが連れて行かれているのなら。俺はアリアを連れ戻す為に、魔導国と戦う」


「そっか。まぁ、好きな女を守る為に戦うってのは、男としちゃ当然だわな!」


「……!!」


 エリクはグラドに今後の決意を伝え、意思を固めた。

 しかしグラドが放ったその一言が、エリクの決意と思考を大きく嵌め合わさせる。


 その衝撃で思わずエリクは立ち止まり、それに気付いたグラドも振り返った。


「んっ、どうした?」


「……そうか。俺は……」


「?」


「……いや、何でもない」


「そうか?」


 立ち止まったエリクは再び歩き出し、それに合わせてグラドも足を進める。

 グラドの不思議そうな表情を他所に、エリクは小さな声で自身の心を漏らした。


「……好きだから、君を守りたかったのか」


 今までアリアを守るという約束を果たす為に、エリクは戦い続けた。

 その理由を幾度と誰かに問われ、エリクは問い掛けた者達に満足した答えを返せずにいる。


 その答えを得たエリクは、アリアを連れ戻す為に魔導国への侵攻作戦に加わる覚悟を決めた。


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