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決闘直前


 決闘当日、センチネル部族等と共に樹海(もり)の深部へ向かうエリクとアリアはある場所に訪れる。

 それは集落(むら)とは異なり、古くも文明的な石作りの建物が点在する村だった。


 アリアは偽装魔法で褐色の肌と黒い髪に変化し、女勇士パールから借りた民族衣装(ふく)を身に着けている。

 樹海(もり)外部(そと)から来た人間である事を知られない為の偽装工作を行い、羽織る毛皮の外套には短杖も忍ばせていた。


 そんなアリアが石造りの建物が見える村に視線を向けながら、エリクの隣で呟く。


「……ここって、遺跡みたいね」


「イセキ?」


「知らない? 帝国領内にも幾つかあるんだけど、こういう造りの建物の跡地があるの。王国には無かった?」


「……分からないが、建物自体を気にした事が無い」


「そう。まぁそれより、今は決闘に勝つことを考えるべきよね」


「ああ」


 二人はそうして話しながら、先頭を歩く族長ラカムやパールの背中を追い歩く。

 そして彼等が辿り着いたのは、円形状の石壁に囲まれた大きな建物だった。


 建物周辺(そのまわり)には数多くの樹海の部族達が集まっている。

 そこでは他部族の者達がそれぞれの部族で得た物品を物々交換で取引し、市場のような光景に見えた。


 それを見ながら歩くアリアは、前を歩くパールに話し掛ける。


「『……他の部族の人達が、物々交換で取引してるの?』」


「『そうだ。各部族同士で物を持ち寄り、欲しい物と交換するんだ。私達の部族(センチネル)も、武器の刃に使う鉱石や魚などを交換している』」


「『へぇ、意外と交流はしてるのね。じゃあ、貴方達の部族が持って来てる大荷物って……?』」


「『私達の部族(センチネル)の場合、獲物の肉や毛皮を交換に使っているんだ』」


「『なるほどね』」


 パールの説明に納得するアリアは、樹海の部族同士でも交流が頻繁に持たれている事を理解する。

 そして後続(うしろ)部族達(ものたち)も市場に参加し、持ってきた物品で物々交換を始めた。


 ラカム達は取引を部族の者達に任せ、アリアとエリクを連れてある場所に訪れる。

 それは村の中でも特に大きな円形状の石壁で覆われた建築物であり、その外観を見ながらアリアは訝し気に呟いた。


「……ここが、決闘の舞台かしら」


「そうなのか?」


「コレと似た造りをした決闘場を、書物の絵で見た事あるの。……建築から、数百年以上は経ってる建物ね。崩れてないのが不思議なくらいだわ」


「『――……二人共、中に入るぞ』」


「『ええ』」


 円形状の石壁を見上げて話す二人に対して、パールは呼び掛ける。

 そして彼等は穴形状の通行口に入り、奥へ向かった。


 そして短い通路を抜けると、その先には日の光が見える形で大きな円形状の空間が広がっている。

 その中心部には石造りの舞台(ステージ)が建てられ、周囲には観客席になる場所が設けられていた。


 すると観客席の上座と思しきに場所に、集まる樹海の部族が見える。

 それを見たラカムとパールはその部族の者達に頭を下げると、首を傾げるアリア達に小声で伝えた。


「『大族長達だ、アリス達も同じように』」


「『え、ええ』」


 パールの言葉に従い、アリアは同じように頭を下げて見せる。

 そして視線で同じようにするよう求めるアリアに応じ、エリクも静かに頭を下げた。


 それを見ていたその部族の者達は、静かに頭を頷かせてる。

 すると頭を上げ戻したパールに、アリアは問い掛けた。


「『大族長って?』」


「『各部族を束ねる族長の(おさ)だ。そして、この村で暮らしている部族の長でもある。森の部族の掟は、代々その大族長が語り継ぎ、守るよう伝えてきた』」


「『へぇ。つまり、樹海(ここ)で一番偉い人ってことね。……あのお爺ちゃんが大族長?』」


「『そうだな。若い頃は部族の中で最も強かった人でもあるらしいが、私が子供の頃から老いていたから』」


「『ふーん。……あら、向こうからも来たわね』」


「『……奴等は……』」


 派手な頭飾りと装いをしている白髪の老人男性が大族長だと知ったアリアは、そのまま視線を逸らす。

 すると向かい側の通用口から新たな部族に気付くと、パールが僅かに憤怒の表情を浮かべた。


 それを見たアリアは、改めて向かい側から現れた部族について尋ねる。


「『もしかして、アレが?』」


「『……あれが、マシュコ族だ』」


「『やっぱり。じゃあ、今日の戦う相手は……』」


「『先頭に立つ大男が、マシュコ族の族長ブルズだ』」


「『……確かに、エリオよりデカいわね』」


「『力は強い、だがそれだけだ。……私が男なら、この決闘の場で叩き潰すのに……』」


 そう述べながらパールは睨みを向けると、それに気付いたブルズがニヤリと笑う。

 するとパールは相手(ブルズ)を嫌悪するように視線を逸らし、アリアとエリクへ顔を向けて頼みを告げた。


「『頼む。あの卑劣な男を、二度と立ち上がれぬ程に叩きのめしてくれ』」


「『ええ。貴方にも勝ったエリオを信じて、任せなさいな』」


 パールの頼みを引き受けたアリアは、そのままエリクに顔を向ける。

 そして向かい側に立つ大男(ブルズ)が、今回の決闘相手であることを教えた。


「向こう側にいる大男が、貴方の決闘相手よ」


「……そうか」


「どう、勝てそう?」


「俺より大きい相手は、魔獣や帝国との戦闘以外では初めて見るな」


「帝国? ……まさか、【鉄槌(てっつい)】のボルボロスを倒したのって貴方なの?」


「なんだ、それは?」


「帝国の元騎士団長よ。大きな体格と見合う巨大な鉄槌(ハンマー)を武器にして、重量鎧を身に付けてる大男。でも十年くらい前に、王国との戦場で夜襲に遭って死んだらしいわ。でも誰に倒されたのか、帝国側ではずっと不明だったの」


「……デカい大槌(ハンマー)を持っている男なら、確かに戦ったな」


「ボルボロスは確か魔人だったはずよ。それを倒すなんて……貴方、やっぱり……」


「?」


「……まぁ、いいわ。それより、パールからの要望。あのブルズって奴を、二度と立ち上がれないくらいまで叩きのめしてくれだって。出来そう?」


「……やってみよう」


 エリクの話を聞いて訝し気な表情を浮かべたアリアだったが、改めてパールの頼みを伝える。

 それに応じるようにエリクも頷き、決闘相手であるブルズを静かに見つめた。


 ブルズもその視線に気付き、決闘代表同士で睨み合う形となる。


 始めは不可解そうな視線を浮かべたブルズが、その傍にパールが居ることを確認する。

 するとエリクに対して苛立ちの表情を浮かべながら、改めて睨んだ。


 その変化に気付いたパールとアリアは、互いに会話を交える。


「『私がエリオと婚儀を済ませた事は、既に向こうにも話が通っている』」


「『そう。つまり向こうも、自分が欲しかった女(パール)を先に取った決闘相手(エリオ)に気付いたのね』」


 彼女達はそうして話し合い、決闘が始まる時間まで観客席の一画に陣取る。

 そして族長ラカムは決闘に参加するエリクを伴い、大族長と同伴している部族達に話し掛けた。


 最初こそセンチネル部族の中で見覚えの無いエリクの顔に、大族長の部族達は首を傾げる。

 しかし肌の色や髪の毛などの風貌は部族の者達と大差が無く、特に深入りする様子も無く決闘の準備を進めるように告げた。


 そしてラカムに荷物を預け身一つで石畳の階段から舞台(ステージ)に降りたエリクは、アリア達が座る観客席を背にしながら立つ。

 すると対戦相手であるブルズも大族長との話を終えて赴き、舞台上(ステージ)で二人は向かい合う形となった。


 それから十数分後、続々と村に集結していた樹海の部族達が集まり観客席に座り始める。

 すると太陽()が舞台の真上を照らす時間となり、大族長の傍に控えていた壮年の男性が舞台(した)まで赴いた。


 そして壮年の男性は、二人の間に立ちながら声を挙げる。


「『――……これより、マシュゴ族とセンチネル族の決闘を始める!!』」


「『オォオオオオオッ!!』」


 壮年の男性が告げた瞬間、集まった他の部族達は手を叩き地面を足踏みを鳴らす。

 特に男の勇士達は歓喜にも似た興奮の表情を浮かべ、決闘の開始を楽しむような光景すら見えた。


 その喧噪を煩わしそうな表情を浮かべて聞くアリアは、隣に座るパールに問い掛ける。


「『……他の部族は、なんで喜んでるわけ?』」


「『決闘は久し振りだからな。見た事が無い若い衆が、興奮しているんだろう』」


「『随分と勝手なのね』」


「『ああ。だが決闘は、森の中では神聖な儀式でもある。私も立場が違えば、ああしていたかもしれない』」


「『そういうものかしら』」


 そんな会話をパールと行うアリアは、改めて舞台(ステージ)に視線を戻す。

 すると壮年の男性は言葉を続け、会場に響く声で告げた。


「『闘うのは、マシュコ族代表……族長ブルズ!』」


「『……フッ』」


「『オオオッ!!』」


 呼ばれたブルズは誇らしげな笑みを浮かべ、右腕を振り上げながら観衆に視線を向ける。

 それに応じるように、観客席に座るマシュコ部族の者達が更に大きな声と音を挙げ始めた。


 そして次に、壮年の男性はエリクを見ながら呼び掛ける。


「『それに応じるは、センチネル族代表……エリオ!』」


「……」


「『オォオオオオッ!!』」


「『……あの男、見かけない顔だが……あの部族(センチネル)に居たか?』」


「『さぁ……』」


 言葉は分からずとも呼ばれた事を理解したエリクは、ブルズに倣うように右腕を上空に掲げる。

 すると観客席に座るセンチネル部族の一同は、それに応じるように激しく声と音を挙げた。


 しかし観客席で見る他の部族は、改めてエリクの顔や姿を見て見覚えが無く疑問を浮かべる。

 それでも異論を挟むような事はせず、観客席のほぼ全員が始まる決闘に歓喜と興奮の様相を見せた。


 周囲が最高の盛り上がりを見せる中、壮年の男性が二人に尋ねるように聞く。


「『この決闘は、互いの部族の全てを賭ける。この決闘で武器は互いに持たない。どちらかが負けを認めるか、戦えなくなったと判断した時点で負けと見做す。双方、異論は?』」


「『へっ、あるわけねぇ』」


「……」


 壮年の男性が述べる言葉に対して、ブルズは了承を向ける。

 そして言葉が分からないエリクは沈黙しながらも、応じるブルズの様子を見ながら無言で頷いた。


 決闘の掟(ルール)について互いの合意を確認した壮年の男性は、それに応じる形で言葉を続ける。


「『それでは――……決闘を、開始する!』」


「『オオォオオオッ!!』」


 審判役を務める壮年の男性は、その場を跳び退きながら決闘の開始を告げる。

 それが開始の合図だと理解したエリクは、身構えるブルズとの決闘を始めたのだった。


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