異国の検問
アリアを除く一行は『螺旋の迷宮』から脱出し、現世に戻る事に成功する。
それから一日が経ち、マギルスを載せた青馬は荷馬車を引き、砂漠地帯から荒野地帯へ戻り駆けていた。
荷馬車の中には残りの二人が座っており、エリクは顔を伏せ沈黙し続けている。
そんなエリクを見ているケイルは、少し前の事を思い出していた。
『……う……っ』
『ーー……アリアァッ!!』
ケイルが砂漠で意識を取り戻した時、エリクは大声を上げていた。
そして周囲の砂を掻き分け、声を上げてアリアを探している。
それを聞いた時点で、ケイルはアリアが戻って来ていないのだと察した。
そしてマギルスも起き上がり、それに伴って青馬も出現する。
ケイルはマギルスに荷馬車を砂から引き上げる事を頼み、大声でアリアを名を呼ぶエリクに走り寄った。
『アリアッ!! 何処だ……何処にいるんだ、アリアッ!!』
『……エリク』
『返事を、返事をしてくれ!!』
『エリク!』
『!』
ケイルに腕を引かれるまで、エリクは呼び掛けられている事に気付かない。
必死の形相でアリアの名を呼び続けるエリクと、自分達に訪れている状況を冷静に考えようとしてたケイルは、必死に思考を回して次の言葉を述べた。
『……エリク。一度、港町に戻れるか確認しよう』
『町に……!? アリアがいないんだぞ!?』
『だからだよ。……よく分からないが、アタシ達が閉じ込められてた世界は、崩壊したんだろ? アイツが持ち堪えてるなら、アタシ等と同じように、この世界に戻って来てるはずだ』
『だったら――……』
『だが、アタシ等とアイツはかなり離れちまった。……戻ってきていたとしても、この広い砂漠の何処にいるのか、アタシ等にはまったく分からない。そうだよな?』
『……ッ』
『アタシ等は港町に戻って、すぐにアイツを探す準備をするんだ。そしてルクソード皇国側にも頼んで、アリアの捜索を手伝って貰おうように頼む。……この広い砂漠を探すなら、アタシたちだけじゃ無理だ。どうしても、人手が要る』
『だが……!!』
『今のアタシ等には、この砂漠でアリアを探せる余裕も、物資も無い! ……一度、戻ろう。アリアを探し出す為にも』
『……クソッ!!』
ケイルの理に適った説得を聞き、エリクは何も言い返せずに悔しさを漏らす。
それでも数時間、エリクとケイル、そしてマギルスは自分達がいた砂漠周辺を捜索し、アリアを探した。
しかしアリアは見つからず、エリクは渋々ながらも荷馬車に乗り込み、荒野地帯から港町へ戻る事を受け入れる。
そうして三人は荷馬車に乗り、砂漠とは逆の方角に向けて移動していた。
あれからエリクは、一度も言葉を発していない。
消耗した体力と精神を回復する為に休んでいるのか、それともアリアの安否を気にして伏せているのか。
それを見ているだけのケイルには分からず、自身の提案で捜索を一時的に打ち切ってしまった為に、その負い目から聞く事も出来なった。
『螺旋の迷宮』、そして死者の怨念。
自分達の理解を超えた世界と存在を目の当たりにし、マギルスを含めた三人は見た目以上に精神的疲労が溜まっている。
更にクロエとアリアを犠牲にしてやっと戻って来れたという事実が、三人の気を重くさせて、会話も短いモノでしか行われない。
そうした雰囲気の中、マギルスは不可思議な表情を浮かべながら周囲を見ていた。
「……あれ?」
「どうした?」
「うーん。ここ、前にも通った気がするんだけど……」
「また砂漠みたいに、戻ってるのか……!?」
「ううん。ただ、見覚えがある道なんだけど、ちょっと違う気がするんだ」
「違う……?」
マギルスの疑問をケイルは聞き、同じように周辺の光景を荷馬車の中から見る。
確かに見覚えのある地形だったが、微妙な違いをケイルも感じた。
自分達が砂漠に入った時の荒野は、草木がほとんど枯れ果てた岩場だらけの場所だった。
しかし今の場所は岩場は多くも、動植物が視界の中に見える時がある。
始めこそ、ルクソード皇国の港側ではない場所に来たのかと、ケイルとマギルスも思った。
しかし見覚えのある立札や道があり、二人の勘違いというワケでもないのだと分かる。
それでも足を止めるわけにも行かず、心に微妙な引っ掛かりが生まれながらも荷馬車を走らせるしかなかった。
そして二日後に、荷馬車はルクソード皇国の軍港を兼ねた港町まで到着する。
しかし目の前に見える港町も周囲の風景と同様、ケイル達の知る光景とは違っていた。
「――……元の場所じゃない所に、来たのかなぁ?」
「……だとすると、ここは別の支配地域の港町……。フラムブルグかホルツヴァーグ、それともアズマか……?」
「どうするの? 入らない?」
「……入るしかないだろ。上手く潜り込んで、位置の情報を仕入れて補給だけでもしないといけない」
「エリクおじさんも、それでいいー?」
「……ああ」
ルクソード皇国以外の国が支配する港町の可能性がありながらも、一行は港町の出入口となる検問所へ入る。
そこで検問していたのは赤い礼服を着た兵士達であり、自分達の知るルクソード皇国の兵服と違う事から、やはり他国だとケイルは思い至った。
「……赤い服。あんな派手な服を着せる国、何処かにあったか……?」
「前に皇国で会った、赤いお姉さんみたいだね」
「『赤』の七大聖人シルエスカか。確かにアイツの武装も騎士団も、赤い装飾だったが……」
そうした事をケイルとマギルスは話ながら、検問所の中に入る。
そして荷馬車から降りた三人は、赤服の兵士に傭兵の認識票を見せた。
その時、認識票を見た兵士が顔を顰める。
そして三人に認識票を突き返し、訝し気な表情で話し始めた。
「――……お前達、傭兵ギルドの傭兵だと?」
「ああ。そうだが――……」
「ふざけているのか?」
「!?」
「傭兵ギルドなど、既に解体されている。そんな認識票、もう何の身分を表す事にも役立たんぞ」
「えっ……!?」
「今は各国が発行した身分証が必要だ。……お前達、まさか持っていないのか?」
「いや……」
「……お前達、密入国者だな?」
「!?」
「おい、来てくれ!! 密入国者だ!!」
兵士の呼び声に他の兵士達が反応し、検問所の建物に控えていた十数名の兵士達が姿を現す。
密入国者だと思われた三人は兵士達に取り囲まれ、更に兵士が武器として持っている物に驚かされた。
「あれは……!?」
「……銃だ」
ケイルが兵士達が持つ武器を見て、その名称をエリクが聞かせる。
銃を武器として持つ兵士達に囲まれた三人は、見知らぬ国の検問所で密入国者と扱われ、捕らわれようとしていた。




