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神の使徒


 模擬試合においてエリクはパールに勝利し、決闘に参加することを部族の者達に認めさせる。

 そして敗北したパールは各箇所を負傷すると、アリアは容態を確認しながら話し掛けた。


「『まずは指ね。パール、動かないで』」


「『……アリス?』」


 折れているパールの右指に自身の短杖を近付けたアリアは、その手首を持って動かないように固定する。

 それを不思議そうに見るパールに対して、アリアは回復魔法を施した。


「『復元する癒しの光(リストネーション)』」


「『!』」


 アリアの身体から溢れる白い光は、パールの肉体を覆うように纏う。

 その光が折れている右手に集中すると、パールは痛みに似た違和感を感じながら表情を歪めた。


 すると折れ曲がっていた二本の指は元の角度に戻り、右手は正常な形へ戻る。

 それを見ながら驚愕するパールは、治った指とアリアの顔を交互に見ながら声を呟いた。


「『こ、これは……?』」


「次は胸部(むね)。肋骨は……」


「『ウ、ゥ……ッ』」


「……折れてはいないけど、ヒビが入ってるわね。なら、これも――……『復元する癒しの光(リストネーション)』」


「『ゥ、ァ……ッ。……えっ、痛みが……』」


「最後に念押しで――……『中位なる癒しの光(ミドルヒール)』」


 回復魔法と治癒魔法を交互に施すアリアは、パールの傷を全て癒し終える。

 するとパールは傷が治ったのを確認しながら立ち上がり、アリアに問い掛けた。


「『……アリス、これはなんだ?』」


「『これは魔法よ』」


「『魔法?』」


「『魔法を見た事が無いのね。なら、こんな事が出来るのも知らない?』」


「『?』」


「『氷雪の棘(アイスニードル)』」


 魔法を知らないパールに説明する為に、アリアは右手に持つ短杖を構え、中央(そこ)から近くに見える岩を的に、水属性の魔力で作った氷柱を放つ。

 すると氷柱が岩へ直撃し深々と突き刺さる光景を確認すると、アリアは説明に戻った。


「『こんな感じの魔法を、私は使えるわけ。さっきパールにしたのは回復魔法っていう光属性の魔法で――……』」


「『……』」


「『――……って、どうしたの? そんな顔して』」


「『……アリス。お前はもしかして、神の使徒なのか?』」


「『えっ、なにそれ?』」


 驚きの表情を浮かべて尋ねるパールの言葉に、アリアは不思議そうな表情で問い返す。

 そうした時に、エリクがアリアに声を掛けた。


「アリア」


「なに、貴方も治して欲しいところがあるの?」


「いや。……奴等は、何をやっているんだ?」


「え――……えっ!?」


 エリクが指し示す先には、センチネル部族が平伏すように膝を地面に着け、頭を下げる姿が見られた。

 その光景に驚くアリアはパールの方へ素早く向き直り、同じように平伏しようとするパールを止めた。


「『ま、待った! パール、事情を教えて!』」


「『しかし、アリスが使徒様ならば……』」


「『いいから! ワケ分からないから、まずは説明をお願い!』」


 そう説得してパールが平伏すのを回避し、アリアは事情を聞く為にパールに詰め寄った。

 そして彼等が『神の使徒』と呼ぶ存在について、小さな声で改めて尋ねる。


「『それで、神の使徒って何?』」


「『使徒様は、奇跡の業を使うと言われている存在だ』」


「『奇跡の業って、私が使ってる魔法のこと?』」


「『多分な』」


「『多分って、実際に見た事は無いの?』」


「『森の部族に伝わる伝承なんだ。神と同じ業を身に付けた使徒という存在が、その業でこの大地を救ったそうだ』」


「『だから貴方達は、神の使徒を崇めているの?』」


「『それもあるが、使徒を通じて神を怒らせるなとも伝えられている』」


「『あら。じゃあこれって、私を恐れて平伏してるってことなのね。……そうだ、いいこと思い付いたわ』」


 パールの説明を聞いたアリアは、部族(かれら)の知る伝承が昔の魔法師ではないかと考える。

 すると族長であるラカムも平伏すように膝を着け頭を下げている光景を見ると、口元をニヤつかせた表情を浮かべた。


 その表情(わらい)を見ている二人を他所に、アリアは平伏す部族達の前まで歩みながら告げる。


「『――……皆様にはもう、隠す事は不可能でしょう。私は神の使徒アリス、魔法という神の業を扱えます』」


「?」


「『えっ』」


 微笑む表情と声色で伝えるアリアの言語(ことば)に、エリクは意味が分からず首を傾げる。

 逆にパールは唖然とした表情を浮かべ、平伏する部族の者達も改めて驚きながら顔を上げて声を浮かべた。


「『……やはり、アレが使徒様……!?』」


「『パールの傷を、一瞬で癒した……』」


「『水の刃も、神の業なのか……?』」


「『で、伝承は……使徒様は、本当に実在したんじゃよ……』」


 先程の魔法(できごと)をそう呟く部族の者達に対して、アリアは聞き耳を立てながら内心を余裕に満たす。

 そして更に微笑みを深めるアリアは、顔を向ける部族の者達に言葉を掛けた。


「『私はこのエリオと共に、助けを求める者達に施しをすべく、神の御使いとしてこの大地を旅しています。そして貴方達が助けを求めている事も、神から知らされて樹海(ここ)に参りました』」


「『おぉ……!!』」


「『このエリオもまた、私に仕える勇士。つまり神に仕えし使徒であります。貴方達も御覧になったでしょう? 彼の強さを』」


「『た、確かに強い。あの男も……いや、エリオ様も、神の使徒様……!!』」


「『私達は本来、正体を隠したまま貴方に助力しようとしましたが。彼女(パール)の勇敢な姿に心打たれ、その傷を癒すことで神の使徒としての正体を晒す事にしました。なので皆様、私が神の使徒である事は胸の中に収め、私達の助力を受け入れて頂ければと思います』」


「『おぉ……使徒様……!!』」


 神の使徒に成り済ますアリアは言葉巧みに部族の者達を騙し、再び平伏させる。

 それによって彼女(アリア)の同行者としてエリクも使徒だと信じ込ませ、外来人である二人の立場を更に強固にさせた。


 最初に予定していた形とは違う展開ながらも、アリアとエリクは部族内で信頼を勝ち得る。

 その一連の行動を見ていたパールは、振り返ったアリアに笑顔を浮かべて声を掛けた。


「『怖い女だな、アリス』」


「『褒め言葉ありがと、パール』」


 嘘の共犯者となる事を選んだパールは、アリアの堂々とした振る舞いに再び尊敬を抱く。

 そして言葉が理解できないエリクは、何故か瞳を輝かせている男の勇士達の視線を浴びて微妙な表情を浮かべる事になった。


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