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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
結社編 閑話:舞台袖の役者達

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皇帝と国王 (閑話その二十七)


 帝都の民が普段よりも賑わいを強める中で、大通りに帝国騎士団が並び立ち、その中心にベルグリンド王国の来訪者達が通る。


 彼等は数台の意匠の凝った馬車に乗り、その周囲を王国側の騎士が装備を固めて馬に乗り、帝国騎士団と王国騎士団の双方が護衛する行列の中で、来訪者は帝都の城へ辿り着く。


 そして馬車の扉が開けられると、降り立った一人の青年に王国騎士達が敬礼し、それに帝国騎士達は注目した。


「――……ここが帝都かぁ。美しい都だな」


 そう微笑みながら王国騎士へ話すのは、茶色の髪と翡翠色の瞳を持つ清々しい表情を見せる好青年。 

 二十代に見える青年は、赤茶色の生地にベルグリンド王国の紋章である鷹が彫られたマントを羽織っていた。


 彼こそが、帝国との和平を申し込んだ張本人。

 ベルグリンド王国の若き王、ウォーリス=フォン=ベルグリンド。


 長年に渡り帝国と争っていた王国の新たな王となり、和平を望んだ青年に帝国騎士団は注目し、ウォーリス王もその視線に気付き微笑みを返した。


 それから手勢を率いたウォーリス王は、皇帝の使いと共に城内へ入る。

 そして皇帝ゴルディオスが待つ玉座に案内され、国の担う二人の王が初めて対面を果たした。


「――……其方が、新たなベルグリンド王ウォーリスか?」


「貴方が、ガルミッシュ帝国皇帝ゴルディオス陛下ですね。……初めまして。私が、ウォーリス=フォン=ベルグリンドです」


「余が、ゴルディオス=マクシミリアン=フォン=ガルミッシュである」


 玉座で構えるゴルディオスと、立ったままで一礼するウォーリスは挨拶を行う。

 護衛をしていた王国騎士達と官僚達は跪き、帝国皇帝に対して礼節を見せる。

 そして立ったまま一礼した後のウォーリス王は、玉座の右側に控えている宰相ローゼン公爵にも一礼すると、改めて口を開いた。


「――……今回の和平の申し込みを受けて頂き、そしてこのように対談できる場を設けて頂き、誠に感謝しています。ゴルディオス陛下」


「……それに関して些か問う事がある。ウォーリス王よ、それに答えてくれぬか?」


「何なりと」


「ならば問おう。……前年、御主は王国軍を率い国境を超え、帝国の領土を侵略した。それは賊軍である内乱貴族達に手を貸す為に行っていたと聞く。事実か?」


「事実です。ゴルディオス陛下」


 王国の侵攻が内乱貴族に手を貸した事を認めたウォーリス王に対し、帝国側の周囲は動揺と僅かな怒りを見せる。

 そして臆す事無く述べるウォーリス王に対して、ゴルディオスは訝しげな表情で問い掛けた。


「そのような事を行ったにも関わらず、和平を望むと?」


「いいえ陛下。和平を望むからこそ、私は帝国の反乱勢力に対する協力を行う決断を行いました」


「ほぉ。ならばベルグリンド王国が真に望んだのは、反乱貴族達の勝利した後の和平か?」


「いいえ。帝国の反乱勢力はゴルディオス陛下により鎮圧されると確信した上で、彼等の蜂起を促しました。彼等と私達には、それ以上の関係はございません」


「……つまり、ベルグリンド王国が望むのは余が率いる帝国との和平であり、あくまで反乱勢力の決起させるのに手を貸しただけだと。そう言うのだな?」


「その通りです」


「些か、そちらの都合ばかりが良い話に聞こえるな。……仮に反乱勢力が我等に勝利してしまった時には、どうするつもりだった?」


「そうはならないという確信がありました」


「ほぉ?」


「蜂起した帝国貴族達は、実力も無い血筋で家督を継いだ者達ばかり。彼等の部下や領兵も戦い慣れしていない者ばかり。対してゴルディオス陛下には、戦武に名高いローゼン公爵家を中心とした実力派貴族達が揃い支えておられる。この両者が衝突するならば、言うに及ばず結果は明らかでしょう」


「……」


「私は信じていました、我々王国が戦ってきた帝国の強さを。戦上手の前ローゼン公爵クラウス殿が育て上げた兵士達と、その後継者であるセルジアス殿を。故に反乱勢力に手を貸したフリをし、和平の妨げとなる者達を排除するよう促しました」


 セルジアスが考えた通りの事をウォーリス王は話し、今回の内乱に乗じた侵攻の目的を赤裸々に語る。

 それを聞いたゴルディオスは眉を顰め、ウォーリス王に対して最後の問いを投げた。


「……では、最後に問う。そちらが和平協定を築く為に条件として出した数々のモノは、どのような意図を持つのか?」


「今まで都合の良い事ばかり口にしていた私も、代償も無いままで和平を築けるとは考えておりませんでした。また反乱勢力に手を貸し、ゴルディオス陛下の実弟であるクラウス殿を死なせ、多くの帝国兵士達を傷付けてしまったことも事実。その責任と負債を、私達も負うべきだと考えています」


「……ふむ。それで、何を差し出すか改めて聞こう」


「まず、今回の内乱で侵略した土地と住民を共に帝国へ返還します。占領地の住民に対して略奪・暴行は一切行っておりません。また冬場の生活を支援し、安全の保証も行っていました。その点に関しては、安心して頂ければ幸いです」


「……」


「そして侵略行為や内乱貴族に関与していたことの賠償金として、ベルグリンド王国から白金貨百万枚を御支払いさせて頂きます。使い方はそちらにお任せしますが、出来れば今回の内乱で犠牲となった方々の為に使用して頂く事を望みます」


「……そして我が息子ユグナリスと、そちらの妹君との婚姻か?」


「はい。我が妹リエスティアをユグナリス皇子殿下に嫁がせます。婚姻が御嫌であれば、人質という形で扱って頂いて構いません」


「!」


「ベルグリンド王国は、ガルミッシュ帝国との和平を強く望んでいます。こちらがお支払いする代償で足りない場合には、改めてそちらの御要望の物を用意させて頂きましょう」


「……」


「それでも御不満の時には、私の首を喜んで差し出します」


「ウォーリス様!?」


「私の首だけで事が収まり、我が国と民に平和が訪れるのならば。それは本望なことです」


 微笑みながら自分の首を差し出すというウォーリス王の発言に、伏していた王国騎士達と官僚達が思わず立ち上がった。

 それを抑えるように手を向けたウォーリスに従い、立った者達は再び跪く。


 帝国側も王国側の対応と言葉に驚きを浮かべる中で、ウォーリス王は改めてゴルディオスに顔を向けた。


「――……少し熱くなり過ぎました。一国の王としても若輩者故の御無礼、どうか御容赦を御願いします」


「……そちらの言葉と覚悟、確かに聞き届けた。……余も和平を結ぶ事自体に異論は無い。しかし先程述べた事を明らかにしておかねば、和平に亀裂が生じようというもの」


「理解しています。私共でもそこから亀裂が生じないように、尽力させて頂きます」


「うむ。 ――……後日、和平を結ぶ場を改めて設ける。それまで長旅の疲れを癒すと良かろう。……ウォーリス王と使者達に部屋の用意は?」


「既に出来ております」


「ならば、客人には一先(ひとまず)ず休息してもらう。何か物入りが必要である場合には、近侍の者に用立てを申すように。……対談は以上だ。ウォーリス王」


「感謝します。ゴルディオス陛下」


 ウォーリス王の覚悟を聞いたゴルディオスは、帝国と王国の和平を約束する。

 そしてセルジアスに客人達の部屋に関する事を尋ね、玉座の間で行われた二人の王の会談は終了した。


 それから数日後。


 帝都の中央広場にて、皇帝ゴルディオスと国王ウォーリスによって和平の調印が結ばれる。

 この大陸に歴史において百年以上前から大陸を分け対立していた二つの国が、初めて和平協定が築いた。


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