表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
結社編 四章:皇国の後継者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/1371

真実の分岐点


 待っていた老執事は歩み出し、アリア達は僅かに警戒を宿す。

 その警戒とは真逆に、老執事は軽く微笑みながら御辞儀をして一行に話し掛けた。


「――……もう行ってしまわれますか? 皆様」


「ええ。……曾御爺様の命令で、止めに来たの?」


「いいえ。ただ、大旦那様に命じられてここに赴いたのは当たっております」


 そう述べる老執事は、アリアから視線を逸らしてケイルに目を向ける。

 それに気付いたケイルの前に老執事は歩み寄り、手に持つ筒を手渡した。


「大旦那様からケイル様に、これを御渡しするように命じられました」


「……これは?」


「大旦那様が命じ調べさせた、貴方の一族に関する情報が書き記された書簡が入っています」


「!!」


「大旦那様からは、この言葉も御伝えするようにと命じられています。『君達の一族には、本当に申し訳ない事をした。もし許せないと思う時は、屋敷に再び尋ねてほしい』と……」


「……ッ」


「確かに、御伝えさせていただきました」


 老執事は筒を握り締めながら強張る表情を宿すケイルから離れると、次にエリクへと目を向ける。

 そしてエリクに右手を伸ばし、握手を求めるような姿勢を見せた。


「エリク様。短い間でしたが、貴方のアルトリア様に対する忠義を確認させて頂きました。……どうか今後も、アルトリア様を宜しくお願い致します」


「……ああ」


 その老執事の握手に応じたエリクは、軽く右手を伸ばして老執事と握手を交わす。

 そして微笑む老執事は、エリクにだけ聞こえる小声で呟いた。


「――……『男』としての貴方様の成長も、楽しみにしております」


「!」


「それでは、私はこれで失礼します。アルトリア様のおかげでパーティーの予定と参加者の方々の機嫌が狂ってしまいましたので、その後始末へ戻らせて頂きましょう。では――……」


 老執事はエリクとの握手を終えると、微笑みながらアリア達に皮肉を述べて去っていく。

 パーティーを荒らした張本人であるアリアと呟かれたエリクは、渋い表情をしながら老執事を見送った。


 その後、アリアとエリクは視線をケイルに向ける。

 筒を険しい表情で握り締めるケイルは、一度だけ深い呼吸をして冷静さを取り戻した顔を見せた。


「……悪いが、旅の支度はお前等だけで進めておいてくれ」


「見るの?」


「ああ。……アタシが二十年間、探し続けた答えだ」


「……ケイル。私達は旅支度が終わったら、皇都の外壁南側の門で待ってるわ。夜までには来てね」


「……」


 そう話すアリアはケイルから顔を逸らし、公爵邸を出て市民街へ通じる壁門へ向かう。

 ケイル気にする様子を見せる『黒』の少女は、マギルスと共にアリアの後を追った。

 その中で残るエリクは、ケイルと向かい合いながら話し掛けた。


「ケイル」


「……」


「俺は、難しい事は分からない。……それでも、俺はお前の仲間だ」


「……」


「だから、待っている」


 そう言い残したエリクも、アリアの後を追う為に歩き始める。

 アリア達が皇都の南側へ向かうのに対して、ケイルは逆の北側へ足を向けた。


 別の方角へ向かうケイルを確認するエリクは、前を歩くアリアに話し掛ける。


「……アリア」


「信じましょう」


「!」


「ケイルは必ず戻って来る。……そう信じるのが、仲間ってものでしょ?」


「……ああ」


 そう話す二人を他所に、『黒』の少女はケイルに繋がる未来の道を正確に視ている。

 少女はそれに関する話を、この場で改めてアリア達に話し始めた。


「これが貴方達にとって、この国に対する最後の選択肢となるでしょう」


「……どういうこと?」


「私は、このルクソード皇国を救う二つの存在を視ていました。一人はアリアさん、貴方です」


「!」


「貴方がこの国の皇王になる事を選べば、ルクソード皇国の滅びを免れる可能性は視えていました。けれど、貴方は皇王になる事を選ばなかった。ルクソード皇国はこれから、滅ぶ道筋を辿るでしょう」


「……ッ」


「そしてもう一人。ルクソード皇国を救える可能性が視えていたのは、ケイルさんでした」


「ケイルが……?」


「彼女の選択次第で、皇国は僅かに生き永らえるでしょう。……しかしもう一つの道を選べば、私達は皇国の滅びに巻き込まれ、死の運命を辿る事になります」


「え……!?」


「全てはケイルさんの選択次第です。それに私達は介入できません、……けど、彼女と繋がる貴方達の絆を、私も信じることにします」


 『黒』の少女は予言染みた言葉を話し、アリアとエリクは訝しげな視線を向ける。

 それを聞いていたマギルスは、首を傾げながら少女に尋ねた。


「ねぇねぇ。それって僕も死んじゃうの?」


「マギルスは、どっちが選ばれても生きてるかも」


「ふーん。じゃあ、別にいいや!」


 呑気に笑うマギルスは、少女の隣を歩き続ける。

 アリアとエリク僅かな不安を宿しながらも、既に姿の見えないケイルを信じて旅の支度を進める為に流民街南地区へ向かった。


 その一方で、アリア達と別れたケイルは流民街北地区の裏宿へ入る。

 祭りの音が届かない静寂の地下室で木筒の蓋を開けると、中に入れてある何枚も重なる紙を取り出した。

 そしてケイルは椅子に腰を落ち着かせ、静かに紙を手で広げる。


 そこには、とある一族とルクソード皇国に纏わる話が書かれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ