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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
結社編 四章:皇国の後継者

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一時の安息


 フラムブルグ宗教国とホルツヴァーグ魔導国との戦争を回避する事が出来たルクソード皇国は新年を迎え、皇都崩壊やミネルヴァ強襲に続く緊張感からようやく解放される。

 その事後処理をする為にハルバニカ公爵や老執事などは忙しく働き姿を見せられない日々が続き、拘束しているミネルヴァや神官達を万が一の為にシルエスカや赤薔薇の騎士(ローゼンリッター)を傍に置いて見張り、フォウル国の使者に引き渡すまで動けずにいる。


 そんな時が流れる中で、ハルバニカ公爵邸に留まるアリアは『黒』の七大聖人(セブンスワン)である少女と話を交えていた。


「――……じゃあ、貴方は『誓約』と『制約』に関わり無く輪廻の循環から外れているから、転生を繰り返しているの? どうやってそんな事を可能に?」


「一番最初の私が、そうするよう世界の仕組みに細工をしました」


「輪廻の循環に細工って、何をどうやったらそんな事を出来るのよ?」


「元々、輪廻転生(システム)を作り上げた人物は『死んだ者の魂を清浄化し別の生命へ宿す』という仕組みを作り上げました。それに一番最初の私も加わり、世界の観測者に選ばれたんです。もし輪廻転生(システム)に異常が起きた場合には、それに対処できるようにと」


「つまり、貴方は調律者(チューナー)?」


「はい。世界にバランスを齎し、そして観測するのが役割です」


「だから七大聖人(セブンスワン)を立ち上げたの?」


「そうですね。この世界で人間の強さは、魔物・魔獣・魔族と比較すれば遥かに脆弱です。人間大陸は人が棲むのに優しい作りにされていますが、魔大陸を始めとした過酷な環境で生き抜き生物的能力が根本的に違う魔族とは大きく差がある。生物的進化の格差が生まれ続けるのを避ける為、聖人を育成しようと発案されたのが、七大聖人(セブンスワン)の発足理由でした」


「発案者は貴方?」


「いいえ。当時、自力で聖人へと達した人物がその発案者であり、それが最初の『白』でした。私はそれに手を貸しただけです」


「なるほどね。他にも聞きたい事があるんだけど……」


 『黒』の七大聖人(セブンスワン)として内包する知識を少女は話し、それに興味を抱いたアリアは様々な知識を聞いていく。

 少女の知識は歴史的文明や技術に関する出来事に偏りながらも、元々歴史的研究に興味を持つアリアの知識欲に火を付けていた。


 そんな話をしている二人の傍には、やや不機嫌そうなマギルスもいる。

 二人が全く理解できない話を長々としている為に暇を持て余し、ソファーに寝転がりながら愚痴を零した。


「ねーねー。暇、つまんなーい!」


「何よ? 暇ならエリクと遊んで来なさいよ」


「エリクおじさん、最近ずっと『魔力抑制』の訓練してるんだもん。だから遊んでくれないの」


「魔力抑制?」


「力が強くなり過ぎて全然制御できてないから、僕が少し教えたらずっとやってるんだもん。だからつまんない! ……ねぇ、アリアお姉さん?」


「嫌よ」


「まだ何も言ってない!」


「遊べってんでしょ? アンタと戦ったら五体満足で終われる気がしないから、絶対に嫌」


「ふふーん、僕に負けるのが怖いの?」


「アンタには一度勝ってるから、それで大満足よ」


「あっ、ひどい! 勝ち逃げズルい! 卑怯だぁ! もう一回やろうよぉ!」


「うっさいわねぇ! 私はまだ『黒』さんに聞きたい事があるの!」


 喧嘩をし始めるアリアとマギルスを、少女は微笑みながら見る。

 既にこうしたやりとりは何度か確認している少女は、思い付いた事を話した。


「アリアさん。マギルスとは別のことで遊べばいいんじゃないですか?」


「……別のこと?」


「例えば、盤上遊戯やカードでも遊べますよね?」


「コイツの言ってる遊びって、戦うって意味よ?」


「マギルスは別の事で遊べるのを知らないだけなんですよ。私とはよく遊んでるし」


「え……? マギルス、アンタ他の遊びも出来るの?」


「そうだよ? 教えてもらったんだぁ! ねぇねぇ、アレ出してよ!」


「うん、分かった」


 そう話す少女とマギルスを見て、アリアは表情を固める。

 少女が両手を前へ差し出すように手の平を見せると、少女の手の中に手頃なサイズのカードが出現した。

 それを見たアリアは驚愕し、反射的に立ち上がった。


「えっ!?」


「どうしたんですか?」


「……まさか、『物質転移』!? 貴方、空間魔法を使えるの!?」


「少し違います。これは『収納(チェスト)』という魔法で、時空間内に一定容量の安全空間を作り出し、そこに物を置いて取り出す時空間魔法です」


「……はぁ!?」


「まだ自分の身体以上の大きさの物は収納できませんけど、身体が成長して聖人化すればもっと大きな物も収納できるようになるし、『空間転移(ポータル)』や『自己転移(テレポート)』も使えるようになります」


「……」


「あれ。アリアさん、出来ないんですか? てっきり出来るのかと思ってました」


 『黒』の少女が普通に使った魔法にアリアは驚愕し、それを不思議そうに訊ねる言葉で青筋が一本浮かぶ。

 構築式を一切用いず使われた魔法だった為に、アリアでも魔法の模倣が出来ない。

 それがアリアの矜持(プライド)を刺激し、少女へ詰め寄るように訊ねさせた。


「さっきの構築式無しでやったわよね? まさか古代魔法!? どうやったの、教えて!」


「んー……。じゃあ、こうしましょう。私達三人がカードで勝負して、アリアさんが私に勝てたら教えます。でもアリアさんが私やマギルスに負けたら、一つお願いを聞いてください」


「ええ、良いわ。やってやろうじゃないのよ!」


「カードはトランプですけど、勝負は何にしますか?」


「何でも良いわよ? 私、賭け事で負けた事は一度も無いんだから」


「そうなんですか、凄いですね。じゃあ、この前マギルスに教えたババ抜きにしましょうか。マギルスも、それでいい?」


「いいよー!」


 同意した二人に微笑む少女は、小さな手ながらも慣れた様子でカードをシャッフルして三人分に配る。

 そして手持ちの札で重なる物は消化される途中、マギルスが嫌そうな顔で声を上げた。


「げっ!」


「……普通にバラしたわね、この馬鹿」


「まだ覚えたてなので」


 そんな事が有りながらも、三人は十枚前後の手札を残す。

 そしてジョーカーを手札に残し上がれなかった者が負ける、ババ抜きが始まった。


「それじゃあ、始めに私がアリアさんのカードを引いて、アリアさんはマギルスからカードを。そしてマギルスは私からカードを引いて行く回り方で」


「ええ、いいわ」


「よーし、今日は絶対に勝つもんね!」


「……?」


 アリアは了承した後、そう気合を入れるマギルスの言葉に違和感を覚える。

 しかし少女がアリアの手札からカードを抜いて勝負が始まった為、アリアは勝負の方に集中した。


 それから一時間後。

 そこには一番目に上がる事が出来て喜ぶマギルスを他所に、手札を二枚残したアリアに対して一枚だけ残している少女が幼い手を伸ばし、悠然と手札を揃えて上がり終えた。


「はい。私達の勝ちですね」


「……おかしいわよ……。まさか、カードに傷が付いて判別してる!?」


「それ、一回目の時に調べましたよね?」


「透視魔法でカードを見ている……!?」


「透視防止の構築式を刻んだ魔石を置いたの、アリアさんですよね?」


「配る時に細工……」


「三人で交代に混ぜたじゃないですか」


「眼球の光反射を利用して私の手札を覗き見して……」


「アリアさん、途中から手札を伏せてやってましたよね?」


「……じゃあ、なんで何回やってもアンタ達が勝つわけ!? しかもジョーカーがアンタに一回も回らないとか、おかしいでしょ!?」


「凄い偶然ですよね。運が良かったです」


「絶対、何か仕組んでるはずよ! 絶対……」


「ところでアリアさん。勝負の前にした約束、忘れていませんか?」


「……ッ」


「私達のお願いを一つ、頼まれてくれる約束です」


 アリアは嫌な顔を浮かべながら視線を戻し、微笑む少女は首を傾げながら訊ねる。

 それにアリアは諦め、潔く負けを認めた。


「……分かったわよ。で、何をすればいいの?」


「それは後でお願いすると思います。私からは保留ということで」


「?」


「でもアリアさんは何度も負けたので、またマギルスと遊んであげてくださいね」


「やったー! 僕の勝ち越しだもんねぇ! アリアお姉さん、すっごく弱いねぇ!」


「グ……ッ!! もう一回よ、もう一回! マギルス、ポーカー教えるから覚えなさい! それで勝負よ!」


「えー、ババ抜きで勝てないからって逃げるのぉ?」


「逃げてないわよ!!」 


 三人は賑わいながら一時の休息を楽しむ。

 そしてエリクは自室で魔力制御と魔力抑制を身に付け、ケイルは売れる情報を手に入れる為に皇城へと通った。


 そうした時間が流れた十数日後。

 各々の部屋にハルバニカ公爵家の従者が尋ねて一つの書状を渡す。


 そこに書かれていた内容は、新年を祝う祝宴の場への招待状。

 ハルバニカ公爵家の名で行われる、皇城での新年会の知らせだった。


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