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迂回の選択


 ガルミッシュ帝国の南方に位置する南港町(サウスポート)に敷かれた帝国兵(おって)の包囲を掻い潜ったアリアとエリクの二人は、新たな逃走経路を辿る為に歩き続ける。

 そうした最中、自身の目立つ金髪(かみ)を隠す為に黒い外套(マント)を頭まで羽織るアリアは、鞄の中を覗き込みながら渋い表情で呟いていた。


「――……お金、足りないかも」


「ん?」


「二百枚近くあった金貨が、もう半分も切ってるのよ。……この調子で出費したら、南の国に辿り着く前に無一文(から)になってそうね」


「それは、困るな」


「ええ、困るわね……」


 北港町から南港町で多くの出費を行ってしまったアリアは、自身の懐事情(てもち)に不安を抱く。 

 それを聞いたエリクも流石に金銭が無くなる事が旅に支障が出る事を理解すると、自分が出来る事で提案をしてみた。


「食料なら、俺が魔物を狩って肉を取るぞ」


「魔物の肉かぁ、アレって不味いのよね。それに食料が必要でも、今その為に足を止めると確実に追っ手が来るわ。獲るなら極力、遭遇した魔物とかだけね」


「分かった」


「とりあえず、状況を整理しましょう。本当だったら南港町(サウスポート)で船を乗り換えるつもりだったけど、それが封じられてしまった今は、別の順路(ルート)で南を目指すしかない。だからまず、他の港を目指しましょう」


「他の港があるのか?」


「ええ。私達が今から目指すのは、ここから東に在る東港町(イーストポート)。あそこは目指してた南の国マシラの他に、ベルグリンド王国との貿易船も通ってる。だからエリクの素性がバレないようにも注意が必要なんだけど、その為には顔を偽装できるよう魔法の準備もしておかないとね」


「魔法は、顔を変えることも出来るのか?」


「出来るわよ、北港町で買った魔石を使えばね。……でも、他にも問題点は山積みだわ。特にここから東港町(つぎのみなと)まで向かうのに、もう私が持ってる魔法学園卒業の証(ペンダント)は迂闊に使えないかも」


「どうしてだ?」


「私達を追って来てる兵士達は、明らかに私が『アリス』という偽名の魔法師として逃げてるのを知ってる。銀の首飾り(ペンダント)を持ってる時点で疑われるのは確実でしょうね。銀の首飾り(コレ)は見せてしまうのは、ここからは不利益(デメリット)でしかないの」


「……このままだと、兵士がいる次の検問所を突破できないということか」


「そうそう。だから、検問所を通らずに東港町に行ける順路(ルート)を探さないと……。……エリク、ちょっと地図(これ)持って。無理に引っ張らないでね」


「ああ」


 状況を伝えるアリアは、そのまま鞄の中から羊皮紙の地図を取り出す。

 それをエリクに見せながら左側(ひだりはし)を持たせると、自由になった左手で現在地などの情報を伝えた。


「私達がいるのは、ここ。そして次の目的にした東港町が、ここね。……地図の見方くらいは分かるわよね?」


「ああ、分かる」


「良かった。……それで、私達が今いるここから東港町まで直接行くと、直線上に検問所が幾つかある。それを素通りするのは、今の私達では難しい」


「なら、どうする?」


「迂回するしかないでしょうね。その為に、私達はここから南下して……(こっち)に広がる樹海を通って、東港町(もくてきち)まで隠れながら移動するわ」


「……樹海とはなんだ?」


「とにかく広い森のことよ。私が知り得る限りでは、この樹海は魔物や魔獣が多く群生しているらしいわ。中には危険種も含まれてるし、上級魔獣の群れも存在する。そんな樹海を抜けてまで森向こうの町を目指す馬鹿は、滅多にいないはずよ」


「……つまり俺達は、誰も通らない森を通るんだな」


「現状、これしか手立てがない。……エリク、どうする?」


 地図に視線を向けていたエリクは、不安そうに聞くアリアの顔を見る。

 そして少し考えた後、頷きながら答えた。


「君の判断を信じよう」


「!」


「どんな魔物が森にいるのか、知っているか?」


「この樹海は未開拓地みたいだから、内部の地形や生態系は不明なのよ。……ぶっつけ本番の、強行突破になるでしょうね」


「そうか。……南へ向かおう」


「ええ、行きましょう」


 南下し樹海を移動すると決断した二人は、そこから足を南下させ始める。

 しかしその道中、何度か南港町側から騎乗している兵士達が姿を見せ、二人は足を止めながら岩場の影とアリアの魔法で身を隠した。


 その兵士達の動きによって、アリアは再び状況に変化が及んだことを伝える。


「……小舟の偽装がバレたわね。外側へ向けてた兵士達の意識が、内陸(こっち)に向いたわ」


「このまま樹海へ行っても、大丈夫か?」


「さっきの兵士達は、南港町から出た商団を追っているんでしょうね。私達が商団に紛れ込んでると思ったんだわ。……今ならまだ、樹海に移動してるとは思われないはず」


「なら、予定は変わらずか」


「ええ。行きましょ、樹海へ」


 樹海への進路をそのままに、二人は兵士達の追跡から隠れて進む。

 そして南港町を出発して四日が経過した中で、アリアとエリクは広大な樹海の前まで辿り着いた。


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