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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
結社編 二章:神の研究

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受験結果


 三つ目の実技試験で当たった九十二番の元傭兵との戦いは、その場の全員が目を見張る試合となっていた。


 木製の斧槍を器用に薙ぎ払いながら扱う九十二番の技量は高く、更に体力も高いのか絶え間の無い攻撃を繰り返し続ける。

 エリクはそれを見切りながら薙ぎや突きを回避し、時には柄の部分を受けて拳を握って殴ろうとする。

 その反撃を素早く察知した九十二番は斧槍を引き、素早く飛び退いてエリクの間合いから外れた。


「ふー、危ねぇ危ねぇ」


「……勘が良いな」


 カウンターを見切り斧槍を構え直す九十二番を見ながら、エリクは何かを考える。

 互いに高い身体能力と技量を示しながら行う試合は、他の四隅で行われる受験者達からも注目されていた。

 第四兵士師団長のザルツヘルムも、部下の兵士と二人の戦いを観察している。


「九十二番、動きが良いですね。ザルツヘルム師団長」


「そうだな。あの男の情報は?」


「元一等級傭兵で、他大陸で何度か戦争経験をしていたそうです」


「なるほど、元一等級傭兵か。……使えそうだな」


「逆に七十七番の男。九十二番の攻撃を避けるか受けるだけで、自分から攻撃をしませんね」


「九十二番が攻撃される前に素手の射程から離れているからな。武器のリーチ差を生かして、接近を許さないようにしているんだろう」


「少し拍子抜けですね。七十七番の身体能力はズバ抜けていますが、武器を持たずに素手で戦うなんて。九十二番ほど戦闘経験が無いんでしょうか?」


「……さて。それはどうかな」


 ザルツヘルム達が遠巻きでそう話している最中も、エリクと九十二番の試合は続く。


 上半身から下半身の攻めへ切り替えた九十二番は、相手の足元を払うように斧槍を薙ぎ突く。

 跳び避けながら斧槍の先を左足で踏み付けて固めたエリクは、右足を強く踏み込ませて右拳を振ろうとする。

 しかし九十二番は斧槍を躊躇せず捨てると、腰の後ろに携えていた木製の短剣を左手で抜いて逆にエリクの右拳を襲った。


「!」


 エリクは九十二番のカウンターに気付き、右拳を停止して大きく跳び避ける。

 追撃しようと更に踏み込んだ九十二番だったが、すぐに迎撃の姿勢を整えたエリクを見て深追いを避けると、足の甲で斧槍を蹴り上げて右手で拾い掴んだ。


「そっちも勘が良いな」


「お前も、良い腕をしている」


 互いに相手を称賛し、九十二番が短剣を腰に再び収めて斧槍を持って突っ込む。

 今度は斧槍の先端をエリクの首を狙って突こうとしたが、それは容易くエリクの飛び退きで回避されてしまう。

 しかし、避けられる事を承知していた九十二番は再び斧槍を離し、自由になった左手で腰の短剣を抜いて一気に距離を詰めた。

 九十二番の短剣が、エリクの胴部分に迫る。

 左手で握り、右手で強く押しながら全体重を乗せた短剣の突きは恐ろしく速く、普通の人間であれば回避は不可能だったろう。


 しかしエリクは、恐るべき反射神経と速度でその短剣を左手で鷲掴みにして止めた。


「な……!?」


「やはり、良い腕をしている」


 自分の攻撃を受け止められた事に驚く九十二番と、見事な短剣の突きを放った事を小声で称賛するエリク。

 そして九十二番は危機を察知し短剣を離してその場から引こうとしたが、エリクの踏み込みと右拳の振りが射程を捉え、九十二番の顔面を襲った。


「――……!!」


 エリクの拳を逃れられないと察し、九十二番は両腕を上げて防ごうとする。

 しかし両腕のガードをエリクの殴打で身体ごと吹き飛ばされ、地面に背中を預けるしかなかった。


「グッ……、腕が……ッ」


 九十二番の腕は、辛うじて折れてはいない。

 しかし殴られた際に腕が痺れ、その痺れが身体全体にも影響を及ぼし、立ち上がる事を困難にさせている。

 エリクは審査を行う兵士に目を向けると、兵士は立ち上がれない九十二番を見て試合の判定を宣言した。


「この試合、七十七番の勝利!」


 勝敗が告げられると、周囲から疎らな拍手が起こる。

 二人の戦いを見て称賛する受験者達や兵士達が拍手を起こす中で、エリクは九十二番に近付いて手を差し伸べた。

 それに気付いた九十二番は、悔しくもあり諦めたような表情で腕を伸ばしてエリクの手を受け入れて起き上がった。


「負けた、完敗だ。お前さん、滅茶苦茶に強いな」


「お前も強い」


「そうかい。さっき、わざと胸をがら空きにして誘ったろ? つい隙だらけなんで乗っちまったぜ」


「ああ。お前は、強い戦い方をしていたからな」


「強い戦い方?」


「俺の仲間が言っていた。強い傭兵は負けない為の戦い方をすると。そういう相手には隙を晒して誘い込めと言っていた」


「良いアドバイスをするな、そいつ」


「ああ」


 そう互いに話しながら円形状の柵枠から離れる。

 他の受験者達が試合を続ける中で、九十二番の男はエリクに再び話し掛けた。


「お前、名前は?」


「エリオだ」


「エリオか。俺はグラド、元傭兵だ。お前もそうか?」


「ああ」


「そんだけ強ければ、名のある傭兵団に入ってたんだろ。何処の大陸から来た?」


「マシラという国がある大陸だ」


「あー、あそこか。あの国は闘士連中が強すぎるし、魔物や魔獣の討伐や戦争募兵も無いから、護衛ばっかりしかなかったからなぁ。腕が鈍っちまうんで、俺もすぐ離れちまった」


「そうか」


「ハハッ。お前、見た目通りに無愛想だな」


「そうか?」


「そうだよ。まぁ、傭兵が愛想良すぎるのも駄目だがな。お前みたいに強くて無愛想なら、問題無しだ」


「そうか」


 グラドと名乗る受験者と知り合ったエリクは、その後も一方的に話し掛けられ続けた。

 勝ち抜けたエリクはその後も試合を続け、四隅の試合が全て終わる。

 最後に四隅で勝ち続けた勝者同士が当たるが、エリクはグラド戦ほど苦戦をせずに勝利を収めた。


 三つ目の実技試験は三時間程で終了し、その後に一時間の休憩が設けられる。

 休憩が終わり日も暮れ始めた時間になり、訓練場に集まった受験者は壇上に上がったザルツヘルムの言葉を聞いた。


「これより、皇国軍入隊試験の合格者を発表する! 番号と共に採点も発表するので、百五十点以上で呼ばれた者は前に!」


 その言葉通り、全ての受験者の番号が呼ばれながら採点が発表された。

 合格者の中には体付きの良い者達が選ばれる事も多かったが、鍛えず座学試験で自信を持っていた者達も幾人か合格している姿も見受けられる。

 五十人程の採点が明かされ、合格者は十二名。

 採点数値の最高点は、現在は二百三十点だった。


 そして五十番台の番号が呼ばれ始め、ついに七十七番のエリクが呼ばれた。 


「――……七十七番! 採点数値は二百九十五点! 前へ!」


 その瞬間、受験者達の中で僅かなどよめきを生む。

 今までの最高点を大きく上回る数値であり、ほぼ満点という結果。

 エリクが身体能力と実技試験は百点満点だと察していた者は多かったが、座学まで高得点を取っているのが信じられない様子の者もいる。

 そんな周囲の考えと様子を気にせず前へ出たエリクが、小声で呟いた。


「……五点、何処で間違えていたんだ」


 どの問題を間違っていたかと考えながら、エリクは合格者達の列に横並ぶ。

 そして九十番台の受験者が呼ばれ始めた時、聞き覚えがある声が上がった。


「――……九十二番! 採点数値は二百五十五点! 前へ!」


「よっし!」


 九十二番のグラドも合格し、エリクと僅かに離れながら合格者の列に参加する。

 合計で百十七名の受験者の内、百五十点の採点を合格したのは三十一名。


 エリクは無事、皇国軍部に潜入する為の試験に合格した。


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