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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
結社編 二章:神の研究

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奪還作戦


 ランヴァルディア皇子に幽閉されたアリアとは別に、活動を始める者もいる。

 行方不明となった二人の捜索と奪還の為にハルバニカ公爵と協力関係を築いたエリクは、その二日後に行動を開始していた。


 貴族街を離れ市民街へ入ったエリクは、とある場所へ向かっている。

 そして、その傍にはハルバニカ公爵に仕える老執事が行動を共にしていた。


「こちらでございます。エリク様」


「……ああ」


 老執事の様相は執事然とした姿ではなく、エリクの装いに合わせて傭兵然とした服装に変えている。

 既に六十前後の年齢に見える白髪の老人ながらも弱々しい様子は無く、むしろ高い背を伸ばしたまま力強くも精練された歩みを見せている。

 その老人の後ろを歩きながら、エリクは呟いた。


「……お前は、あの屋敷に居た誰よりも強いな」


「お褒め頂き、恐縮でございます」


「ログウェルといい、強い老人はこの世界に多いんだな」


「おや、ログウェル=バリス=フォン=ガリウス様を御存知で?」


「ああ。二回だけ戦った」


「それはそれは。あの御方と二度も戦い生きているとは、運が良うございます」


「お前もあの男を知っているのか?」


「ええ、とても良く知っていますよ」


「そうか」


 そう老執事と話しながら、エリクは今回に至る経緯を思い出す。

 協力関係を結んだ後、ハルバニカ公爵から今回の件で動いている首謀者の名を教えられた。


 首謀者の名はルクソード皇国第二皇子、ランヴァルディア=フォン=ルクソード。

 皇子ながらも皇位継承権は持たず、皇国の生物研究機関の長に在籍していた。


 何故、ランヴァルディアが皇位継承権を得ていないのか。

 それは簡潔な答えとしてハルバニカ公爵の口から告げられた。


『――……愛妾の子?』


『そう。ランヴァルディアは現女皇の子ではなく先皇の子。そして先皇の正室から生まれた子ではなく、市民の女性が産んだ子。故に、皇位継承権を持つ事は許されていない』


『なら、どうして皇子などと呼ばれている?』


『ランヴァルディアの母親が死に、先皇が皇城にて住ませるよう取り計らった。その遺言が今でも守られ、表面的には皇子という立場で扱っておる』


『その皇子が、研究所という場所で働いている理由は?』


『彼の希望でな。元々、彼の母親は皇国の研究機関に勤めておった研究員。母が行っていた研究の後を継ぎ、成果を挙げる事を喜びとしている節が見えた』


『母親がしていた研究?』


『それが生物進化の理論解明。そして人間が聖人へ至れる方法を見つけ出す事こそ、国が研究機関に命じていたこと』


『それで、聖人の可能性があるアリアを攫ったのか?』


『それ以外に、アルトリアを攫う理由はあるまい』


『……それはつまり、皇国が結託してアリアを欲しがり、その研究に使おうと考えているということか?』


 僅かに怒気を含んだエリクの声に、ハルバニカ公爵は首を縦に振って答える。


『今回の件、皇国の何処までが関わっているのかは知らぬ。あるいは女皇自身も関わっておる可能性は高い。しかし、そうした研究を行っているランヴァルディアの下にアルトリアが運ばれた可能性は高いじゃろう』


『お前は、その研究の成果とやらが欲しくはないのか?』


『曾孫を犠牲にしてまで得られる成果など要らぬよ』


『……そうか』


 簡潔ながらも、アルトリアが聖人研究の実験台に扱われるのを拒むハルバニカ公爵の様子に、エリクは一定の理解を示す。

 そのエリクは思考の中で浮かんだ僅かな疑問を問い質した。


『どうしてアリアが聖人だと、攫った連中やお前は思っている?』


『お前さん達の旅を思い返すことだ。そこに答えがある』


『……マシラでの事か?』


『そう。お前さん達はマシラ共和国で暴れ過ぎた。あそこで起きた出来事が内外に広まり、皇国にも伝わった』


『どうしてそれで、アリアが聖人だという話になる?』


『マシラ共和国の魔人ゴズヴァール。アレを理由に皇国もマシラとは同盟関係のみに留まり、内政に関して干渉はせずにきた。仮にマシラ共和国と敵対すれば、例え七大聖人のシルエスカを擁している我等でも、無事では済まない結果となるだろう』


『……アリアがゴズヴァールと戦ったからか?』


『如何にも。普通の人間がゴズヴァールを相手にして抗う事さえ不可能。しかしアルトリアはゴズヴァールと互角に渡り合い、形成りにも勝利したとも聞く。……アルトリアが聖人に至っているという根拠は、そこに結び付いている』


『……ッ』 


 マシラ共和国での騒動がルクソード皇国内部にそのような話として伝わり、アリアに対する影響力を強くしてしまっている事を知ったエリクは、改めてマシラでの自分の行動を悔やむ。


 アリアがゴズヴァールと戦う羽目になったのは、乗り込み返り討ちとなった自分(エリク)を守ろうとした為だ。

 更に旅の道中でアリアやケイルからマシラでの話を聞いた限りで、闘士達に囚われたアリアはケイルの伝手から解放される可能性が多いにあったらしい。

 それを鑑みれば、王宮に乗り込んだ迂闊な行動が今回のアリアを狙われる原因にしてしまったのではと、エリクは僅かな後悔に苛まれる。


 しかし数秒の後悔を済ませた後は、エリクは曇りかけた表情を切り替えて鋭い表情を見せた。


『アリアを取り戻すにはどうしたらいい? その皇子が働く研究所に乗り込んで、アリアを取り戻すだけではダメなのか?』 


『皇国には軍部が存在しておる。儂等のような貴族家でも軍部に過剰干渉は許されて居らぬし、軍部に直接命令権を持つのは女皇のみ。そしてアルトリアが囚われておる可能性がある研究所は、皇国軍部の管理下にある。軍事施設へ侵入だけでも重罪。下手をすれば皇国軍部の全てを敵に回し、アルトリアの奪還が叶ったとしても、国家反逆罪の名の下に犯罪者として追われる事となろう。その時に儂の関与も暴かれれば、ハルバニカ公爵家は責任を取らされ貴族位の剥奪と一族全てが処刑されるじゃろうな』


『なら、俺一人でその研究所に乗り込む。俺が一人で乗り込む分には、お前達は処刑されるような事にはならない』


『お前さんが一人で乗り込んだ場合、恐らく殺されるだけじゃろう』


『なに……?』


 断言するハルバニカ公爵の言葉に、エリクは反論を返そうとする。

 その前に公爵自身の口から、その理由が述べられた。


『お前さん、合成魔獣(キマイラ)と戦ったのじゃろう?』


『ああ』


『正直に申して欲しい。……再び合成魔獣(キマイラ)と一人で戦い、勝てる勝算はあるかい?』


『……やってみなければ分からない』


『恐らく各地で発見されている合成魔獣の報告を鑑みるに、お前さん達が戦った合成魔獣以外にも研究所で製造されているのは確実じゃろう』


『……』


『そして、儂が懸念しておるのはもう一つの可能性。……合成魔人(キメラ)が存在している場合じゃよ』


『キメラ?』


『人間を実験体(モルモット)に使い、魔獣の臓器や細胞を移植し組み込んだ者達。簡単に言えば、人工的に生み出された魔人達のこと』


『人工の、魔人……』


『軍部からの要望で、兵士達を使って先天的にではなく後天的に魔人を生み出す実験を研究機関は行っていると聞いておる。それが成功しておるのか失敗しておるのかは不明じゃが、そういう者達がいる事も懸念せねばならぬ』


『……』


『お前さんが如何に強い魔人と言えど、複数の合成魔人(キメラ)合成魔獣(キマイラ)と研究所で遭遇すれば苦戦は免れぬ。中には魔獣同様に、五感が鋭敏の者達も居よう。如何にお前さんが強くとも、一人で乗り込む際の危険は大きい』


『……つまり、打つ手が無いと言いたいのか?』


『このままではな』 


『何か策があるのか?』 


『ある。その為には、ちと小細工が必要になる。そこでお前さんには、その小細工に協力してもらいたい』


『……分かった』


『儂もまた違う働きを掛けて皇国軍部を揺さ振る。故に儂が支援できるのは簡易的なモノに限られるじゃろう。作戦決行後は、儂の屋敷に訪れる事も出来ぬと思ってくれ』


『それで十分だ。……それで、俺はどうすればいい?』


『それは――……』


 こうした会話をハルバニカ公爵と行い、策を聞いたエリクは次の日からアリア奪還作戦の為の準備を開始する。

 そして同行者となり案内人を務める腕利きの老執事を伴いながら、目的地に到着した。


「――……ここか?」


「はい。この先で試験が行われます。これが手続きの際に必要な身分証と書類でございます」


 老執事が渡す大きめの封筒を受け取ると、エリクは目的地を改めて見る。

 目の前にある石壁に覆われた建造物は、ルクソード皇国軍部の兵士養成所。

 エリクは皇国軍兵士に志願入隊し、軍内部からアリアに辿り着く為に活動を開始した。


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