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魔石の秘密


荷馬車と馬を購入した夜。


中層の宿に戻ったアリア達は、

宿の厩舎に馬と荷馬車を置き、

次の日に町を出る準備を整えていた。


その際、ケイル側から話が振られた。



「……リックハルトの方は脅しが成功したとして、傭兵ギルドはどうだろうな」


「夜襲でも仕掛けるとか、そういう話?」


「いや。お前とエリクに手を出したらどうなるかは、流石にグラシウスも理解してるだろ。ただ首都から出さない為に、馬の方をどうにかするとか。そういう可能性だ」


「なるほどね。……エリク、ちょっといい?」


「見張りか」


「ええ。荷物の準備が出来たら、貴方は厩舎の方で馬の見張りをお願い」


「分かった」



ケイルの懸念をアリアは汲み、

エリクに馬の見張りを頼んだ。


それが決まった後に、

ケイルはアリアを見つつ聞いた。



「アリア。仲間のアタシ達には、教えてくれるんだろ?」


「何を?」


「お前が持ってた魔石だよ。あんな高級品、どうやって手に入れたんだよ。実家から持ち出したワケでもないだろ?」


「えー、それ聞いちゃうの?」


「……実はな。お前がゴズヴァールに捕まった時に、何個か魔石を落としただろ。それを闘士連中が拾って、くすねたらしい」


「……あー、そういえば落としたわね」


「その魔石がどういう経緯か、元老院や政府高官達の手に素早く回った。そしてローゼン公爵領から採れてる魔石と似た質だと知ったらしくてな。お前の素性を調べる為に傭兵ギルド側にお前の事を聞き出した。別塔に軟禁させた時点で、お前がローゼン公爵家の娘だって政府連中は把握してたみたいだぞ」


「……なるほどね。そういえば、マシラ王の秘術を私に使う許可が出たのは、私がローゼン公爵家の娘だと向こうも気付いてたからよね?」


「ああ。それを政府連中が許したのも、ローゼン公爵家の秘密が欲しかったからだろうな。上質な魔石を採掘する、あるいは生み出せる方法を使って、ローゼン公爵家は莫大な利益を得ているんじゃないかなってな」


「……」


「傭兵ギルドとリックハルト。今回、あいつ等がお前を留めようとした背景には、政府連中や元老院の意向も関わってる可能性が高い。お前等の戦闘力と、上質な魔石の生産方法。マシラ共和国の政府は、その二つを持ってるお前を欲しがってるんだろうぜ」


「……昨日の敵と味方が手を組んで、私を手の内に留めたいってワケね。なら、なんで私を立ち直らせるのに協力したのかしら?」


「気力を無くしたお前じゃ、ゴズヴァールの対抗馬に出来ないと思ったからだろ。役立てて情報を引き出す為には、ある程度は立ち直って欲しかったんじゃねぇか」


「はぁ……。ほんと、厄介よね。人間関係も、そういう組織集団も」



今回の馬と荷馬車の購入妨害の背景に、

マシラ共和国政府の意向が関わっている事をケイルが伝えると、

アリアは気まずそうな表情を浮かべて顔を背けた。


その時に、荷物を片付け終えたエリクが、

不思議そうな声で聞いた。



「アリア。魔法師は魔石を作れるんじゃなかったのか?」


「……は?」


「……あ、しまった」



エリクが漏らし尋ねる言葉に、

呆気を含んだ驚愕の表情をケイルは浮かべ、

アリアは思い出したように呟いた。


その二人を他所に、エリクは疑問の言葉を続けた。



「確か前に、安い魔石に魔法の力を込めて、属性魔石を作れると言っていただろう?」


「エ、エリク。シーッ、シー!」


「?」



ガルミッシュ帝国の北港町で魔石のことを説明した際、

アリアがそれらしい事を教えた事を覚えていたエリクは、

今までの話を疑問に思いながら聞いていた。


聞き返したエリクにアリアは慌てたが、

既に時は遅く、ケイルが表情を強張らせて聞いていた。



「……ねぇよ」


「?」


「できねぇよ。魔法師にそんなこと」


「そうなのか?」


「属性魔石は鉱山か鉱物地帯、もしくは魔物や魔獣からしか出ないんだ。しかも出てくる魔石には、当たり外れがある。ハズレは、様々な属性魔力が混合して内部で消滅した魔力純度の低い、色の無い灰色の魔石。そういう魔石は質の低い鉱山や雑魚魔物から大量に得られるもんだから、使い捨てとして安値で取引されてる。そういう魔石は、『屑石』と呼ばれてる」


「そうなのか」


「それを、魔法師が純度の高い属性魔石に変えるなんて方法……。そんな話、聞いた事もねぇぞ」



エリクの述べる事がケイルの知る事と違い、

常識の差異が改めて見えた中で、

ケイルとエリクは情報源であるアリアを見た。


アリアは頭を抱えながら、軽く首を横に振りながら呟いた。


「……しまったぁ。そういえば、エリクにそう教えちゃってたんだぁ……」


「おい、マジかよ……」


「アリア?」



明らかに後悔する声色で呟くアリアに、

ケイルは驚愕以上に呆気を見せ、

疑問の声をエリクは漏らした。


そして何かを諦めたように、アリアは話した。



「はぁあ……。……そうよ。あの魔石、私が作ってるの。屑石を安値で買い取って、それを属性魔石にしてるのよ」


「それが普通じゃないのか?」


「普通ではないのよね。この方法は、私が編み出したから」


「……編み出した?」


「子供の頃にね。様々な魔力を蓄えられて魔法構築式を刻んで保存できる魔石が、どうして鉱山から出土したり、魔物や魔獣の心臓部から同質の魔石が生み出されるか、疑問に思ったの」


「……」


「それで、私なりに調べたのよね。鉱山から出土する属性魔石は、魔物や魔獣が化石になった状態で地中に保存されていたものだったり、鉱物の種類で固有属性が蓄積した結果として生まれた物。そして魔獣の心臓部に属性魔石が出来るのは、彼等の体内に魔力を循環する中で、心臓に集中する血液と魔力が凝固して、魔獣の特性と性質が鉱物に似通った物として心臓部分に出来るのが、魔獣産の魔石だと理解したのよ」


「……そ、そうか。凄いな」


「あ、分かってないわね」



説明している事を理解出来ていないエリクに、

アリアはいつもの様に軽くツッコミを入れる。

逆にケイルはアリアの説明を聞き、

強張った表情を引き攣らせていた。



「とにかく、私は魔石が生み出される仕組みを私なりに解釈した。そして試行錯誤の結果。鉱山や魔物から得られる屑石は、言わば成長途中の種のようなものだと理解したの。それを上手く芽吹かせて花にする事が出来れば、一級品の魔石が出来上がるんじゃないかってね」


「……そして安値で使い切りの屑石を、一級品の属性魔石にしたってのか」


「ええ。私個人でそれをやるのは簡単だったわ。単純に屑石に膨大な属性魔力を吸収させ続けて、花に栄養を与えるのと同じように、魔石を育てれば良かったわ。でも並の魔法師でそれをすると、小石一つ分の魔石だけでも十数年以上の時間を費やさないと、属性魔石に出来ないのよね。だから今まで、そういう発想に誰も到れなかったんだと思う」


「……なるほど。規格外のお前だから出来る芸当か」


「そう。だからお父様やお兄様にそれを教えた時に、私より多少遅いけど、属性魔石の量産を可能に出来る専用の魔道具を開発したの。ローゼン公爵家で生産されてる上質な属性魔石の数々は、主にその魔道具で生産された魔石よ。屑石は安い上に、大量に手に入るからね。使い切りの物だから、大量に取引したり輸入したりしても、不自然には思われないもの」


「……」


「私が自分で持ってたのは、私自身が作った魔石よ。屑石さえあれば、二日か三日で上級魔獣から獲れる魔石くらいのは作れちゃうの。中級魔獣から獲れる魔石程度なら、半日もあればできるわ。今までの旅でかなり溜め込んじゃってたし、売る機会も無かったから、在庫処分できて良かった」


「……」


「誰にも教えないでよ。これ、師匠にも教えてないんだからね。いざって時の交渉材料なんだから」


「分かった」


「……話しても、誰も信じねぇよ」



アリアが内緒にして欲しいと微笑んで頼む中、

エリクは素直に頷き、ケイルは呆れ顔で引いた。

そして思い出したように、エリクは部屋を出た。



「俺は厩舎へ行く」


「ええ、いってらっしゃい」



そして荷物を纏め終えたエリクが、

厩舎へ移動する為に部屋を出た。

残されたアリアにケイルは顔を向け、

訝しげに見ながら聞いた。



「お前、まさか他にも非常識なことを、あいつに教えてないよな?」


「そ、そんなに教えてないわよ」


「そんなにってなんだよ」


「しょうがないでしょ。私は普通に出来るけど、他の人は出来ないって、そういう事が分かり難い生活してたんだから……」


「箱入り娘って奴かよ」


「……そうね。私はローゼン公爵家という箱庭で育てられた。貴方の言う通り、私の存在そのものが異常だと、そう師匠や家族から言われてきたわ」


「……」


「……でも、何かに縛られたり抑制されたりするのは、もうウンザリ。私は私の為に勝手に生きたい。もう何かの枠に囚われて、異常だと言われ続けるのは、嫌なの」



アリアは呟きながら話す中でケイルは溜息を吐き出し、

纏めた荷物を肩に担ぎながら、アリアの部屋から出て行った。


その時、去り際にケイルがアリアに話し掛けた。



「アタシは、お前の事を理解しようなんざ思わない」


「……」


「だが仲間としては助けてやるし、仲間としての要求はしっかりするからな。覚悟しとけよ」


「……ええ。それでいいわ」



そう告げて自分の部屋に戻ったケイルに、

アリアは僅かに微笑みつつ見送った。

ケイルなりの励まし方にアリアは納得し、

その日の夜は荷物を整え、静かに寝入った。


次の日、ケイルが馬を引いて荷馬車を動かし、

エリクは歩いて周囲を警戒し、

アリアは荷馬車に乗って首都の中を移動した。


特に襲撃も無いまま中層を進み、

出入り口となっている門に近付いた時、

エリクが真っ先に馬の前に出た。



「おい、エリク!?」


「エリク!?」



エリクの様子に気付いたケイルとアリアが、

共にエリクが警戒を向ける正面を見据えた。



「!」


「……ゴズヴァール」



中層の出入り口。

その門の前に立っていたのは、

マシラ血族を守護する闘士長ゴズヴァール。


再び立ち塞がったゴズヴァールにエリクは向かい合い、

凄まじい睨み合いを起こしたのだった。





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