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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
南国編 四章:マシラとの別れ

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立ち上がる


ケイルの願いで引き篭もるアリアの部屋に訪れた、

マシラ王とアレクサンデル王子。


思わぬ客人にアリアは驚きながらも、

父親の死で気落ちしているアリアにとって、

二人の訪問は嬉しさは生まれず、怪訝しか生み出さなかった。



「……なんでこの二人が、ここに来たの?」


「言っただろ。アタシの客だ」



疑問を述べるアリアに答えるケイルを見て、

アリアは三人の関係を思い出した。



「……そう、和解できたんだ。良かったわね、ケイル」


「分かったフリして、見当違いの誤解してんじゃねぇぞ」


「……誤解?」


「ウジウジずっと引き篭もってる奴がいるせいで、足止めされてるのに飽き飽きしてたんだ。それを解消できる人間に、依頼しただけだ」


「……まさか……」


「会って来いよ、お前の親父に。死者の世界でな」



ケイルの口からそう勧められた時、

アリアは驚きよりも僅かな怒りが沸いた。

それが口から零れ、否定を生んだ。



「……嫌よ」


「は?」


「そもそも私は、死者と交信する秘術を用いるのに反対なのよ。あの時は王様を連れ戻す為にしょうがなかったけど、私自身がそれを利用するなんて、お断りだわ」


「お前に拒否権は無いって言ったろ。ヒモ女」


「……それなら、私の杖をあげるわよ。この魔玉が付いた杖だけで、質に入れても金貨数千枚以上の価値にはなるわ。これでいいでしょ」


「現金払いしか認めねぇ。諦めろ」


「……じゃあ、奴隷にでも何でもすればいいでしょ。貴方のお姉さんみたいにね」



不貞腐れたアリアが目を逸らし、

敢えて逆撫でする失言を述べると、

ケイルは眉を顰めて拳を握り締めた。


殴るのだろうとアリアは予想しながらも、

一向に飛んでこない殴打にアリアは不思議に思い、

ケイルの方を改めて見た。


ケイルはただ静かに睨みながら、

視線を合わせたアリアに厳しい口調で告げた。



「甘えんじゃねぇよ。貴族の御嬢様がよ」


「……違うわ。私はもう……」


「今のお前が何処に居ても、貴族の御嬢様に変わらねぇんだよ。例え家から出ても、傭兵になっても、奴隷になっても。誰かに甘え続けてる限り、お前は一生、貴族の御嬢様から抜け出せねぇんだ」


「……」


「甘えるなら親や使用人に甘えろ。仲間のアタシやエリクに甘えるんじゃねぇ。貴族の御嬢様だと言われるのが嫌なら、さっさと独り立ちしやがれ」



厳しい口調でそう告げるケイルの指摘に、

アリアは何も返せず黙るしかなかった。


今のアリア自身、

ケイルとエリクに甘えている事を自覚していた。

そして何も言わず待ってくれている二人に甘え、

今の状態を継続したいという秘かな期待さえ生まれていた。


そのアリアの甘えと期待をケイルは切り捨て、

次に進むように強要する。

そうするのが当たり前だという事を自覚しながらも、

それでもアリアは無言で首を振って拒否した。



「……それでも、嫌」


「嫌じゃねぇんだ。やれって言ってるんだよ」


「嫌!」


「やれ!」


「なんで、なんでよ。私がこうしてる理由は、ケイルだって分かってるでしょ!?」


「分からないね!」


「!?」


「でも奇遇だな。アタシも唯一の家族だった姉貴が死んだと聞いたのは、ついこの間でね。で、アタシはお前みたいに引き篭もったか?」


「……」


「お前等が暴走した後始末で手一杯で、姉貴が死んだことを悲しんでる暇すら無かったけどな」


「……ッ」


「自分のせいで親父が死んだくらいで、ピーピーと泣き言漏らして引き篭もってるお前の気持ちなんて、アタシは理解できねぇし、したくもねぇよ!」



怒鳴りながらアリアの胸倉を掴み、

厳しく告げたケイルの言葉に何も返せず、

そのまま胸倉から手を離したケイルは、続けて話した。



「いい加減、親父と向き合えよ」


「……」


「アタシは姉貴が死んだ事は、別にどうでもいいと思ってる。だが、最後まで姉貴と向き合わなかった事に、後悔はある」


「……」


「そうやって、死んだ親父とも向き合わずに甘えたお前を見てると、いい加減にキレそうなんだよ。……自分で向き合えないってんなら、無理矢理にでも向き合わせる。これがアタシのやり方だ」



立ち止まり続けるアリアを敢えて突き離し、

ケイルは進むように強要した。

そのやり口は褒められるものではなく、

強要する理由もケイルなりの短慮が見える。


しかし、今のアリアに最も有効な手段として、

確かにケイルの策は効き目をもっていた。

アリア自身を追い詰めること。

それがケイルなりのアリアの立たせ方だった。


沈黙してしまったアリアと、

突き放して追い詰めるケイルの会話に、

傍で聞いていたマシラ王が加わった。



「話に入っても、大丈夫かな?」


「……」


「どうぞ。こいつに言いたい事は、もう言い終わったので」



ケイルはそう言ってマシラ王を部屋の中に入れ、

立ち尽くすだけのアリアの前にマシラ王が立った。

そしてそのまま、マシラ王は自身が望む話をした。



「アルトリア姫。敢えて姫と呼ばせて頂く事を、許してほしい」


「……」


「今回、私がリディア殿の……ケイル殿の依頼を聞いたのは、彼女が私の愛した女性の妹だから、という理由もある。いや、それが最も大きい」


「……」


「しかし、ベルグリンド王国とガルミッシュ帝国の戦争での結果が、我が国に及ぼす影響も考えているからこそ、依頼を受ける責務を私に生んだ。……クラウス殿。貴方の父君であるローゼン公爵は、盟友ゴルディオス皇帝陛下の弟。そして帝国の剣であり盾である公爵が死んだ事で、マシラにも多かれ少なかれ影響を与えるだろう」


「……」


「元老院はケイル殿の今回の申し出を、正式に私が受ける事を認めた。ローゼン公爵の娘である君と接触して死んだローゼン公爵と交信し、詳しい情報を直接尋ね、我が国の為に検討したい。……恩もあり、父上を亡くしたと聞いて悲しむ君には勝手で申し訳ないが、君の血の繋がりを利用し、亡くなったローゼン公爵との交信を果たさせてもらいたい」


「……」


「もし意に沿わぬなら、魂までの道案内まででいい。ローゼン公爵との話は、私だけが行おう。彼女のように無理強いはしない」


「……」


「これはマシラ共和国政府と、マシラ王ウルクルスから君に対しての依頼でもある。……アルトリア姫。協力を、してくれないだろうか」



マシラ王自身が頭を下げ、

ローゼン公爵と交信する為の協力を頼んだ。

アリアは顔と視線を逸らしながらも、

それを聞いて唇を噛み締める。


王自身が個人に対して頭を下げて頼むというのは、

同じく王族だったアリアにも意味の重大さは理解している。


それほどガルミッシュ帝国の敗北は驚愕で、

マシラ共和国にとって予想外もしていない事であり、

反乱が起きた事や勝利したベルグリンド王国の今後の動きに、

注意を払いたいという事なのだろう。


国の存亡に関わる情報を得る為に、

マシラ王が自ら頭を下げるという事態を、

アリアは正確に理解して読み取っていた。


だからこそアリアには逃げ道が無くなり、

再び死者の世界に赴き、

父親の魂と交信する道しか残されていなかった。


唇を噛み締める事を止めたアリアが、

改めて口を開いた。



「……分かりました」


「!」


「協力はします。……協力、だけは」


「……協力を感謝する、アルトリア姫。そこの机を、貸してもらうよ」



下げた頭を上げて感謝を述べるマシラ王は、

部屋の隅に置かれた机を目にし、

アレクサンデル王子を伴いながら机に向かう。


秘術の準備を行い始めたマシラ王を他所に、

ケイルは睨むようにアリアを見ながら、敢えて言った。



「いい加減に立てよ」


「……立ってるじゃない」


「じゃあ、次は歩け。先に行くか、戻るかを選んでな」


「……」


「付き合ってやるから、進むか戻るか、お前が選べ」


「……」


「エリクも、お前が選ぶなら付いて行くってよ」


「……」


「お前が選ばなきゃ、アタシ達はずっと立ち止まったまんまなんだ。……少なくとも、ここまでエリクを連れて来た責任は果たすんだな。御嬢様」


「……」



そう言い放ったケイルは部屋の壁に背中を預け、

マシラの秘術が行われるのを静かに待った。


マシラ王は持ってきていた羊皮紙に何かを書き、

書き終わった後にアリアを呼んだ。



「アルトリア姫」


「……なに?」


「私達の秘術には、術者が行う魔法の構築式とは別に、対象者の血縁である被術者の少量の血と、血縁者が記載する対象者の名前が必要なんだ。その名が刻まれた対象者の魂へ、術者と被術者が辿り着く為にね」


「……」


「ここに御父上の名前を書いた上で、その娘である君自身の血判が欲しい。頼めるだろうか」


「……分かりました」



憮然としたアリアがマシラ王の指示に従い、

父親のフルネームを魔法文字が施された羊皮紙に記載し、

予め用意されていた小さなナイフで指の先を切った。


僅かに血液が出ると、それを羊皮紙に押し当て付ける。


こうして準備が整えられ、

マシラ王は王子と視線を合わせるように身を屈め、

優しく王子の左手に触れた。


その上でマシラ王の背中が仄かに光を発し、

その背中に円形陣の魔法陣が浮き出た。

それに反応して王子の左手に魔法陣が浮かび上がる。


描かれる魔法文字は異なりながらも、

互いに反応を示す魔法陣を見て、アリアは呟いた。



「……それが、本当のマシラの秘術ということね」


「ああ。私達マシラ血族の秘術を君が模倣したとゴズヴァールから聞いている。君が羊皮紙に描いた魔法構築式も見た。どうだい、別物だろう?」


「……そうね。実際に見ると、別物だわ」


「この秘術は親から子へ、そして子は次の子へ継承し続ける。二人の秘術継承者がいてこそ発揮される、血を契約とした共鳴魔法だ」


「……」


「君の場合、それを単独で行い帰還まで成し得た。……ゴズヴァールからそれを聞いた時、私は君が恐ろしかったよ。アルトリア姫」


「……」


「でもそれ以上に、君に感謝もしている。……改めて、御礼を言わせてもらおう。ありがとう、と」


「……」



そう感謝を述べるマシラ王に、

アリアは何も返さず、ただ黙って目を逸らした。


マシラ王は苦笑を浮かべつつも、

秘術の準備を続行する為に立ち上がり、

書き込んだ羊皮紙に手を乗せ、

自身も指を切り血液を付着させた。


そして羊皮紙の魔法陣が、

マシラ王の背に刻まれた魔法陣と、

王子の左手に浮かぶ魔法陣に反応し、

三つの魔法陣が共鳴して黄色の光を放ち始めた。


それを確認したマシラ王は、

改めてアリアに顔を向けた。



「完成だ。これで死者の世界へ赴く準備は出来た」


「……」


「後は椅子や床に座り、被術者に触れた状態で術者である私が伴い、死者の世界への門を潜る。君達は私を数年ほどの時間を掛けて探索したそうだが、この術は死者の世界での探索を無くし対象の魂の下へ直接、導ける」


「……」


「帰り道は、我が子が築いてくれた。……さぁ、適当な場所に腰掛けて」



そう勧めるマシラ王に、

アリアは憮然としたまま従った。

ベットに座ったアリアを確認すると、

輝く羊皮紙を持ちつつ椅子を持ったマシラ王は、

アリアに近付き椅子に腰掛け、アリアの手に触れた。



「それじゃあ、死者の世界に入る。準備はいいかい?」


「……どうぞ」


「それでは、行くよ。――……『墓守たる我が血を持って門を開け、墓守たる我が紋を刻む。輪廻を紡ぎて辿り、我が身と英霊を導きたまえ』――……」



瞳を閉じたマシラ王は魔法の詠唱を開始する。

複数の節を詠唱し続け、最後に魔法名を唱えた。



「――……『輪廻に導きし防人(レクイエス)』」



その瞬間、全ての魔法陣が輝きを強めた。

室内を魔法の光が満たし、

マシラ王の全身に魔法文字が浮かび上がる。


ケイルは目を見開きつつ傍観し、

諦めるようにアリアは瞳を閉じた。


こうしてアリアはマシラ王と共に、

死者の世界へ再び訪れたのだった。





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