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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
南国編 四章:マシラとの別れ

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真の忠義


傭兵としての名をケイルとし、

幼少時の名をリディアと告げた赤毛の女性剣士と謁見し、

期待した瞳を隠しきれないまま、

玉座に座ったマシラ王がやや上擦った声で尋ねた。



「リ、リディア殿。初対面の君に不躾で申し訳ないが、質問をしても良いだろうか?」


「なんなりと。陛下」


「君にはもしや、レミディアという名の、君と同じ赤毛の姉がいなかっただろうか?」



そうマシラ王が尋ねた時、

元老院と高官達の中で動揺が走った。


特にその質問の内容と、

質問の相手に動揺をした者達は、

慌てるように二人の会話に声を差し挟んだ。



「ウ、ウルクルス陛下。そのような質問を勝手に……」


「いけませんぞ、陛下。その名は――……」


「黙れ」



会話に割り込んだ元老院の白髪の老人、

政府の公職に就いている高官がマシラ王に注意した時、

その注意を一言で黙らせる声が発せられた。


その声の持ち主はマシラ王の隣に控え立つ、

闘士長ゴズヴァールのものだった。



「貴様達が、この者と王の話に口を挟む権利は無い」


「し、しかしゴズヴァール殿……」


「我々は共和国にて政治権を預かる者。それにこの者は、我等元老院の許可を得てこの場に訪れ、陛下への謁見が叶っております。それを無視し、王から勝手な発言を行う事を見過ごす事は――……」


「何を言うかと思えば、筋違いも甚だしいぞ。下郎共」


「!?」



元老院と高官の発言を怒鳴り止めたゴズヴァールは、

その場に居る者達に睨みを利かせながら話し始めた。



「この場は、この者がウルクルス王に対する謁見を王自身が許されたからこそ設けられた場だ。貴様達が設けたからと、好き勝手をして良い場ではない」


「な、なんと申すか、ゴズヴァール殿!」


「それと奇妙な事を言ったな。貴様等、ウルクルス王がいつ、この場で政治的に関わる発言を行った?」


「そ、それは先ほどの……」


「王はリディア殿に聞いただけだ。レミディアという姉がいるかどうかを。それが政治的発言を有する内容か?」


「そ、それは……」


「この場に訪れたのが他国の使者や政治的代表者ならばともかく。一介の傭兵に過ぎぬリディア殿に、王が質問を行う行為が政治的な越権だと。そう貴様達は主張するのか?」


「……ッ」


「それとも貴様達は、レミディアの名を王が口にする事が、マシラ共和国という国に影響を及ぼす政治的な発言に含まれる事だと、そう認識しているということか?」


「……」


「……どうやら、一人葬っただけでは足りぬらしいな」


「ヒ……ッ!?」



ゴズヴァールがその場の元老院達と政府高官達を睨み、

更に素人目にも分かる程の威圧を放ち始めた事で、

周囲が慌てるように下がり始める。


先日、無残な死に様を発見された元老院の一人が、

どのような経緯を辿りそのような末路を迎えたか。

そしてそれを誰が行ったのか、元老院や高官達は理解している。


しかし、威圧に負けじと声を出す者もいた。



「ゴ、ゴズヴァール殿。いくら貴公と言えば、度が過ぎるぞ!」


「そ、そうだ。いくら豪傑たる貴殿であっても、このような場で我等を力で脅すとは、どういう了見だ!?」



そう周囲が喚く声を聞いたゴズヴァールは、

冷酷な視線を周囲に向けながら、

小さな溜息と共に吐き捨てるように告げた。



「何を勘違いしているのかと思えば。間抜けか、貴様達は」


「!?」


「……いや。俺が勘違いをさせ、このような間抜け共を冗長させていたのか。……あの女が忠義ごっこと言うはずだ。あの男に力量で勝っていても、忠義で負けていたというわけだ」


「何を言って……!?」


「……改めて、貴様等に言ってやる。俺はマシラ共和国という国に従っているわけでも、貴様達のような政治屋に従っているのではない。先々代のマシラ王、そしてその子孫であるマシラ血族に忠義を果たしているに過ぎん事をな」


「!?」


「政治権力など貴様達で使うがいい。俺とマシラ血族当主には元々、そんな権力に興味も執着も無い。……だが、貴様等に預けているに過ぎん権力を悪用し、マシラ血族と付き従う民を傷つけてみろ。……その時は俺の手で、貴様等と共に腐り墜ちるマシラ共和国という国を、滅ぼすだけだ」


「……な、なんという事を……!?」


「闘士も同様だ。俺の名を用い預けられた地位と権力を使い、マシラ血族と付き従う民を苦しめる事があれば。それは無用の長物であり、害悪でしかない。……そして俺が害悪だと判断した時。その時に俺は忠義を持って一掃する。国も、組織も、集団も、個人も。塵一つ残さずな」


「……ッ」


「これは貴様等に対する警告だ。マシラ血族、そしてマシラ血族に関わる者達に害を及ぼすのであれば、俺はこの世の全てを敵に回したとしても、忠義を果たすべき相手を守り、我が身が死に絶えるまで、害を成す者を必ず滅ぼす」



ゴズヴァールが元老院と政府高官のみならず、

自身の配下であったはずの闘士達にも言葉と睨みを利かせた。


目上どころか眼中にさえ留められていない事を、

ゴズヴァールの口から直接聞かされた元老院を含む政府高官達と闘士達は、

足を一歩引かせて身を震わせながら冷や汗を流して恐怖した。


このマシラ共和国は、政治屋(じぶんたち)で成り立たせているワケではない。


秘術を継承し続けるマシラ血族の当主と付き従う民。

そしてマシラ血族に忠義を果たす事を誓った一匹の怪物が、

マシラ共和国を成り立たせている実態だという事を、

この場に居るほとんどの人間が、今になって気付いた瞬間でもあった。


そう眼下の者達に警告した後に、

ゴズヴァールは王へ身体を向け、頭を下げて謝意を述べた。



「王よ。御話を中断してしまい申し訳ありません。俺と、この者等の罰は、如何様にも」


「い、いや。いいんだ。ゴズヴァール、その、我が血族の為にそこまでの忠義を持ってくれて、本当に感謝している。ありがとう」


「はっ」


「……皆の言にも一理はある。私も気持ちが逸り、つい口から言葉が出てしまっていた。今後は注意しようと思うが、今回は許してほしい。それで良いだろうか?」


「……お、仰せのままに」


「貴様等、王の寛大さに感謝するのだな。……そして、次にマシラ血族に対して借り物の権威を振り翳せば。その時は、俺の忠義が貴様等を裁く事を肝に銘じておけ」


「……」



マシラ王が苦笑を浮かべつつその場を収め、

それにゴズヴァールは納得した上で、

元老院の者達と高官達に威圧の言葉で釘を刺した。


全員がゴズヴァールに改めて恐怖し萎縮した場で、

唯一の発言が許されたかのようなマシラ王が、

改めて口調を整え、跪いたままだったリディアに話し掛けた。



「改めて、リディア殿と呼ばせて頂こう。そして、マシラを代表する者としてではなく、私個人の意思で質問をさせて頂く。宜しいだろうか?」


「承りました」


「それでは、質問をさせて頂く。……リディア殿。貴方にはレミディアという姉がいなかっただろうか?」


「……はい。私にはレミディアという、五つの時に生き別れた姉がおりました」


「やはり……。……リディア殿。貴方に伝えるべき事がある。聞いてくれるだろうか?」


「はい」


「……君の姉レミディアは、十年程前からこの王宮で暮らしていた。私の側仕えとして。そして私と関係を持ち、このアレクサンデルを宿して生んだ。……しかし一年前に、レミディアは死んだ」


「……」


「私が不甲斐ないばかりに、彼女を死なせてしまった。……リディア殿。顔を上げ、膝を上げてほしい」


「……」


「彼女を、レミディアを愛した一人の男として。また、この子の父親として。そして彼女の家族である君に対して謝りたい。レミディアを守れず、本当にすまなかった……」



マシラ王は玉座から立ち上がり、頭を下げた。

跪くリディアは頭を上げた上で、

頭を下げるマシラ王に応えて立ち上がった。


そして真っ直ぐにマシラ王を見据えながら、

リディアは口を開いて告げた。



「……ウルクルス陛下。もし私に姉の事で謝意を述べられるのあれば。私が貴方に差し出すのは許しの言葉ではなく、今から述べる一つの願いを貴方に差し出し、受けて頂く事こそを望みます」


「叶えたい願い……。それは?」


「私はここまで仲間と共に旅をして参りました。その仲間が今、近しい者の死の報せを受けて、失意の中で苦しんでおります」


「……君の願いとは、つまり……」


「はい。マシラ血族が用いる秘術を使い、その者を救って頂きたい。私がこの場に赴いた理由が、ウルクルス陛下にそうお願いする事でありました」



そうマシラ王に頼んだリディアに、

周囲に等しい動揺が走った。


マシラ血族の秘術は一般的に知られてはいない。

その秘術の内容はマシラ共和国では極秘事項であり、

またその秘術は共和国の為に使用する事を前提とし、

元老院と高官達は使用を制限する事を取り決めていた。


何人かが声を出しリディアの願いを止め、

その内容を厳しく批難しようとしたが、

それすら予期していたゴズヴァールが睨みを利かせ、

身を乗り出そうとした周囲に威圧を加えて黙らせるに至った。


マシラ王はゴズヴァールが周囲を押し留めた事に気付き、

敢えて隣に控えるゴズヴァールに聞いた。



「ゴズヴァール……」


「元々マシラの秘術とは、当主御自身が判断し行ってきた事。俺自身、先々代の当主様の懇意を受けて、秘術の恩恵を授かりました。ウルクルス様も、国と法に縛られることなく、マシラ血族の現当主として、なさりたいようにすればよろしい」


「……そうか」



そう述べて口を閉じたゴズヴァールから視線を離し、

眼下で立つリディアの顔を、改めてマシラ王は見た。


そして考えるように瞳を閉じ、

十秒ほどの思考を終えたマシラ王は、

リディアに対して微笑みながら答えた。



「リディア殿。貴方の願い、我が名と血を持って、そして私が愛したレミディアの名に誓って、応えさせて頂こう」


「……ありがとうございます。ウルクルス陛下」



リディアの願いを聞いたマシラ王は、

その後に幾つかの詳しい話を聞き、

後ほどゴズヴァールを通じて願いを実行する事を告げた。


こうして、リディアとマシラ王の謁見は終了した。


心の翼が折れたアリアを立ち直らせる為の祭事が、

リディアの名に戻ったケイルに成された瞬間でもあった。





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