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看板傭兵


独特な和解をしたアリアとケイルは、

傭兵ギルドに向かう道すがら、こんな話をしていた。



「そういえば、気付いてたの?」


「ん?」


「あの子が王子だってこと。初めて会った時に気付いてたの?」


「……いや。王子が生まれる前に調査でマシラから出たから容姿なんて知らねぇし。五年ぶりに戻って来たんだぜ?あの人が死んでる事も、王宮の様子がどうなってるのかも知らなかったさ」


「知ったのは、どのタイミング?」


「お前等とあの家で最後に別れて、情報屋のとこに行った後だ。色々と他の情報を確認してて、そっちに伝えるのが遅れた。……悪かったな」


「別にいいわ。闘士の動きも早すぎたし、貴方がそういう情報を得る機会を逃してたのも、私が家の片付けを手伝わせてたのが原因でしょうからね」


「まぁ、そうだな」


「……でも、多分だけど。あの子、ケイルがお母さんの妹、つまり叔母さんって気付いてたかもね」


「!」


「最初は戸惑ってたみたいだけど、ケイルを見てから妙に落ち着いてたし。言われた通りに野菜を洗ってたでしょ?叔母さんの御手伝いをして、叔母さんの手料理を食べれて良かったんじゃないかしら?」


「……おい。その叔母さんっての、やめろ」


「だって叔母さんじゃない。事実を受け止めなさい、叔母さん」


「お前にはもう絶対、料理なんて作ってやんねぇ」


「ごめんなさい、また作って!」


「嫌だ」



そんな思い出を軽く話しつつ、

アリアとケイルは首都の中層を歩き、

大きく構え立つ傭兵ギルドの建物に辿り着いた。


そしてアリアとケイルが傭兵ギルドの入り口を潜ると、

相変わらず中の様子は賑わっており、

様々な人々が行き交いながらギルドの運営が行われていた。



「盛況みたいね。前より人が多くない?」


「闘士に規制されてたせいで、首都から出れない奴等が多かったからな。今回の事件が終息して、やっと首都から出て行ける連中が依頼を出し始めてるんだよ」


「そっか。そういえば結局、闘士はどうなるの?」


「どうって?」


「今回の事件で、多方面で好き勝手やってたんでしょ。何か御咎めとかないの?」


「さぁな。あいつ等もあいつ等で、マシラ王の茶番劇に付き合わされた立場だからな。幾らかの制裁はあっても、解散ってことにはならないだろ。何より、元老院の連中もゴズヴァールや他の戦力を手放したくはないだろうからな」


「そう……」


「不満か?」


「不満が無いと言えば嘘になるけど、しょうがないと言えばしょうがないものね。……私達は別に、この国の根幹を変えることなんて、しなかったものね」


「だな」



そう言いながらギルド内を歩き、

傭兵用の受付に並び立ったアリアとケイルは、

受付の順番を待ち、少しして受付女性の前に辿り着いた。



「次の方、どうぞ」


「こんにちは。ギルドマスターのグラシウスさんと御話があるのですが、宜しいでしょうか?」


「失礼ですが、面会の御予約をされている方でしょうか?」


「いえ。必要なら面会の予約をして頂けると」


「そうですか。では、面会者の御名前と傭兵認識票を御確認させて頂きます」


「はい、どうぞ。名前はアリアと、ケイ――……」


「……えっ!?」



アリアの認識票と名前を聞いた瞬間、

受付女性が驚く表情と短くも高い声を上げた。


それに驚いた周囲の何人かがアリア達の方を見ると、

何名かがアリアを見つつ、囁くように小声を漏らした。



「……金髪碧眼の女。まさか……」


「えっ。まさか、あの……?」


「マジかよ……」



そんな声が周囲から聞こえ始め、

目の前の受付女性も驚きの視線を向けた事で、

アリアはケイルに対して焦りつつ聞いた。



「ちょっと、コレ。どういうこと?」


「……あー、そうか。そうだったな」


「何がそうなの!?」


「言っただろ。お前、ゴズヴァールとやり合ったのが広まってるんだよ。金髪碧眼のアリアっていう女傭兵が、闘士長ゴズヴァールと互角に渡り合ったってな。そのせいだ」


「なんでそれだけで、こんな……」


「お前は知らないから無理ないけど、ゴズヴァールはこの国じゃ超有名人だからな。傭兵連中でさえ手に負えない魔獣や極悪人なんかを退治しちまってるし、国民からは勿論、傭兵連中からは一目置かれてるどころか、強すぎて敬遠され恐れられてたんだ。そんな奴と互角に渡り合ったなんて噂が広まったら、こうもなるだろうぜ」


「えぇ……」



そう教えるケイルの言葉に納得しつつ、

アリアは明らかに嫌な顔を見せて表情を引かせていた。

そんな中で、目の前の受付女性が慌てつつ、

アリアの顔を見ながら頭を下げて話し始めた。



「し、失礼しました。二等級傭兵のアリア様ですね。今、ギルドマスターにお知らせしますので、少々お待ちください!」


「えっ、あの。ちょっと……」



そう告げて走り出していく女性受付を見送りながら、

アリアは呆然としつつ苦笑を浮かべ、

そのアリアの肩を軽く叩き首を横に振ったケイルは、

数分後にギルドマスターの居る部屋まで通された。


そこで座って待っていたグラシウスが、

ニヤけた悪い笑みで二人を出迎えた。



「よう。元気だったか?」


「元気そうに見えます?」


「思ってたよりな。ドルフの言う通り、厄介事に巻き込まれる体質みてぇだな。お前さんは」


「そんなこと言ってたんですか、あの人」


「事実だろ?」


「……否定はしません」



そんな会話をグラシウスと行いつつ、

アリアとケイルは勧められた椅子に座り、

改めて挨拶を交わした。

その際、グラシウスがケイルを見て喋った。



「ケイル。改めて言うが、まさかお前があの、第四席ケイティルだったとはな」


「ああ。まぁ、色々とな」


「ドルフの所で登録し直したんだってな。どうする、昔の番号で再登録するか?」


「いや、別にいい。気長にまた上げるさ」


「そうか、勿体ねぇな」



そんな会話を行う二人を見ながら、

アリアが不思議そうに聞いた。



「どういうこと?」


「ケイルは五年くらい前まで、ここで傭兵してたんだ。その時に確か、一等級まで上がってたはずだぜ。ただ、三年前から更新がされてなかったせいで、登録は消えちまったんだ」


「へぇ、再更新すればいいのに。一等級って、二等級の私達より上でしょ?」



そう聞かれるケイルは面倒臭そうな表情を浮かべ、

眉を顰めながら再登録をしない理由を教えた。



「一等級や特級傭兵は、昇級後が面倒くさいんだよ。上級魔獣や王級魔獣が出た時には問答無用で駆り出されるし、大富豪とか貴族とかの面倒な護衛依頼なんかも、傭兵ギルド側がガシガシ押し付けてくるんだぜ。三等級か二等級辺りが丁度良いんだよ、気楽で」


「へぇ、そうなのね」



一等級以上の傭兵が抱える実情を聞いたアリアは、

今の等級のままでも問題無いと考える中で、

傭兵ギルドのマスターであるグラシウスは、

苦笑を浮かべながら訴えた。



「おいおい。ギルドマスターの前でそういう事を言うなよ。……ところでアリア嬢。お前さん、一等級傭兵になる気は」


「ないです」


「そ、そうか……」


「なんで一等級にする必要があるんですか?」


「……ここだけの話にして欲しいんだがな。マシラはなぁ、闘士連中が強すぎて、傭兵の立場が狭いんだ……」


「でも、今日もギルドは繁盛してるように見えますけど?」


「ギルド自体はな。だが、闘士長ゴズヴァールには強さで敵わねぇし、闘士の序列上位者達はマシラ国民からの人気も高い。その中で女連中の人気は、長身美形の第二席エアハルトと、笑顔が可愛いとかで美少年闘士の第三席マギルスに集中しちまってるし……」


「は、はぁ……」


「傭兵ギルド側で看板に出来るのが、一等級傭兵団の【赤い稲妻】の連中だけじゃ、闘士連中と比べて名前も顔も負けちまうんだよ。だから人気が出そうな看板傭兵が、今のギルドに欲しい」


「それで私達を一等級にして看板傭兵に、という事ですか?」


「ああ。あのゴズヴァールと互角にやり合ったアリア嬢は見た目からして華があるし、第四席の仮面剣士の素顔はワイルドな女傭兵ケイル。女達の人気は無理でも、男連中の人気を獲得する為に、傭兵ギルドに腕利きの華が欲しい!」


「そういうのには興味が無いので、お断りします」


「同じく」


「そ、そうか。……良い案だと思うんだがなぁ……」



ケイルとアリアに拒絶されたグラシウスは、

大きな溜息を吐き出しながら顔を横に振り、

苦笑いを浮かべざるをえなかった。





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