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五年後の旅立ち


 数多の困難を乗り越え、人類と彼等が棲み暮らす人間大陸を救った、四名の英雄達が存在する。

 彼等の名は人間大陸の歴史と、人々の記憶に刻まれていた。


 一人の名は、『虐殺者(スレイヤー)』エリク。

 一人の名は、『白金才姫(プリンセス)』アリア。

 一人の名は、『紅炎月姫ルージュ』ケイル。

 一人の名は、『蒼光騎士(アズール)』マギルス。


 彼等は別々の場所で出会い、人間大陸を旅する仲間(パーティ)として様々な事件に遭遇する。

 それに付随するように様々な人々を救い、多くの功績や逸話と共に数々の文献が残されていた。


 しかしある日を境に、彼等は人間大陸から姿を消す。

 その消息を知る者は数少なく、また流れる月日は彼等の名と姿を人々の記憶から薄れさせ始めていた。


「――……五年、今日で経ったよ。……約束、破ったね。マギルス」


 そして彼等が消えた五年後、とある国で一人の少女に視点は移る。

 自室の窓から青い空を見上げた彼女は憤りと寂しさを宿した表情を浮かべながら呟き、長い黒髪を後ろに結い纏めた。


 彼女は身に着けていた赤い装束(ドレス)を脱ぎ捨て、身軽な旅服を身に着ける。

 更に赤薔薇が彩られた赤と金の外套(マント)を羽織りながら、軽快に歩きながら自室から歩み出た。


 すると部屋の外で待機していた二人の騎士は、慌てる様子を見せながら彼女を呼び止める。


「――……ひ、姫様! その恰好は……!?」


「お父様、今日は執務室だよね?」


「な、何を……!」


「今日は、約束の日だから」


「お、御待ちください!」


 騎士達は留める様子を見せながらも、彼女はそれを無視するように歩み続ける。

 そして幾つかの廊下と階段を歩きながら辿り着いた部屋の前に待機していた騎士達すらも無視して無遠慮に扉を開けた彼女は、そこに居る人物に声を向けた。


「お父様!」


「――……シエスティナか」


「今日が、約束の日です。――……この私は帝城(しろ)を出て、マギルス達を探しに魔大陸に行きます」


「……」


 そう述べる彼女をシエスティナと呼ぶのは、伸ばしていた髪を切り口髭を生やすようになった青年。

 姫と呼ばれる彼女(シエスティナ)の父親であり、この帝国(くに)の皇帝である人物だった。


 すると苦々しくも厳かな表情を浮かべた皇帝が、座っていた椅子から腰を上げて入室した彼女に歩み寄る。


「……私は、それを認めてはいないはずだが?」


「私も言ったはずです。今日この日の為に、私は帝国(ここ)で待ち続けた。……でも約束は守られなかった。だから私は行きます」


「皇帝として、そしてお前の父親である私の言葉が聞けないと?」


「……今まで、お父様達の言うことをちゃんと聞いていました。勉強も社交も、この帝国(くに)の『皇子』として必要な事はしてきたつもりです」


「ならば……」


「それもこれも、今日という日の為に我慢していたことです。……それが叶わないなら、私はこの帝国(くに)と立場を捨ててでも行きます」


 毅然とした態度でそう述べるシエナの言葉に、皇帝(ちちおや)は表情を険しくさせる。

 そして言い淀む口を開き、反論とも言うべき言葉を述べた。


「しかしお前は、まだ十五歳になったばかりだ」


「十五歳は、この帝国(くに)ではもう成人(おとな)のはずです」


「まだ成人したての娘が一人で旅するなど、了承することは出来ん」


「でもアルトリア叔母様も、十五歳で帝国(ここ)を出て旅をしたと聞いています。そして仲間を集めて、マギルス達と一緒に魔大陸に向かった」


「アレを引き合いに出すな。アルトリアは例外中の例外だ」


「だったら、どうやったら私が旅するのを認めてくれるんですか? 現在(いま)の実力はローゼン伯父様や御爺様だって認めてくれてるし、条件の一つだった魔法学園も首席卒業で終えました」


「……む、ぅ……」


「お母様やクレア御婆様も、今まで説得し続けて了承も貰いました。――……ずっと旅するのを認めてくれないのは、お父様だけです」


「……」


 口々に言葉を向けながら皇帝である父親を問い詰めるシエスティナは、僅かに怒りを含ませた睨みの表情を向ける。

 すると弱々しく悲しそうな表情を浮かべる皇帝は、本音とも言うべき言葉を返した。


「魔大陸は、とても危険な場所だと聞く。そして彼等と同じように、お前も戻ってこなかったら……そうなったら私は、一生その事で後悔するだろう」


「……」


「だからこそ、絶対に認められない。そんな危険な場所に、愛する娘が行くことは……。……絶対に、認められん」


 父親としての深い愛情と意思を持つ彼は、娘が危険な場所に赴くことを許可できない事を伝える。

 それを聞いた娘シエスティナも微妙な面持ちを浮かべながら視線を横に逸らし、父親から愛されているからこそ心配され許可されない事を理解した。


 しかし納得できないからこそ、彼女は父親の説得にこうした言葉を返す。


「……私、お父様もお母様も……御爺様や御婆様達も、帝城(ここ)に居る皆も、みんな大好きです」


「なら……!」


「でも、マギルスは私の……大事な友達(ひと)です」


「!」


「マギルスは、ちゃんと私と約束したんです。五年経ったら戻ってくるって……。……でも、戻ってこない……。きっと、何か遭って……だから戻ってこれないんだって……」


「……シエナ」


「それが分かってるのに、ずっと待ってるだけなんて……。……友達の力になれないなんて……。私、嫌だ……っ!!」


 両拳を握りながら肩を震わせるシエスティナは、顔を伏せながら異なる青と黒の瞳から涙を零し始まる。

 すると正面に立つ皇帝(ちちおや)は、娘の左肩に右手を置きながら言葉を向けた。


「……お前の気持ちは、私も理解できる。……だが何の当ても無く彼等を探しに向かったところで、お前も二の舞となるだけだ」


「でも……!」


「私から『青』に、何か彼等から情報が届いていないか確認してみよう。それを待って――……ん?」


 宥める皇帝は落ち着かせるように言葉を向け、優しく微笑みかける。

 しかし彼女が入って来た際に閉められていた扉から軽く三度ほど叩く音が聞こえ、そこに意識を向けた。


 すると皇帝の入室許可を待たず、そこにある人物が入って来る。

 それは二人にとって馴染みのある人物であり、その人物の名を皇帝である彼は口に出した。


「フロイス卿」


「――……シエスティナ様が、こちらに伺っていると聞きましたので」


「そうか。……シエナが、マギルス殿達を探す為に魔大陸に行きたいと言っているんだが……」


「なるほど。やはり、その話でしたか。――……後は私に任せて、皆は待機を」


「は、ハッ」


 フロイス卿と呼ばれる人物は扉の前で待機していた騎士達にそう述べ、自らも扉を閉めて部屋の中に入る。

 そして両目から零れる涙を手で拭うシエスティナを眼鏡越しに見下ろしながら、落ち着いた声を向けた。


「シエスティナ」


「……はい」


「確かに、君の実力を私は認めた。生命力(オーラ)と魔法の技術、そして『生命の火』を巧みに扱えるようになった今現在、この帝国内においては君に勝てる者は皇帝陛下くらいだろう」


「……」


「だが世界は広い、君の実力では到底及ばぬ存在は多いはずだ。……特に魔大陸に居る魔獣や魔族は、全盛期の私や今の皇帝陛下すら苦戦し敗北しかねないほどの猛者達が各地域を支配している」


「!」


「そして英雄と呼ばれた彼等は、今の君より遥かに強かった。そんな彼等ですら今も戻れないところを見ると、魔大陸とそこに棲む者達は一筋縄では行かない相手なのだろう」


「……で、でも……」


「感情だけで動いても、何事も解決しない。私はそう教えたな?」


「……はい」


「今の君は、ただ感情だけで動いている。……自分がやるべき事も分からずに闇雲に動いても、それは無駄なだけだ」


「……ッ」


 フロイス卿はそう述べ、落ち着き払った声ながらも低く重圧のある叱りを向ける。

 それを苦手としているのか、シエスティナは反論する事が出来ずに顔を沈めながら口を噤んだ。


 そうして落ち込む様子を見せるシエスティナを見下ろすフロイス卿は、小さな溜息を零しながら皇帝に視線と声を向ける。


「……皇帝陛下。いや、ユグナリス」


「?」


「実は、シエスティナに会わせたい人物が居る」


「会わせたい? それは、誰のことです?」


「私の友人だ。彼は幾度か帝国に訪れていたので、シエスティナの事も話していた」


「貴方の、友人……?」


「そこで幾つか、彼から気になる話を聞いている。――……彼は近年、魔大陸にも足を運んでいたそうだ」


「!」


「!?」


「そして今日、シエスティナが約束の日である事も伝えていたことで、彼が訪問している。――……更には、シエスティナや君に伝言があると」


「伝言……?」


「マギルス達からの伝言だそうだ」


「えっ!?」


「――……その人に、会わせてっ!!」 


 フロイス卿が話すその言葉を聞き、皇帝ユグナリスは驚愕の表情と声を浮かべる。

 同時に異なる色の両瞳を見開いたシエスティナは、勢い強く詰め寄った。


 それを了承したフロイス卿は頷き、部屋の扉を開けて皇帝の執務室から出て行く。

 シエスティナもそれを追い、慌てるように皇帝ユグナリスもそれを追うように執務室を出た。


 それから外に控えていた騎士達を伴いながら、フロイス卿は二人を帝城内に設けられた訓練場へ足を運ぶ。

 するとそこには、灰色の外套(マント)と白髪を靡かせる老人男性が立っていた。


 そして老人男性に歩み寄るフロイス卿は、穏やかな声を彼に向ける。


「連れてきたよ」


「――……ありがとうございます。……そうですか、彼女が……」


「……彼は……?」


「貴方が、マギルスに会った人ッ!?」


 老人は微笑みながらシエスティナを見ると、感慨深い様子を浮かべる。

 そんな彼等の様子を伺う皇帝ユグナリスは、見覚えの無い老人に訝し気な表情を浮かべた。


 しかしシエスティナはそんな事に構うこともなく、老人に駆け寄りながら勢い強く尋ねる。

 すると微笑みを浮かべる老人は、頷きながら話を始めた。


「ええ、マギルス殿と御会いしましたね」


「ど、どこでっ!?」


「魔大陸ですよ。丁度、私が旅をしている時に御会いしましてね」


「いつっ!?」


「確か、一年ほど前でしたね。首無騎士(デュラハン)達が棲む(さと)で、修練を受けていました」


「!!」


 老人はそう話し、一年前に出会ったマギルスの状況を伝える。

 それに驚く様子を浮かべたシエスティナを他所に、皇帝ユグナリスも近付きながら話し掛けた。


「……貴方は、フロイス卿の御友人ということだが……?」


「ええ、彼とは古い友人です。……御父君であるゴルディオス陛下に似て、立派になられたようですね。ユグナリス陛下」


「え……?」


 父親である前皇帝(ゴルディオス)の事も知る様子を見せる老人に、皇帝ユグナリスは更なる困惑を浮かべる。

 しかしそんなやり取りを無視するように、シエスティナは更なる追及の言葉を老人に向け放った。


「ま、マギルスからの伝言! なんて言ってたの!?」


「あぁ、そうでした。彼は貴方(シエスティナ)に、コレを渡すようにと」


「……貝殻……? ――……!」


 老人はそう言いながら懐から何かを取り出し、シエスティナに手の平に収まる大きさの貝殻を渡す。

 それを不思議そうに見るシエスティナだったが、突如として貝殻に青い魔力が灯り始めた。


 すると次の瞬間、その貝殻を通じてその場にある声が響き渡る。


『――……あー、あー! えっと、コレでいいのかな?』


「!」


「こ、これは……まさか……!?」


「マギルスの声だっ!!」


 貝殻から突如として響く声に、老人やフロイス卿を除くその場の全員が驚愕する。

 しかしシエスティナだけは喜びの声を浮かべ、貝殻に向けて自身も声を向けた。


「マギルス! ねぇ、マギルス!」


「その貝殻は、魔力を宿した持主の声を記録させる魔大陸の品です。なので、マギルス殿本人と直接話せるわけではありません」


「そ、そうなの……?」


「はい。しかしそれは、マギルス殿が貴方(シエスティナ)に宛てた伝言です」


「……!!」


 老人は改めて貝殻の機能を説明し、それがマギルスの魔力と伝言が込められた品である事を明かす。

 すると落ち着きを戻しながらも残念そうな表情を浮かべたシエスティナは、貝殻から聞こえるマギルスの声に意識を戻した。


『えっとね。まず、何から話したほうがいいかな。――……シエスティナ。多分、君との約束は守れないかも』


「!」


『ちょっと魔大陸(こっち)も色々とゴタついててさ。僕って今、アリアお姉さんやエリクおじさん達とは別行動してるんだよね』


「え……!?」


『エリクおじさんは今、魔大陸の南にある(オーガ)の国へ向かってる。そこで鬼神(フォウル)おじさんのもう一人の孫と会って来るんだって』


「オーガの国……!?」


「魔大陸にも国が……!?」


『アリアお姉さんはね、【魔大陸を統べる王】って呼ばれてるエルフの王様に会いに行ってるんだ。なんか知らないけど、アリアお姉さんの前世? がどうとかってのがエルフの王様に関係してて、話す為に呼ばれたみたい』


「……エ、エルフの王……!」


「実在するのか……」


『あとね、ケイルお姉さんはエアハルトお兄さんと一緒にフェンリルの里に向かったんだ。だからみんな離れ離れになっちゃって、今はみんなあちこちの王様達に協力して貰えるように説得中!』


「!」


『僕も首無騎士(どうぞく)(さと)に来てるんだけどさ。僕が弱いからって認めてくれないから、めっちゃ強くなる為に修行中! だから約束の五年(とき)には、戻って来れないかも!』


「……」


『ごめんね、約束したのに破っちゃって。ちゃんと後で戻ったら、針千本を飲まなきゃね』


「……マギルス……っ」


 元気な様相で話すマギルスの声色を聞いていた周囲の人々は、魔大陸に旅立った彼等の今現在について聞く。

 しかし貝殻を強く握り締めながら安堵の表情を浮かべるシエスティナは、自身との約束をちゃんと覚えていたマギルスの声に微笑みを浮かべた。


 すると次の瞬間、貝殻に灯っていた青い魔力が金色の魔力に変化する。

 しかも変化すると同時に、新たな声が周囲に響き渡った。


『――……ユグナリスッ!! コレ、聞いてるッ!?』


「!?」


「えっ!?」


「……まさか、この声……アルトリアか……!?」


 突如としてマギルスから変化した女性の声に、その場の全員が驚愕する。

 しかし皇帝ユグナリスは嫌悪にも似た表情を浮かべ、その声の持主が自分の従妹であるアルトリアだと真っ先に気付いた。


 すると怒鳴るようなアルトリアの声は、ユグナリスに向けられた伝言として響き渡る。


『ユグナリス! アンタ今すぐ、魔大陸に来なさいっ!!』


「ハァッ!?」


『あと、アズマ国の(みかど)も連れて! 他の人選は任せるけど、青に伝えて大急ぎで来なさいよっ!!』


「な、何を言ってんだコイツ……!?」


『どうせ訳が分からないって間抜け面してそうだから手短に説明するけど! 創造神(オリジン)欠片(たましい)全てが必要になる事態になっちゃったのよ! だから急いでアンタ達も魔大陸のヴェルズ村に来るの! でないと、この世界そのものが滅びるわよっ!!』


「ハァッ!?」


「せ、世界が滅びるッ!?」


『大至急、急いで! 三年以内には絶対に来なさい! いいわねっ!? ――……』


 怒鳴るアルトリアの声が貝殻から響き渡った後、金色の魔力も消失する。

 するとシエスティナの手には声が響かぬ貝殻だけが残り、その場の全員が唖然とした様子を浮かべた。


 そして彼等の視線は老人に向けられ、この状況に対して声にならない疑問が向けられる。


「……あ、あの……」


「はい。アルトリア様にも御会いした際に、貴方にも伝言を伝えて欲しいと」


「……ア、アルトリアの……言ってたことは……?」


「彼等は、魔大陸でも大騒動を起こしているようですね」


「……あの性悪女……魔大陸で何してんだ……っ」


 頭を抱えながら悩む様子を浮かべる皇帝ユグナリスは、トラウマとも言うべき性悪女(アルトリア)の突如とした要求に頭を悩ませる。

 すると老人はそうした様子を微笑みながら諭し、次の言葉を向けた。


「と、いうわけでして。私は貴方達を魔大陸へ案内する為に参りました」


「……え?」


「帝国皇帝ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュ陛下。そしてアズマ国の帝殿。その二人を連れて魔大陸に向かうよう、アルトリア様から御願いされましてね」


「……えっ」


「できれば早急に準備をお願いします。もう既に一年が経過しているので、残り二年しか時間がありません」


「……あ、あの……拒否権とかは……?」


「貴方達が来ないと世界が滅亡するとアルトリア様が仰っているのに、断るのですか?」


「で、でも……俺、この帝国(くに)の皇帝なんですけど……?」


「政務の事でしたら、ローゼン公達に任せておけば問題ないと、アルトリア様は御考えのようでしたが?」


「……」


「ちなみに、『青』には既にこの伝言は伝えてあります。今頃はアズマ国に赴いて、帝を回収している頃でしょう」


「……え、えぇ……」


 老人は微笑みながらそう話し、既にアルトリアの伝言で事態が動き出している事を明かす。

 すると唖然とした様子のユグナリスや周囲の者達を他所に、シエスティナは貝殻を握る両手を強く握りながら父親であるユグナリスに声を向けた。


「――……お父様、私も行くから!」


「えっ」


「私も、マギルス達が居る魔大陸に行くからね!」


「いや、でも……!」


「一人じゃダメだけど、お父様と一緒なら良いよね?」


「え……ぁ……」


「良いよね?」


「……」


 微笑みを強くした娘シエスティナの了承を迫る言葉に、ユグナリスは強張った表情を浮かべる。

 それを見ていたフロイス卿は溜息を零し、ユグナリスに向けて言葉を向けた。


「……私から、ローゼン公や皇后様達には伝えておきましょう」


「えっ」


「事態は一刻を争う。そして世界の存亡に関わるならば、人間大陸を代表し一国の王として協力することに誰も異論はありますまい」


「い、いや……でも……レクスも、もうすぐ六歳の誕生日だし……」


「レクセルス皇子も、父親が世界を救う為に旅立つならば納得してくれるでしょう。何より、彼は幼少時からローゼン公の下で教育を施されていますからね。次期皇太子として、将来を期待できるほどの成長を見せてくれていますよ」


「……」


 どうにか旅立つ事態を防ごうとする皇帝ユグナリスに対して、フロイス卿(ウォーリス)は現状を鑑みた言葉を向ける。

 そして世界の滅亡という天秤に掛けられて拒否する事も出来ないユグナリスは、深い溜息と諦めの表情で顔を沈めた。


 そして諦めたユグナリスと、嬉々とした様子を見せるシエスティナは、互いに旅立つ為の準備を進める。

 すると家族である皇妃リエスティアは二人の旅立ちを聞き、心配そうな表情を浮かべながらも納得した様子で了承を見せた。


「――……シエスティナ、お父様をあまり困らせないようにね」


「はい、お母様!」


「陛下――……いいえ、ユグナリス様。シエスティナを、守ってあげてください」


「勿論だ。……だけど……」


「この帝国(くに)や、私達の事は大丈夫です。どうか、アルトリア様達の御力になってあげてください」


「……分かった。……愛してるよ。そして、行って来る」


「はい、いってらっしゃい。二人とも」


「いってきます!」


 皇族である三人の家族は互いに微笑みを浮かべ、旅立ちの挨拶を終える。

 そして訓練場で待機していた老人が居る場所に戻ると、改めてユグナリスは問い掛けた。


「――……ところで、貴方はいったい……?」


「私のことでしたら、フレッドとでも呼んでください」


「フレッド殿……。……貴方とは、初めて会った気がしない。どこかで御会いした事がありますか?」


「ええ。もう何年も前ですが」


「そう、ですか。すいません、覚えてなくて……」


「いいえ、貴方のせいではない」


 フレッドと名乗る老人に対して、ユグナリスは奇妙な既視感を感じる。

 その理由が判明しない事に思考が曇る父親(ユグナリス)を他所に、傍に居る娘シエスティナが焦るように口を開いた。


「お父様! お爺さん! 早く行こう! マギルスのとこへ!」


「そうですね。――……では、御二人を案内しましょう。彼等が旅立った、魔大陸へ」


 二人の肩に両手を置いたフレッドは、微笑みを浮かべながら周囲に緑色の魔力を粒子化させる。

 そして次の瞬間には、その場から三人は姿を消していた。


 それを見送る騎士達が驚愕する中、フロイス卿だけは青い空を見上げながら小声を漏らす。


「……二人を頼んだぞ、アルフレッド。――……そして、アルトリア嬢……傭兵エリク……」


 旅立つ二人の家族を見送ったフロイス卿(ウォーリス)は、親友(アルフレッド)に彼等を託す。

 そしてその先で待つであろう二人の人物にも願うように呟き、彼等が目的を果たせるように願った。


 こうして五年の月日が流れた人間大陸において、かつて世界の危機に立ち向かった英雄達が再び集う。

 それに混ざる若くも成長したシエスティナは、友達との再会を果たす為に魔大陸へと旅立ったのだった。


 『虐殺者の称号を持つ男が元公爵令嬢に雇われました』をご覧頂き、ありがとうございます。


 今回のオマケは、本編終了から五年の時間が経過した話でした。

 やっぱり魔大陸でも騒動を起こしている彼等と、それに振り回される他の人物達の様子です。


 そして2025年、新年あけましておめでとうございます。

 こっそりと最初辺りの話を再編集・再修正しているので、興味がある方はご覧ください。


 以上、オオノギでした。ではでは(`・ω・´)ゝビシッ

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