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世界の歪み


 アリアとエリクを出会わせる為に、『黒』の能力(ちから)によって別未来から来た白馬(ファロス)は二人を引き合わせる為に場所(もり)へ導く。

 それを伝えた白馬(ファロス)の魂は輪廻に逝き、片割れの魂である青馬(ファロス)はその記憶を継承しないまま現世へ留まった。


 二人はそれを見送った後、共に飛行船(ふね)へ戻る。

 すると船内を散策してたマギルスと二階で遭遇し、二人と一緒に戻って来た青馬を見ながら声を掛けて来た。


「――……あれっ。居ないと思ったら、おじさん達と一緒だったの? 何してたの?」


『ブルルッ』


「呼ばれた気がした? 誰に?」


『ブルッ』


「分かんないって、何それ?」


 青馬(ファロス)の話を聞きながら首を傾げるマギルスを、少し離れた位置でエリクとアルトリアが見つめる。

 そうした中で、心を落ち着けた二人は改めて青馬(ファロス)に関する話を行った。


「……まさか青馬(やつ)も、俺達と同じように『(クロエ)』の能力(ちから)で未来を変える為に来ていたんだな」


「そうね。そして私達は、偶然でも奇跡でもなく、必然としてあの森で出会わされたってことね」


「ああ。……俺達が出会わなかった未来も、世界は滅びたと言っていたが。何があったんだろうか?」


「分からないわ。そもそも『(クロエ)』は、ログウェルやウォーリスにも干渉して未来を変えようとしていたみたいだし。元々、干渉していない別未来から来たのか。それとも干渉しても失敗した別未来から来たのか、分からな――……ッ!!」


「……どうした?」


 二人が『黒』や別未来の話を交わす最中、アルトリアは言葉を止めて何かに気付くように驚愕の表情を浮かべる。 

 それに気付いたエリクはその顔を覗き込むと、暫しの硬直を見せていた彼女(アルトリア)は口を開いた。


「……そういう、ことなの……?」


「どうしたんだ?」


「……だとしたら、辻褄は合うけれど……。……でも、これを解決するって……どうやって……」


「アリア、どうしたんだ。……いや、何に気付いた?」


「……艦橋(ブリッジ)に行くわ! 皆も集めましょうっ!!」


「!」


「マギルス! アンタ達も艦橋(うえ)に来なさいっ!! 大事な話をするから!」


「えー、なに? どんな話?」


『ブルルッ』


 考え込む様子から一転するアルトリアは、そう告げながらその場に居る者達に呼び掛ける。

 そして彼等と共に昇降口(エレベーター)に乗り込み、艦橋(ブリッジ)へ赴いた。


 艦橋(そこ)で考え込むように床へ座りながら座禅を組んでいたケイルは、戻って来た三人と青馬の姿を確認しながら立ち上がる。


「――……なんだ、もう時間か?」


「エアハルトは?」


「アイツは、向こうの部屋に……」


「そう。まぁ、アイツも行くなら情報共有は必要だろうし。マギルス、呼んで来て」


「はーい」


 問い掛けられたアルトリアは逆に問い掛け、マギルスにエアハルトを呼びに行かせる。

 それが焦りの表情である事に気付いたケイルは、改めて強い口調で問い掛けた。


「どうした、何かあったのか?」


「……『世界の歪み』。その現象が何なのか、分かったかも」


「え?」


「でも、私だけじゃ判断できない。『青』と通信を繋げるから、ちょっと待って」


「お、ああ……」


 そう言いながら操縦席に近付くアルトリアは、操作盤(コンソール)を操作し始める。

 するとケイルはそれを見ながら、エリクに近付いて問い掛けた。


「どういうことなんだ?」


「俺も分からない。だが、アリアがまた何かに気付いた」


「『世界の歪み』って、創造神(オリジン)の対となってるって話だろ? アイツ、何が分かったんだ……」


「俺達が気付かない事を気付いてくれる。それが、アリアの頼もしいところだ」


「……それは、違いねぇけどよ」 


 二人はそう語り、操作盤(コンソール)を扱うアルトリアの背中を見つめる。

 そうした最中にマギルスが戻り、その後ろからエアハルトも嫌々な表情を浮かべながら付いて来ていた。


「……フンッ」


「……」


 戻って来たエアハルトを見たケイルだったが、それも互いに視線を逸らし合う。

 その様子に気付いたエリクは、ケイルにも問い掛けた。


「……あの後、何かあったのか?」


「いや。……コレは、アタシとアイツ(エアハルト)の問題だろうからな」


「……そうか。俺に何か出来るなら、言ってくれ」


「ああ」


 剣呑な雰囲気から変化したエアハルトとケイルの関係にエリクは気付き、そうした会話を行う。

 それから数分後、飛行船(ふね)の周囲を映し出していた前方の映像装置(モニター)が黒く変化し、そこに『青』の姿が現れた。


 そして艦橋(ブリッジ)全体に、画面(モニター)の向こうに見える『青』の声が響き渡る。


『――……もう出発していると思っていたが、どうした?』


「『青』、アンタに聞きたい事があるの」


『何だ?』


「『黒』の七大聖人(セブンスワン)、アイツの能力(ちから)について」


『黒の能力について?』


「『黒』は空間や時空間に干渉する能力(ちから)を持っていて、転移系を始めとした魔法を使う。更に時を止めて動くことも可能。そして最大の能力(ちから)は、自分の命を代償にして未来を改変する為に選別した対象者の魂や実体を過去に送り込む。そうよね?」


『……うむ。儂が把握している限りでは、その能力(ちから)に相違ない』


「じゃあ、改変される前の未来(せかい)はどうなってるか知ってる?」


『改変される前の、未来(せかい)?』


「そうよ。……『黒』は今までにも何度も、未来を変える為に同じ事をしていたはずよね。じゃあ、その別未来はどうなってるの? 過去に戻った段階で、無かった事として消滅してると思う?」


『……儂は、そう認識していた』


「私も、さっきまでそう思ってた。……でも、違うのかもしれない」


「!」


『なに?』


管理施設(むこう)で会った『白』が言ってたのよ。別未来で人間を虐殺してた『(わたし)』が現世に留めてた魂が、一気に輪廻へ送り込まれたって。そしてその後、私達が過去に戻ると同時にその魂達も現世へ戻ったとも言ってた」


『……別未来の魂が、今の現世に戻った。だからこそ、当時は人々が悪夢を見たとも言っている。ならばやはり、黒の能力(ちから)によって過去に戻ったのではないか?』


「魂はそうかもしれない。……じゃあ、世界は?」


『世界だと?』


「別未来の世界よ。――……メディアの話が本当なら、ログウェルは何度も世界の滅びを見てた。それも別未来の話のはず。……でも、その別未来の世界は本当に滅んで無くなってるの?」


『……まさか……!』


 幾度もアルトリアの問い掛けを聞いていた『青』は、何かに気付く様子で表情を驚愕へ変える。

 それに同意するように頷く彼女(アルトリア)も、自身の結論を伝えた。


「私も、その可能性を考えてる。そしてそれこそが、創造神(オリジン)を元凶とした本当の天変地異……『世界の歪み』なのかも」


「……お、おい。何の話をしてんだよ……? アタシ等にも分かるように言えよ!」


 後ろで話を聞きながらも意味を理解できない一行の中で、ケイルが代表して問い掛け始める。

 するとアルトリアは息を整えながら振り返り、彼等に視線を向けながら答えた。


「……簡単に、私の結論を言うわ。『世界の歪み』と呼ばれる現象を引き起こしている、創造神(オリジン)の対となる存在は――……『黒』の七大聖人(セブンスワン)よ」


「!?」


「『黒』の七大聖人(セブンスワン)は、創造神(オリジン)の破壊衝動から生まれた存在。そして創造神(オリジン)の肉体と能力(ちから)を使っている。……その能力が引き起こしている現象こそが、『世界の歪み』の正体だったのよ」


「……おい、それって……!」


「そう。別未来の私や貴方達を、過去の世界に戻した能力(ちから)。……いえ。あれは世界そのものを過去に戻すんじゃない。過去の世界そのものを、『創造(つくりだ)している』のだしていたとしたら?」


「!!」


「それが正しければ、創造(つくりだ)された過去を模す世界に、現世や輪廻の魂や実体を移されている。そして他の未来は……別未来の世界は、そのままの状態で『停止』しているのかも」


「……!?」


「そして、その別未来(せかい)が別空間……いえ、別次元に残ったまま今の私達が存在しているのだとしたら……。……私達と似た世界が、幾つも存在している事になる。それこそが『世界の歪み』の原因かもしれない」


 『世界の歪み』という現象について話すアルトリアの言葉に、その場の者達は驚愕した面持ちを浮かべる。

 しかし『黒』や別未来の事を知らないエアハルトだけは首を傾げ、微妙な面持ちで口を挟んだ。


「……何を言っているか分からん」


「とりあえず話を聞いときなさい。――……『青』、『黒』はどれくらい未来を変えた事があるか知ってる?」


『……分からぬ。儂自身、その事象を掴めていないからな。実際にそれを体験したのも、前回だけだ』


「そう。……青馬(この子)が私達と違う別未来から来た事を教えてくれなかったら、こんな単純な事にも気付けなかったわ。……いえ、それすら『黒』の予知していたんだとしたら……恐ろし過ぎるわよ、アイツ……」


 改めて『黒』のやって来た事に対して、アルトリアは悪態を漏らす。

 するとその話を聞いていたエリクが、自身の理解度を示しながら問い掛けて来た。


「……『(クロエ)』があの能力(ちから)を使って、未来を変える。その度に、別の世界が過去の姿で作られて。俺達はその世界に移動して、別未来はそのまま別の場所に残っている。そういう話か?」


「ええ、そうよ」


「確かに、その話が本当なら驚いたが。……別の未来(せかい)が別の場所に残ったままだと、何か問題があるのか?」


「……そうよね、そこの部分を理解し難いわよね。――……じゃあ、もっと簡単に説明しましょう」


 アルトリアはそう話し、再び操作盤(コンソール)に触れながら右の映像装置(モニター)を変化させる。

 そして次々と構築式(プログラム)を入力しながら、図面を作り出し映し出した。


 それを見せながら、アルトリアは説明を始める。


「私の推測だと、『黒』は過去となる別世界を創り出して現世や輪廻に居る魂や実体を移動させている。その際に、こうして世界は別次元で隣り合うように存在する事になるのよ」


「……この丸い二つが、別未来と、今の世界か?」


「ええ。……でも『黒』が作った世界が、また滅びる未来になった。その時、『黒』はそれを防ぐ為にまた別未来から過去を模した別世界を創り出す」


「……(まる)が、三つになった」


「そうして『黒』は、創造神(オリジン)能力(ちから)を使って世界を次々と創り出していく。そうすると――……こうやって、重なり続ける」


「……!」


「『黒』は、滅びを迎えるその別世界達を全て停止させた上で、輪廻や現世に居る私達の魂や実体を、最新版の世界に移動させてる。それが結果として、こういう図式(こと)にしてしまっているのよ」


 創り出される別未来を映す図は、画面を満たすように丸い球体に埋め尽くされる。

 それが徐々に拡大していきながら、一つの世界そのものが小さな点に見えるようになってしまった。


 画面(それ)を見せるアルトリアは、自身の推測として『別未来』の世界が数多に存在している事を明かす。

 それを聞いている最中、ケイルが気になる部分を指摘しながら問い掛けた。


「……待てよ。過去の世界を作ってるってのは何となく分かるし、魂や実体を移動させてるってのも転移魔法みたいなモンだと分かるが。でも、なんで別世界の時間を止めてるなんてのがお前に分かるんだ?」


「言ったでしょ、滅びる世界だって。もし私達の世界が……星が滅びる時。その膨大なエネルギーは、夜空に輝く星々と同じように強い光を放って爆発するはずなの」


「爆発……!?」


「その爆発で発せられるエネルギーは、別空間や別次元の壁さえ突破しかねないほど強力なはず。……もしそうなったら、せっかく創り出した新たな世界(ほし)も壊れてしまうかもしれない」


「……だから爆発しないように、別世界の時間を止めてるってことか」

 

「ええ。……逆に言えば、別未来の時間が動き出して世界の滅びと爆発が起きれば。全ての別未来や、今の世界も含めて……爆発に巻き込まれる」


「!?」


「だからこそ、『黒』は転生し続ける必要があるのよ。『黒』が本当の意味で死んだ瞬間、創造神(オリジン)能力(ちから)で止めていた別未来が動き出す。そして滅びが誘発されて、創られた別未来(せかい)ごと私達の世界(いま)も消え去ってしまうから。もしかしたら創造神(オリジン)の頃から、そういう事をやっていたのかもしれない」


「……マジかよ……」


「でも五百年前、本物の創造神(オリジン)が『少女(アイリ)』として生まれ変わった。そして創造神(じぶん)を模した権能(ちから)を七つ得て、創造神(オリジン)と同じ能力(ちから)を得た。その結果、当時は既に死んでいた『黒』の能力(ちから)無効化(リセット)されて、滅びる別未来の時間も動き出してしまったのよ」


「……!!」


「そのせいで『少女(アイリ)』や【始祖の魔王(ジュリア)】は、自分が居る世界の破壊は防ごうとしても、別未来で爆発した『滅び(エネルギー)』の影響を受けて止められなかった。……解決方法は、ただ一つ。自分の持ってた権能(ちから)を再び分解し、創造神(じぶん)の魂を眠らせる。それを条件に、動かしてしまった別未来の時間を爆発ごと全て止めるしかない」


「……じゃあ、『少女(アイリ)』を起こしちまったら……」


「『黒』が居ない今、停止している別未来は再び動き出し、今の私達が居る世界を巻き込んで吹き飛び消滅する。――……それが『世界の歪み』の正体、滅びを免れようとし続けた世界の『代償』よ」


 『世界の歪み』についてそう話すアルトリアに、全員が戦々恐々とした面持ちを浮かべる。

 それは別未来から来た青馬(ファロス)の存在と、幾多も滅ぼる世界を見たログウェルの話から導き出した結論でもあった。


 そしてその話は、結果としてある結論へ導いてしまう。

 未来を変える『代償』としては余りに巨大な『制約(ルール)』は、創造神(オリジン)以外に誰も止められない事を示していた。


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