悪夢の襲撃者
ガルミッシュ帝国において新皇帝ユグナリスの就任の儀が行われた真夜中において、秘かにある事件が起こる。
それは四大国家に属さない非加盟国の暗殺組織【血盟の覇者】の暗殺者達が、招待客の一人として帝国に来訪していた宗教国家の教皇ファルネを暗殺する為に帝城へ侵入した。
しかし魔力感知によって侵入経路となった転移陣の魔力に気付いたマギルスが、その暗殺者達を迎え撃つ。
更に【血盟の覇者】に所属する【死神】達の首を刈り取り、彼等の魂と肉体を自身の魔力として吸収する新たな能力も見せた。
そうした出来事が起きた時、非加盟国が存在する小国群の内部にて激震に近い情報が届く。
その報告が齎されたのは、ある地下施設において十人余りの人間達が会合している場でもあった。
「――……予定通り、教皇暗殺が成功していれば。今日中にも【死神】達から連絡が届くはずだ」
「もし届かない時には、どのようにしましょう?」
「それはあり得ないと思いたいがな。……今も連絡が無いと言う事は、侵入事態には成功したんだろう。仮に侵入自体に失敗していれば、既に連絡が届いているはずだ」
「侵入には成功しても、問題は帝国の内部で殺せるか、その帰路で殺せているか……ですね」
「そうだ」
「しかし【死神】に任せている以上、成功は確実でしょう。何せ奴は、七大聖人と同じ聖人なのですからね」
「そうだな。……今回の国主首脳会議で厄介そうなのは、七大聖人並の実力と言われているマシラ共和国のゴズヴァールと、教皇の護衛をしてる代行者連中くらいだ。ゴズヴァールはともかく、代行者や神官程度なら【死神】一人でも一瞬で殺せるだろう」
「彼は【血盟の覇者】の中でも、最高峰の暗殺者ですからな」
「成功は確実。そして教皇が四大国家の連盟国で死ぬことで、宗教国家は四大国家を敵視する。そうすれば再加入の話も無くなり、教皇が居ない宗教国家の勢力を組織に取り込むのも簡単になるってもんだ」
「ハハハッ!!」
酒や煙草などが置かれた机の周囲を囲む男達は、上機嫌にそうした会議を行う。
するとその地下室に設けられた一つの扉が勢いよく開かれ、そこから出て来た構成員の男が集まっている者達に対して慌てる様子を見せた。
「――……ボ、ボス! 大変ですっ!!」
「あぁ? なんだ」
「し……【死神】と、奴と一緒に向かわせた暗殺者の二人の生命反応が……さっき、消えました」
「!!」
「なんだとっ!?」
その情報を届けた構成員の言葉を信じられぬ様子を浮かべたボスは、凄まじい形相を浮かべながら座っている椅子を破壊しかねない程の轟音を鳴らして立ち上がる。
すると他の者達も動揺しながら信じ難い様子でを浮かべると、二メートル程の体躯を持つボスは報告に来た構成員に詰め寄り首を鷲掴みにしながら問い詰めた。
「デマじゃねぇだろうなぁっ!?」
「ほ、ほんと……本当……です……っ!!」
「……チッ!!」
「グァアッ!!」
ボスと呼ばれている大男は鷲掴みして宙に浮かせていた構成員をその場から投げ飛ばし、自らある部屋へ向かう。
そこには数々の照明が置かれた部屋であり、それぞれに名前と思しき文字が刻まれていた。
するとボスは【死神】と書かれた照明に近付き、その内部に光が無い事を確認する。
それを見て改めて驚愕しながら表情を強張らせた後、後から追って来た他の者達が歯軋りを起こすボスに問い掛けた。
「――……ボ、ボス!」
「まさか、本当に【死神】が……!?」
「……血盟の光が、マジで消えてやがる」
「!!」
ボスは影を宿した表情で額の欠陥を浮かばせながら、他の者達にそう告げる。
すると構成員達の中から、動揺と共に疑問の声が述べられ始めた。
「この照明の中に在る光は、血の契約を交わした連中が生きてる限り灯し続けるはず。……まさか、あの【死神】が殺された……!?」
「いったい、誰にっ!?」
「……まさか、代行者か?」
「馬鹿な! ミネルヴァならともかく、代行者程度に【死神】が負けるはずがないっ!!」
「……まさか、教皇暗殺の計画を察知されていたのか?」
「!?」
「【死神】達は、待ち伏せを受けて殺された……?」
「それこそあり得ないだろうっ!? ……まさか、組織内に裏切り者がっ!?」
「……いや、例え裏切りが無くとも。我々の行動は読まれていたのかもしれない」
「!!」
「帝国で国主首脳会議が開かれる話になったのは、つい三ヶ月前の話だ。その時には宗教国家の教皇は、参加を拒否している。……だが一ヶ月前に再了承し、宗教国家が四大国家の連盟再加入の議題が出るという情報が出た」
「……まさか、国主首脳会議が罠だったとでもっ!?」
「あり得る話だ。……ボス、どうします?」
構成員達は【死神】が死んだという情報を元に、帝国で行われた国主首脳会議が罠だった可能性を述べる。
そして改めて顔を伏せたまま表情に影を宿すボスに、今後の行動を問い掛けた。
するとボスは、歯軋りを激しくしながら両拳の握りを強めて低い声で言い放つ。
「……組織の実行部隊を、全て集めろ」
「え?」
「幹部連中、全員もだ。……【血盟の覇者】の全兵力を持って、ガルミッシュ帝国に攻め込む」
「!?」
「せ、攻め込むって……無茶ですよ、それはっ!!」
「大型の転移陣を使う。百人ばかり奴隷共も集めて、転移陣を起動させる為の生贄にしろ。残った奴隷にも爆弾を括りつけて、敵の帝都で自爆させる。その後に、実行部隊の銃火器で帝都に居る連中は皆殺しだ」
「……!!」
「【血盟の覇者】を舐め腐りやがって……。再興したばっかの帝都を、ボロ屑にしてやるぜ……っ!!」
【死神】の死が国主首脳会議を囮とした四大国家側の罠だと考えたボスは、それに怒りを浸透させて過激な報復手段を用いようとする。
その激昂した様子を見て構成員達には寒気と冷や汗を感じながら、互いに顔を見合った後にその命令通りに動き始めようとした。
すると次の瞬間、地下施設全体を揺らす程の巨大な振動が起こる。
それによって天井に付いた照明が揺れながら、ボスは再び怒鳴り始めた。
「今度はなんだっ!?」
「し、調べて来ますっ!!」
ボスの怒鳴りを受けて、構成員達は急ぎ状況を把握する為に地下から地上へ向かい始める。
そしてボスもまた地上へ向かおうとした時、その一室に並べ置かれた名前入りの照明に視線を向けた。
するとボスの視界にある照明の光が、次々と消え始める。
それに気付き驚愕した面持ちを浮かべるボスは、消えていく名前を確認しながら唖然とした様子を浮かべた。
「な、なんだ……幹部共や構成員の命が、消えていくだと……!? ……何が起こってやがるっ!!」
【血盟の覇者】を統括する幹部達の生命が次々と消えていく光景に、ボスはその部屋を出て地上へ向かう階段を駆け上り始める。
そして地上階の扉を開けて外に出た瞬間、ボスの更なる驚愕に飲まれた。
そこは【血盟の覇者】が本拠地としている場所であり、武器や麻薬などを多く貯蔵し様々な密輸品は窃盗品が集められている。
しかしそうした物を管理している建物が全て炎上し、更に消火すら諦め迫る火から逃げだしている構成員達の姿も見えた。
するとボスは逃げ惑う一人の構成員の胸倉を掴みながら、怒鳴りながら状況を問い質す。
「何が起こったっ!?」
「ボ、ボスッ!! ――……て、敵襲ですっ!!」
「敵襲だとっ!?」
「ご、魔導人形みたいなのが攻め込んできて……!!」
「魔導人形っ!? ……まさか、魔導国か! 迎撃はどうしたっ!?」
「む、無理ですっ!!」
「あぁっ!?」
「か、数が多過ぎて! それに、どの魔導人形も情報に無い――……ウワァッ!!」
「この、役立たず共が! たかが土塊の魔導人形程度に……!!」
掴まえた構成員を建物側へ投げ飛ばしながら悪態を吐くボスは、そのまま逃げ惑う者達とは逆側の方へ向かう。
そして建物の影を曲がり拠点の出入り口側へ視線を向けた時、その怒り狂う表情は唖然とした様子へ変貌した。
そこには燃え盛る建物の高さを軽く超えた、全長二十メートルにも届きそうな巨大な魔導人形が複数体も存在している。
更にその地面を覆うように侵攻して来るのは、銀色に輝く金属に覆われた魔導人形達だった。