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 ガルミッシュ帝国で開催された四大国家連盟の国主首脳会議(サミット)において、非加盟国であるフラムブルグ宗教国家を連盟に再加入させるかの議題が行われる。

 そこでは連盟の代表国を始めとした代表者から様々な意見が放たれ、会議場内は荒れる声が飛び交っていた。


 特に議題の中心となっている宗教国家(フラムブルグ)の代表者、教皇ファルネの言葉は騒然としていた会議場を震撼させる。

 各国の代表者達に対して一喝させるその言葉(叱り)は、自分達こそ被害者だと騒ぎ立てる連盟国やフォウル国の代表者に対して向けられていた。


 そうしてその言葉を会場内の全員が理解し、止められた口が開きそうになった時。

 議会の進行と司会役を務めるローゼン公セルジアスが先に声を発し、それぞれの代表者達に対して警告を向ける。


「――……皆様、現在は『フラムブルグ宗教国家を連盟に再加入に反対か賛成か』という議題となっています。それに関係の無い発言、また意見を述べられている方を遮り発言する事は、謹んで頂きますようお願いします」


「……ッ」


「こちらでフォウル国の意見を纏めさせて頂きますと、フラムブルグ宗教国家の再加入に対しては、各人間国家に居る魔人への待遇改善が行われることを条件とする。そういう事で宜しいですか? バズディール殿」


「……そうだ」


「それに対して宗教国家(フラムブルグ)の代表であるファルネ猊下は、宗教国家(あなたたち)の信奉されている神に対するフォウル国の過干渉を止め、その神に纏わる風評を取り払う努力をフォウル国でも協力することを条件としている。間違いはありませんか?」


「はい、間違いはありません」


「つまり宗教国家側(フラムブルグ)の条件を了承しない限り、フォウル国側の賛成を得る事を望まない。という事で宜しいですか?」


「その通りです」


「!!」


「分かりました。それでは、その条件(こと)に関する御返答を御願いします。フォウル国の代表、バズディール殿」


 錯綜した両国の意見を纏めたセルジアスは、改めて宗教国家(フラムブルグ)の述べる条件に従いフォウル国側の賛否を問い掛ける。

 すると両腕を(まえ)で組んでいたバズディールは緩やかに解き、改めて教皇ファルネに視線を向けながら答えを向けた。


「……既に巫女姫様は、お前達が神と崇める『黒』に関する干渉を行わぬ事を決めている」


「!」


「またそれに類する者達に対しても、ある者の判断を拠り所とし監視と対処を委ねた。フォウル国は既に、『黒』に対する干渉を行う気は無い。……だが『黒』に関する干渉は行わぬようになっただけで、その風聞を取り払うようには御命じになっていない」


「……では、宗教国家(こちら)の条件を断りますか?」


「いや、『黒』に関する風聞については巫女姫様には関わりは無いこと。干支衆(われわれ)の判断で動き決める事も出来よう」


「!」


「巫女姫に代わり、干支衆(われわれ)がその条件を受けよう。……だが無論、それを受ける前提条件としての話。人間国家(おまえたち)には、魔人に関する待遇の改善を要求する」


「!」


「それを行わない場合。五百年前と同じように人間国家(おまえたち)が四大国家の条約に反したと見做し、干支衆(われわれ)はお前達という人間(しゅぞく)を見限り、全力を持って敵対する覚悟を持ってもらおう」


「……ッ」


 バズディールはそう言いながら明確な答えを返し、フォウル国の干支衆として宗教国家(フラムブルグ)の条件を受け入れる。

 しかしフォウル国側の条件を果たさぬ事で人間国家に敵対する可能性すら述べたその言葉と共に向けられる僅かな殺気は、連盟国の代表者達に寒気を及ぼした。


 そうした回答を確認したセルジアスは、進行役として話を進める。


「当議題について、フォウル国はフラムブルグ宗教国家の再加入に賛成する意見となりました。しかしその条件は各連盟国の協力も必要とする為、本件に続く議題として取り上げさせて頂こうかと思います。それについて、皆様から異議はございますか?」


「……」


「異議は無い、という事でよろしいですね。――……当議題において、連盟国の代表である四ヵ国の内、三ヵ国がフラムブルグ宗教国家の連盟再加入に賛成という御意見を頂きました。その御意見を踏まえて、改めて各国から御越し頂いた代表者の方々にも議決を行って頂きます」


 セルジアスはそう述べ、会議場の代表者達を見回す。

 そして改めて、その議決の方法を説明した。


「フラムブルグ宗教国家の再加入に関して、賛成の場合は起立を。反対の場合は着席したままで御願いします」


「……」


 そうして賛否の選択を問い掛けるセルジアスの呼び掛けに、各国は応じるように動き始める。

 先程の意見によって賛成したアスラント同盟国やホルツヴァーグ魔導国、そしてフォウル国の代表者達は席を立って『賛成』の意思を見せた。


 するとそれに呼応し、ガルミッシュ帝国の代表者である皇后クレアも席から立ち上がる。

 更にマシラ共和国のウルクルス王や、再び四大国家に再加入していたベルグリンド共和王国のヴェネディクト王も立ち上がり、他の連盟国の代表者達も静かに立つ姿が見えた。


 そして迷う様子を見せる代表者達も、『賛成』する国々の顔触れを確認しながら立つ者もいる。

 逆に頑なに席から立たない国なども存在するのを確認され、会議場の代表者達はそれぞれに賛否の意思を明確にさせた。


 それに対してセルジアスは賛成(きりつ)した者と反対(そのまま)の者を視線で数え、改めて議決の結果を述べる。


「――……賛成は、十四ヵ国。反対は、六ヵ国。連盟国の半数以上の賛成を得られました。当議題のフラムブルグ宗教国家の再加入について、成立した事を御伝えします」


 議決の結果、四大国家の連盟に参加する七割以上が賛成(きりつ)の意思を見せる。

 それによってフラムブルグ宗教国家は、正式に四大国家の連盟へ復帰する事が決まった。


 それからも国主首脳会議(サミット)の議題は続き、現在の四大国家が抱える様々な問題へ対処する形が取り決められる。


 最初に取り決められたのは、フラムブルグ宗教国家の加入に際して取り決められたフォウル国の要望。

 今まで定まらなかった人間大陸で育つ魔人について、その扱い方について取り決めが行われた。


 まず人間と同様に、犯罪歴も無く不当な扱いによって奴隷とされてしまった魔人の存在について各国で調査が行われる事が決まる。

 更にその捜査にはフォウル国から直々に十二支士(せんしたち)を編成した調査団が派遣される事になり、先程の議決で反対した連盟国は渋い表情を強めた。


 そして調査の結果で魔人を保護する必要が出た場合、ガルミッシュ帝国の一領地に預ける事が提案される。

 その領地には帝国子爵位を得た妖狐族クビアが多額の費用を投じて魔人達でも暮らせる環境が整えられており、幼い魔人達を保護するには絶好の場所である事が皇后クレアによって伝えられた。


 しかし重犯罪を犯した魔人については人間と同じように犯罪奴隷として労働力にする事を認めさせ、その内情調査と監督役にフォウル国の十二支士や干支衆が派遣される事になる。

 この議題に対して再び議決が取られ、過半数以上の賛成を得られて実行される事が決まった。

 

 更に非加盟国に対して政治的にも軍事的にも圧力を強める為に、各国を行き来する非加盟国から忍び込む密売商人の摘発と監視強化も提案される。

 特に武器や麻薬等の違法物を持ち込もうとする密輸船の注意と捕縛を各国で徹底させ、非加盟国周辺海域の監視を海上の機械技術に最も優れたアスラント同盟国が担う事になった。


 更に魔法を用いた隠蔽や密輸品の運搬を行う可能性もある為、魔導国(ホルツヴァーグ)にそうした知識や技術を見破れる魔法師を派遣するよう同盟国(アスラント)は求める。

 それに関して教皇ファルネも連盟国の代表者として意見し、『偽装』などの闇属性の魔法を見破れ感知できる『光』属性の神官達を協力員として派遣する事を約束した。


 特に麻薬等の中毒依存を起こす密輸品を連盟国で商おうとする売人については、重犯罪者として適応する事が決まる。

 非加盟国に対する犯罪の引き締めを行うという議題については、総意の賛成を得る形で定まる事になった。


 更に宗教国家(フラムブルグ)に派遣すべき軍事支援についても話し合いが行われ、主に代表国を中心に大々的な軍事支援が決まる。

 それは宗教国家(フラムブルグ)の連盟再加入も公表する事で、非加盟国に対する警告や牽制へする事になった。


 こうして休憩時間が幾度も設けられた国主首脳会議(サミット)は、朝から始まり夕方頃になってようやく全ての議題を終わる。

 進行役であるセルジアスの締める言葉によって、代表者達はほぼ全員が疲弊した様子を見せながら会議場を退室していった。


 そうした光景を見終えた後、セルジアスとユグナリスは皇后クレアを自室まで送り届ける。

 それから色濃い疲弊の息を零すのユグナリスに対して、セルジアスは進行を続けた事で掠れた声を整えながら問い掛けた。


「――……疲れたいかい?」


「え、ええ……。……会議って、こんなに長いんですか……?」


「今回は特別だと言いたいけれど、君が皇帝になれば嫌でも帝国内の決議で同じような場に立つ事になるよ」


「……話の半分も、理解できた自信が無いです……」


「明日には皇帝になる君が、情けない事を言わない。……今回は皇后(クレア)様が代表として立ってくれたけど。今度同じ国主首脳会議(こと)があれば、君がガルミッシュ帝国の皇帝として代表に立つ事になるんだからね」


「……!」


「私も可能な限りは手助けをするけど、いざとなったら君自身の決断と言葉が必要な時も出て来る。……そうなった時に、慌てながら各国の条件を鵜呑みにするような発言だけは止めてくれよ」


「わ、分かってます。……それにしても、凄いですね」


「何がだい?」


宗教国家(フラムブルグ)の、あの教皇様です」


「……確かに、あの方も凄い。通信装置越しで話した時と、随分と印象が違っていた」


「はい。……全てを敵に回す覚悟で自分の意見を押し通して伝えた姿は、本当に尊敬できます」


「そうだね。ファルネ猊下(かのじょ)が持ち合わせている覚悟こそ、上に立つ者に必要な素質なんだろうね。……そういう意味では、君は私より上に立つ者の素質を持っていると思うよ。ユグナリス」


「え? そ、そうですか」


「私は君みたいに、馬鹿にはなれないからね」


「……それ、褒めてないですよね?」


「いいや、褒めてるよ。……さぁ、君にとっては明日からが本番だ。今日はゆっくり休むといい。食事は、後で持って行かせるから」


「は、はい。――……では、また明日」


「ああ」


 今度はユグナリスを自室へ送り届けたセルジアスは、扉越しにそのまま別れる。

 すると自身も一息を吐いた後、セルジアスは国主首脳会議(サミット)の結果を書類上で纏めて各貴族達へ伝える報告書へ纏める為に、徹夜で執務室の机に向かい合う事になった。


 こうしてガルミッシュ帝国にとって、前座とも呼べる国主首脳会議(サミット)は終わる。

 そして次の日、本番となる新皇帝(ユグナリス)の即位式典が開かれた。


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