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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
終章:エピローグ

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旧敵の教え


 ローゼン公爵領地の都市に戻ったエリクは、そこで噂となっている偽者の黒獣傭兵団とそれを率いる偽団長(エリク)に遭遇する。

 しかしそうした相手すら修得した能力(ちから)によって容易く抑えながらも、隠していた自身の正体と存在を民衆に暴かれてしまう結果となった。


 大立ち回りをしたのが英雄(エリク)本人である事を認識され場が騒然となると、領兵達によって自由通行証を持つエリクは別枠という形で都市内に招かれる。

 更にその報告が都市を司る官僚達にも届くと、改めてローゼン公爵家の本邸(やしき)に招かれたエリクは客室にて皇后クレアと再会する事になった。


「――……セルジアス君……ローゼン公は、暫く樹海(むこう)に留まると」


「ああ。だから俺だけ、先に戻って来た」


「その点については、ガゼル伯爵から御連絡を頂いていたのですが。馬も用いていないということで、まさかこんなに早く御越しになられるとは思わず……」


「それについては、すまない」


「いえ。こちらこそ、内密に御迎えも出来ず申し訳ありません」


 改めて客室で椅子に腰掛けながら面会するエリクと皇后クレアは、今回の事態について互いの落ち度を謝る。

 そして改めるように、皇后クレアはエリクに問い掛けた。


「それで、御急ぎで御戻りになった理由は……?」


「ああ、ウォーリスに会いたい」


「!」


「こっちに戻っていると聞いたが、会えるか?」


「理由を、御伺いしても?」


「ドルフに会いに行ったが、普通の方法では奴の魔法は習得できないと言われた。だが、ウォーリスは特別な事もせずにその魔法を覚える事が出来たらしい」


「!」


「そのやり方を、ウォーリスに聞きたい」


「……分かりました。ただ今の彼は、ウォーリスではなくフロイス卿という身分を与えています。なので、人前では……」


「それはアリアの兄(セルジアス)から聞いている。人前では、偽名(フロイス)で呼ぼう」


「ありがとうございます。――……では、ここにフロイス卿を御呼び致しましょう」


「頼む」


 エリクは改めてそう頼み、皇后クレアからウォーリスに会う許可を得る。

 そして彼女は退室した後、十分程が経った後に再び客室の扉が開かれた。


 そこに姿を見せたのは、黄土色(ブロンド)の髪と緑色(エメラルド)の瞳を眼鏡で覆う青年。

 彼の顔を一目したエリクは、椅子に座りながら声を向けた。


「……凄いな。お前の『偽装(フェイク)』を見破れない」


「――……実際に、髪を染めて瞳は色眼水晶(カラーコンタクト)で覆っているだけだ。魔法じゃない」


「からーこんたくと?」


「瞳に付ける小さな水晶体(レンズ)だ。瞳の色を変えられる道具(モノ)と言えば分かるだろう」


「そうか、そういうモノもあるんだな。――……久し振りだな、ウォーリス」


「そちらもな、傭兵エリク」


 変装した姿ながらも再会するウォーリスに、エリクは改めて会話を交える。

 四年前には死闘を交えている二人ながらも、互いに邪見にする様子もなく椅子に腰掛け向かい合いながら会話を続けた。


「皇后様から聞いた。私にドルフの使っていた影魔法を習いたいと?」


「ああ。お前はドルフと違って、制約も無しに使えたと聞いた」


「……だが、今は使えない。私の肉体も魂も、既にボロボロだからな」


「知っている。だから、実際にやらなくていい。その知識を口で教えてくれるだけで構わない」


「……皇后様の御命令だ、それに従うつもりではあるが。……だが、どうして影魔法を覚えたい?」


「ん?」


「今のお前が、影魔法(アレ)を覚える必要は無いように思える。……到達者(エンドレス)創造神(オリジン)権能(ちから)。それがあれば、大抵の者はお前と相対する事すら難しいはずだ」


「……」


「私自身、この立場として知る必要も無い話だが。一年前の『大樹事変(じけん)』が終わってから、お前達の動向を詳しく把握できている者は少ない。……アルトリア嬢の企みに、その影魔法の習得も関わっているのか?」


 臆する様子も無く問い掛けるウォーリスに対して、エリクは僅かに考える様子を浮かべる。

 すると僅かに鼻息を漏らすと、改めてその問い掛けに答えた。


「……四年後、俺達は魔大陸に行く」


「!」


「その為に、俺達は別れて必要な準備(こと)をしている。アリアとケイルもそうしている」


「……あのマギルスという少年は? 帝国(ここ)に滞在し続けているようだが、皇子(ユグナリス)の訓練に混ざり、シエスティナと戯れるだけで、特別な訓練(こと)をしている様子は無いようだぞ。……彼は同行しないのか?」


「俺も詳しくは知らない。だがマギルスも、何か考えがあって帝国(ここ)に居るんだろう。一緒に魔大陸に行くつもりはあるようだ」


「そうか。……だが、どうして魔大陸に?」


「……お前になら、話してもいいかもな」


「?」 


 四年後に魔大陸に向かうという話を聞いたウォーリスは、改めてそうした疑問を向ける。

 すると改めて息を吐いたエリクは、少し考えた後にこう話した。


「俺達が『虚無』と呼ばれる世界の向こう側で会った、『白』が言っていた。……五百年前、一人の少女(アイリ)が自分を犠牲にして世界を救ったと」


「!」


「だがその内容は、創造神(オリジン)の復活とは無関係だったらしい。……少女(アイリ)創造神(オリジン)権能(ちから)を使い自分を代償にして無くそうとしたのは、『世界の歪み』だそうだ」


「世界の歪み……」


「そしてその少女(アイリ)が自分を存在そのものを代償にし眠り続けている事によって、今も『世界の歪み』は防がれている。……アリアは、そう推測している」


「アルトリア嬢が?」


「俺達はその少女を目覚めさせる為に、『白』から預かった少女(アイリ)の記憶が宿る水晶(クリスタル)を【魔神王(デーモンキング)】に渡した。……しかしアリアの話では、それでも少女(アイリ)は目覚めていないらしい」


「……なるほど。その少女は自分が眠り続けている事で、自ら『世界の歪み』を抑えている。そう推測したか」


「そうだ。だが、誰もその『世界の歪み』が何なのか分からない。ケイルもアズマ国に居る現世(こちら)の『白』に聞きに行ったらしいが、『世界の歪み』という現象については知っていなかった」


「……その現象が何なのかを探る為に、わざわざ魔大陸まで?」


「ああ。……もしかしたら、『黒』が俺達を利用して本当に止めたかった事態は『世界の歪み(それ)』なのかもしれない。可能ならそれを解決して、少女(アイリ)を起こしてやりたい」


「……」


「俺はアリアに頼まれて、水晶(クリスタル)を渡してから人間大陸に『世界の歪み』と呼ばれる不可解な現象が起きていないかを探っている。表向きは『緑』の七大聖人(セブンスワン)や他の異常を調査する名目だが、この話自体は、俺達だけで共有している秘密だ」


「……その為に、持てる手段は増やしているわけか」


「ああ」


「だが、各国にその調査協力を要請しない理由は?」 


「今の人間大陸は、前の事件でまだ不安や恐怖を抱えたままだ。そこを不確かな情報で煽るのも良くないだろうと、アリアやケイルが考えて秘密にすることにしたんだ」


「……なるほど。そういう事であれば、確かに納得できる理由ではあるな」


 エリクは仲間達だけで共有している情報(ひみつ)を、ウォーリスに明かす。

 すると考える様子を浮かべ終えたウォーリスは、エリクに視線を向けながら答えた。


「……分かった、出来る限りの協力はしよう」


「頼む」


「だが私も、人に教えられるほど器用というわけではない。死に物狂いで身に着けさせられたゲルガルドの技術を、利用していただけだからな。……アルフレッドが生きていれば、そういう事も得意としていたのだがな……」


「そうか……」


「それに、今の私にも任されている仕事は多々ある。教えられる時間は、朝と夜くらいしか取れないかもしれないが。それでもいいか?」


「ああ、問題ない」


「了解した。――……では、明日の朝から始めよう」


「分かった」


 二人はそうして話し合い、エリクは彼の持つゲルガルドの技術(わざ)を訓練として受ける事になる。

 そして皇后クレアの了承を得て、エリクは暫しガルミッシュ帝国のローゼン公爵領に身を置く事になった。


 それから朝と夜に、エリクはウォーリスから数々の魔法習得の訓練を施される。

 そうした教えを受けていない時間は自己訓練を行い、たまに様子を見に来るマギルスやシエスティナの遊び相手を務めた。


 更にそこに帝国皇子ユグナリスも加わり、鍛錬と称した模擬戦を行う事も多々起こる。

 そうした場に混ざるマギルスや、それを見守るリエスティアやシエスティナ達と接する時間を過ごしながら、エリクはガルミッシュ帝国で過ごす事になった。


 そして一年後、エリクは必要な技術(こと)を学んで帝国から()つ。

 更に一年後には崩壊していた帝都の再建が終わり、ガルミッシュ皇族である皇后クレアと帝国皇子ユグナリス達は、ローゼン領地から離れ新帝都へ身を置くことになった。


 帝都復興後から一年後、各地へ避難し身を置いていた者達や移住者達によって新帝都では人々の暮らしが見えるようになる。

 そして『天変地異』から七年も空席だった皇帝に皇太子ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュが即位する事が決まり、その即位式典と祭典(まつり)が行われることが報じられる事になった。


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