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追憶の世界


現マシラ王ウルクルスの魂と、

その恋人だった女性の魂を、

アリアとアレクサンデル王子は見つけた。


寄り添いあうように佇む魂を見ながら、

アリアは王子に問うように話し掛けた。



『貴方が、お父さんとお母さんの魂に接触してみて』


『!』


『現実の肉体を介して接触してる私達と違って、魂だけの彼等と話せる術を、私は知らない。そのまま魂同士が触れてしまえば、魂との接触で精神汚染が私の魂にも影響してしまうの』


『……』


『でも、貴方達の一族が伝えてきた秘術は、それを可能にしている。私はまだそれを見てないから、模倣も出来ない。……貴方がお父さんから伝えられたこと。やってみて』


『……うん』



頷く王子は魂で成した人の姿で、

父と母の魂に腕を伸ばした。


その瞬間、王子の魂の肉体に浮かび上がるのは、

魔法文字を刻んだ刺青。

それを見たアリアが、厳しい視線を見せつつ呟いた。



『……魂に刻む紋印サイン。こんな幼い子の魂に……』



苦言を漏らす中で、

王子の魂に刻まれた紋印が色白い光を放つ。

そして王子の腕へ伝った紋印が手の前に集中し、

目の前に円形状の三つの魔法陣が展開した。



『……これが、死者との交信を可能にする魔法。マシラ血族の秘術式……』



王子が展開した魔法陣を読み解き解析するアリアは、

目の前に出現したそれが、マシラ血族の秘術だと理解した。


展開した魔法陣の三つの内の二つが、

王子の父親と母親の魂に寄り添うように展開し、

王子の目の前に残った一つの魔法陣が輝きを強めた。



『……これは……』



目の前の魔法陣に広がる光景を見て、

アリアは驚きを見せた。

その光景は、まだ若く鋭気ある姿のマシラ王と共に、

隣を歩く赤毛の若い女性と王宮を歩く姿。



『これは、まさか……魂の追憶……?』


『うん』


『……そういうことね。魂が補完する生前の記憶を利用して、実際にあった記憶の光景に入り、死者との会話を果たす。それがマシラ血族の秘術……』


『お父さん。お母さんの魂の記憶に、ずっと入ってる』


『……貴方のお父さんを、お母さんの魂の記憶から引っ張り出す方法があるとすれば、私達も中に入るしかないってことね』


『できる?』


『ええ、術式は見させてもらったもの。後は構築すれば、完璧よ』



アリアは自身の腕を伸ばすと同時に、

王子と同じように自身の魂に刻まれた紋印を浮ばせた。

それを見た王子は、呟くように聞いた。



『お姉ちゃんも、僕と同じ?』


『ええ。まぁ、私の場合は、自分でやったんだけどね』


『自分で、出来るの?』


『自身の魂に課す『誓約』と『制約』。本来は、貴方達マシラ血族がやってる他者が他者に紋印を刻む事こそ、邪道なのよ。これは、自分自身で自分の魂に刻むものなの』


『……ダメな、こと?』


『ダメじゃないけど、褒められるものじゃないわね。他人に自分の魂を委ねるなんて、正気の沙汰ではないもの』


『……』


『ごめんなさい。貴方の事や、貴方のお父さんを責めてるわけじゃないわ。こんな秘術を生み出した、貴方の先祖が悪いだけだもの。……よし、術式の模倣は完了。帰り道もバッチリ。これなら、貴方のお母さんの魂の記憶に入っても、自力で戻って来れるわね』


『入って、いいの?』


『ええ。そして、貴方のお父さんを引っ張り出すわ』



王子の魔法陣を模倣したアリアが、

自身の魂の前に同じ物を展開させた。

そして浮かび上がる映像を凝視すると同時に、

自身の精神をその記憶の中に投入する。


王子の母親である魂の記憶。

その中に、王子とアリアは入り込んだ。



「……これが、死者の魂の、追憶の世界……」


「……」



目を開けたアリアと王子は、

目の前に広がる光景に驚いた。


そこは日の光さえ感じ広がる、

晴天の青空が広がるマシラ共和国の王宮。

しかし現実との違いがあるとすれば、

その王宮は先日の戦いで崩れ破損した状態ではなく、

王宮としての形を保ったものだった。


他にも微細な変化はあり、

季節的に咲くはずがない草木や花々が見え、

アリアはこの状態を一早く察した。



「……なるほどね。ここは過去の、貴方のお母さんがいた頃の、王宮というワケね。という事は、貴方が生まれる前の世界の記憶」


「……」


「大丈夫よ。これはあくまで魂の記憶なんだから、貴方がここに居ても問題はないはずよ」


「……うん」


「それじゃあ、貴方のお父さんとお母さんを探しましょう」



そうして王宮の風景を見ながら話すアリアと王子は、

歩きながら王子の父親と母親を探した。


すると外の通路を通る曲がり角で、

とある人物とアリア達は遭遇してしまった。



「ゴズヴァール!?」



バッタリと出会ってしまったアリアだったが、

ゴズヴァールは無反応のまま、

そのままアリアと王子の傍を通り過ぎていく。


それを見たアリアは、この世界の法則性に気付いた。



「そうか。ここは記憶の世界なんだから、本来は居ないはずの私達が、記憶の住人であるゴズヴァールや、他の奴等と出会っても認識されないし、気付かれるはずがない。だとしたら、記憶の主である貴方の母親と、その記憶に入り込んだ父親なら、私を認識できるわけね」


「そうなの?」


「そうみたいよ。こっちでも隠れながら進まずに済むのは助かるわ。行きましょう」


「うん」


「……というか、ゴズヴァールがこんな所を歩いてるって事は、ここを通る事を魂の持主が記憶し、認識しているということ。つまり……」



アリアは通り過ぎるゴズヴァールを見た事で、

その歩く先に誰が居るかに気付いた。

記憶上のゴズヴァールの後を付いて行くと、

そこにはアリアが考えた通り、探していた人物が居た。


現マシラ共和国の象徴である若い王。

ウルクルス=ガランド=マシラ。


若く鋭気を持った目と、

王子と似た亜麻色の髪を日差しで輝かせた、

褐色肌の若々しい王がいた。

そしてその傍には女官の服を着た赤毛の女性が佇んでる。



「……居たわね」


「……」



ゴズヴァールと何かを話すマシラ王と女官だったが、

話を終えたゴズヴァールがその場を去り、

違う場所へ向かうように歩いていく。


アリアはこの時、赤毛の女性の顔を見た。

その顔を見た時に、アリアは思わず呟いた。



「……似てる……」


「?」



落ち着きながらも冷静に呟くアリアは、

様子を伺いゴズヴァールが去った事を確認すると、

改めて身を乗り出して姿を隠すことを止め、

そのままマシラ王と女性の傍まで歩み寄った。

それに付いて行くように、王子も同行する。


そのアリア達に真っ先に気付いたのはマシラ王であり、

それに伴うように、赤毛の女性も気付いたのだった。





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