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新たな樹海へ


 ガゼル伯爵家へ向かう道中、アルトリアの兄セルジアスとエリクは互いに話を交える。

 そこで共通した人物(アルトリア)を話題としながら、それは互いに信頼感を抱かせるに足る場となった。


 そうして辿り着いたガゼル伯爵領の中心都市にて、彼等はガゼル伯フリューゲル本人と彼等が伴う領兵達によって迎えられる。

 

「――……ローゼン公、そしてエリク殿。よく御越しくださいました」


「こちらこそ。(しば)しの(あいだ)ながら、御世話になります。伯爵」


「世話になる」


 帝国貴族である二人の挨拶を傍で聞くエリク自身も、突然の訪問ながらも迎えたガゼル伯爵に頭を下げる。

 そして彼等と伴って来た一行は伯爵邸に招かれ、休息の時間が設けられた。


 そうした中でガゼル伯爵はセルジアスとエリクを客室に招き、彼等が探しに来た自身の兄であり元特級傭兵ドルフについて状況を改めて説明する。


「――……ドルフ氏は半年ほど前から、()の領地とセンチネル準騎士爵の治める樹海()を結ぶ道路舗装と工事の手伝いを行ってくれていまして。二ヶ月毎に報告としてここに戻られるのですが、そちらから御連絡を頂く前に出立したばかりでして」


「少し、機会(タイミング)が遅かったということですね」


「そうなりますな。御二人が御望みであれば、遣いの者を出してドルフ氏を呼び戻しますが?」


「いや、今の樹海の様子を見たい。あそこに奴が居るなら、ついでに会いに行けばいい」


「私も、今は皇后様に休暇(いとま)を与えられた身です。ガゼル伯(あなた)興業(しごと)をわざわざ止めてまで、お願いしようとは思いません」


 ガゼル伯爵が提案する話に、二人は口を揃えるように自身で樹海に赴く事を伝える。

 それを確認し頷いたガゼル伯爵は、微笑みながら二人の意思を承諾した。


「分かりました。僭越ながら私もセンチネル準騎士爵には用事(ようごと)が有り、近々樹海へ赴こうと思っていたところです。良ければ、道案内も兼ねて御二人に御同行してもよろしいですか?」


「それは、問題ありませんが」


「ありがとうございます。予定では一週間後に出立する予定でしたが、繰り上げて準備を整えます。一日ほど時間を要しますが、御待ち頂く事は可能ですか?」


「私は問題ありません。エリク殿は、それでよろしいですか?」


「……分かった」


 ガゼル伯爵が同行する為の準備時間に、セルジアスとエリクは応じる。

 それを確認したガゼル伯爵は安堵の様子を浮かべ、樹海へ赴く話については互いの了解を得られる事となった。


 そんなガゼル伯爵は、改めてセルジアスに視線を向けながら僅かに言い淀む声を向ける。


「……ところで、例の話なのですが……」


「分かっています。貴方に情報を頂く以前より、察してはいましたので」


「ではやはり、今回……樹海(あそこ)に赴く理由も……?」


「御安心を。伯爵に御迷惑をお掛けするような事はしませんので」


「そ、そうですか。……では、私は急ぎ準備を行わせて頂きます。御二人はその間、ごゆるりと御休息(おやすみ)ください。」


「……?」


 ガゼル伯爵とセルジアスは意味有り気な話をする光景に、エリクは意味が分からず疑問を浮かべる。

 しかしその場では特に何も聞かず、伯爵邸にて休息する事となった。


 彼等が話し合いを終え夜を越えた次の日、ガゼル伯爵の準備が始まる。

 そして予定通り一日が経った次の日には準備を終えたガゼル伯爵は、随伴する領騎士と領兵を数十名ほど伴う形で、エリクとセルジアスの一行に加わり樹海へ赴く事になった。


 それから一日を経て途中に街へ立ち寄り泊まりながら、一行は巨大な樹林に覆われた樹海の前まで辿り着く。

 するとその道中には樹海へ続く道を作る作業員達や職人達の姿も見え、それを動く馬車の中から眺めるエリクは呟いた。


「――……道を作っているのか?」


「はい。伯爵領地(ガゼル)と樹海の領地を繋ぐ、道路を作っているのです」


「道路……。どうして作っているんだ?」


「樹海を行き来するのに道を整備しないままですと、人や物の移動も不便ですので。後見人であるガゼル伯とセンチネル準騎士爵の間で、二つの領を結ぶ道を作る事になったのです」


「……樹海の者達は、それを知っているのか?」


「はい。センチネル準騎士爵……パール殿が樹海に住む方々を説得したそうなので。互いの領民からも協力を得ている形となっています」


「……そうか。……意外だな」


「意外ですか?」


樹海(あそこ)の者達は、樹海(もり)に他所者が入るを嫌っていた。なのに、他所者が入って道まで作るのを認めたというのは。意外だ」


「……彼等もまた、自分達がこの大陸(とち)で生きる術を考えた結果です。ただそれに尽力したのは、パール殿を始めとした協力的な方達のおかげでもあります」


「そうか。……確かに、パールは良い奴だ。協力してくれれば、頼もしい相手だな」


「はい、そうですね。……私個人としても。彼女には本当に、感謝してもし足りません」


 エリクは思い出すように樹海に住む部族やパールについて語ると、馬車に同乗しているセルジアスが同じように頷き話す。

 それから一行は樹海近くに設置された仮拠点へ赴き、ガゼル伯爵が現場を指揮する代表者にドルフの現状を聞いた。


「――……ドルフさんですか? 確か彼は、今……樹海の工事現場に向かってくれていますね」


樹海側(むこう)ですか」


「ええ。樹海側でも工事中ですが、結構な数の魔物や魔獣がいますからね。樹海(あそこ)の人達も協力してくれているとは言え、作業員を護衛してくれる方が多いことに越したことはありません」


「そうですか、分かりました」


「ところで、工事の進捗ですが。幾つか問題が――……」


 工事の状況を代表者から確認し話し合う仕事をした後、ガゼル伯爵はそこで聞いたドルフの状況を二人にも伝える。

 そして二人の意思により、一行は馬車を降りて樹海側へ足を運ぶ事になった。


 工事中の道路と繋がる樹海の木々は、切り出されながら多くの者達から運ばれる光景が見える。

 そしてその作業を行う者達の中には、樹海の部族と思しき勇士の姿も幾らか見えた。


 セルジアスの言う通り協力して工事に当たる両領民の姿を見るエリクは、内心で驚きながらも本当にこの工事が彼等に賛同されて実現しているのだと理解する。

 するとその中に混じる勇士の中に、エリクが見覚えのある大男の姿が在った。


「……奴は……」


「どなたか、御存知の方が?」


「ああ。……あの男、確か……部族の一つを率いていた、族長だ」


 歩きながら足を止めたエリクの言葉に、セルジアスは耳を傾ける。

 すると同行するガゼル伯爵達も足を止め、同じ方向へ目を向けながらその人物の名を伝えた。


「ああ、彼は確か……ブルズ殿ですね。彼は今、樹海の警備部隊長をしています」


「警備部隊? ……そんなモノ、樹海(ここ)にあったか?」


「パール殿が設けたのですよ。勇士達を鍛え、樹海(もり)の警備と罠の設置を行う部隊です」


「そうなのか」


「彼はこちらの帝国語(ことば)を学びながら、工事の警備を務めてくれています。ある程度は話せるようになったそうですが、御話になりますか?」


「……」


 ガゼル伯爵がそう勧めると、エリクは視線をブルズに戻す。

 そして視線から僅かに自分の気配(ちから)を放つと、それに気付くようにブルズは振り向いた。


「……!」


「……」


 二人の視線が交わると、互いの存在を認識する。

 そして厳かな表情を向けた二人は、そのまま何も言わず口元だけを僅かに微笑ませた後、顔を逸らして別々の方向へ歩み出した。


 そんな様子を見せる二人に、ガゼル伯爵は問い掛ける。


「あ、あの……」


「あれでいい」


「え?」


「あの男とは、既に(かた)り合った。だから目を見れば、だいたい伝わる」


「そ、そうなのですかっ!?」


「ああ――……」


「……ちょ、超能力か何かですかね……?」


「……そういう能力(もの)では、無いと思いますよ」


 エリクのそうした言葉に動揺するガゼル伯爵を、セルジアスは宥めながら微笑む。

 それから更に奥へ進むと、工事区画が途絶えて代わりに作業員達の宿舎や工事用の建築材が置かれた仮施設(テント)群に辿り着く。


 そこにもブルズ以外の樹海側の代表者が赴いていると聞いていたガゼル伯爵は、仮施設の中央に位置する天幕(テント)を訪ねた。


「――……ラカム殿、いらっしゃいますか?」


「――……その声、ガゼルか。随分早い――……!?」


 ガゼル伯爵の呼び声に反応し、一人の初老染みた男が出て来る。

 するとその男はガゼル伯爵の背後に立つ大男(エリク)に気付き、驚愕した表情を浮かべて口の動きを止めた。


 するとエリクは、その男の姿と名前から記憶を引き出しながら声を掛ける。


「確か、パールの父親か。久し振りだな」


「……か、か……」


「か?」


「か……神の……勇士様……」


「……え?」


 エリクを凝視していたラカムは、そのまま地に伏すように祈り始める。

 それを見たセルジアスやガゼル伯爵は唖然とした様子を浮かべていると、エリクは過去に見た光景と一致させながら呟いた。


「……そういえば、アリアもこうされていたな。……今度は俺だったか」


 かつて樹海の者達から『神の使徒』と誤解され敬われたアリアを思い出しながら、今度は自分がその対象に捉えられた事を理解する。

 しかし『到達者(かみ)』になっているのは本当である為、エリクはそれを誤解だと否定できず、見知ったラカムでさえこの有り様であることに僅かな憂鬱を感じることになった。


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