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二人の真実


 現世に出現した『マナの大樹()』を自身の(からだ)に取り込んだメディアは【始祖の魔王(ジュリア)】として復活し、全ての権能(ちから)を揃え人間大陸を消滅させようとしている。

 それを阻止するように現れたのは、エリクの肉体に宿るもう一つの精神(たましい)である【鬼神(フォウル)】だった。


 現世に復活した二人の到達者(エンドレス)は互いの存在を忌み嫌うように敵対し、聖域において凄まじい激闘を繰り返す。

 その余波が世界そのものに異常現象を起こし始め、その影響を最も強く受けた人間大陸では様々な厄災が降り掛かり続けた。


 そんな事態など気にする様子も無く、【始祖の魔王(ジュリア)】と【鬼神(フォウル)】は凄まじい速さで移動し、空中において互いの殴打を向け合う。


「――……フッ!!」


「ガッ!!」


 衝突したジュリアは右足の蹴りを相手の顔面に叩き込み、対するフォウルは右拳を突き出して相手の顔面へ叩き付ける。

 しかし二人はそれで傷付いた様子を見せず、押し退けられることもないまま次の殴打を繰り出した。


 この数分間、二人は全ての殴打を防御せず回避もせずに自らの肉体で受け合っている。

 しかしその衝撃と威力は元の人格(もの)だった時より高いにも関わらず、互いは血を吹き出すことも、傷付いている様子すら見えていない。


 互いに頑強な肉体故に防御する必要すらないのか、それとも彼等が持つ技術(わざ)がそれを可能としているのか、まさに尋常ではない戦い方をしていた。

 そんな二人は、互いの口から罵りの言葉を吐き出しながら接戦を続けている。


「どうした、クソガキ! 前よりクソ弱くなったなぁっ!!」


「テメェこそ、なんだそのへなちょこパンチはよっ!!」


「ヘッ、まだ肩慣らしだってんだよ! ――……三割くらいの威力(ちから)でいくぞっ!!」


「ッ!!」 


 空中で激闘を交える二人の中で、フォウルが先に変化を及ぼす。

 僅かな時間ながらも拳に溜めた力でジュリアを殴打した瞬間、今まで後退ることすらなかったジュリアがその場から吹き飛ばされた。

 

 するとフォウルは吹き飛んだジュリアにすら追い付き、両腕を真上に掲げながら両拳を重ねる。

 そして凄まじい速さで重ねた拳を振り下ろし、ジュリアを聖域の地面へ叩き付けた。


 地面に着弾した際の衝撃(インパクト)は凄まじく、その周囲を爆散させたかのように吹き飛ばす。

 それを見下ろしながら浮遊しているフォウルは、自身の両拳を見ながら舌打ちを漏らした。


「チッ、やっぱ身体(こっち)の方が耐えれねぇか」


「――……やっぱり、そういうことか」


 フォウルが見ているのは、威力(ちから)を増して殴打させた拳から垂れ流れる赤い血液。

 今までジュリアの攻撃でも傷付けていなかった肉体が、自分(フォウル)の出した威力(ちから)によって逆に傷付いてしまったのだ。


 その原因が肉体側(エリク)の耐久力に問題がある事を理解しているフォウルに対して、目の前に転移して現れたジュリアが告げる。


「クソ鬼。本気を出してないんじゃなくて、出せないんだな」


「……フンッ」


「本気出したら、その肉体(おとこ)の方が壊れちまうんだろ。……哀れだな、無敵の鬼王なんて呼ばれてたくせによ」


「……テメェもそうだろ」


「!」


「その身体になってる(ガキ)、まだ生まれて間もないだろ。何もかも(じゅく)してねぇ。……それに、前みたいに権能(ちから)も一つしか集まってねぇようだしな」


「……」


「本調子じゃねぇってのは、御互い様だ。……ま、俺達が戦ってる間に。人間大陸(こっち)の方が持たねぇか」


「いいじゃねぇか、壊れちまって。こんな人間共の世界なんてよ」


「……変わらねぇな。……あの嬢ちゃんの中に居たくせによ」


「!」


 互いに向かい合いながら敵意と殺意を衝突させ続けている二人だったが、そこでフォウルがそうした言葉を口にする。

 それを聞いたジュリアは驚く表情を見せ、訝し気な様子で問い掛けた。


「お前、覚えてるのか? アイツのこと」


「ああ。一度、輪廻(むこう)で会った」


「!?」


「あの嬢ちゃんとテメェが、マナの大樹()を再生させた後だ。その時にゃ、テメェは大樹()になってから知らねぇだろうがな」


「そうじゃない。なんでお前だけ、アイツを覚えてる? ……まさか、輪廻(むこう)には影響しなかったのか?」


「……フッ」


「そうかよ、そういうことか。……で、循環機構(システム)が修復される前に死んだお前等は。転生者として、その身体(おとこ)に宿ったってことか。だからアイツの事も覚えてる。そうだろ?」


「……俺も、最初はそう思ったぜ」


「なに?」


「だが、さっきの老騎士(おとこ)との戦いで確信した。……この男(エリク)は、俺の生まれ変わりじゃねぇよ」


「……なに、言ってやがる?」


 二人は何かしら互いが知る情報を伝え合い、その中でジュリアは怪訝な様子を強めていく。

 するとフォウルは、エリクに関連する重大な真実を伝えた。


「テメェも、あの嬢ちゃんを通して視てたんだろ? 鬼神(おれ)が死んだ時の状況をよ」


「……ああ。テメェは、ドワルゴンと戦って死んだ」


「そうだ。テメェが俺の当てつけに、『最強の戦士』なんぞと称号を付けたあのオーク野郎。俺はアイツと戦って死んだ。……そして俺が持ってた権能(ちから)は、俺の生命力(エネルギー)と一緒に奴の肉体と魂に流れ込んだ」


「……なんだと?」


「そう、そこが誤解の元だった。……ドワルゴンの野郎は到達者(エンドレス)ではあったが、権能(ちから)を持ってなかった。なのに、負けた俺のエネルギーが権能(ちから)と一緒にアイツに流れ込んだ。……そしてアイツ(ドワルゴン)に、俺の権能(ちから)は宿ったんだ」


「……権能(ちから)を持つ者同士だけじゃなくて。到達者(エンドレス)になった奴なら、権能(ちから)を持ってる到達者(エンドレス)を殺せば権能(ちから)が手に入るってのか?」


「そういうことだ。……そして野郎(ドワルゴン)もそのまま殺されて、持ってる権能(ちから)を別の奴に奪われた。奴の魂ごとな」


「!」


「その後、またバラバラになった権能(ちから)は宿った魂と一緒に、輪廻に逝って記憶が浄化された。だが循環機構(システム)が完全に修復される前だったから、野郎(ドワルゴン)の記憶は魂から浄化されても、その奥にある権能に刻まれた俺の記憶(フォウル)までは五百年の間で消せなかったんだろうぜ」


「……待てよ。……じゃあ、テメェが宿った身体は……いや、その魂は……っ!!」


「今更になって気付いたか。……そうだよ。このエリクッて男は、テメェが配下してたハイオーク野郎――……『最強の戦士(ドワルゴン)』だ」


「……!!」


 フォウルはそう語り、エリクが鬼神(じぶん)の生まれ変わりではない事を伝える。

 それを聞いたジュリアは改めて驚愕し、今目の前に居る存在に対して懐疑的な様子を見せ始めた。


 するとフォウル自身は、自身の精神(なか)に向けるように呟く。


「通りで俺の生まれ変わりにしちゃ、鬼神(おれ)の力に耐え切れねぇし、扱いきれねぇわけだ。……これに気付いてりゃ、テメェにも間抜けな事も言わずに済んだのによ」


『――……俺は、鬼神(おまえ)の生まれ変わりじゃ……なかったのか……?』


「そういうこった。俺もさっきまで気付かなったぜ」


『……どうして気付いた?』


「あの老騎士(おとこ)とテメェが戦ってた時だ。……最後の時、お前は鬼神(おれ)魔力(ちから)を使い果たしてた。なのに別の奥底(ばしょ)から、別の(モン)を引き出して老騎士(あいつ)にトドメを刺した」


『え……?』


「やっぱ無自覚かよ。……ありゃ、ドワルゴンの野郎が使ってた技術(わざ)だ。自分の肉体を魔力と生命力で黒く染め上げて、精神体(アストラル)すら素手でぶっ壊す殴打(こぶし)。あの技術(わざ)で、俺は心臓を貫かれて死んだ」


『……!!』


「強かったぜ、前世(まえ)のお前はよ。……ま、今は足元にも及ばねぇけどな!」


『……そうか』 


 精神内(なか)で今までの喧嘩(たたかい)と言葉を聞いていたエリクの意識は、フォウルの言葉を聞き微笑みを見せる。

 自分(エリク)鬼神(フォウル)が違う存在であり、だからこそ性格も思考も異なるのだと納得を浮かべられた。


 しかしそれを聞いていたジュリアは、目の前に居る鬼神(フォウル)についてこう述べる。


「つまりテメェは、権能(ちから)の中に残ってた鬼神(クソオーガ)の残りカスってわけだ」


「……フンッ」


「それじゃ、弱くなってるのも当たり前だな。しかし、ドワルゴンの生まれ変わりかよ。……ま、しょうがねぇか」


「ん?」


顔見知り(ドワルゴン)を殺すってのも、後味が悪いが。……今はそんなことよりも、優先すべき事があるんでな」


「……テメェ、やっぱ権能(ちから)を集めてやがるのか。今更、何のつもりだ?」


 驚愕ばかりしていたジュリアは再び表情を真顔に戻し、再び敵意と殺気を強めながら放ち始める。

 それを受けながらそうした問い掛けを向けるフォウルに、彼女(ジュリア)は真剣な赤い眼差しを向けた。


「決まってるだろ。アイツに――……アイリに、全ての欠片(かけら)を戻す」


「!」


『……アイリ?』


「今も眠り続けてるアイリを起こすには、もうそれ以外に手段()は無い。……だから欠片(かけら)を持ってるテメェ等を殺して権能(ちから)を奪い、アイリに全て与える。アタシも含めてな」


「……テメェ、そこまであの嬢ちゃんを……」


「こんなクソッタレな世界の為に、アイツだけが犠牲になり続けてるなんて許せねぇだろ。……アイツが、創造神(オリジン)本物(オリジナル)だからってよ」


「……」


『……創造神(オリジン)の、オリジナル……。……まさか、アイリという者は……?』


 二人の会話を聞いていた精神内のエリクは、その話から『アイリ』もまた創造神(オリジン)欠片(たましい)を持つ最後の一人だと察する。

 しかしそれを肯定しながらも否定するように、ジュリアは声を向けた。


「そう、アイリも権能(ちから)を持ってる一人だ。だが、アイツは他の権能(ちから)を持ってた紛い物(コピー)とは違う」


『コピー? ……それより、俺の声が聞こえているのか?』


「ああ、よく聞こえるぜ。――……アイリは、創造神(オリジン)のオリジナル……本物の生まれ変わりだったんだ」


『!』


「アタシ等が持ってる権能(ちから)は、あくまでマナの()が模倣した紛い物(コピー)に過ぎない。だがそもそも、本物(オリジナル)創造神(オリジン)権能(ちから)そのものは失っちまってた。……でも模造品(コピー)を持ってるアタシが、アイリの身体に宿る事で、アイツは創造神(オリジン)の生まれ変わりとして権能(ちから)を取り戻した」


『……そして、七つの権能(ちから)が……アイリという女に全て取り込まれた?』


「そうだ。だからこそ、アイリは最後に創造神(オリジン)と遜色の無い能力(ちから)を手に入れた。……だがアイツがそれでやったのは、創造神(じぶん)という厄災(ゆがみ)を世界から封じることだった」


『!』


「アイツはこの世界から、自分という存在の記憶を奪った。そして自分自身を眠らせることで、創造神(じぶん)が存在することで生じる厄災(ゆがみ)も封じ込めた。……アイツは、こんな世界を生かす為だけに……自分一人で犠牲になったっ!!」


『一人で、犠牲に……』


「……」


「アタシはな、それを忘れて今でも馬鹿やってやがる世界中の奴等が憎いんだっ!! ……アイリはこんなくだらない世界の為に、自分を犠牲にしたってのによ……!!」


『……』


「だからアタシは、アイリが砕いてお前等に行き渡った権能(ちから)を全て取り戻す。そしてアイリが砕いた欠片を全てアイツ自身の身体に戻す前に、アイツが犠牲になるのを選ぶような存在は消し去っていく。……手始めが、ここに居る人間共だ」


 ジュリアはそう言い放ち、復活した本当の目的を告げる。

 それは彼女(ジュリア)にとって、『アイリ』と呼ばれる存在が世界とは比べ物にならないほど大事な者であることをエリクに感じさせた。


 そして先程よりも膨大な殺気を両手に集中させると、両手から太陽のような球体(エネルギー)を作り出しながら膨張させていく。

 フォウルはそれを見ながら、腕を組んで問い掛けた。


「……本気なんだな」


「ああ、本気だ。……それを邪魔する奴は、例え顔見知り(ドワルゴン)の生まれ変わりだって殺してやるよ」


「そうか。……じゃ、アイツ等も殺せるか?」


「アイツ等?」


「他にもいるんだぜ。お前の顔見知りの、生まれ変わりがよ」


「!」


「分からなかったのかよ、権能(ちから)を持ってるかは分かるくせによ。……俺は一目見た時から、アイツがそうなんだと思ったぜ。若い頃にそっくりだったからな」


「……誰のことだ?」


「テメェが殺そうとした女だよ。金髪碧眼の、生意気なクソガキだ」


「!!」


『……まさか……?』


「そう、そのまさかだ。――……アリアとかいう人間の女。ありゃ、ヴェルズェリアの生まれ変わりじゃねぇか?」


「……な……!?」


「覚えてるんだろ? あの滅茶苦茶な行動と高飛車な様子、まるっきり大戦中のアイツとそっくりだったぜ」


『……その、ヴェルズェリアとは……聞き覚えはあるが、誰なんだ……?』


 唐突に告げられる話に、ジュリアは再び困惑しながら作り出していた太陽(エネルギー)を鎮める。

 そして聞き覚えがある名前の人物について、エリクはフォウルに尋ねた。


「最初の人魔大戦(せんそう)でこのクソガキ(ジュリア)と組んでたハイエルフの女だ。……その後は、【魔大陸を統べる女王(ヴェルズェリア)】とか大層に呼ばれてたぜ」


『……思い出した。確か、【始祖の魔王】と一緒に人間大陸を滅ぼそうとしたという……?』


「そうだ。そしてそこに居る、クソガキ(ジュリア)伴侶(つま)でもある」


『!?』


「ちなみに、前世のお前(ドワルゴン)はヴェルズェリアに仕えたらしいぜ。……生まれ変わったお前等がまた出会って似たような関係になってるとか、偶然にしちゃ出来過ぎだろ」


『……アリアが……』


「あの女が……ヴェルズの生まれ変わり……?」


 フォウルは皮肉染みた笑みを浮かべ、二人にアリアの前世(たましい)についても話す。

 それを聞いた二人は唖然とした様子を浮かべ、互いにそれぞれ知る女性(ふたり)の顔を思い浮かべていた。


 こうして激突していた二人の喧嘩(たたかい)は止まり、様々な情報が明かされる。

 それは復活した【始祖の魔王(ジュリア)】にとって、自身の目的を遂げさせるのを迷わせるほどの十分な真実(できごと)でもあった。


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