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創造と破壊


 エリクとログウェルが戦う最中、それを止めようとするアルトリアをメディアは聖域で足止めする。

 しかし彼女(メディア)から分けられた権能(ちから)はアルトリアの魂に負荷を掛け続け、ついに亀裂(キズ)を生みだした。


 魂に生じた傷は、肉体にも影響を及ぼす。

 自滅するアルトリアを待っていたメディアは、自分の権能(ちから)を奪われそうになった。


 その時、メディアの手からアルトリアを逃がした者が現れる。

 それはアルトリアと初めて友達となった、リエスティアの肉体を借りた『(クロエ)』だった。


 瞬く間も無くアルトリアを奪った『黒』に対して、メディアは僅かに視線を落とす。

 すると『黒』の履く靴と合致する足跡が地面に付いているのを確認し、口元を微笑ませながら『黒』に話し掛けた。


「――……なるほど、流石は原初(さいしょ)到達者(エンドレス)。『氷』……いや、『時』を(つかさど)る神だったかな?」


「!」


「『時』に干渉するのに特化した能力(ちから)だとは聞いてたけど、まさか時間を止めて動けるなんてね。流石に私も対応できないわけだ」


「……時を、止めた……!?」


 メディアは自身の知識と現状から推察し、『黒』の能力(ちから)を見破る。

 それを聞いたアルトリアは驚愕を露にし、隣に立つ『(クロエ)』を見上げた。


 すると『黒』は、それを肯定するように口元を微笑ませながら帽子の鍔で隠れた黒い瞳を見せて話す。


「凄いね。私の足跡だけで、それが分かるなんて」


「転移か何かなら、そもそも足跡(そんなの)は付かないから」


「『(わたし)』の『時間停止(ちから)』を見破ったのは、これで四人目だ。流石は【始祖の魔王(ジュリア)】の後継者(こども)だよ。あっ、ちょっと失礼――……」


「――……!」


 突如として目の前に現れた『(クロエ)』は、再び姿を消す。

 更に隣に座らせていたアルトリアも消え、メディアは二人を同時に見失った。


 そして地面を見てから新たに作られた足跡を視線で追い、マナの大樹()へ顔を向けた瞬間、彼女(メディア)背後(うしろ)から声が掛かる。


「――……やぁ、お待たせ」


「!!」


「アリアさんなら、人に預けて来たから。あの状態だと、もう戦えないだろうからね」


 メディアは再び視線を戻し、背後に立っていた『黒』に呼び掛けられる。

 そして奪い取ったアルトリアに関してそう話した後、今まで余裕を含んだ笑みが引き、赤い瞳が鋭い眼光を見せながら低い声を向けた。


「どういうつもりだい?」


「何がかな?」


「私達の邪魔する気? 自分で未来を変えるよう、頼んでおいて」


「確かに、私はログウェルに頼んだよ。だから彼の望みも叶えてあげるつもり。でも別に、『(わたし)』から君には頼んだ覚えはないよ」


「!」


「君、本気で世界を壊す気でしょ? 二人の勝敗(かちまけ)に関わらずさ」


「……まぁね」


「一応、私はこの世界を保つ為の抑止力(そんざい)だから。――……君の目的(こと)は、止めさせて貰うよ」


 そう告げた『黒』は、右拳を握り右側へ突き出す。

 すると次の瞬間、メディアの左顔に『黒』の右拳が出現した。


「ッ!!」


 メディアは咄嗟ながらもそれに反応し、左頬を掠めながら跳び避ける。

 そして視線の端で確認したのは、『黒』の右拳の先と自分の左顔面側に出現した時空間の穴だった。


 時空間を利用した直接攻撃であることを見破ったメディアは、身を捻りながら両足で着地し『黒』を警戒しながら見据える。

 すると『黒』は時空間の穴から右腕を引き戻し、微笑みの声を向けた。


「良く避けたね。――……じゃ、これならどうかな?」


「っ!!」


 『黒』は自身の周囲に時空間の穴を数多に作り出し、それと同時にメディア自身の傍にも同じ数の時空間の穴が形成される。

 そして黒い手袋に覆われた両拳を握り締め、メディアですら視認できない程の速度で両拳を時空間の穴へ放った。


 すると時空間の穴を通して、メディアに夥しい数の拳が突き刺さる。

 『魔王の外套(スフィール)』ですら対応できぬ速度と数の拳に、メディアは幾度も打撃を受けた。


「クッ!!」


 今までアルトリアの攻防において損傷(ダメージ)を受けた様子が見えなかったはずのメディアが、『黒』の拳によって肉を削られ血を吹き出す。

 それに驚愕するメディア自身も、その攻撃から逃れる為にその場から転移した。


 空中に転移したメディアはその場から下を見下ろし、『黒』が居た位置を見る。

 しかしその時には『黒』の姿は見えず、再び背後(うしろ)から声が聞こえた。


「――……逃げるだけでいいのかい?」


「!?」


 メディアは『黒』の声を聞き、正面へ飛び退きながら再び振り返る。

 すると同じように空中へ浮いている『黒』を見て、驚きを見せながら声を向けた。


「……あれ? 『(きみ)』は時空間に干渉できるっていうのは知ってるけど、空も飛べる能力(ちから)もあるなんて聞いてないんだけど。それに、そんなに強いとも聞いてない」


「本来はね。でもこの聖域(ばしょ)に限ってはね、そうでもない」


「?」


「知ってるだろ? この聖域(ばしょ)を時空間で作ったのは、創造神(オリジン)なんだ。……つまり聖域(ここ)は、創造神(オリジン)領域(テリトリー)でもある」


「!」


「それなら理解できるでしょ? ――……『(わたし)』は創造神(オリジン)分身体(カゲ)。『(わたし)』や創造神(オリジン)の作った領域(テリトリー)でなら、創造神(かのじょ)と同等の実力を出せるのさ」


「……なるほどねっ!!」


 創造神(オリジン)の作った聖域(ばしょ)の中では、『黒』は無類の実力を発揮する。

 別未来においても自身の領域(テリトリー)を作りマギルスやエリクといった強者達を圧倒した『黒』は、聖域(ここ)でも同じ実力を発揮して見せていた。


 それに納得するメディアは、『魔王の外套(スフィール)』を使い『黒』を飲み込もうとする。

 しかしその前に、『黒』が正面(まえ)に突き出した右拳が時空間の穴を通過し、メディアの顔面に現れながら出鼻を穿った。


 それでもメディアは超人的な反射神経と動体視力で拳を回避し、大きく仰け反りながら『魔王の外套(スフィール)』を身に纏う。


「ッ!!」


「『魔王の外套(それ)』は確かに凄い武器だけどね、こうして距離を詰められたら――……攻撃は防げない」


「うわっ!?」


 無造作に『黒』が左拳を振り上げた瞬間、メディアの胸部分に拳一つが通れる時空間の穴が出現する。

 それを察知し大きく仰け反ったメディアの顎下に、『黒』の左拳が通過した。


 しかし握られていた左拳は開き、メディアの胸倉を掴み取る。

 更に左腕を引きながらメディアの肉体ごと広がった時空間の穴を通過させ、『黒』自身の元に引き寄せた。


「っ!?」


 その瞬間、『黒』の振り上げていた右拳がメディアの顔面へ穿たれる。

 回避不能な拳を受けたメディアは大きく首が仰け反りながらも『黒』は右拳のみで更なる殴打を浴びせ続けた。


 拳が直撃した部位から血が溢れ吐血するメディアは、幾度も殴打を浴びて動かなくなる。

 そして『黒』は掴んでいた胸倉を離し、そのままメディアを地面まで落下させた。


 地面へ勢い強く叩き付けられたメディアは、動く様子がない。

 その傍に『黒』は再び現れると、黒い瞳で見据えながら声を向けた。


「死んだフリなんかしてないで、起きたら?」


「――……ちぇっ、バレちゃうか」


 顔面や各重要臓器を破壊されたメディアだったが、そのままの意識を保ちながら上体を起こす。

 すると受けていた損傷(ダメージ)を修復し、そのまま起き上がりながら声を向けた。


「強いね。魔大陸(むこう)到達者(エンドレス)とも戦ったけど、ここまで圧倒されたのは君が初めてだ。私でも勝てないね」


「そう思うなら、大人しくしてくれないかい?」


「残念だけど、それは出来ないね。――………私の行動は、母親である大樹(ジュリア)の意思でもあるんだから」


「やはり君は、ジュリアの記憶を受け継いだわけだ」


「そうだよ、だから大樹(はは)の願いを叶えてあげるんだ。あの子を犠牲にして救われても、何も変わらなかった世界に」


「……アイリは、彼女はそんな事は望んでない。創造神(オリジン)もね」


「それは嘘だ。創造神(オリジン)は何もかも捨てて死んだじゃないか。だったらこんな世界なんて、もう捨てた方がいいに決まってる」


「……どの時代も、君達はそう言うね。……記憶を見た程度で、創造神(オリジン)を理解した気にならない方がいい」


「!」


 口論染みた言葉を向け合う二人の中で、『黒』の様子と口調が僅かに剣呑とした雰囲気を纏い始める。

 すると右腕を緩やかに正面へ伸ばし、メディアに右手の人差し指を向けながら僅かに手首を回した。


 すると次の瞬間、メディアは悪寒を感じて左横に跳び避ける。

 それと同時に右腕を中心に空間が捻じ曲げられ、引き千切れるように弾け飛んだ。


 メディアはそれを見ながら赤い瞳を見開いた後に、右腕を生やすように修復しながら声を向ける。


「空間を捻って切断とか、話に聞いた印象より随分と荒っぽいんだなぁ。『黒』は」


「当たり前さ。そもそも『(わたし)』は、創造神(オリジン)の破壊衝動なんだから」


「!」


「数千万年前。創造神(オリジン)は孤独から生じる虚しさから、周囲に対する破壊衝動が生まれた。でもそれ以上の優しさを持ち合わせていた創造神(オリジン)は、周りの人達を傷付けない為に破壊衝動(それ)を抑え込んだ。……そうして我慢した創造神(オリジン)は、精神の均衡を保つ為に自分の破壊衝動を精神から分離した」


「それが……」


「そう。破壊衝動()の中から生まれた人格が、『(わたし)』なんだよ。……私は創造神(オリジン)の破壊衝動であり、負の集合体なんだ。……ここまでで、違和感は感じないかい?」


「え?」


天界(ここ)が最初に崩落した時も、創造神(オリジン)本人にはそうするだけの破壊衝動(おもい)は無かったんだ。……じゃあ、天界(ここ)の人達はなんで地上に落ちてしまったのでしょうか?」


「……まさか……!」


 『黒』は自身に関する話をすると、右腕を修復させたメディアの表情は驚愕で固まる。

 その考えを読み取るように、『黒』は微笑みを向けた。


「そうだよ。天界(ここ)で暮らしていた人達を下界(した)に落としたのは、破壊衝動(わたし)さ」


「!!」


「そして循環機構(システム)か取り込んだと認識して、それぞれのマナの樹を通して生まれた君達に与えたのは、創造神(オリジン)権能(ちから)や記憶なんかじゃない。……負の感情に片寄った、『(わたし)』の破壊衝動(ちから)と記憶なんだよ」


 現在の世界が作り出された原因である最初の天変地異(カタストロフィ)の真相と、創造神(オリジン)権能(ちから)と呼ばれる能力の正体が『黒』から語られる。

 それは『創造神(オリジン)』から切り離されていた、『破壊神(クロ)』の破壊衝動(ちから)だった。


 しかもこの話は、メディアが途切れさせていない映像と声によって地上の人々にも伝わっている。

 特にその話を聞き動揺を強めていたのは、『繋がりの神』として『黒』を信奉するフラムプルグ宗教国家の者達となった。


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