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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 八章:冒険譚の終幕

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溝の差


 上空に浮かぶ天界(エデン)の大陸において、同じ権能(ちから)を生まれ持つ到達者(エンドレス)の二人が対峙する。

 それは『世界を滅ぼす者』と予言された老騎士ログウェルと、彼に『戦士(てき)』として選ばれた傭兵エリクだった。


 互いに自身の剣を抜き持つ二人は、身構えた姿勢から同時に踏み込む。

 そして凄まじい速さで近寄り、エリクが上段(うえ)から振り下ろす黒い大剣と、下から()がれるログウェルの長剣が衝突した。


 殺気を込めた互いの剣は火花を散らすと同時に、周囲に生命力(オーラ)の衝撃波を生み出す。

 それは同時に白い魔鋼(マナメタル)の地面を砕くように割り、人間大陸にも及ぶ衝撃(ふるえ)を起こした。


 その衝撃とは裏腹に、互いの剣は衝突した位置で震え止まっている。

 しかし両手で大剣を振り下ろしたエリクに対して、ログウェルは右手(かたて)だけで握る長剣で受け止めるという光景(うちあい)を見せていた。


「――……ッ!!」


「ほっほ――……ほっ!!」


 上段(うえ)から振り下ろした全力の一撃を片腕だけで受け止められたエリクは、表情の強張りを強める。

 対してログウェルは殺気の宿る微笑みを浮かべると、片腕で支えられる長剣でエリクの大剣を弾き返した。


 それと同時に流れるようなログウェルの右腕は、相手(エリク)左腹部(はら)を狙うように流動する。

 エリクは自身の勘によって腹部に寒気を感じ、咄嗟に長剣の間合いから跳び退いた。


 するとログウェルはそのまま相手の左腹部(はら)を狙い、エリクですら捉えられぬ程の速度で長剣が振られる。

 辛うじて剣の刃先から僅か回避できたエリクは素早く姿勢を戻し、振り終わったログウェルに対して返すように大剣を薙ぎ向けた。


 その時、エリクは腹部に不自然な熱さを感じる。

 それに覚えを感じた瞬間、(エリク)は腹部から血を吹き出させた。


「グッ!?」


 エリクは腹部(はら)を斬られた事を理解し、今度こそ大きく跳び退いて距離を保つ。

 そうした対応を見せる(エリク)に対して、ログウェルは一切の容赦を見せずに追撃を始めた。


「いかんのぉ」


「ッ!!」


(てき)を前にして、退()くのはな!」

 

「ク……ッ!!」


 跳び退いたエリクに対して逆に踏み込むログウェルは、右腕だけで振る長剣(けん)を凄まじい速度で振り薙ぐ。

 その速度は老騎士(ログウェル)の右腕が分裂し増えたかのようにすら見え、エリクは勘によってその剣戟を大剣で受け止め続けた。


 しかし幾つかの剣戟は受け止められず、エリクの左脚と右脚の太腿部分に裂傷が起きる。

 本来ならばその攻撃はエリクの両脚を切断できる程の膂力と速度で振られていたが、彼自身の肉体に纏わせる生命力(オーラ)が防御壁となり、辛うじて浅い裂傷(キズ)で済んでいた。


 それでも幾度かの剣戟を防ぎ浴びた僅か数秒で、エリクは理解する。

 目の前にいる老騎士(ログウェル)技量(レベル)がエリクを遥かに凌駕し、生命力(オーラ)を用いた一瞬の攻防(ワザ)において圧倒される程の実力差が存在していた。


 そうして必死に防御へ徹するエリクに対して、身軽に動き剣戟を放ち続けるログウェルは微笑みと声を向け続ける。


「動きが悪いのぉ」


「ッ!!」


「ウォーリスと戦っておった時には、もっと良い動きをしておったではないか。――……あの時のように、追い詰められねば本気になれんかね?」


「オ――……オォオッ!!」


 捉えられぬ程の速度で放たれる剣戟により、防御に徹しているはずのエリクに両脚のみならず両腕や肩にも浅くも裂傷(キズ)(しょう)じる。

 それに対して余裕の声と表情を見せたままのログウェルは、以前のようにエリクを(あお)るような言葉を向けていた。


 受ける攻撃(けん)は軽く感じながらも、間合いを無視するように切り裂くログウェルの斬撃にエリクは反撃することが出来ない。

 それでも反撃の機会を作り出す為に、エリクは肉体(からだ)に内在する生命力(オーラ)を全力で発し始め、軽いログウェルの斬撃(けん)生命力(オーラ)だけで受け止めた。


「おっ」


「オォオッ!!」


 右肩へ袈裟掛(けさが)けに薙ぎ向けた長剣がエリクの生命力(オーラ)で受け止められ、ログウェルの剣戟(うごき)が僅かに止まる。

 その隙を見逃せないエリクは右手に大剣を持ち、凄まじい剛腕と速度でログウェルの左胴体(からだ)を狙った。


 それに対してログウェルは微笑みを崩さず、今まで疎かにしていた左手を動かす。

 すると次の瞬間、か細くすら見える老騎士(ログウェル)の左手が、初撃(はじめ)と遜色のない威力で振るわれたエリクの大剣(けん)を五本の指で掴み止めた。


 それを見たエリクは、流石に驚愕の声を零す。


「なっ!?」


「無駄な動作(うごき)が多いのぉ」


「クッ!!」


「せっかくの(パワー)が、逃げておるぞい」


 そうした感想を漏らすログウェルは、掴み止めた左手を薙ぎながら大剣を引き剥がす。

 エリクはそれによって右半身の上体が僅かに()れると、止まっていたログウェルの長剣が揺れ動いた。


 それに反応し再び跳び退こうとしたエリクに対して、逆にログウェルは踏み込みながら微笑みを引かせた声を放つ。


退()くなと言ったろう」


「……ッ!!」


 逃げるように跳び退いたエリクに対して、ログウェルは怒りが籠るような言葉と同時に長剣を薙ぎ放つ。

 それは生命力(オーラ)の防壁を纏わせたエリクの肉体において、左肩から右脇腹を切り裂いて見せた。


 先程までの軽い裂傷と違い、その一閃はエリク自身に思った以上の深さを感じさせる。

 それでも倒れず踏み止まるエリクは、歯を食い縛りながら唸るように叫んだ。


「ガ――……ガァアアッ!!」


「おっ」


 エリクが雄叫びを上げた次の瞬間、彼が放つ生命力(オーラ)に赤い魔力(マナ)が混ざり始める。

 更にそれが彼自身の筋肉量と肉体を膨張させ、身体全体に及ぶ流血の裂傷(キズ)を瞬く間に塞ぎ止めた。


 それを見たログウェルは再び笑みを戻し、高揚した面持ちを高める。

 まるでそれを待ち望んでいたかのような様子で、ログウェルは長剣を止めながら声を向けた。


「そう、それと()りたかったんじゃよ。――……『鬼神』の魔力(ちから)、どれ程の力量(モノ)か見せてくれい!」


「ァアアアッ!!」


 自身の生命力(オーラ)鬼神(フォウル)魔力(ちから)を纏わせたエリクは、浴びた裂傷(キズ)を塞ぎながらログウェルに襲い掛かる。

 しかしその瞳は以前のように正気を失ってはおらず、自身の意思によって『鬼神(フォウル)』の魔力(ちから)を制御していた。


 その波動(オーラ)は圧倒的な殺気に満ちていながらも、逆に殺気(それ)がログウェルの微笑みを深める。

 すると真正面から今のエリクに挑み、再び振られた互いの剣を激突させた。


 その激突は最初以上に大気を揺らし、天界(エデン)の大陸すらも地響きを起こさせる。

 しかし最初の激突と違い、右腕で支えられたログウェルの長剣を僅かに軋ませながら押し退け始めていた。


 それでもログウェルは笑みを崩さず、その剣圧にも感想を漏らす。


「先程より威力(ちから)はあるのぉ。……だが、それだけではな!」


「ガッ!?」


 ログウェルは長剣の刃を僅かに逸らし、受け止めたエリクの大剣をそのまま地面へ衝突させる。

 それによって前屈みになったエリクの顔面に、長剣の柄を握ったままの右手で強打を打ち込んだ。


 前屈みだったエリクの顔面にログウェルの右拳が喰い込み、そのまま大きく後方へ仰け反る。

 そこから大量の鼻血を流しながらも、エリクは意識を保ったまま上体を起こして腰を捻りながら大剣を薙ぎ振るった。


 しかし僅かにログウェルが跳躍し、胴体を真っ二つにしようとするエリクの大剣を長剣で受ける。

 するとエリクの剛腕を利用し身を捻りながら、通過する大剣(こうげき)を回転して避けた。


 しかも身体を回転させたまま更に身を捻ったログウェルは、自身の右足をエリクの左顔面へ薙ぎ振る。

 その足蹴りはエリクの身体を大きく右側へ傾かせ、今度は倒れるのを防げずに右膝を地面へ着かせた。


 エリクの視界は、その時に景色が回っているように感じる。

 先程の蹴りで大きく脳を揺らされたエリクは、辛うじて意識を保ちながらも思考する事が出来ない状態となっていた。


「……ッ!!」


「凄まじい(パワー)ではある。じゃが、(それ)に頼り過ぎじゃな」


「……ぁ……ぐ……っ」


「さぁ、()ちなさい。――……その程度で、儂は満足できんぞ。傭兵エリク」


 着地したログウェルは敢えて地面へ膝を着いたエリクを見下し、立ち上がるのを待つ。

 それに対してエリク自身も声が届き、まだ回る視界の中で両手と両足を地面へ噛むように着けながら揺らした身体を立たせた。


 更に定まらぬ焦点のまま、エリクは歯を食い縛って両手で掴む大剣を振り上げる。

 そしてログウェルに向けて振り下ろしながらも、それは受けることすらせずに軽く避けられた。


 しかし魔鋼(マナメタル)の地面へ激突した大剣(けん)の破壊力は、そのまま彼等がいる場所を吹き飛ばすように砕く。

 それによって魔鋼(マナメタル)の破片を受けながらも無傷で吹き飛ばされたログウェルは、微笑みを見せた。


「ほぉ、儂ではなく地面(そっち)狙い――……」


「――……ガァアッ!!」


「と、見せかけてっ!!」


「ガッ!?」


 砕き割った魔鋼(マナメタル)の塊や欠片に紛れ、エリクはログウェルに真横から奇襲を仕掛ける。

 しかしそれを見破っていたログウェルは飛んで来た破片を左手で殴り飛ばし、エリクの顔面へ直撃させた。


 破片(それ)はエリクの視界を僅かに途絶えさせ、一瞬の隙を生み出す。

 すると今度も左腹部に寒気を感じさせ、エリクは無意識に右側へ回避した。


 その瞬間、エリクの左腹部に激痛と呼べる熱さが生じる。

 更に左肩の付け根部分を切り裂かれた熱さを感じ、エリクは表情を歪めながら右手に持つ大剣を正面へ振り薙いだ。

 

 そして振られた大剣は鳴り響く金属音と共に止められ、エリクは揺れる視界で正面を視る。

 そこには影の笑みを向ける老騎士(ログウェル)が存在し、右手で握る長剣を逆手にしながら大剣を受け止めていた。


「……っ!!」


「そうそう、工夫するんじゃよ。……儂を殺す為に、お前さんの持つ全てを使いなされ」


 『鬼神(フォウル)』の魔力(ちから)を使いながらも血塗れになるまで追い込まれるエリクに対して、ログウェルは無傷のまま自身の能力(かぜ)すら使っていない。

 ウォーリス戦の時と同じように、同じ到達者(エンドレス)ながらも圧倒的な実力差を持つ二人の対峙は、一方的な状況を見せ始めていた。


 それでも老騎士(ログウェル)は、目の前の戦士(エリク)に対して失望した様子は見せていない。

 戦士()全力(すべて)を引き出すのを楽しむ様子すら見せる老騎士(ログウェル)は、再び止めていた大剣を弾き剣戟(けん)を向け始めた。


 こうして二人の戦闘(たたかい)は、以前と同じく一方的な展開を見せ始める。

 それは数々の強敵と激戦を果たしたエリクですら、ログウェルとの実力差(みぞ)を跳び越えられていない事を意味していた。


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