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三度目の対峙


 『黒』が百年以上前に予言した『世界を滅ぼす者』は、『緑』の七大聖人(セブンスワン)ログウェル=バリス=フォン=ガリウスだった。

 その原因は彼が持つ創造神(オリジン)権能(ちから)とそれを完全に制御する為の聖紋(カギ)であり、彼の持つ『暴食(ちから)』によって世界の生命(いのち)を全て飲み込まれてしまう。


 それを阻止する為には、到達者(エンドレス)となったログウェルを殺し創造神(オリジン)権能(ちから)聖紋(カギ)を奪う必要がある。

 彼は自分の滅ぼした未来で出会った『黒』の話を聞き、それを任せる相手に同じ権能(ちから)を持って到達者(エンドレス)となった傭兵エリクという『戦士』を選んだ。


 ログウェルは自身の夢とした旅を終える為に、エリクと戦おうとする。

 それを邪魔するであろうアルトリアを封じ込めてエリクを誘き寄せる囮としたメディアとログウェルは、天界(エデン)において対峙を果たした。


 その事実は循環機構(システム)を用いた映像と音声によって地上にも伝えられ、改めて二人の共謀した計画が明かされる。

 そうした事態に陥っていることを認識していないのは、天界(エデン)に立つ人々と、ログウェルと対峙するエリク達だけだった。


「――……さぁ、傭兵エリク。天界(した)へ行こうか」


「!」


「ログウェル! 待って――……」


 機動戦士(ウォーリアー)が留まる天界(エデン)の更に上空にて、エリクと対峙するログウェルはそう提案する。

 そして弟子であるユグナリスの制止を聞かず、そのまま天界(した)の大陸へと降下していった。


 それを視線で追うエリクは、表情を強張らせながら機動戦士(ウォーリアー)に搭乗するドワーフ族長のバルディオスに呼び掛ける。


「バルディオス、天界(した)の大陸へ降りてくれ」


『むっ、いいのか?』


「ああ。……あの男が言っている言葉は、全て本気だ」


「!」


「俺と戦わなければ、奴は世界を滅ぼす。……俺は、奴と戦う」


『……分かった』


 エリクはログウェルの言葉を全て聞いた上で、彼の意図を察する。

 それを聞き届けたバルディオスは、機動戦士(ウォーリアー)を降下させ始めた。


 しかし機動戦士(ウォーリアー)の右肩に乗るユグナリスは、『白』である(みかど)を拘束したまま頭部に乗るエリクへ声を向ける。


「……ま、待ってくれっ!!」


「ん?」


「ログウェルとは、俺が話すから! だから、アンタ達が戦うなんて――……」


「話は無駄だ」


「!!」


あの老人(ログウェル)は、俺と戦う為にコレを始めた。……だったら俺とあの老人(ログウェル)は、戦わなければならない」


「そ、それを()めてくれって言ってるんだっ!! よく分からないけど、ログウェルを殺す以外にだって、何か解決方法があるはずだろっ!?」


「奴は、それを望んでいない」


「!!」


「他に方法があったとしても、この方法以外にやる気は無いんだ。……だったら俺は、戦うしかない」


「で……でも……でも……っ!!」


 戦う事を選択する二人に対して、ユグナリスの意思と声は届かない。

 そうして彼が苦悩しながら顔を伏せると、『白』は拘束された状態でユグナリスを見上げながら銀色の瞳を凝視させて声を発した。


「……お主も、創造神(オリジン)権能(ちから)を持っているのか?」


「!」


「しかも『赤』の聖紋に選ばれたのか。……だとしたら、お主は『(やつ)』と似た状況だな」


「え?」


創造神(オリジン)権能(ちから)循環機構(システム)を制御するには、鍵となっている七大聖人(セブンスワン)の聖紋が必要なんだ。『(やつ)』はそれを利用して、世界の天候そのものを操ってみせた」


「えっ。……じ、じゃあ……俺もログウェルと同じことが……?」


「ただお主の場合、到達者(エンドレス)ではない。創造神(オリジン)の権能を完全に操るには、到達者(エンドレス)になる必要があるんだ。だから循環機構(システム)への完全な干渉も、今のお主では出来ない」


「……貴方はいったい……」


「言っただろう、()は『白』の七大聖人(セブンスワン)だ。それに余にも、同じ『権能(ちから)』がある」


「!」


「ただ余の場合、到達者(エンドレス)になると今の『緑』と同じような状態になるので、到達者(エンドレス)にはならぬようにキツい制約(ルール)を施しているがな。……なぁ、そろそろ離してくれないか? かなり痛いんだけど……」


 銀の瞳が見通す『過去視』によってログウェルの事情を再び明かす(みかど)は、ユグナリスや自身にも関わる事情を伝える。

 それを聞いていたユグナリスは後ろ手に拘束している腕力を僅かに緩めたが、それでも拘束は解かずに再び問い質した。


「じゃあ、なんでアンタはログウェルを殺そうとしたんだ……!? 確か到達者(エンドレス)って、同じ到達者(エンドレス)にしか殺せないんだろ!?」


「よ、余自身も奴を殺せるわけではない。だから奴の肉体を滅ぼして権能(ちから)を持っている魂を引き剥がし、『虚無』の世界へ放り込むつもりだったんだ」


「!?」


「そうすれば、『虚無(むこう)』で魂は権能(ちから)ごと滅びる。循環機構(システム)を経由して輪廻には行けなくなるが、その方法が手っ取り早い解決に――……イ、イタタタタッ!!」


 この場に現れた(みかど)がログウェルを滅ぼす方法を伝えると、緩んでいたユグナリスの腕力(ちから)が再び籠る。

 それによって拘束力が強まり両腕に痛みを走らせながら訴える(みかど)に、改めてユグナリスは怒鳴りを向けた。


「そんな事をしたら、ログウェルが消滅しちゃうだろっ!!」


「だ、だったら! それ以外の方法は、もうその男に頼るしかない!」


「えっ!?」


到達者(エンドレス)となった『緑』を殺して権能(ちから)を奪って聖紋を剥奪し、奴の魂を輪廻へ導けるのはその男(エリク)だけだ! イ、イタタ……ッ!!」


「……ッ」


 (みかど)は自身の用いた方法を否定され、もう一つの手段であるエリクとログウェルの戦いが必要であることを説く。

 それを聞かされたユグナリスは表情を(しか)めながら、改めてエリクを見上げながら声を向けた。


「……ログウェルと戦うにしても、殺すまでしなくても……!」


「無理だ」


「なんでっ!?」


「奴は、俺を殺すつもりで戦うつもりだ。だったら俺も、本気でやるしかない」


「!」


到達者(いま)になって、ようやく分かった。……あの老人(ログウェル)は、とんでもない強さだ。今の俺でも、勝てるかどうか分からない」


「で、でも……ログウェルは、自分で死ぬつもりなんじゃ……?」


「奴は俺に勝てば、本気で世界を滅ぼしに掛かるだろう」


「!?」


「奴は奴なりに、俺との戦いでその覚悟をしている。……だから、戦うしかないんだ」


「……なんで……なんで、こんなことに……っ」


 改めてエリクを説得しようとしたユグナリスだったが、その言葉はログウェルの覚悟によって阻まれる。

 そうしてそれぞれを乗せた機動戦士(ウォーリアー)は、降下を続けた。


 すると場面は移り、浮遊する天界(エデン)の白い大陸に視点は戻る。

 『雷』の能力(ちから)を持つ狼獣族エアハルトは、『緑』である初代(ガリウス)二代目(バリス)の融合体と激闘を繰り広げていた。


 その周囲に留まる者達を他所に、神殿の階段を走る者達が見える。

 それはケイルに伴われるリエスティアとシエスティナ、そして妖狐族クビアを含む女性陣だった。


 しかし先頭を走るケイルは後方(うしろ)を窺い足を止めながら、焦る様子を浮かべて声を向ける。


「――……もっと早く、登れねぇかっ!?」


「な、なんでここぉ……転移が使えないのよぉ……」


「そういう場所なんだよ。……ってか、そっちのガキの方が元気じゃねぇか!」


「う、うーん!」


「ご、ごめんね……」 


「……(あめ)は止んだままだな。生命力(オーラ)が使える内に、登り切りてぇが……」


 聖人であるケイルは高い身体能力によって階段を躊躇いなく登れているが、体力と身体能力が遥かに劣る他の三名は遅れてしまっている。

 機能が再開した神殿の敷地へ入ると、転移魔法や空を飛ぶ(すべ)が使えなくなっていたのだ。


 しかし生命力(オーラ)や魔力を用いた能力(ちから)を封じていた雨は、少し前から()んでいる。

 それでも仕方なく自力で階段を登るしかない四人は、急いでアルトリアとメディアが戦う聖域(ばしょ)へ向かおうとしていた。


 そんな時、自分の子供(シエスティナ)に手を引かれながら登るリエスティアは、何かに気付くように黒い瞳を見開いて足を止めながら後方(うしろ)を見る。

 ケイルはそれに気付き、怒鳴るように問い掛けた。


「どうしたっ!?」


「……また、これが……」


「あぁ!?」


「……未来が、バラバラに……ぐちゃぐちゃに、見えて……っ」


「お、おいっ!!」


 来た道を凝視しながら困惑した表情を浮かべたリエスティアは、その場で身体を揺らし始める。

 それを見て倒れそうになっている事に気付いたケイルは、自分の立つ階段から跳び彼女達がいる階段まで降りた。


 そして淀みなく着地したケイルは、倒れそうになるリエスティアを支える。


「どうしたんだよっ!?」


「……さっきも、同じ事があって……」


「同じこと?」


「あの映像が、見える前に……。……ユグナリス様や、皆が死んでしまう未来が見えて……」


「!」


「でも、その次には……暗い雲が掛かった世界が見えて……。……そこで、ログウェル様が……立っていて……」


「……何の未来を視たんだよ、お前……」


「分からないんです……。……でも、他にも視えて……。……アルトリア様の傍に居た男の方と……ログウェル様が……戦う姿が……」


「!」


 ケイルはその話を聞き、リエスティアが視認する未来(ひとみ)にエリクが居ることを察する。

 そこでケイル自身も来た道を凝視し、残して来た師匠達が居る方角へ視線を向けた。


 すると次の瞬間、ケイルの視界にあるモノが映る。

 それは遠目に見ても巨大と言える、人型の魔導人形(ゴーレム)らしきモノが上空から降りて来る光景だった。


「な、なんだ……ありゃ……。魔導人形(ゴーレム)か……!?」


「……あそこに、ログウェル様と……ユグナリス様。……それに、あの男の方が……」


「!」


 リエスティアはそう話し、降りて来る機動戦士(ウォーリアー)に彼等が居る事を伝える。

 するとケイルは表情を強張らせ、階段の上と下を交互に見ながら表情を強張らせた。


「……アレにエリクが乗ってるんだとしたら……。……クソッ、どっちに行きゃいい……。エリクと合流して、アリアのとこに一緒に行った方が確実か……!」


 ケイルはどちらに優先して向かえばいいかを悩み、僅かにエリク側に意識を傾ける。

 しかしそれを否定するように、支えられるリエスティアは首を横へ振った。


「……私達は、アルトリア様の所へ行きましょう」


「!」


「今、あそこに戻っても……何もやれる事は、ないみたいです……」


「……それも予言かよ。……クソッ、確かにそうだな。――……ほら、背負ってやるから。しっかり掴まれ!」


「あ、ありがとうございます……」


 戻る選択を踏み止まらせたリエスティアの予知(ことば)を聞き、ケイルはエリクとの合流を諦める。

 そして疲れ果てた様子のリエスティアを背負い抱えると、そのまま階段を登り始めた。


 それに付いていくシエスティナに対して、更にその後方(した)で息を乱すクビアは声を発する。


「わ、私も背負ってよぉ!」


「どっかの御嬢様じゃあるまいし、お前も少しは運動しろ! デブるぞ!」


「ひ、ひどぉい! そんなに厳しいとぉ、男に嫌われるわよぉ!」


「うっせぇ! 喋る元気があるならさっさと登れっ!!」


 罵詈雑言を浴びせ合いながらもケイルとクビアは共に階段を登り、神殿の入り口となる門を目指す。

 それに伴うリエスティアは、自身の視た未来を信じて希望(シエスティナ)を届けることを優先した。


 そしてついに、機動戦士(ウォーリアー)天界(エデン)の大陸に着陸する。

 そこは神殿からかなり離れた平地であり、降りたエリクはそこで待っていたログウェルと向かい合った。


「――……では、やるかのぉ」


「ああ」


 そうして二人は向かい合い、互いに対象的な表情を向け合う。

 その光景は、以前に二度ほど出会った港町で対峙した二人の姿を再現していた。


 こうしてエリクとログウェルは、三度目となる対峙を見せる。

 それは正真正銘、本気で戦う覚悟をした彼等の姿だった。


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