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過去と現在に


 天界(エデン)にて老騎士ログウェルと再会したユグナリスは、彼がメディアの暴挙に加担している理由を語る。

 それは常人の思考では納得し難い理由であり、それを理解できなかったユグナリスは自身の師匠であるログウェルを倒し止める事を選んだ。


 しかし『火』の一族と呼ばれ『生命の火』を扱うユグナリスに対して、『風』の一族であるログウェルは『生命の風』で容易く迎撃を行う。

 吹き飛ばされながらも『青』が口にするログウェルの能力(ちから)について聞いたユグナリスは、すぐに身体を起こした。


 そして自身の肉体(からだ)に風を纏わせているログウェルを改めて目にしつつ、自分だけが吹き飛ばされた原因を一瞬で把握する。


「――……俺の『生命の火(ほのお)』が、ログウェルに近付いた瞬間に……消えた……!?」


「だから言ったであろう。お主と奴では、相性が悪いと」


「どういう事なんです……!?」


「そもそも『火』とは、可燃物(もえるモノ)が在ってこそ存在できる。お主の『生命の火(ほのお)』もまた、お主自身の生命力(オーラ)精神(たましい)を燃やす事で生み出されているのだ」


「……な、なら……それはログウェルも同じじゃ……?」


「原理はな。だが燃やし生み出した『火』と同じように、お主の『生命の火(ほのお)』は性質的に弱点がある」


「弱点……っ!?」


「『生命の火(ほのお)』は可燃物(もえるモノ)さえあれば燃え続けるが、逆に可燃物(それ)が無くなれば威力は弱まり消失してしまう。特に体外に放出されたお主の『生命の火(ほのお)』は、そうした現象に晒されれば弱まりは激しい」


「……まさか、ログウェルがやったのは……」


「奴の『生命の風(かぜ)』は、体外に放出されたお主の『生命の火(ほのお)』を吹き飛ばし、肉体から放たれる生命力(オーラ)と切り離した。だから消えたのだ」


「……!!」


 『青』はそうした説明を真後ろから行い、ユグナリスが打ち負かされた理由を伝える。

 そこに来てようやく自身の『生命の火(ほのお)』に弱点がある事を知ったユグナリスは、苦々しい面持ちを浮かべながらログウェルに視線を向けた。


 そしてログウェルは余裕の笑みを向けたまま、左腰に帯びた聖銀の長剣(つるぎ)を抜いて声を向ける。


「確かに、相性的な問題はあるかもしれんが。……単純に、まだお主が『生命の火(ほのお)』を上手く扱えておらんのも理由じゃな」


「えっ!?」


「同じ『生命の火(ほのお)』を用いていたお前さんの先祖(ルクソード)は、例え生命力(オーラ)を切断されてもそれを持続させる技術を持っておった。……しかし、お主はその技術を鍛錬しておらんじゃろう?」


「……ッ」


「『生命の火』は強力な能力(ちから)じゃが、それ(ゆえ)にそればかりに頼った戦い方をしておったからのぉ。……この三年でお主が自分自身の弱点を補う鍛錬をしておれば、儂も(これ)を抜かねば斬られていたやもしれんな」


「……クソッ」


 微笑みながらも酷く落胆したような口調のログウェルに、ユグナリスはそれが師としての挑発である事を理解する。

 今まで幾度となくログウェルに罵倒の限りを尽くされながら鍛錬に興じられていたユグナリスは、鍛錬を怠った為にこの状況となっている事を指摘されたと考えた。


 するとユグナリスは再び前に歩み出ると、今度は全身から凄まじい生命力(オーラ)を発しながら『生命の火(ほのお)』に変えて言い放つ。

 

「だったら、吹き飛ばされても新しい『生命の火(ほのお)』を生み出し続ければいいだけだっ!!」


 そう言いながら叫んだユグナリスは、再び赤い閃光(ひかり)となって移動を始める。

 しかし今度は直接的に攻め込むのではなく、幾重にも偽装動作(フェイント)を仕掛けた。


 剣を振り上げて襲い掛かろうとした瞬間に素早く別の場所に移り跳び、魔力を用いた魔法で『火球(ファイアボール)』を作り出す。

 そして次々とそれを移動した周囲から発射し、夥しい数の『火球(ファイアボール)』がログウェル達に襲い掛かった。


 しかしそれを避ける様子すら見せない彼等の中で、初代『緑』のガリウスが腕を組んだまま左手の薬指と親指を重ね擦り、指を鳴らして見せる。

 すると百にも届きそうな『火球』が、一瞬にして消失した。


「!?」


「『火球(それ)』に紛れて襲って来るつもりだったんだろうが。魔力(マナ)の炎なんぞ、燃料(マナ)自体を消しちまえば簡単だろう」


「クッ!!」


 『火球』を使った陽動作戦にも気付かれ、更に幾重にも偽装動作(フェイント)を行い周囲を光速に近い速度で動き回るユグナリスに対して、『緑』達は追う視線すら向けていない。

 それでも意識だけは向けている事を理解しているユグナリスは、持っている自身の聖剣(けん)を『生命の火(ほのお)』に戻し、別の精神武装(アストラルウェポン)を作り出した。


 それはウォーリスの(むね)を撃ち貫いた時と同じ狙撃銃(ライフル)であり、ユグナリスは真上に上昇し即座に構えてログウェルを狙い撃とうとする。

 しかし次の瞬間、照準装置(スコープ)を覗き込んだ彼の視界に二代目『緑』のバリスが迫っていた。


 するとバリスは自身に纏わせる『生命の風』で飛翔し、ユグナリスの腹部に右拳の一撃を穿ち撃つ。

 

「グァ……ッ!?」


「失礼。隙だらけでしたので、つい」


 腹部を強打されたユグナリスはバリスの用いる『生命の風』も浴び、自身に纏わせた『生命の火』を吹き飛ばされる。

 そして炎化させていた肉体は元に戻り、更に内臓(なか)にも響く拳はユグナリスに苦しい息を吐き出させた。


 更に勢いよく身体を回転させたバリスが、右脚をユグナリスの後頭部へ叩き付ける。

 それによってユグナリスは凄まじい速度で落下し、白い魔鋼(マナメタル)の大地へ叩き付けられそうになった。


 しかしその直前、ユグナリスの身体を大きな水球(みず)が包み込む。

 それによって水面に叩き付けられるのと同様の衝撃を受けながらも、それより遥かに硬い魔鋼(マナメタル)への衝突をユグナリスは避けられた。


「……っ!?」


 水球の中で意識を戻しながら瞳を開いたユグナリスは、そこで自身に錫杖を向けて構える『青』に気付く。

 そして激突を免れた事を確認し、水球を解いた『青』はユグナリスを軽い高さで落としながら言い放った。


「お主と奴等では、確かに相性以前の問題であろう」


「!」


「片や儂と同じ初代の七大聖人(セブンスワン)。そしてもう一人は、ガリウスやルクソードの弟子にして第二次人魔大戦を切り抜けた猛者(バリス)だ。技術(わざ)と経験においては、お主とは雲泥の開きがある」


「……でも、このまま何もしないわけには……ッ!!」


「分かっている。だからこそ、儂等が居るのだろう」


「!」


 濡れた状態のユグナリスをそう言いながら、『青』はリエスティアを後方(うしろ)へ下げながら歩み出る。

 それにマギルスもシエスティナを背から降ろし、微笑みながら話した。


「ちょっと行って来るね!」


「うん、頑張って!」


 そう言いながらマギルスは駆け、『青』と共にユグナリスの両脇に立つ。

 すると互いに同様の人数(かず)で向かい合い、マギルスが高揚した微笑みを浮かべて隣に居る二人に問い掛けた。


「ねぇねぇ、誰が誰とやろっか?」


「……俺が、ログウェルと戦います。二人は、他の二人を」


「ならば、儂がガリウスとやろう。奴の技術(こと)は、よく知っている」


「じゃあ、僕は向こうのお爺さん(バリス)かな」


 そうした意思を見せる三人が望む相手が真正面に捉えられ、互いに戦う構図が決められる。

 それを待つように微笑む『緑』の老人達は、それぞれに向かい合う者達に声を向け合った。


「ほっほっほっ。本番の前に、余興を楽しむかのぉ」


「……ログウェル、俺がアンタを()めてやるっ!!」


「お手柔らかに、マギルス殿」


「へへぇ。執事のお爺さん、皇国(まえ)に見た時から強そうだなって思ってたんだ!」


「『青』よ。そんな複製体(からだ)で、本気(ガチ)れるのか?」


「それはお主とて同じだろう、ガリウス。――……行くぞっ!!」


 互いに見知った間柄ながらに声を向け合った後、『青』の合図(こえ)と共に全員が激突を始める。

 それは衝突する生命力(オーラ)魔力(マナ)が溢れる場となり、離れて見るリエスティアやシエスティナの髪を揺らした。


 こうして天界(エデン)の大陸にて、三人の七大聖人(セブンスワン)に加えてマギルスが激戦を交わしている頃。

 フォウル国の里付近に場面は移り、薄暗い洞窟内にてある者達の会話が行われていた。


「――……ここなのか?」


「そうじゃ。ちょっと待ってろ――……これが、明かりのスイッチじゃな」


「……!」


 暗すぎて見えなかった二人の声は、眩い光に照らされて姿を見せる。

 そこに居るのは『聖剣』を白い布で覆い左手に持っているエリクと、フォウル国の里に住むドワーフ族の長であるバルディオスだった。


 そうして姿を見せたエリクだったが、その洞窟内にて広大な空間がある場所に訪れている。

 更にそこに在るモノを大きく見上げながら、驚く様子と声を見せていた。


「……なんだ、コレは?」


「コレはな、儂等ドワーフ族の御先祖様が作ったモンじゃ」


「例の、聖剣(コレ)を作ったというお前の先祖(バファルガス)か?」


「違う違う。儂の先祖(バファルガス)が死んだ後に生まれた、ある世代のドワーフ達が作ったんじゃよ」


「ある世代?」


「巫女姫から聞いておらんか? 転生者っつぅ奴等が、やたら多かった時代のことを」


「!」


「ドワーフの中にもそういう転生者達(やつら)()ってな。なんでもそのドワーフの転生者達が集まり、太古の知識からドワーフ王国の技術を用いて類似品(コレ)を作ったんじゃと。コレはその古代武装の一つじゃな。まぁ使い方次第では危険過ぎるってことで、こうして地下深くに隠しておるんだがな」


「……コレが、か。……コレも、魔力で動くんじゃないのか?」


「違うのぉ。コレは魔力を含まぬ特殊な超合金で作られておってな、起動すると内部の装置と掛け合わせて荷電粒子と反荷電粒子が生まれて内部の動力源で衝突する。すると衝突した力場から生まれるエネルギーを利用し、この巨体を動かせる原動力にしておるんじゃ。凄いじゃろ?」


「……あ、ああ。凄いな」


「五百年前の天変地異では、製造していたコレを複数体も使って落下して来た天界(うえ)の大陸を抱えて破壊し、多くの者達を救ったと伝え聞いておる。……だがそれは、コレを作り乗った転生者達の命と引き換えに達せられたそうじゃがな」


「……大丈夫なのか? お前がコレを操縦するんだろう。できるのか?」


「なに、五百年前のような無茶な使い方をせねば問題ないはずだ。操縦の仕方も知っておる。……何より、お前さんも急ぐじゃろ」


「ああ」


「だったら、つべこべ言わず乗り込むぞい。――……この、機動戦士(ウォーリアー)にな!」


 バルディオスはそう語り、目の前に存在する巨大な物体に導くようにエリクを連れて行く。

 その洞窟内に存在していた転生者の遺産とは、魔力を用いた魔導技術とは大きく異なる設計と原理で作られた、全長二十メートル程の人型機械だった。


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