支配者の姿
ウォーリスが居る部屋へ訪れたアルトリアとケイルは、そこで互いに知りたい情報を聞く。
そこで自身の一族が攫われ死に至った経緯を聞かされたケイル激昂し、ウォーリスに殴り掛かった。
彼自身は報復を受け入れながらも、彼女の一族を攫った実行犯について情報を伏せる。
するとその実行犯が自身の母親であることを教えたアルトリアは、それを隠していた事も明かした。
しかし次の瞬間、事態は新たな異変を見せ始める。
それは『念話』を使う女性の声が全員に届き、更なる言葉を発し始めた。
『――……あっ、聞こえてる? じゃあ、オーケーかな。じゃあ、次は……ここをこうしてっと……』
「……!?」
続く女性の『念話』がそう呟くと、次の瞬間には全員の正面にある映像が投影される。
それが各々の目の前に出現した事によって新たに驚愕を浮かべる中、その映像にある一人の人物が映し出された。
『念話』で話しているだろう女性は、周囲が白く見える場所に居ながら瓦礫らしき黒い金属の上に座っている。
その見た目は美しくも肌が白く、更に銀髪で紅い瞳を持つという珍しい様相をしていた。
するとその銀髪紅眼の女性は、投影された映像の向こう側で微笑みながら話し始める。
『おっ、これで映像も声もオーケーかな。――……初めまして、皆さん。私の名前は……あー、人間大陸ではなんて名乗ってたっけ? ログウェル』
『――……ほっほっほっ。確か、メディアじゃったかのぉ』
『あっ、そうそう。それだったけ』
「!?」
「この声は……本当にログウェル……!? いや、それより……まさか……っ!?」
「……姿は違うが、母上の声だ」
「!?」
映像に見えない角度ながらも、男性老人らしき声と銀髪紅眼の女性が話している会話が届く。
それに驚愕を見せるアルトリアだったが、同時に明かされた女性の名前と兄セルジアスの証言は、その場に居る全員を驚愕させた。
そしてケイルもまた、その声を聞きながら拳を握り締めて憤怒の表情を見せ始める。
「……間違いない。……コイツだ、アタシの一族を襲った奴は……っ!!」
「ケイル……」
怒りの表情を露にしながら投影されるメディアの姿を見るケイルは、薄れる幼い頃の記憶から仇敵の姿を思い出す。
それは美しく日の光に輝いて幼い視界を見え難くしながらも、確かに銀髪と赤い瞳を持つ相手と映像に映るメディアが重なって見えた。
しかしそうした驚きを見せる面々とは裏腹に、映像で見れるメディアは微笑みながら話を続ける。
『さて、じゃあ改めまして。――……私の名前はメディア。初めましての人もいるだろうけど、久し振りの人もいるだろうね』
「……!!」
『私が人間大陸に居ない間に、随分と楽しい事をやってたみたいだけど。――……正直に言って、君達人類にはガッカリしたよ』
「!?」
『何がガッカリって、この程度の事態も完全に解決できてないんだもん。これはガッカリというよりも、呆れ果てたって感じかもね。私からすれば』
「……何を、言って……」
『私はね、人類の可能性を信じてたんだ。君達だったら、この事態も自分達で解決してくれるって。だから魔大陸まで行って、天界に来ようとする魔族の到達者達も止めてあげてたのに』
「な……っ」
『でもまぁ、それもしょうがないかなって思うんだよ。人間は衰退し続けて弱体化してるし、魔族と比べても種族的にひ弱な存在になり過ぎてるから。……だったら、そんな人類がこの世界に居る意味ってある?』
今まで微笑みながら話していたメディアは、突如として声を低くしながら中性寄りの声を見せる。
その声には薄ら寒い雰囲気を漂わせ、更に微笑みを絶やして無表情で言葉を続けた。
『そんな人類に、昔話をしてあげよう。……昔々、創造神という神様がいました』
「!」
『創造神は神様として皆から慕われ、どの種族からも崇められる存在でした。……でも、創造神は絶望しました。皆と一緒に居ても、何も変わらなかったからです』
「……!!」
『絶望した創造神は、要らないと思った皆を地上へ捨てました。……そう。君達が居る、この世界に』
「この話……まさか、コイツも創造神の記憶を……!!」
『君達がいる世界は、創造神のゴミ箱というわけだ。……だけど、神様も誤算だったのかな。まさかゴミ箱に捨てたはずの皆が、そこで生き残ってるなんてね』
「……間違いない。創造神の記憶だわ……。……でも……!」
アルトリアとケイルは互いにメディアの話を聞き、それが創造神の記憶である事を理解する。
そしてメディアが創造神の話を語る中で、徐々に不穏さを強めながら次の言葉を聞いた。
『どうして創造神が皆を要らないと思ったのか、ずっと私は考えてたんだ。だから実際に、この世界に来て見たわけだけど。……それでようやく、創造神の気持ちを理解したんだよ』
「……コイツ……!!」
『永遠と同じ事ばかりを繰り返す存在って、確かにつまらないよね。……だから私は、創造神の代わりに要らない君達を消してあげようと思うんだ』
「!!」
『でもそれだと、ちょっと一方的かなとも思うんだよね。だから皆には、最後に機会を上げる。――……もし存在を消されたくなかったら、空に浮いてる大陸までおいで』
「……天界のことか」
『ここに来れた人達は、私と戦わせてあげる。そしてもし私に君達の存在意義を見せられたのなら、皆を消すのは止めてあげるよ』
「……皆を消す……? 何を、言って……」
『あぁ、そうそう。皆を消すっていうのはね――……こういう方法だよ』
「……!?」
メディアがそう告げた瞬間、大地と大気が震える程の振動が屋敷にいる彼等を襲う。
それに対して外が見える窓際に歩み寄ったアルトリアは、驚愕の表情と声を見せた。
「な――……なんですって……!?」
「おいっ!! いったい何が――……まさか、アレは……!?」
「……天界の、あの大陸の……砲撃……」
二人が見たのは、上空に浮かぶ天界の大陸から直下に放たれた、一本の細く見える光線。
それを見ながら事態を把握できずに呆然とする彼等に、メディアは映像越しに言葉を続けた。
『――……外に居る人は見えるかな? 下は海だし、出力も最低限に絞ってるけど。皆を消す時には最大火力で消し飛ばすから、そのつもりでね』
「どうなってんだよ……。なんで、天界がまた稼働してんだよ……!?」
「……創造神の権能」
「!?」
「アイツの持ってる権能が、天界をまた起動させた。……いや、出力を調整できてるってことは……もしかして循環機構も掌握しているの……?」
「な……っ!?」
「……そうか。創造神の大樹から生まれた『マナの実』は、リエスティアと同じ創造神の複製体でもあるんだわ……。……アイツには、肉体と権能が既に揃ってしまっている……!」
再び稼働を見せる天界の大陸を見上げながら、アルトリアはそうした予測を述べる。
するとそれを肯定するように、メディアは微笑みを見せながら声を向けて来た。
『どう? アルトリア』
「!!」
『君が苦労して止めようとした循環機構も、私は自由に扱えるんだよ。……だからこそ、ガッカリなんだ。私の娘なら、その程度の事は出来て当たり前だと思ってたし』
「……ッ」
『オマケに、敵になった相手にも情けを掛けまくったんだって? そういうところは、父親の遺伝子が混じっちゃった影響かな。でもダメだよ? 後始末はちゃんとしないと。こんな感じにね』
「……まさかっ!?」
メディアはそう注意しながら、自身が座っている黒い鉄屑に視線を落とす。
それを聞きながら映像を見ていたウォーリスは、その黒い鉄屑が何かを理解した。
するとメディアは微笑みを浮かべ、背中側に回していた左手を前に出し、黒い魔鋼で覆われた脳髄を掴み見せながら話を続ける。
『でも、君達も良い働きをしたと思うよ。私の娘を少しは成長させてくれたんだから。その点では、ちゃんと感謝してるんだ』
『――……ウォーリス様……』
「アルフレッドッ!? どうして本体を……!?」
メディアが座る鉄屑がアルフレッドの操っていた義体であり、その手に持たれているのが彼の脳髄である事をウォーリスはすぐに察する。
しかし次に見せられる映像は、アルフレッドを知るウォーリスやカリーナに精神的な衝撃を与えさせた。
『さぁ、これで君達の役割もお終い。アルフレッド君、最後に言い残したい言葉とかある?』
『……ウォーリス様。……貴方の友となれたこと、私の人生において、それが最も幸福の時でした。……どうかカリーナ様と共に、この化物から逃げてください……!!』
『だ、そうだよ。ウォーリス君、ちゃんと聞けたかな? 彼の遺言。……それじゃ、長い間ご苦労様。バイバイ』
「まさか……や、止め――……ッ!!」
アルフレッドの脳髄を握りながら微笑むメディアを見て、ウォーリスはその先を予測し荒げた声を映像に向ける。
しかしその声は届かず、メディアはアルフレッドの脳髄を軽く投げ浮かせた。
すると次の瞬間、メディアは目にも止まらぬ速さの左拳を放ち、魔鋼で覆われているアルフレッドの脳髄を粉々に破壊する。
それを見せられたウォーリスとカリーナは目を見開き、白い地面に砕け散らばるアルフレッドだった脳髄を見ながら唖然とした表情を浮かべるしかなかった。
それを一瞥することもないメディアは、再び映像に顔の正面を向けながら自分の娘へ声を向ける。
『さて、ゴミは増えたけど掃除は済んだことだし。アルトリア、君にも最後の機会をあげる。――……どっちが互いの欠片を手に入れられるか、そういう遊戯をしよう。だから君も天界においで。……もし五分以内に来なかったら、その時は世界を滅ぼすから。そのつもりでね?』
「……ッ!!」
そう言いながら微笑むメディアは、投影された映像と念話での声を途絶えさせる。
そして母親から名指しの勝負を挑まれたアルトリアは、両手で拳を作りながら歯を食い縛り、今まで以上の焦燥感を見せた。
こうして巫女姫の予測通り、事態は最悪を極める。
『マナの樹』から生まれた『マナの実』、それが人の形となり欠片を持ち扱えるメディアは創造神と同じ思想へ至り、この世界を滅ぼす道を選ぶ。
更に成長した娘の欠片を奪い取ることを目的とし、彼女を自分の元へと招いたのだった。