欠片の行方
自殺を目論み世界を破壊しようとする循環機構を騙し、世界は一時的な平和を手に入れる。
それを完全に払拭する為に、アルトリアとケイルは自分達と同じ創造神の転生者達が持つ権能を集める必要性を考えた。
現状、『創造神の欠片』と呼ばれる七名の中で明らかにされているのは四名。
アルトリアとケイル、そしてユグナリスとエリク。
残り三名の『創造神の欠片』の手掛かりを掴むべく、アルトリアとケイルは『青』が居る天界の白い大陸まで転移した。
「――……誰かに……って、もう転移しやがったよ……コイツ……」
「善は急げって古い諺、知らないの?」
「それをやって、昨日はお前の兄貴に説教されてなかったか?」
「お兄様の御説教なんて、聞き流すのも慣れたわよ」
「……この御嬢様、やっぱ懲りねぇな」
「それより、『青』が居る場所を探しましょ。居なかったら秘密基地に行くわ」
遥か上空に浮かぶ白い魔鋼で形成された大陸に足を着けた二人は、『青』に会うべく損傷したまま飛べていない箱舟へ向かう。
そして箱舟へ乗り込むと、荷物を積載している貨物室内部に居る義体姿のアルフレッドが二人に気付いた。
「――……アルトリア嬢、どうして天界に?」
「アンタ、アルフレッドだったっけ。『青』は何処?」
「『青』ならば、自分の拠点へ戻っています。……ウォーリス様やリエスティア様に、何か?」
「そっちはもう片付いたわ。……そうだ、アンタは『黒』から何か聞いてたりする?」
「何をですか?」
「創造神の権能を持つ転生者が、この世には七人いるらしいんだけど。私以外に、何かそういう人物について『黒』から聞いてない?」
「七人……。……私やウォーリス様が『黒』に聞いたのは、貴方が『創造神の生まれ変わり』かもしれないという情報だけです」
「そう、じゃあいいわ。ケイル、秘密基地に行くわよ!」
「お、おい! またかよ――……」
アルフレッドから手掛かりを聞き出そうとしたアルトリアだったが、そこに望む情報が無いと分かり即座に『青』がいる拠点へ向かう事を決断する。
それに巻き込まれるように再び腕を掴まれ転移したケイルの声と共に、二人はその場から消えた。
そうして唐突に現れて去ってしまった二人に首を傾げる挙動を見せた後、箱舟の中で何かを思い出すようにアルフレッドは呟く。
「……彼女と同じ権能を持つ者……。……そういえば彼女は、到達者のゲルガルドを退ける程の能力を持っていた。……まさか……」
過去の記憶を振り返るアルフレッドは、その時に出会った異常な存在を思い出す。
しかしそれを伝えるべき二人の姿は既に無く、義体ながらも嘆息を漏らした。
一方その頃、『青』が戻ったという秘密基地にアルトリアとケイルは転移して来る。
以前に未来の自分が父親達を連れて来た場所でもあり、その記憶を引き継いでいるアルトリアは実際に来た事が無くても転移する事が出来た。
しかし初めて訪れる魔導装置や機械だらけの地下空間に、ケイルは驚きを浮かべる。
「――……な、なんだよ……今度は……!?」
「『青』の拠点。未来の私も、ここを使ってたのよ。さぁ、行きましょう。付いて来て」
「あ、ああ。……ったく、コイツが転移魔法を覚えると厄介過ぎるだろ……」
慣れた様子で歩き始めるアルトリアに、ケイルは呆れる溜息を漏らしながら付いていく。
そして渡り廊下を歩きながら周囲に機器や装置を見て、ケイルは記憶の片隅にある景色と重ねるように思い出していた。
「……なんかここ、見覚えがあるな……。……そうだ、未来の魔導国で見た魔導人形を製造施設か……?」
「その原型みたいなモノよ。ここには、『青』の本体が収められた施設もあるわ」
「本体?」
「ええ。未来の私を阻んだ、『青』の本体よ」
「……もしかして、未来でアタシ達を助けた『青』か」
「そういうこと。――……と、言ってる間に着いたわね」
「!」
二人はそうした話を交えると、自動的に前を塞いでいた扉が横へ移動し開く。
そして躊躇いも無く踏み込んだアルトリアは、そこで魔導装置とその映像を見ている現複製体の若い『青』へ呼び掛けた。
「師匠、聞きたい事があるんだけど」
「む? ――……アルトリアではないか。それに『赤』の女も。どうした?」
「貴方が言ってた、七つに分けられた創造神の欠片。私以外の所有者に、心当たりはある?」
「……どういうことだ、何故それを知りたい? 情報を欲するなら、対価となる説明をしろ」
「……そうね、師匠には伝えておいた方がいいとは思ってたし」
唐突な訪問と質問の意味を問い質す『青』に対して、アルトリアは情報を得る為に仕方なく事情を伝える。
それを聞いた『青』は溜息を漏らしながらも、それを予測していたかのように言葉を続けた。
「――……なるほど、世界の破壊は免れてはいないか。……それで、再び創造神の欠片を集めようとしているのだな」
「ええ。ただし五百年前と違って、今度は所有者を殺すつもりはないわ。ただ集まって、黒の身体の中に全員の魂を一時的に入れたいだけ」
「……」
「ちなみに、四人は既に『黒』から聞いてるわ。私とケイル、そしてユグナリスとエリク。この四人以外の三人で、心当たりはない?」
「……例えその方法が最善だとしても。創造神を復活させる危険性がある行為には、賛同できぬな」
彼女の提案に『青』は訝し気な表情を強め、創造神を復活させる手段を良しとしない旨を伝える。
するとそうした態度を見せる『青』に、アルトリアは確信に近い言葉を向けた。
「その様子だと知ってるわね? 他の欠片を持つ所有者を。誰?」
「……」
「誰なの? 教えてよ。こうしている間にも、循環機構が騙された事を察知して、また自爆を開始するわよ。今度は私達がいない状況でね」
「……むぅ……」
「ちなみに、マナの大樹はあの時空間に封じたままよ。あの時空間の入り口を再び作れる座標と構築式は、私の頭の中にしかない。私が行かない限り、他の奴はマナの大樹にさえ辿り着けないわ」
「!」
「だから教えて、師匠。……こんな形で、また貴方を裏切らせないで」
渋い表情を強めるアルトリアは、そう言いながら右腕を微かに前へ向ける動作をする。
それが未来に『青』を裏切り、この施設や魔導国を乗っ取った彼女の記憶を持つアルトリアだからこそ言える言葉だった。
すると瞼を閉じながら諦めるような様子を浮かべる『青』は、創造神の欠片に関する心当たりを話し始める。
「……儂が匿っている子供達の中に、居るやもしれん」
「!」
「あの子等は生まれながらに聖人であり、特別な能力を持つ者も多い。あるいはその中に、創造神の欠片を持つ者が含まれている可能性は否めん」
「判別方法は?」
「分からぬ。だが創造神の欠片を持つ者同士は、互いを嫌悪する習性がある。あるいはそれで、見分けは出来るかもしれんな」
「そう。……だったら、あの子達に会わせて」
「……良かろう」
『青』はそうして保護している聖人の子供達の中に、創造神の欠片を持つ者がいるかもしれないと語る。
それを聞き彼等との面会を求めるアルトリアに応じて、『青』は頷きながらその部屋を出る扉へ歩み向かった。
それに追従するアルトリアやケイルは、地下施設の更に奥まで進む。
すると再び魔導装置が並び置かれ転移の魔法陣が敷かれている場所へ向かい、三人は聖人の子供達が暮らす地下の楽園へ転移した。